この異世界には水が少ない ~砂漠化した世界で成り上がりサバイバル~

無名

文字の大きさ
78 / 85
第二章

76 神殿騎士団長ハインツ

しおりを挟む
 俺はアルマ君たちを連れて、この村にある教会に来た。頑張って走ってきたのだが、すでに教会は崩壊。村人たちが捕まり、縄で縛られていた。

 女、子供、老人が、教会の前で縛られて跪いている。皆、悲壮な顔をしている。

 教会の周りには、戦っていた兵士と思われる男たちが倒れている。全員血だらけで、四肢が吹き飛んでバラバラになっている者ばかりだ。かなりグロテスクで、戦いの壮絶さがわかる。倒れている男たちはほとんど動かないので、死んでいるか、瀕死の重傷者だ。

「おいおい。マジかよ。嘘だろ? 間に合わなかったのか?」

 リザは? ライドは? 死んだなんて嘘だろ?

 俺は半壊した民家の陰に隠れ、スナイパーライフルのスコープを使って周囲を確認する。見ると、神殿騎士たちが50人以上集まっている。捕まえた村人たちを取り囲み、何かを尋問している。

「アルテアはどこだ! 隠すと為にならんぞ!」

 一人だけ大声を上げて、叫んでいる騎士がいる。頭がハゲ散らかった男性だ。顔は若そうな感じだ。

「これだけの犠牲を出しても、まだ分からんのか! アルテアを庇ってもお前たちに未来は無いんだぞ!」

 そいつは一人だけ鎧が豪華だ。貴族のようなマントを羽織ってる。

 もしかして奴がリーダーか? 確か死んだ騎士どもが、ハインツ団長とか言ってたな。

 もしもこいつが神殿騎士のハインツなら、俺たちの密会は最初からバレていたんだ。ハインツは最初から、アルテアを捕まえる気満々でここに来たってことだ。

「くそったれ。最悪だ。一体どうしたらいい?」

 教会の前で捕まっている村人たちは、100人近くいる。円を囲むように、騎士達に取り囲まれてる。助け出すには、非常に厄介な状況だ。

「ちっ。まずは俺の仲間だ。リザはどこだ」

 捕まっている村人たちには悪いが、俺はまずリザを探した。彼女の安否が気になる。

 倒れている兵士たちや、捕まっている村人たちを、一人ずつスコープで探し確認する。どうやら、村人たちの中にはいない。捕まってはいないみたいだ。となると、倒れている兵士たちの中にいるのか? 

「頼むからここにはいないでくれよ」

 倒れている反乱軍の兵士はみんなひどい怪我で、生きていそうにないぞ。

 俺は息を荒げながら、スコープのレンズを凝視した。すると、いてはならない場所に、リザが倒れていた。

「ウ、ウソだろ」

 リザが血だるまになって倒れている。まったく動かない。

 人違いではなく、確実に、リザだ。血でぬれているが、あの顔は、リザだ。

 まじか。

 まじか。

 まじか!!

「やばいやばいやばいやばい」

 まさか死んだのか? 体が血だらけだが、大丈夫なのか? 動かないぞ。どうなっているんだ! 

 頼むから死なないでくれと、リザの状態をスコープで確認したら、かすかに胸が上下に動いていた。わずかだが、息をしている。ただ、足や腹、頭から、大量の血を流している。

 このままでは、死ぬ。

「…………」

 俺は焦った。自分が死ぬことならば、ある程度の覚悟はしていた。こんな異世界だ。今まで生きていられた方が奇跡だ。自分が死ぬのは、少なからず理解していた。

 だけど、近しい人が死ぬことは、理解も覚悟もしていない。まさか死ぬだなんて、考えていない。

「…………あぁぁぁあああああああ!」

 俺は頭を掻きむしる。

「どうする。どうすればいい!」

 本当ならリザ以外の人間も助ける必要があるが、人間は平等じゃない。俺にとっての優先順位は、まずリザだ。

 どうやったら安全に助けられるのか、どうやったら命を救えるのか、俺は必至で考えた。

 ない頭を振り絞って、脳汁が出る寸前まで考えた。

 ……………結果。

 すぐに答えは出た。

 いや、最初から答えは出ていた。

「敵は皆殺し」

 目の前に居る敵を、この世から消滅させる。今すぐに! 

 敵がいなければ、安全に治療できる。リザが息絶える前に、騎士どもを殺す。

 俺は血が沸騰するのを感じた。

「アルマ! 砂魔法を使って奴らを足止めしろ!! あとは俺が殺す!」

 アルマ君たちはビクッと震えて、俺の形相におののいた。俺の鬼気迫る魔力に気圧されたのか、すぐに命令に従い、魔法を発動させた。せっせこ魔力を溜めはじめた。

「村人を傷つけずに、騎士だけを砂に埋めろ。絶対に逃がすな」

 アルマ君たちは俺の莫大な魔力に当てられたのか、冷や汗を垂らしながら魔法を使う。フンスフンスと鼻息を荒げながら、極大の砂魔法が発動していく。

 すぐにスコープで覗くと、固いレンガの地面が砂に溶け、50人以上の騎士達が流砂にのまれていた。

「な、なんだこれは!! なにがどうなった!!」

 アルマ君たちが魔法を使ったのを確認し、俺は水魔法を瞬時に発動。噴き出した俺の魔力が上空に打ちあがり、いくつもの水弾が天空に浮かび上がった。教会の上空には、数えきれないほどの水弾が生成されている。

「こ、この砂はなんだ! 全員、防御魔法を使え!! 敵の探知を急げ!!」

 ハゲ散らかった神殿騎士ハインツが、部下たちに命令している。部下たちは対防御魔法を展開させている。

「ハ、ハインツ団長! 上空20メートルの当たりに、何かが浮かんでいます!!」

「なんだと!?」

 村人も含め、全員が空を見上げる。

 見上げると、俺の生成させた高圧縮の水弾が大量に浮かんでいた。まるで弾丸のような形をした水弾が、無数に浮かんでいる。

「み、水だ! 水弾だ!! 水魔法使いがいるぞ!! 早くこの砂魔法を何とかしろ!! くそ!!」

 ハインツは喚き散らし、手に炎が生成されていた。魔法を使う気だろう。

「まとめて殺す。くたばれ騎士ども」

 今までセーブしていた脳みそのリミッターが外れ、限界以上の水魔法を使用する。副作用で大量の鼻血が出たが、気にしていられない。

「リザ。今助けるぞ」

 俺は水の弾丸を騎士どもの脳天に落とす。村人は可能なかぎり避け、騎士達だけに、水弾の雨を降らす。

 ハインツは爆炎魔法を上空に放ったが、俺の水魔法が上だ。大質量の水で、爆炎を掻き消し、吹き飛ばした。

「なんだこれはぁぁぁあ!! うおあぁああああああああ!!!」
 
「ぐああああ!」

「ぎゃぁぁあああ!!」

 神殿騎士たちの頭上に、氷のような水が、矢のように降り注いだ。ガトリング砲よりも強大な破壊力と連射能力で、頑丈な鎧をいともたやすく貫通。防御魔法など関係なしに、騎士どもを粉砕した。
 
 俺はこれまでで最高に魔力を消費する。あまりに使いすぎたのか、目から血の涙を流した。

「がはっ! ごほ! ぐっ。これ以上は俺が死ぬ……。限界を超えて魔法を使うと、こうなるのか」

 耳からも血が出て、口からも血を吐いた。かなりやばい状況だ。

 気絶しそうになるが、その場に膝をついて、倒れるのをこらえる。敵を倒しただけではリザは救えない。治療が必要だ。

 もはや俺の方が、治療が必要なくらいだが、そんなことは言っていられない。腰にぶら下げていた聖水の入った水筒を取り、ゴクゴクと飲む。少しだけ魔力が回復し、楽になる。

 アルマ君たちは、顔面から血を噴き出す俺を心配し、寄り添ってくれる。

「大丈夫だ。村人には水弾を当てなかったと思うが、確認して助けなければ」

 俺は倒れそうになる足を叩き、気合を入れる。なんとか立ち上がると、足を引きずってリザのいる方に急ぐ。

 俺の放った水弾は、過去最高の威力だったのか、地面が抉れてクレーターのようになっていた。まるで流星群でも降り注いだような状態だ。煙がもうもうと立ち上っていて、状況の確認が困難だが、村人が生きていることは分かった。俺の水弾は一発も村人にあたっていない。

「な、なにが起こったんだ。これはなんだ」

「神殿騎士たちが突然死んだぞ」

「水魔法使い様か?」

 女、子供は恐怖に泣き叫んでいるが、捕まった老人たちが冷静に分析している。

「リザ。無事でいてくれ」

 俺は村人の縄をほどくよりも先に、倒れたリザの元に向かう。足を引きずって、血涙を流しつつ、リザの元に向かう。

 リザの元までたどり着くと、彼女の美しい腹筋に大穴が空いていた。内臓が一部、飛び出ている。

「やはり、致命傷か」

 俺の魔法にこれだけの怪我を治す力はない。とにかく、内臓を体内に戻して止血だ。聖水を飲ませれば、いくらか延命できる。その間に、治療師を探す。

 俺は大量の魔力を失い、目の前が真っ赤に染まり、チカチカしていた。今にも失神しそうになりながら、リザに応急処置を施す。本来なら他人の内臓を見ただけで気を失いそうになるが、火事場の馬鹿力と言う奴だろうか? 普段なら出せない力を使い、リザの治療をした。人の命を助けようとするときは、平和ボケした日本人でも、すごい力を出すらしいな。この異世界にきて、俺も強くなったもんだ。

「はぁはぁ。あとは治療師だ。この村にいるのか? 間に合うのか」

 俺がリザを治療している間、アルマ君たちは村人の縄を牙で切って助けていた。俺の周りに、助かった村人たちが集まってくる。

「ありがとうございます。ありがとうございます」

「この方がダーナ様の御使い様だ」

「すごいお方だ。まだこんなに小さいのに」

 こんな時だというのに、俺に祈ってくる。そんなことをするくらいなら、まずは倒れた味方を助けろ。

「おいお前ら。なにしてるんだ。まだ神殿騎士は村の中にいるんだぞ。さっさと味方兵士を助けて、逃げろ」

「あぁ! そうですね。その通りでございます」

「申し訳ありません。こんな奇跡、見たことが無かったもので」
 
 自分の命よりも信仰心なのか? 俺は少し村人たちに、別の恐怖を感じた。 

「ここにいる騎士どもは全滅させた思うが、生き残りがいるかもしれん。さっさと逃げろ!」 

 俺の水弾で騎士たちを皆殺しにしたと思うが、全員の生死を確認したわけではない。煙も晴れて来て周りが見えるようになってきたので、リザに包帯を巻きつつ、騎士どもがどうなったか確認した。 

 ほとんどが、形を残さずひき肉状態。ミンチである。俺にこんな力が眠っていたのかと、自分の力に恐怖するくらいだ。

「全員やったか」

 ホッとしたが、まだ危機は去っていない。

 俺はリザをアルマ君たちの砂魔法で運ばせることにした。一刻も早く医者か治療師に見せる必要がある。

「ライドが気になるが、まずはリザだ」

 俺は避難するために、一旦村長の家に戻ろうとした。アルマ君の砂魔法で、リザを滑るように移動させる。早く医者の元へ行かなければならないと、ふらつきながら立ち上がる。

「アルマ君。リザを頼む。早く助けなければ……」
 
 俺がアルマ君たちにリザのことを頼もうとした時、肉塊になった敵の兵士の中から、飛び出してくる男がいた。

「よくもやってくれたなクソガキが!」

 なんと、神殿騎士団長のハインツだ。奴は死んだ兵士の死体に隠れて、隙をうかがっていたのだ。

 奴は俺の魔法で肩や腕の肉が抉れていたが、戦意は十分。俺を殺す気満々でとびかかってきた。

 奴の手には銀色の細い剣が握られている。刺突用のレイピアだ。俺を突き殺す気らしい。

「なんだと! まだ死んでなかったのか!」

「当たり前だ! 死ね小僧!」

 アルマ君も、村人も、俺も。全員がハインツを阻止しようと動くが、一手遅い。

 ハインツが砂から飛び出た時点で、奴と俺の距離は5メートルも無い。奴は俺が近づくのをじっと待って、飛び出てきたのだ。

「殺った!!」

 ハインツの凶刃が俺に迫る、その時。

 一陣の風が吹いた。

「残念ですねハインツ。アオ様は殺させない」

「き、貴様は!」 




しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化! 転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

成瀬一
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...