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第二章
76 神殿騎士団長ハインツ
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俺はアルマ君たちを連れて、この村にある教会に来た。頑張って走ってきたのだが、すでに教会は崩壊。村人たちが捕まり、縄で縛られていた。
女、子供、老人が、教会の前で縛られて跪いている。皆、悲壮な顔をしている。
教会の周りには、戦っていた兵士と思われる男たちが倒れている。全員血だらけで、四肢が吹き飛んでバラバラになっている者ばかりだ。かなりグロテスクで、戦いの壮絶さがわかる。倒れている男たちはほとんど動かないので、死んでいるか、瀕死の重傷者だ。
「おいおい。マジかよ。嘘だろ? 間に合わなかったのか?」
リザは? ライドは? 死んだなんて嘘だろ?
俺は半壊した民家の陰に隠れ、スナイパーライフルのスコープを使って周囲を確認する。見ると、神殿騎士たちが50人以上集まっている。捕まえた村人たちを取り囲み、何かを尋問している。
「アルテアはどこだ! 隠すと為にならんぞ!」
一人だけ大声を上げて、叫んでいる騎士がいる。頭がハゲ散らかった男性だ。顔は若そうな感じだ。
「これだけの犠牲を出しても、まだ分からんのか! アルテアを庇ってもお前たちに未来は無いんだぞ!」
そいつは一人だけ鎧が豪華だ。貴族のようなマントを羽織ってる。
もしかして奴がリーダーか? 確か死んだ騎士どもが、ハインツ団長とか言ってたな。
もしもこいつが神殿騎士のハインツなら、俺たちの密会は最初からバレていたんだ。ハインツは最初から、アルテアを捕まえる気満々でここに来たってことだ。
「くそったれ。最悪だ。一体どうしたらいい?」
教会の前で捕まっている村人たちは、100人近くいる。円を囲むように、騎士達に取り囲まれてる。助け出すには、非常に厄介な状況だ。
「ちっ。まずは俺の仲間だ。リザはどこだ」
捕まっている村人たちには悪いが、俺はまずリザを探した。彼女の安否が気になる。
倒れている兵士たちや、捕まっている村人たちを、一人ずつスコープで探し確認する。どうやら、村人たちの中にはいない。捕まってはいないみたいだ。となると、倒れている兵士たちの中にいるのか?
「頼むからここにはいないでくれよ」
倒れている反乱軍の兵士はみんなひどい怪我で、生きていそうにないぞ。
俺は息を荒げながら、スコープのレンズを凝視した。すると、いてはならない場所に、リザが倒れていた。
「ウ、ウソだろ」
リザが血だるまになって倒れている。まったく動かない。
人違いではなく、確実に、リザだ。血でぬれているが、あの顔は、リザだ。
まじか。
まじか。
まじか!!
「やばいやばいやばいやばい」
まさか死んだのか? 体が血だらけだが、大丈夫なのか? 動かないぞ。どうなっているんだ!
頼むから死なないでくれと、リザの状態をスコープで確認したら、かすかに胸が上下に動いていた。わずかだが、息をしている。ただ、足や腹、頭から、大量の血を流している。
このままでは、死ぬ。
「…………」
俺は焦った。自分が死ぬことならば、ある程度の覚悟はしていた。こんな異世界だ。今まで生きていられた方が奇跡だ。自分が死ぬのは、少なからず理解していた。
だけど、近しい人が死ぬことは、理解も覚悟もしていない。まさか死ぬだなんて、考えていない。
「…………あぁぁぁあああああああ!」
俺は頭を掻きむしる。
「どうする。どうすればいい!」
本当ならリザ以外の人間も助ける必要があるが、人間は平等じゃない。俺にとっての優先順位は、まずリザだ。
どうやったら安全に助けられるのか、どうやったら命を救えるのか、俺は必至で考えた。
ない頭を振り絞って、脳汁が出る寸前まで考えた。
……………結果。
すぐに答えは出た。
いや、最初から答えは出ていた。
「敵は皆殺し」
目の前に居る敵を、この世から消滅させる。今すぐに!
敵がいなければ、安全に治療できる。リザが息絶える前に、騎士どもを殺す。
俺は血が沸騰するのを感じた。
「アルマ! 砂魔法を使って奴らを足止めしろ!! あとは俺が殺す!」
アルマ君たちはビクッと震えて、俺の形相におののいた。俺の鬼気迫る魔力に気圧されたのか、すぐに命令に従い、魔法を発動させた。せっせこ魔力を溜めはじめた。
「村人を傷つけずに、騎士だけを砂に埋めろ。絶対に逃がすな」
アルマ君たちは俺の莫大な魔力に当てられたのか、冷や汗を垂らしながら魔法を使う。フンスフンスと鼻息を荒げながら、極大の砂魔法が発動していく。
すぐにスコープで覗くと、固いレンガの地面が砂に溶け、50人以上の騎士達が流砂にのまれていた。
「な、なんだこれは!! なにがどうなった!!」
アルマ君たちが魔法を使ったのを確認し、俺は水魔法を瞬時に発動。噴き出した俺の魔力が上空に打ちあがり、いくつもの水弾が天空に浮かび上がった。教会の上空には、数えきれないほどの水弾が生成されている。
「こ、この砂はなんだ! 全員、防御魔法を使え!! 敵の探知を急げ!!」
ハゲ散らかった神殿騎士ハインツが、部下たちに命令している。部下たちは対防御魔法を展開させている。
「ハ、ハインツ団長! 上空20メートルの当たりに、何かが浮かんでいます!!」
「なんだと!?」
村人も含め、全員が空を見上げる。
見上げると、俺の生成させた高圧縮の水弾が大量に浮かんでいた。まるで弾丸のような形をした水弾が、無数に浮かんでいる。
「み、水だ! 水弾だ!! 水魔法使いがいるぞ!! 早くこの砂魔法を何とかしろ!! くそ!!」
ハインツは喚き散らし、手に炎が生成されていた。魔法を使う気だろう。
「まとめて殺す。くたばれ騎士ども」
今までセーブしていた脳みそのリミッターが外れ、限界以上の水魔法を使用する。副作用で大量の鼻血が出たが、気にしていられない。
「リザ。今助けるぞ」
俺は水の弾丸を騎士どもの脳天に落とす。村人は可能なかぎり避け、騎士達だけに、水弾の雨を降らす。
ハインツは爆炎魔法を上空に放ったが、俺の水魔法が上だ。大質量の水で、爆炎を掻き消し、吹き飛ばした。
「なんだこれはぁぁぁあ!! うおあぁああああああああ!!!」
「ぐああああ!」
「ぎゃぁぁあああ!!」
神殿騎士たちの頭上に、氷のような水が、矢のように降り注いだ。ガトリング砲よりも強大な破壊力と連射能力で、頑丈な鎧をいともたやすく貫通。防御魔法など関係なしに、騎士どもを粉砕した。
俺はこれまでで最高に魔力を消費する。あまりに使いすぎたのか、目から血の涙を流した。
「がはっ! ごほ! ぐっ。これ以上は俺が死ぬ……。限界を超えて魔法を使うと、こうなるのか」
耳からも血が出て、口からも血を吐いた。かなりやばい状況だ。
気絶しそうになるが、その場に膝をついて、倒れるのをこらえる。敵を倒しただけではリザは救えない。治療が必要だ。
もはや俺の方が、治療が必要なくらいだが、そんなことは言っていられない。腰にぶら下げていた聖水の入った水筒を取り、ゴクゴクと飲む。少しだけ魔力が回復し、楽になる。
アルマ君たちは、顔面から血を噴き出す俺を心配し、寄り添ってくれる。
「大丈夫だ。村人には水弾を当てなかったと思うが、確認して助けなければ」
俺は倒れそうになる足を叩き、気合を入れる。なんとか立ち上がると、足を引きずってリザのいる方に急ぐ。
俺の放った水弾は、過去最高の威力だったのか、地面が抉れてクレーターのようになっていた。まるで流星群でも降り注いだような状態だ。煙がもうもうと立ち上っていて、状況の確認が困難だが、村人が生きていることは分かった。俺の水弾は一発も村人にあたっていない。
「な、なにが起こったんだ。これはなんだ」
「神殿騎士たちが突然死んだぞ」
「水魔法使い様か?」
女、子供は恐怖に泣き叫んでいるが、捕まった老人たちが冷静に分析している。
「リザ。無事でいてくれ」
俺は村人の縄をほどくよりも先に、倒れたリザの元に向かう。足を引きずって、血涙を流しつつ、リザの元に向かう。
リザの元までたどり着くと、彼女の美しい腹筋に大穴が空いていた。内臓が一部、飛び出ている。
「やはり、致命傷か」
俺の魔法にこれだけの怪我を治す力はない。とにかく、内臓を体内に戻して止血だ。聖水を飲ませれば、いくらか延命できる。その間に、治療師を探す。
俺は大量の魔力を失い、目の前が真っ赤に染まり、チカチカしていた。今にも失神しそうになりながら、リザに応急処置を施す。本来なら他人の内臓を見ただけで気を失いそうになるが、火事場の馬鹿力と言う奴だろうか? 普段なら出せない力を使い、リザの治療をした。人の命を助けようとするときは、平和ボケした日本人でも、すごい力を出すらしいな。この異世界にきて、俺も強くなったもんだ。
「はぁはぁ。あとは治療師だ。この村にいるのか? 間に合うのか」
俺がリザを治療している間、アルマ君たちは村人の縄を牙で切って助けていた。俺の周りに、助かった村人たちが集まってくる。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
「この方がダーナ様の御使い様だ」
「すごいお方だ。まだこんなに小さいのに」
こんな時だというのに、俺に祈ってくる。そんなことをするくらいなら、まずは倒れた味方を助けろ。
「おいお前ら。なにしてるんだ。まだ神殿騎士は村の中にいるんだぞ。さっさと味方兵士を助けて、逃げろ」
「あぁ! そうですね。その通りでございます」
「申し訳ありません。こんな奇跡、見たことが無かったもので」
自分の命よりも信仰心なのか? 俺は少し村人たちに、別の恐怖を感じた。
「ここにいる騎士どもは全滅させた思うが、生き残りがいるかもしれん。さっさと逃げろ!」
俺の水弾で騎士たちを皆殺しにしたと思うが、全員の生死を確認したわけではない。煙も晴れて来て周りが見えるようになってきたので、リザに包帯を巻きつつ、騎士どもがどうなったか確認した。
ほとんどが、形を残さずひき肉状態。ミンチである。俺にこんな力が眠っていたのかと、自分の力に恐怖するくらいだ。
「全員やったか」
ホッとしたが、まだ危機は去っていない。
俺はリザをアルマ君たちの砂魔法で運ばせることにした。一刻も早く医者か治療師に見せる必要がある。
「ライドが気になるが、まずはリザだ」
俺は避難するために、一旦村長の家に戻ろうとした。アルマ君の砂魔法で、リザを滑るように移動させる。早く医者の元へ行かなければならないと、ふらつきながら立ち上がる。
「アルマ君。リザを頼む。早く助けなければ……」
俺がアルマ君たちにリザのことを頼もうとした時、肉塊になった敵の兵士の中から、飛び出してくる男がいた。
「よくもやってくれたなクソガキが!」
なんと、神殿騎士団長のハインツだ。奴は死んだ兵士の死体に隠れて、隙をうかがっていたのだ。
奴は俺の魔法で肩や腕の肉が抉れていたが、戦意は十分。俺を殺す気満々でとびかかってきた。
奴の手には銀色の細い剣が握られている。刺突用のレイピアだ。俺を突き殺す気らしい。
「なんだと! まだ死んでなかったのか!」
「当たり前だ! 死ね小僧!」
アルマ君も、村人も、俺も。全員がハインツを阻止しようと動くが、一手遅い。
ハインツが砂から飛び出た時点で、奴と俺の距離は5メートルも無い。奴は俺が近づくのをじっと待って、飛び出てきたのだ。
「殺った!!」
ハインツの凶刃が俺に迫る、その時。
一陣の風が吹いた。
「残念ですねハインツ。アオ様は殺させない」
「き、貴様は!」
女、子供、老人が、教会の前で縛られて跪いている。皆、悲壮な顔をしている。
教会の周りには、戦っていた兵士と思われる男たちが倒れている。全員血だらけで、四肢が吹き飛んでバラバラになっている者ばかりだ。かなりグロテスクで、戦いの壮絶さがわかる。倒れている男たちはほとんど動かないので、死んでいるか、瀕死の重傷者だ。
「おいおい。マジかよ。嘘だろ? 間に合わなかったのか?」
リザは? ライドは? 死んだなんて嘘だろ?
俺は半壊した民家の陰に隠れ、スナイパーライフルのスコープを使って周囲を確認する。見ると、神殿騎士たちが50人以上集まっている。捕まえた村人たちを取り囲み、何かを尋問している。
「アルテアはどこだ! 隠すと為にならんぞ!」
一人だけ大声を上げて、叫んでいる騎士がいる。頭がハゲ散らかった男性だ。顔は若そうな感じだ。
「これだけの犠牲を出しても、まだ分からんのか! アルテアを庇ってもお前たちに未来は無いんだぞ!」
そいつは一人だけ鎧が豪華だ。貴族のようなマントを羽織ってる。
もしかして奴がリーダーか? 確か死んだ騎士どもが、ハインツ団長とか言ってたな。
もしもこいつが神殿騎士のハインツなら、俺たちの密会は最初からバレていたんだ。ハインツは最初から、アルテアを捕まえる気満々でここに来たってことだ。
「くそったれ。最悪だ。一体どうしたらいい?」
教会の前で捕まっている村人たちは、100人近くいる。円を囲むように、騎士達に取り囲まれてる。助け出すには、非常に厄介な状況だ。
「ちっ。まずは俺の仲間だ。リザはどこだ」
捕まっている村人たちには悪いが、俺はまずリザを探した。彼女の安否が気になる。
倒れている兵士たちや、捕まっている村人たちを、一人ずつスコープで探し確認する。どうやら、村人たちの中にはいない。捕まってはいないみたいだ。となると、倒れている兵士たちの中にいるのか?
「頼むからここにはいないでくれよ」
倒れている反乱軍の兵士はみんなひどい怪我で、生きていそうにないぞ。
俺は息を荒げながら、スコープのレンズを凝視した。すると、いてはならない場所に、リザが倒れていた。
「ウ、ウソだろ」
リザが血だるまになって倒れている。まったく動かない。
人違いではなく、確実に、リザだ。血でぬれているが、あの顔は、リザだ。
まじか。
まじか。
まじか!!
「やばいやばいやばいやばい」
まさか死んだのか? 体が血だらけだが、大丈夫なのか? 動かないぞ。どうなっているんだ!
頼むから死なないでくれと、リザの状態をスコープで確認したら、かすかに胸が上下に動いていた。わずかだが、息をしている。ただ、足や腹、頭から、大量の血を流している。
このままでは、死ぬ。
「…………」
俺は焦った。自分が死ぬことならば、ある程度の覚悟はしていた。こんな異世界だ。今まで生きていられた方が奇跡だ。自分が死ぬのは、少なからず理解していた。
だけど、近しい人が死ぬことは、理解も覚悟もしていない。まさか死ぬだなんて、考えていない。
「…………あぁぁぁあああああああ!」
俺は頭を掻きむしる。
「どうする。どうすればいい!」
本当ならリザ以外の人間も助ける必要があるが、人間は平等じゃない。俺にとっての優先順位は、まずリザだ。
どうやったら安全に助けられるのか、どうやったら命を救えるのか、俺は必至で考えた。
ない頭を振り絞って、脳汁が出る寸前まで考えた。
……………結果。
すぐに答えは出た。
いや、最初から答えは出ていた。
「敵は皆殺し」
目の前に居る敵を、この世から消滅させる。今すぐに!
敵がいなければ、安全に治療できる。リザが息絶える前に、騎士どもを殺す。
俺は血が沸騰するのを感じた。
「アルマ! 砂魔法を使って奴らを足止めしろ!! あとは俺が殺す!」
アルマ君たちはビクッと震えて、俺の形相におののいた。俺の鬼気迫る魔力に気圧されたのか、すぐに命令に従い、魔法を発動させた。せっせこ魔力を溜めはじめた。
「村人を傷つけずに、騎士だけを砂に埋めろ。絶対に逃がすな」
アルマ君たちは俺の莫大な魔力に当てられたのか、冷や汗を垂らしながら魔法を使う。フンスフンスと鼻息を荒げながら、極大の砂魔法が発動していく。
すぐにスコープで覗くと、固いレンガの地面が砂に溶け、50人以上の騎士達が流砂にのまれていた。
「な、なんだこれは!! なにがどうなった!!」
アルマ君たちが魔法を使ったのを確認し、俺は水魔法を瞬時に発動。噴き出した俺の魔力が上空に打ちあがり、いくつもの水弾が天空に浮かび上がった。教会の上空には、数えきれないほどの水弾が生成されている。
「こ、この砂はなんだ! 全員、防御魔法を使え!! 敵の探知を急げ!!」
ハゲ散らかった神殿騎士ハインツが、部下たちに命令している。部下たちは対防御魔法を展開させている。
「ハ、ハインツ団長! 上空20メートルの当たりに、何かが浮かんでいます!!」
「なんだと!?」
村人も含め、全員が空を見上げる。
見上げると、俺の生成させた高圧縮の水弾が大量に浮かんでいた。まるで弾丸のような形をした水弾が、無数に浮かんでいる。
「み、水だ! 水弾だ!! 水魔法使いがいるぞ!! 早くこの砂魔法を何とかしろ!! くそ!!」
ハインツは喚き散らし、手に炎が生成されていた。魔法を使う気だろう。
「まとめて殺す。くたばれ騎士ども」
今までセーブしていた脳みそのリミッターが外れ、限界以上の水魔法を使用する。副作用で大量の鼻血が出たが、気にしていられない。
「リザ。今助けるぞ」
俺は水の弾丸を騎士どもの脳天に落とす。村人は可能なかぎり避け、騎士達だけに、水弾の雨を降らす。
ハインツは爆炎魔法を上空に放ったが、俺の水魔法が上だ。大質量の水で、爆炎を掻き消し、吹き飛ばした。
「なんだこれはぁぁぁあ!! うおあぁああああああああ!!!」
「ぐああああ!」
「ぎゃぁぁあああ!!」
神殿騎士たちの頭上に、氷のような水が、矢のように降り注いだ。ガトリング砲よりも強大な破壊力と連射能力で、頑丈な鎧をいともたやすく貫通。防御魔法など関係なしに、騎士どもを粉砕した。
俺はこれまでで最高に魔力を消費する。あまりに使いすぎたのか、目から血の涙を流した。
「がはっ! ごほ! ぐっ。これ以上は俺が死ぬ……。限界を超えて魔法を使うと、こうなるのか」
耳からも血が出て、口からも血を吐いた。かなりやばい状況だ。
気絶しそうになるが、その場に膝をついて、倒れるのをこらえる。敵を倒しただけではリザは救えない。治療が必要だ。
もはや俺の方が、治療が必要なくらいだが、そんなことは言っていられない。腰にぶら下げていた聖水の入った水筒を取り、ゴクゴクと飲む。少しだけ魔力が回復し、楽になる。
アルマ君たちは、顔面から血を噴き出す俺を心配し、寄り添ってくれる。
「大丈夫だ。村人には水弾を当てなかったと思うが、確認して助けなければ」
俺は倒れそうになる足を叩き、気合を入れる。なんとか立ち上がると、足を引きずってリザのいる方に急ぐ。
俺の放った水弾は、過去最高の威力だったのか、地面が抉れてクレーターのようになっていた。まるで流星群でも降り注いだような状態だ。煙がもうもうと立ち上っていて、状況の確認が困難だが、村人が生きていることは分かった。俺の水弾は一発も村人にあたっていない。
「な、なにが起こったんだ。これはなんだ」
「神殿騎士たちが突然死んだぞ」
「水魔法使い様か?」
女、子供は恐怖に泣き叫んでいるが、捕まった老人たちが冷静に分析している。
「リザ。無事でいてくれ」
俺は村人の縄をほどくよりも先に、倒れたリザの元に向かう。足を引きずって、血涙を流しつつ、リザの元に向かう。
リザの元までたどり着くと、彼女の美しい腹筋に大穴が空いていた。内臓が一部、飛び出ている。
「やはり、致命傷か」
俺の魔法にこれだけの怪我を治す力はない。とにかく、内臓を体内に戻して止血だ。聖水を飲ませれば、いくらか延命できる。その間に、治療師を探す。
俺は大量の魔力を失い、目の前が真っ赤に染まり、チカチカしていた。今にも失神しそうになりながら、リザに応急処置を施す。本来なら他人の内臓を見ただけで気を失いそうになるが、火事場の馬鹿力と言う奴だろうか? 普段なら出せない力を使い、リザの治療をした。人の命を助けようとするときは、平和ボケした日本人でも、すごい力を出すらしいな。この異世界にきて、俺も強くなったもんだ。
「はぁはぁ。あとは治療師だ。この村にいるのか? 間に合うのか」
俺がリザを治療している間、アルマ君たちは村人の縄を牙で切って助けていた。俺の周りに、助かった村人たちが集まってくる。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
「この方がダーナ様の御使い様だ」
「すごいお方だ。まだこんなに小さいのに」
こんな時だというのに、俺に祈ってくる。そんなことをするくらいなら、まずは倒れた味方を助けろ。
「おいお前ら。なにしてるんだ。まだ神殿騎士は村の中にいるんだぞ。さっさと味方兵士を助けて、逃げろ」
「あぁ! そうですね。その通りでございます」
「申し訳ありません。こんな奇跡、見たことが無かったもので」
自分の命よりも信仰心なのか? 俺は少し村人たちに、別の恐怖を感じた。
「ここにいる騎士どもは全滅させた思うが、生き残りがいるかもしれん。さっさと逃げろ!」
俺の水弾で騎士たちを皆殺しにしたと思うが、全員の生死を確認したわけではない。煙も晴れて来て周りが見えるようになってきたので、リザに包帯を巻きつつ、騎士どもがどうなったか確認した。
ほとんどが、形を残さずひき肉状態。ミンチである。俺にこんな力が眠っていたのかと、自分の力に恐怖するくらいだ。
「全員やったか」
ホッとしたが、まだ危機は去っていない。
俺はリザをアルマ君たちの砂魔法で運ばせることにした。一刻も早く医者か治療師に見せる必要がある。
「ライドが気になるが、まずはリザだ」
俺は避難するために、一旦村長の家に戻ろうとした。アルマ君の砂魔法で、リザを滑るように移動させる。早く医者の元へ行かなければならないと、ふらつきながら立ち上がる。
「アルマ君。リザを頼む。早く助けなければ……」
俺がアルマ君たちにリザのことを頼もうとした時、肉塊になった敵の兵士の中から、飛び出してくる男がいた。
「よくもやってくれたなクソガキが!」
なんと、神殿騎士団長のハインツだ。奴は死んだ兵士の死体に隠れて、隙をうかがっていたのだ。
奴は俺の魔法で肩や腕の肉が抉れていたが、戦意は十分。俺を殺す気満々でとびかかってきた。
奴の手には銀色の細い剣が握られている。刺突用のレイピアだ。俺を突き殺す気らしい。
「なんだと! まだ死んでなかったのか!」
「当たり前だ! 死ね小僧!」
アルマ君も、村人も、俺も。全員がハインツを阻止しようと動くが、一手遅い。
ハインツが砂から飛び出た時点で、奴と俺の距離は5メートルも無い。奴は俺が近づくのをじっと待って、飛び出てきたのだ。
「殺った!!」
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