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光が灯っていたビル群に到着した。来る途中、大型の魔物が歩いていたが、すべて草食系の魔物だった。大人しい種類で、菌糸類を食べる魔物だ。ゾウのように大型のであるが、おとなしいので俺は刺激しないように彼らの横を通り過ぎる。
廃墟のようなビルが立ち並んでいるが、人はかなり大勢いた。水道の管理や電気の管理もされているようだ。歩く人々は清潔で、俺のように汚らしい人間はいない。
そういえば、探索を始めてから一度も風呂に入ったことが無い。体を水拭きしているが、それも数日に一度だ。俺の体は相当匂うだろうな。どこかに風呂屋があればいいんだがな。
ともあれ、大勢の人間がいると言うことは、シーカーキャンプがあるだろう。これは非常に幸先良いぞ。
俺は道行く人に奇異の目で見られたが、屋台を出している親父に聞いてみた。
「ここら辺にシーカーキャンプはあるか?」
「あるよ。ここから2ブロック先の区画に黄色のビルがある。そこがシーカーキャンプだ」
頭が禿げた親父が、何かを焼いている。麺類を鉄板で炒めているようだが、俺には何の料理か分からない。すごくおいしそうな匂いがするが、俺はここの通貨を持っていない。まずはキャンプに行こう。
「すまない。腹が減ったら寄らせてもらうよ。助かった」
俺は礼を言うと、親父の言葉通りにシーカーキャンプを探した。黄色のビルというから、どんなビルかと思ったが、ペンキで外壁を黄色く塗っただけのビルだった。かなり目立ったので、すぐに分かった。
扉は自動扉で、ビル内に入ると空調が効いており、かなり涼しい。エアコンが生きているとは、この階層は相当な科学力があるようだ。昔はこの程度は造作もない技術だったらしいが、文明が焼き尽くされてからはエアコン一つでも大変な技術なのだ。
俺はリュックやサイドバッグ、ウエストポーチなど、重装備のまま受付に向かう。受付には若い女性がいたが、体の不潔さなど気にしていられない。俺はシーカーライセンスをすぐに見せた。
「シーカーランク5のラビットだ」
「はい、確認します。ラビット様ですね? 少々お待ちください」
俺はカウンター越しに数分待たされる。
「ラビット様、確認しましたが、登録にありませんでした。しかし、シーカーライセンスの紋章が三百年前に発行したものと同一だと分かりました。詳しいお話を伺いたいので、応接室にお越しいただけませんでしょうか?」
「かまわない。ただ、荷物も一緒に持っていくぞ」
「かしこまりました」
以前、荷物を盗まれたことがある。キャンプ内でだ。同業だからといって、安心は出来ない。とはいえ、よそ者の俺が頼れるのは、ここだけだ。我慢するしかない。
応接室に案内され、ソファーに座って待っていると、スーツを着た男が現れた。
「私は団長代理のアガサです。よろしくお願いします。ラビット様」
「ああ。よろしくお願いする」
「早速ですが、ラビット様はどの階層から来たのですか? ここより上200階層は我らが管理していますが、ラビット様のライセンスカードには登録がありませんでした」
「俺は上から来たんじゃない。下から来たんだ。俺は地上にある楽園、“空”を目指してる」
俺が下から来たと言うと、目を見開いて驚くアガサ。
「それは本当ですか? 下の階層から?」
「ウソをついてどうする。本当だ」
「信じられない。我々も下への探索は何度も試みたのですが、帰ってきたシーカーはいませんでした」
そりゃそうだろうな。俺が来た階層はゾンビがうようよしていて、昇降機も階段も、ジェットバイクもなにもない場所だからな。超高高度のロッククライミングが出来るシーカーは限られている。
とはいえ、上階200階層も管理しているなら、俺より腕の立つシーカーはいるはずだ。そんなに下の階層に行けなかったのか?
「シーカーランク5というのも、本当ですか?」
「だから本当だ」
シーカーランク5はシーカーで言えば達人級だ。俺はまだ26歳だが、シーカーランク5はかなりすごい方だ。最高のシーカーランクは8まである。本当は10まであるのだが、10に到達できる人間は現在いないので、最高が8に改正された。
「すごい! これは偉業だ! すぐに団長をお呼びします! それまで体を休め、お待ち願いませんか?」
「あ? そうか? 待つのか? なら、風呂と飯を用意してくれないか? 可能なら清潔な服も」
「大丈夫です!」
「そうか。あとはダンジョンで収集したアーティファクトを売りたいんだが、いいか?」
「もちろんですとも! 大歓迎です!」
アガサは急にペコペコし始め、俺に頭を何度も下げ始めた。別に俺は大した奴じゃないんだけどな。俺の住んでた故郷には、シーカーランク8の化け物が何人かいたしな。
「わかった。まずは風呂を頼む」
「はい! 喜んで!」
アガサは頭を下げて部屋を出て言った。
廃墟のようなビルが立ち並んでいるが、人はかなり大勢いた。水道の管理や電気の管理もされているようだ。歩く人々は清潔で、俺のように汚らしい人間はいない。
そういえば、探索を始めてから一度も風呂に入ったことが無い。体を水拭きしているが、それも数日に一度だ。俺の体は相当匂うだろうな。どこかに風呂屋があればいいんだがな。
ともあれ、大勢の人間がいると言うことは、シーカーキャンプがあるだろう。これは非常に幸先良いぞ。
俺は道行く人に奇異の目で見られたが、屋台を出している親父に聞いてみた。
「ここら辺にシーカーキャンプはあるか?」
「あるよ。ここから2ブロック先の区画に黄色のビルがある。そこがシーカーキャンプだ」
頭が禿げた親父が、何かを焼いている。麺類を鉄板で炒めているようだが、俺には何の料理か分からない。すごくおいしそうな匂いがするが、俺はここの通貨を持っていない。まずはキャンプに行こう。
「すまない。腹が減ったら寄らせてもらうよ。助かった」
俺は礼を言うと、親父の言葉通りにシーカーキャンプを探した。黄色のビルというから、どんなビルかと思ったが、ペンキで外壁を黄色く塗っただけのビルだった。かなり目立ったので、すぐに分かった。
扉は自動扉で、ビル内に入ると空調が効いており、かなり涼しい。エアコンが生きているとは、この階層は相当な科学力があるようだ。昔はこの程度は造作もない技術だったらしいが、文明が焼き尽くされてからはエアコン一つでも大変な技術なのだ。
俺はリュックやサイドバッグ、ウエストポーチなど、重装備のまま受付に向かう。受付には若い女性がいたが、体の不潔さなど気にしていられない。俺はシーカーライセンスをすぐに見せた。
「シーカーランク5のラビットだ」
「はい、確認します。ラビット様ですね? 少々お待ちください」
俺はカウンター越しに数分待たされる。
「ラビット様、確認しましたが、登録にありませんでした。しかし、シーカーライセンスの紋章が三百年前に発行したものと同一だと分かりました。詳しいお話を伺いたいので、応接室にお越しいただけませんでしょうか?」
「かまわない。ただ、荷物も一緒に持っていくぞ」
「かしこまりました」
以前、荷物を盗まれたことがある。キャンプ内でだ。同業だからといって、安心は出来ない。とはいえ、よそ者の俺が頼れるのは、ここだけだ。我慢するしかない。
応接室に案内され、ソファーに座って待っていると、スーツを着た男が現れた。
「私は団長代理のアガサです。よろしくお願いします。ラビット様」
「ああ。よろしくお願いする」
「早速ですが、ラビット様はどの階層から来たのですか? ここより上200階層は我らが管理していますが、ラビット様のライセンスカードには登録がありませんでした」
「俺は上から来たんじゃない。下から来たんだ。俺は地上にある楽園、“空”を目指してる」
俺が下から来たと言うと、目を見開いて驚くアガサ。
「それは本当ですか? 下の階層から?」
「ウソをついてどうする。本当だ」
「信じられない。我々も下への探索は何度も試みたのですが、帰ってきたシーカーはいませんでした」
そりゃそうだろうな。俺が来た階層はゾンビがうようよしていて、昇降機も階段も、ジェットバイクもなにもない場所だからな。超高高度のロッククライミングが出来るシーカーは限られている。
とはいえ、上階200階層も管理しているなら、俺より腕の立つシーカーはいるはずだ。そんなに下の階層に行けなかったのか?
「シーカーランク5というのも、本当ですか?」
「だから本当だ」
シーカーランク5はシーカーで言えば達人級だ。俺はまだ26歳だが、シーカーランク5はかなりすごい方だ。最高のシーカーランクは8まである。本当は10まであるのだが、10に到達できる人間は現在いないので、最高が8に改正された。
「すごい! これは偉業だ! すぐに団長をお呼びします! それまで体を休め、お待ち願いませんか?」
「あ? そうか? 待つのか? なら、風呂と飯を用意してくれないか? 可能なら清潔な服も」
「大丈夫です!」
「そうか。あとはダンジョンで収集したアーティファクトを売りたいんだが、いいか?」
「もちろんですとも! 大歓迎です!」
アガサは急にペコペコし始め、俺に頭を何度も下げ始めた。別に俺は大した奴じゃないんだけどな。俺の住んでた故郷には、シーカーランク8の化け物が何人かいたしな。
「わかった。まずは風呂を頼む」
「はい! 喜んで!」
アガサは頭を下げて部屋を出て言った。
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