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2 病院に緊急入院

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 斉藤玲は股間の一物から血尿を出した。それはもう噴水の如く出した。

 本来なら致死量だが、彼は死ななかった。なぜなら、新しく体を作り替えていたからだ。いらない物を血液と一緒に排出しただけなのだ。確かに貧血にはなるが、彼の体を維持するための血液は確保されていた。その状態での、血尿だったのだ。

 それから病院への緊急搬送と入院。玲の父と母が呼び出される事態になる。

 検査に次ぐ検査。すべてが終わったころには、玲はぐったりとしてベッドに寝ていた。個室のベッドである。

 今、彼は病院のベッドに横たわり、医者からの報告を聞くところだった。家族と一緒に驚愕の事実を聞くところだった。

「玲君は、TS病に冒されています。現状、特効薬がない状態です。かかったら最後、強制的に性転換してしまいます」

「…………な!! そんなばかな!!! 性転換だと!? それに特効薬がない!?」

「少し落ち着いて。びっくりするのは仕方ないですが、落ち着いて聞いてください。ここは病院です」

「く!! これが落ち着いていられるか!! くそ! まじか!?」

 17年間、男として過ごしてきた。生まれてきてから、男だったのだ。女の子が好きだし、男と交わるなど出来るはずがない。女になるなど、自分には出来ない。

「先生、玲は、うちの息子は、これからどうなっていくんですか? 私たちはどうすれば?」

 喋ったのは、玲の父親。自営業で、車屋を営んでいる男だ。基本的に何でも屋で、おもちゃの修理も請け負う、地元の便利屋さんだ。

 不良で言うことを聞かない息子ではあるが、血が繋がった実の息子だ。当然心配している。

「玲君は現在、ステージ1を超えた段階です。いらない体組織を血液とともに排出したのです。すでに、女性の体への移行が始まっています。骨格までは大きく変わりませんが、男の生殖機能は失われて行きます」

「な……。ばかな……」

「う、ウソ。うちの玲ちゃんが?」

 その言葉に、玲と玲の母親が倒れそうになる。父親はなんとか踏ん張っている。

「睾丸……、分かりやすく言うと金玉ですね。その玉の機能が失われました。血尿と一緒に」

 医師の言葉は残酷だ。その場にいた玲の父親と、母親は、気絶しそうになる。玲はすでに気絶した。

「これからステージ2に移行します。早くて一週間です」

「ステージ2はどうなるんですか?」

「女性ホルモンが大量に分泌され、髭などの毛根類が失われ、男根が小さくなっていきます。それに伴い、骨格が女性の物に変化していくでしょう」

「そ、そんな……」

「ステージ5で性転換が終了します。心も女性になっていきますので、女性への戸籍登録をした方が良いでしょう。TS病は流行っていますので、国も簡単に受理してくれます」 

 医師は淡々としゃべるが、斉藤家の面々はどうしていいか分からない状態。

「とにかく、あと三日ほど入院してください。容態がすぐに安定するはずですので、そうしたら通院で様子を見ましょう」

 医師はそういって病室を出て言った。

 斉藤家の父と母は途方に暮れた。玲はすでに気絶していたので、それ以前の問題だった。

 

★★★



 それから三日経って、玲は退院し自宅で療養。

 一週間後、ようやく学校へ復帰することになった。その時玲の体は少し身長が縮み、筋肉が減っていた。今までの腕力が無くなっているのだ。

 股間も小さくなり、玲の中性的な顔は、さらに女性へ近づいていた。

 朝、学校へ行く前に髪をワックスで整える。洗面所で髪を整えている彼だが、顔のつくりが少し違うことに気付いた。

「俺の顔、女みたいになってきてねぇか? こんなに進行が速い病気なのか? やべぇ。学校ではどうしたらいいんだ。スカートなんてはきたくねぇぞ。やべぇやべぇ」

 玲は自分の顔を鏡で確認し、青ざめる。

「そうだ。あいつなら。幼馴染のあいつなら。武尊(たける)なら、俺の力になってくれるかもしれねぇ。あいつだけは、いつも俺の味方だった。暴走族との抗争の時も、あいつだけは俺と一緒に戦ってくれた」

 玲は学校に着いたら、武尊にすべて打ち明けるつもりでいた。武尊ならこれからの玲を支えてくれると思ったからだ。

 髪を整えると、学生カバンを持つ。

「はぁ~。おふくろ~。俺、学校へ行ってくる。卒業だけはしたいからよ~。出席だけはするわ~」

 玲はスカスカのカバンを持って玄関に行った。そこで母親がエプロンで手を拭きながら、パタパタと走ってくる。

「玲ちゃん。大変だろうけど頑張ってね? 学校もあと一年だから、なんとか卒業してね? 高校が終われば、今の人たちと縁を切れば分からないから。玲ちゃんが女になったなんて、分からないからね?」

「ん? ああ。分かってる」

 玲は父親の後を継ぐつもりだった。整備士の資格を得るため、専門学校に通うつもりだった。高校は将来のつなぎに過ぎない。ただ遊ぶために通っているようなものだ。ただ、卒業証書は欲しいのだ。進学できなくなる。

「ただ、武尊だけには打ち明けるつもりだ。どうせばれるし、早い方がいい」

「そうね。タケル君なら、玲ちゃんを守ってくれるわね」

「ああ。んじゃ行ってくる」

「はいお弁当」

「ありがと」

 玲はスリッパのようになったローファーを履いて、学校へ向かったのだった。


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