この異世界には水が少ない ~砂漠化した世界で成り上がりサバイバル~

無名

文字の大きさ
80 / 85
第二章

78 遠い夏の日の記憶

しおりを挟む
 あれは暑い夏の日だった。

 愛犬のレナを散歩に連れて行った日のことだ。

 確か、35℃を超える、猛暑日だったはずだ。涼しい夕方に出たつもりだが、まだ30℃近くあったのを覚えている。

 愛犬はシェパードで、名前はレナ。メスだ。暑いのが苦手で、散歩に行きたくないとごねていた。飼い主目に見ても、かなりデブな犬になってきていたので、散歩には行かなければならない。

 俺はレナの首輪を引きずって、近所の散歩をした。

 かなり嫌がっていたが、俺の運動にもなる。一緒に来てもらおう。

 散歩に出て10分ほどたったころだ。

 デブな犬だったので、すぐに動きが鈍って、動かなくなった。脱水症状になったらまずいので、自販機で水を買い与える。舌出してベロベロと飲んでいた。

 俺が肉や白飯ばかり与えるから悪いのだが、おいしそうに食べるレナを見ると、やめられない。食った分は、運動してやせないとな。

 俺はレナの頭をぐしゃぐしゃ撫でた。

 それから近所を30分くらいゆっくりと散歩して、その帰りだ。事件は起きた。

 用水路で、子供が溺れていた。

 暑い日だから、冷たい水が流れる、用水路で遊んでいたのだろう。そこは洪水の時に冠水しないよう流れる、放水路と呼ばれる場所だ。普段は浸水が浅く、綺麗な水が流れている。

 今日はなぜか、水が深かった。昨日の大雨の影響かもしれない。大人でも足がつかないほど増水している。流れも、速い。

 まずいと思った。どんどん流されて行っている。俺以外、だれも気付いていない。

 溺れているのは、子供が二人だ。小学生低学年の男の子である。用水路なので、手をかけて登る場所が無い。彼らは息をしようと必死にもがいていたが、どうにもならない。

 俺はすぐに助けなければと思った。

 だけど、どうしたらいいか分からない。泳ぎが得意でない俺が助けに行っても、一緒に死ぬだけだ。

 焦っていると、愛犬のレナが用水路に飛び込んだ。

 まさかと思った。今まで動かなかったデブ犬が、子供たちを助けるために飛び込んだ。一回も泳がせたことが無いのに、水に飛び込んだのだ。

 迷いのないレナを見て、俺も動かなければと思い、用水路に飛び込む。

 ガボガボと水を飲んでしまったが、必死に泳いで、子供たちの手を掴んだ。レナもいる。

 さぁ、助けるぞ。そこのでっぱりに手をかけろ。

 そう思ったら、ブツッと記憶が途切れた。映像が途切れるように、何もかも真っ暗になった。

 その後、助けられたのか、分からない。

 レナも子供たちも、どうなったのか覚えていない。

 俺は死んだのか?

 俺の死因は溺死? 電車やトラックに轢かれたんじゃなかったのか? 自殺したんだったけか? 死の選択肢がありすぎて、思い出せない。あまり良い人生じゃなかったからな。

 暗い闇の中に魂を漂わせていると、呼び声が聞こえた。

『世界を、お願いします』

 あぁ。綺麗な声だ。
 
 声の方に耳を傾けると、次第に意識が覚醒していく。

 俺の重い瞼が、ゆっくりと開いていく。

「あれ?」

 目の前には、鼻息を荒くしたポニーのオルフェがいた。アルマ君もいる。ベッドに頭を乗せて、俺をじっと見ている。

 泣きそうな顔で、俺を見ている。

 少し視線を横にずらすと、プルウィアやアルテア、クーがいた。よく聞こえなかったが、喜んでいる。

 俺は、助かったらしい。

 戦いが終わった後、砦に帰ってきたまでは覚えている。そこからの記憶が吹っ飛んでる。多分、気絶したんだと思われるが、よく分からない。

「アルテア。俺は一体」

「よかった。本当に良かった」

 みんなすごく喜んでる。まるで死者がよみがえったような感じである。

 喜び過ぎたのか、ポニーのオルフェがベロベロと俺の顔を舐めてくる。その姿がなんとなく昔の愛犬と重なり、「レナ」と呼んでしまった。

 なぜか今まで忘れていたけど、愛犬のレナを急に思い出したから、そう言ってしまった。

 するとオルフェは、「ヒヒーン」と鳴いた。

 それは偶然だったのかもしれないが、彼女はレナと呼ばれて、返事をした。

 返事をされたことは、特にびっくりもしなかった。

 あぁそうか。と言う感じで、ベッドに横たわったままオルフェを撫でる。ついでにアルマ君も撫でる。プルウィアが頭を差し出してきたので、プルウィアも撫でる。

 俺が頭をなで続けていると、近くにいたクーやアルテアも加わり、俺も撫でろ私も撫でろと、俺に頭を差し出してきた。

 俺は神様か何かかと心の中で愚痴ったが、喜んでいる彼らを見て、俺もうれしくなる。

「一週間ぶりのご帰還、おめでとうございます」

 アルテアが言った。

「一週間?」

「はい。アオ様はずっと眠ったままだったのです。多分、魔力の使い過ぎでしょう。プルウィアさんがアオ様の看病をずっとしていたんですが、意識が戻りそうという報告を聞いて、飛んできました」

 それでみんないるのか。

 にしても、ここはどこだ? 砦の医務室か? まっ白い部屋だな。病院みたいだ。こんな部屋があったんだな。

「戦いは一時的に終わり、ルセリア将軍がエルメールの王都に帰還しています。彼女は内部からルドミリア教会を崩すため、作戦を実行中です」

「そうか。ルセリアが仲間になったのか」

「はい。リザさんも無事です。今はまだ歩けませんが、無事です。それと、アオ様を殺そうとした騎士団長のハインツは、処刑しました」

 処刑……。血なまぐさい話だが、殺したんだな。

「いろいろと情報があるのですが、今は安静にしていてください。すぐに戦いになるかもしれませんが、出来る限り体を休めてください」

 アルテアが優しく微笑んでくれる。プルウィアもクーも、みんな心配している。ライドも部屋の端っこにいたらしく、俺に手を振っていた。奴も随分、丸くなったな。出会ったころはトゲトゲしていたんだが。

「そうか。なら、もう少し眠らせてもらう」

「はい。我々に任せて、養生してください」

 俺は言われて、目をつぶった。すぐに、意識が途切れ、また眠りに落ちた。

 暑い、夏の日の散歩が、夢に現れる。

 近所を散歩している俺。となりを歩くのは、俺のペット。そこには愛犬のレナではなく、ポニーのオルフェがいた。なぜか、アルマ君もいた。 

 









  
しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

処理中です...