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第二章
78 遠い夏の日の記憶
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あれは暑い夏の日だった。
愛犬のレナを散歩に連れて行った日のことだ。
確か、35℃を超える、猛暑日だったはずだ。涼しい夕方に出たつもりだが、まだ30℃近くあったのを覚えている。
愛犬はシェパードで、名前はレナ。メスだ。暑いのが苦手で、散歩に行きたくないとごねていた。飼い主目に見ても、かなりデブな犬になってきていたので、散歩には行かなければならない。
俺はレナの首輪を引きずって、近所の散歩をした。
かなり嫌がっていたが、俺の運動にもなる。一緒に来てもらおう。
散歩に出て10分ほどたったころだ。
デブな犬だったので、すぐに動きが鈍って、動かなくなった。脱水症状になったらまずいので、自販機で水を買い与える。舌出してベロベロと飲んでいた。
俺が肉や白飯ばかり与えるから悪いのだが、おいしそうに食べるレナを見ると、やめられない。食った分は、運動してやせないとな。
俺はレナの頭をぐしゃぐしゃ撫でた。
それから近所を30分くらいゆっくりと散歩して、その帰りだ。事件は起きた。
用水路で、子供が溺れていた。
暑い日だから、冷たい水が流れる、用水路で遊んでいたのだろう。そこは洪水の時に冠水しないよう流れる、放水路と呼ばれる場所だ。普段は浸水が浅く、綺麗な水が流れている。
今日はなぜか、水が深かった。昨日の大雨の影響かもしれない。大人でも足がつかないほど増水している。流れも、速い。
まずいと思った。どんどん流されて行っている。俺以外、だれも気付いていない。
溺れているのは、子供が二人だ。小学生低学年の男の子である。用水路なので、手をかけて登る場所が無い。彼らは息をしようと必死にもがいていたが、どうにもならない。
俺はすぐに助けなければと思った。
だけど、どうしたらいいか分からない。泳ぎが得意でない俺が助けに行っても、一緒に死ぬだけだ。
焦っていると、愛犬のレナが用水路に飛び込んだ。
まさかと思った。今まで動かなかったデブ犬が、子供たちを助けるために飛び込んだ。一回も泳がせたことが無いのに、水に飛び込んだのだ。
迷いのないレナを見て、俺も動かなければと思い、用水路に飛び込む。
ガボガボと水を飲んでしまったが、必死に泳いで、子供たちの手を掴んだ。レナもいる。
さぁ、助けるぞ。そこのでっぱりに手をかけろ。
そう思ったら、ブツッと記憶が途切れた。映像が途切れるように、何もかも真っ暗になった。
その後、助けられたのか、分からない。
レナも子供たちも、どうなったのか覚えていない。
俺は死んだのか?
俺の死因は溺死? 電車やトラックに轢かれたんじゃなかったのか? 自殺したんだったけか? 死の選択肢がありすぎて、思い出せない。あまり良い人生じゃなかったからな。
暗い闇の中に魂を漂わせていると、呼び声が聞こえた。
『世界を、お願いします』
あぁ。綺麗な声だ。
声の方に耳を傾けると、次第に意識が覚醒していく。
俺の重い瞼が、ゆっくりと開いていく。
「あれ?」
目の前には、鼻息を荒くしたポニーのオルフェがいた。アルマ君もいる。ベッドに頭を乗せて、俺をじっと見ている。
泣きそうな顔で、俺を見ている。
少し視線を横にずらすと、プルウィアやアルテア、クーがいた。よく聞こえなかったが、喜んでいる。
俺は、助かったらしい。
戦いが終わった後、砦に帰ってきたまでは覚えている。そこからの記憶が吹っ飛んでる。多分、気絶したんだと思われるが、よく分からない。
「アルテア。俺は一体」
「よかった。本当に良かった」
みんなすごく喜んでる。まるで死者がよみがえったような感じである。
喜び過ぎたのか、ポニーのオルフェがベロベロと俺の顔を舐めてくる。その姿がなんとなく昔の愛犬と重なり、「レナ」と呼んでしまった。
なぜか今まで忘れていたけど、愛犬のレナを急に思い出したから、そう言ってしまった。
するとオルフェは、「ヒヒーン」と鳴いた。
それは偶然だったのかもしれないが、彼女はレナと呼ばれて、返事をした。
返事をされたことは、特にびっくりもしなかった。
あぁそうか。と言う感じで、ベッドに横たわったままオルフェを撫でる。ついでにアルマ君も撫でる。プルウィアが頭を差し出してきたので、プルウィアも撫でる。
俺が頭をなで続けていると、近くにいたクーやアルテアも加わり、俺も撫でろ私も撫でろと、俺に頭を差し出してきた。
俺は神様か何かかと心の中で愚痴ったが、喜んでいる彼らを見て、俺もうれしくなる。
「一週間ぶりのご帰還、おめでとうございます」
アルテアが言った。
「一週間?」
「はい。アオ様はずっと眠ったままだったのです。多分、魔力の使い過ぎでしょう。プルウィアさんがアオ様の看病をずっとしていたんですが、意識が戻りそうという報告を聞いて、飛んできました」
それでみんないるのか。
にしても、ここはどこだ? 砦の医務室か? まっ白い部屋だな。病院みたいだ。こんな部屋があったんだな。
「戦いは一時的に終わり、ルセリア将軍がエルメールの王都に帰還しています。彼女は内部からルドミリア教会を崩すため、作戦を実行中です」
「そうか。ルセリアが仲間になったのか」
「はい。リザさんも無事です。今はまだ歩けませんが、無事です。それと、アオ様を殺そうとした騎士団長のハインツは、処刑しました」
処刑……。血なまぐさい話だが、殺したんだな。
「いろいろと情報があるのですが、今は安静にしていてください。すぐに戦いになるかもしれませんが、出来る限り体を休めてください」
アルテアが優しく微笑んでくれる。プルウィアもクーも、みんな心配している。ライドも部屋の端っこにいたらしく、俺に手を振っていた。奴も随分、丸くなったな。出会ったころはトゲトゲしていたんだが。
「そうか。なら、もう少し眠らせてもらう」
「はい。我々に任せて、養生してください」
俺は言われて、目をつぶった。すぐに、意識が途切れ、また眠りに落ちた。
暑い、夏の日の散歩が、夢に現れる。
近所を散歩している俺。となりを歩くのは、俺のペット。そこには愛犬のレナではなく、ポニーのオルフェがいた。なぜか、アルマ君もいた。
愛犬のレナを散歩に連れて行った日のことだ。
確か、35℃を超える、猛暑日だったはずだ。涼しい夕方に出たつもりだが、まだ30℃近くあったのを覚えている。
愛犬はシェパードで、名前はレナ。メスだ。暑いのが苦手で、散歩に行きたくないとごねていた。飼い主目に見ても、かなりデブな犬になってきていたので、散歩には行かなければならない。
俺はレナの首輪を引きずって、近所の散歩をした。
かなり嫌がっていたが、俺の運動にもなる。一緒に来てもらおう。
散歩に出て10分ほどたったころだ。
デブな犬だったので、すぐに動きが鈍って、動かなくなった。脱水症状になったらまずいので、自販機で水を買い与える。舌出してベロベロと飲んでいた。
俺が肉や白飯ばかり与えるから悪いのだが、おいしそうに食べるレナを見ると、やめられない。食った分は、運動してやせないとな。
俺はレナの頭をぐしゃぐしゃ撫でた。
それから近所を30分くらいゆっくりと散歩して、その帰りだ。事件は起きた。
用水路で、子供が溺れていた。
暑い日だから、冷たい水が流れる、用水路で遊んでいたのだろう。そこは洪水の時に冠水しないよう流れる、放水路と呼ばれる場所だ。普段は浸水が浅く、綺麗な水が流れている。
今日はなぜか、水が深かった。昨日の大雨の影響かもしれない。大人でも足がつかないほど増水している。流れも、速い。
まずいと思った。どんどん流されて行っている。俺以外、だれも気付いていない。
溺れているのは、子供が二人だ。小学生低学年の男の子である。用水路なので、手をかけて登る場所が無い。彼らは息をしようと必死にもがいていたが、どうにもならない。
俺はすぐに助けなければと思った。
だけど、どうしたらいいか分からない。泳ぎが得意でない俺が助けに行っても、一緒に死ぬだけだ。
焦っていると、愛犬のレナが用水路に飛び込んだ。
まさかと思った。今まで動かなかったデブ犬が、子供たちを助けるために飛び込んだ。一回も泳がせたことが無いのに、水に飛び込んだのだ。
迷いのないレナを見て、俺も動かなければと思い、用水路に飛び込む。
ガボガボと水を飲んでしまったが、必死に泳いで、子供たちの手を掴んだ。レナもいる。
さぁ、助けるぞ。そこのでっぱりに手をかけろ。
そう思ったら、ブツッと記憶が途切れた。映像が途切れるように、何もかも真っ暗になった。
その後、助けられたのか、分からない。
レナも子供たちも、どうなったのか覚えていない。
俺は死んだのか?
俺の死因は溺死? 電車やトラックに轢かれたんじゃなかったのか? 自殺したんだったけか? 死の選択肢がありすぎて、思い出せない。あまり良い人生じゃなかったからな。
暗い闇の中に魂を漂わせていると、呼び声が聞こえた。
『世界を、お願いします』
あぁ。綺麗な声だ。
声の方に耳を傾けると、次第に意識が覚醒していく。
俺の重い瞼が、ゆっくりと開いていく。
「あれ?」
目の前には、鼻息を荒くしたポニーのオルフェがいた。アルマ君もいる。ベッドに頭を乗せて、俺をじっと見ている。
泣きそうな顔で、俺を見ている。
少し視線を横にずらすと、プルウィアやアルテア、クーがいた。よく聞こえなかったが、喜んでいる。
俺は、助かったらしい。
戦いが終わった後、砦に帰ってきたまでは覚えている。そこからの記憶が吹っ飛んでる。多分、気絶したんだと思われるが、よく分からない。
「アルテア。俺は一体」
「よかった。本当に良かった」
みんなすごく喜んでる。まるで死者がよみがえったような感じである。
喜び過ぎたのか、ポニーのオルフェがベロベロと俺の顔を舐めてくる。その姿がなんとなく昔の愛犬と重なり、「レナ」と呼んでしまった。
なぜか今まで忘れていたけど、愛犬のレナを急に思い出したから、そう言ってしまった。
するとオルフェは、「ヒヒーン」と鳴いた。
それは偶然だったのかもしれないが、彼女はレナと呼ばれて、返事をした。
返事をされたことは、特にびっくりもしなかった。
あぁそうか。と言う感じで、ベッドに横たわったままオルフェを撫でる。ついでにアルマ君も撫でる。プルウィアが頭を差し出してきたので、プルウィアも撫でる。
俺が頭をなで続けていると、近くにいたクーやアルテアも加わり、俺も撫でろ私も撫でろと、俺に頭を差し出してきた。
俺は神様か何かかと心の中で愚痴ったが、喜んでいる彼らを見て、俺もうれしくなる。
「一週間ぶりのご帰還、おめでとうございます」
アルテアが言った。
「一週間?」
「はい。アオ様はずっと眠ったままだったのです。多分、魔力の使い過ぎでしょう。プルウィアさんがアオ様の看病をずっとしていたんですが、意識が戻りそうという報告を聞いて、飛んできました」
それでみんないるのか。
にしても、ここはどこだ? 砦の医務室か? まっ白い部屋だな。病院みたいだ。こんな部屋があったんだな。
「戦いは一時的に終わり、ルセリア将軍がエルメールの王都に帰還しています。彼女は内部からルドミリア教会を崩すため、作戦を実行中です」
「そうか。ルセリアが仲間になったのか」
「はい。リザさんも無事です。今はまだ歩けませんが、無事です。それと、アオ様を殺そうとした騎士団長のハインツは、処刑しました」
処刑……。血なまぐさい話だが、殺したんだな。
「いろいろと情報があるのですが、今は安静にしていてください。すぐに戦いになるかもしれませんが、出来る限り体を休めてください」
アルテアが優しく微笑んでくれる。プルウィアもクーも、みんな心配している。ライドも部屋の端っこにいたらしく、俺に手を振っていた。奴も随分、丸くなったな。出会ったころはトゲトゲしていたんだが。
「そうか。なら、もう少し眠らせてもらう」
「はい。我々に任せて、養生してください」
俺は言われて、目をつぶった。すぐに、意識が途切れ、また眠りに落ちた。
暑い、夏の日の散歩が、夢に現れる。
近所を散歩している俺。となりを歩くのは、俺のペット。そこには愛犬のレナではなく、ポニーのオルフェがいた。なぜか、アルマ君もいた。
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