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心の繭
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今世間を賑わせている事件。
人に寄生する蜘蛛がいる、という物だ。その蜘蛛に寄生された人間は、どうも繭になって発見されるらしい。
けれどもまだ、そのメカニズムは発見されてはいない。
***
「ねぇ、キスしようか」
「……で、でも」
少女は口ごもるも、その友人は強引に少女に口付ける。
「……んんっ……」
自然と声が漏れ、解放された頃には酸欠気味の頭でぼんやりと友人を見る。
「嫌?」
「いや、では……ないけど」
強く拒否は出来ない。なぜなら少女は、同性の友人に、恋をしているからだ。
何もこれが初めてではない。
何度もキスをした。それも不穏なキスだ。
少女はその不穏なキスで熱を高めて、大きな大きな心を作る。
心は糸のような物で、己の熱が高まると長く伸びた。そして、クルクルと毛糸玉のように丸まり、少女の足元に転がる。
今日もキスをされた。糸は伸びて、足元の毛糸玉を一回り大きくさせた。
「……はぁ」
少女は深い深いため息を吐いた。
友人と別れ、家に帰って来ても熱が冷めない。ドキドキと心臓は早鐘を打ち、少女は熱っぽいため息を吐き出す。
あまりにもドキドキし過ぎて、どうにも身体がダルい。今までも何度もあった症状だが、日に日に、ドキドキした後のダルさが増すようだ。
少女は自室のベッドに寝転がると、己の唇を指でなぞった。
「何でこんな事になっちゃったんだろう」
同性とキスをする。これが可笑しい事は分かっていた。
最初は写真だった。
いつの間にか友人である筈の少女が好きになっていて、それでも心を殺せず、少女は自らの友達である少女の写真に口付けをしていた。
見ているだけでは我慢が出来なくなっていたのである。
それでも同性を好きになると言うのが、世間的にどう見られるのかも、彼女から愛情が返って来ない事も、分かっていた。だからこそ、少女は何とか欲を抑えるために写真にキスをしていたのである。
バレたら絶対に引かれる。そう思いながらも、止める事は出来なかった。
そんな日々の繰り返し。きっとこのまま繰り返し。
きっとそれが当たり前なのだと思っていたのだが……。
「なんで、私なんかに」
少女はベッドで一人ごちる。
完璧に自分の心は隠していたはずだった。どうしてこうなったのかと言えば、友人が唐突にキスをしてきたからだ。
他ならぬ、好きな人から与えられるキス。与えられるはずの無かったキス。
これが行われたのは一度や二度ではなく、何度も何度も。人目を忍んでは唇と唇を重ねた。
友人がどんなつもりでそうしたのか、少女には分からず、熱っぽくだるくなる身体を持てあます。
この関係を何と言うのだろう。友人以上、恋人未満への関係、とでも言うのか。
「あ、また大きくなってる」
少女は、ふと自らの傍の毛糸玉のような物のサイズに気が付いた。
彼女が心を殺しきれずに写真にキスをしていた頃からだっただろうか。この糸に気が付いたのは。
どうにも他の人には見えないようなのだが、ドキドキすればするほど、心臓から糸が伸び、足元で毛糸玉のように丸まっていく。これが何なのかは分からないが、ただ確実な事がある。
この糸は、ドキドキする気持ちに呼応するように伸び、毛糸玉のような物を大きくする。きっと人の心は糸で出来ているのだろう。
「ねぇ、キスするから」
「……うん」
何度も唇を重ねる。ドキドキで、最近では何もしなくても身体はクタクタだ。
だが、彼女を求めずにはいられない。既に拒否をしようという心は、欠片もなくなっていた。
「……あれ?」
唇を離すと、ふと目の端に映る糸に気が付いた。
「へ?」
少女の声に反応して、友人もそちらに視線を向ける。
今までは見えなかった筈の友人の糸。これが見えた。
「繋がってる」
「本当だ」
どうにも糸は友人にも見えていたらしい。二人で視線を向けた先では、二人の心の糸が、同じ毛糸玉のような物に纏まっていたのだ。
二人のドキドキがそれぞれ絡み合い、同じ毛糸玉のような物へとなる。それも、ハート型の。
「この糸、縁なのかな」
「縁、か」
友人の言葉に、少女は僅かに頷く。
「ねぇ、あたしのこと、どう思ってる?」
「どう、って」
少女は口籠る。どうにもこの友人と居ると口籠る事が多くなっている気がした。
「例え誰が何と言おうとも、君の感じた事が君にとっての「真実」だと思うんだよね」
友人は爽やかな笑顔を向ける。
少女は、この底抜けに明るい友人の笑顔が好きだった。ドキドキと胸は高鳴り、毛糸玉を大きくする。
「だから、聞かせて。あたしの中ではもう、答えは出てるからさ」
「……ズルい」
少女は少しだけ俯いて呼吸を整えると、顔をあげて、真っ直ぐに友人を見た。
自分の感じた事が自分にとっての「真実」だというのなら、この気持ちは「真実」だ。
恋愛ごっこじゃない。
彼女との心は、こうして目に見える形で繋がっている。
「ねぇ」
真っ直ぐに友人を見つめ、少女ははにかんだ。
「わたし、貴女の事が好き」
「うん、よかった!」
友人は笑顔のまま、ギュッと少女を抱きしめた。またドキドキして、毛糸玉のようなそれは大きくなった。
ドキドキし過ぎて、もう立っているのも辛い程だ。
「あたしも好きよ! これが真実、でしょ?」
抱きしめられた少女は「うん」と相槌を打つ。少女はそっと友人の――もとい、恋人の背に手を回した。
ドキドキと鼓動の音が大きくなる。
段々と毛糸玉は大きくなり、ついには少女達を巻き込み始めた。
心が作り出したハートの毛糸玉に包まれて……二人は夕闇に溶けた。
***
「――今日未明、またしても巨大な繭が発見されました。中には少女が二人包まれており、寄生蜘蛛との関連を調べるとともに……」
街にニュースが流れる。
今日もまた、幸せな繭がこの世界に生み出された。
けれどもまだ、この繭が幸せの証である事を、誰も知らないのだ。
人に寄生する蜘蛛がいる、という物だ。その蜘蛛に寄生された人間は、どうも繭になって発見されるらしい。
けれどもまだ、そのメカニズムは発見されてはいない。
***
「ねぇ、キスしようか」
「……で、でも」
少女は口ごもるも、その友人は強引に少女に口付ける。
「……んんっ……」
自然と声が漏れ、解放された頃には酸欠気味の頭でぼんやりと友人を見る。
「嫌?」
「いや、では……ないけど」
強く拒否は出来ない。なぜなら少女は、同性の友人に、恋をしているからだ。
何もこれが初めてではない。
何度もキスをした。それも不穏なキスだ。
少女はその不穏なキスで熱を高めて、大きな大きな心を作る。
心は糸のような物で、己の熱が高まると長く伸びた。そして、クルクルと毛糸玉のように丸まり、少女の足元に転がる。
今日もキスをされた。糸は伸びて、足元の毛糸玉を一回り大きくさせた。
「……はぁ」
少女は深い深いため息を吐いた。
友人と別れ、家に帰って来ても熱が冷めない。ドキドキと心臓は早鐘を打ち、少女は熱っぽいため息を吐き出す。
あまりにもドキドキし過ぎて、どうにも身体がダルい。今までも何度もあった症状だが、日に日に、ドキドキした後のダルさが増すようだ。
少女は自室のベッドに寝転がると、己の唇を指でなぞった。
「何でこんな事になっちゃったんだろう」
同性とキスをする。これが可笑しい事は分かっていた。
最初は写真だった。
いつの間にか友人である筈の少女が好きになっていて、それでも心を殺せず、少女は自らの友達である少女の写真に口付けをしていた。
見ているだけでは我慢が出来なくなっていたのである。
それでも同性を好きになると言うのが、世間的にどう見られるのかも、彼女から愛情が返って来ない事も、分かっていた。だからこそ、少女は何とか欲を抑えるために写真にキスをしていたのである。
バレたら絶対に引かれる。そう思いながらも、止める事は出来なかった。
そんな日々の繰り返し。きっとこのまま繰り返し。
きっとそれが当たり前なのだと思っていたのだが……。
「なんで、私なんかに」
少女はベッドで一人ごちる。
完璧に自分の心は隠していたはずだった。どうしてこうなったのかと言えば、友人が唐突にキスをしてきたからだ。
他ならぬ、好きな人から与えられるキス。与えられるはずの無かったキス。
これが行われたのは一度や二度ではなく、何度も何度も。人目を忍んでは唇と唇を重ねた。
友人がどんなつもりでそうしたのか、少女には分からず、熱っぽくだるくなる身体を持てあます。
この関係を何と言うのだろう。友人以上、恋人未満への関係、とでも言うのか。
「あ、また大きくなってる」
少女は、ふと自らの傍の毛糸玉のような物のサイズに気が付いた。
彼女が心を殺しきれずに写真にキスをしていた頃からだっただろうか。この糸に気が付いたのは。
どうにも他の人には見えないようなのだが、ドキドキすればするほど、心臓から糸が伸び、足元で毛糸玉のように丸まっていく。これが何なのかは分からないが、ただ確実な事がある。
この糸は、ドキドキする気持ちに呼応するように伸び、毛糸玉のような物を大きくする。きっと人の心は糸で出来ているのだろう。
「ねぇ、キスするから」
「……うん」
何度も唇を重ねる。ドキドキで、最近では何もしなくても身体はクタクタだ。
だが、彼女を求めずにはいられない。既に拒否をしようという心は、欠片もなくなっていた。
「……あれ?」
唇を離すと、ふと目の端に映る糸に気が付いた。
「へ?」
少女の声に反応して、友人もそちらに視線を向ける。
今までは見えなかった筈の友人の糸。これが見えた。
「繋がってる」
「本当だ」
どうにも糸は友人にも見えていたらしい。二人で視線を向けた先では、二人の心の糸が、同じ毛糸玉のような物に纏まっていたのだ。
二人のドキドキがそれぞれ絡み合い、同じ毛糸玉のような物へとなる。それも、ハート型の。
「この糸、縁なのかな」
「縁、か」
友人の言葉に、少女は僅かに頷く。
「ねぇ、あたしのこと、どう思ってる?」
「どう、って」
少女は口籠る。どうにもこの友人と居ると口籠る事が多くなっている気がした。
「例え誰が何と言おうとも、君の感じた事が君にとっての「真実」だと思うんだよね」
友人は爽やかな笑顔を向ける。
少女は、この底抜けに明るい友人の笑顔が好きだった。ドキドキと胸は高鳴り、毛糸玉を大きくする。
「だから、聞かせて。あたしの中ではもう、答えは出てるからさ」
「……ズルい」
少女は少しだけ俯いて呼吸を整えると、顔をあげて、真っ直ぐに友人を見た。
自分の感じた事が自分にとっての「真実」だというのなら、この気持ちは「真実」だ。
恋愛ごっこじゃない。
彼女との心は、こうして目に見える形で繋がっている。
「ねぇ」
真っ直ぐに友人を見つめ、少女ははにかんだ。
「わたし、貴女の事が好き」
「うん、よかった!」
友人は笑顔のまま、ギュッと少女を抱きしめた。またドキドキして、毛糸玉のようなそれは大きくなった。
ドキドキし過ぎて、もう立っているのも辛い程だ。
「あたしも好きよ! これが真実、でしょ?」
抱きしめられた少女は「うん」と相槌を打つ。少女はそっと友人の――もとい、恋人の背に手を回した。
ドキドキと鼓動の音が大きくなる。
段々と毛糸玉は大きくなり、ついには少女達を巻き込み始めた。
心が作り出したハートの毛糸玉に包まれて……二人は夕闇に溶けた。
***
「――今日未明、またしても巨大な繭が発見されました。中には少女が二人包まれており、寄生蜘蛛との関連を調べるとともに……」
街にニュースが流れる。
今日もまた、幸せな繭がこの世界に生み出された。
けれどもまだ、この繭が幸せの証である事を、誰も知らないのだ。
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