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第二章
56 水のない国
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リザの住んでいた国では、慢性的な水不足で、雨季で貯めた水を一年かけて使うのが主流である。川もほとんどが干上がり、山岳地帯の一部にしか流れていない。
大都市がある場所では、川は流れていないので、雨水をろ過して生活している。もちろん、それだけでは足りないので、やはり水魔法使いの水か、水魔石に頼るしかない。
リザの故郷は、俺がいた国よりも、さらに水不足が深刻だ。
リザのいた国の名は、『エルメール』という。
エルメールはいつからか乾燥化が始まり、土地に含まれる『塩』により作物は枯れ果てた。当然、塩害の為に飲料水も次第になくなっていき、雨水に頼る生活に切り替わる。
さまざまな方法で塩水を蒸留して水を作るが、国民の人口に対して、水の量がまったく追いつかない。水を高額で売る『ルドミリア教会』が幅を利かせたせいもあって、エルメール国は急速に衰退した。
水不足にあえぐ国民に、高値で水を売りつけて利益を得るルドミリア教会。国王や貴族はルドミリアに服従していたので、国民がいくら死のうが気にしなかった。
もちろん、そんな暴挙をする国王や教会を許すほど、民は馬鹿ではない。いろいろと暴動も起こり、ルドミリア教会内部でも反発はあった。水を無償で提供するべきだと言う声も、上がっていたのだ。
しかし、そのような正義感にあふれた者は、社会的弱者が大半だ。巨大な権力と暴力の前に屈し、正義ある市民、司教や騎士たちは淘汰され、異端者として裁かれた。
これが、リザの住んでいた国で起こった、負のスパイラルである。
俺は、牛車で旅をしながら、その話をリザから聞いた。これから行くエルメールについて、聞いていたのだ。
話が進む中、リザはついに自分のことを喋った。
カミングアウトしたのである。
それはどんなことかというと。
リザはエルメール国にいた時、ルドミリア教会の神殿騎士だったというのだ。
「え? マジで? あのロイドの野郎がいた、ルドミリア教会?」
「本当だ。ロイドとは会ったことはないが、私は昔、ルドミリア教会の騎士だった。今は敵だがな」
彼女は国民に水を無償提供するべきだと言った一人であり、ルドミリア教会に属する騎士だった。
水を高値で売る教会からすれば、リザは厄介者。教会からは圧力がかけられ、やがては異端者として身を追われる羽目になった。
それからリザは、国を救うオアシスを求め、冒険者に身をやつし、ダーナ教会に改宗。国から逃げて旅をしてきたのだ。
年齢に反して彼女の腕が立つのは、元騎士だったから。いろいろとサバイバルの知識があったのは、騎士として訓練していたからだった。
たった一人で、冒険者として旅をしてきたリザ。彼女が強い理由が、今分かった。しかし、問題がある。
「おい。ということは、リザは犯罪者なのか? 知り合いに頼ると言ったが、いまさら犯罪者を助けてくれるのか?」
「大丈夫だ。私の知り合いもみんな、犯罪者扱いされてる」
「はぁ!? それって不味いだろ!! 俺達まで殺されるじゃねぇか! せっかく王都から逃げて来たのに、次に行く国でも追われる身じゃ、意味ないぞ!!」
俺は憤慨した。すでにリザのいる国に入っている。今は荒野のど真ん中だが、ちらほらと村らしきものが見え始めてる。すでに引き返して違う国へ行くとか出来ない。持ってきた食料にも限りがある。
「アオ君。君をだますつもりはなかったんだ。でもこうしないと私の国へ来てくれないと思った。だから頼む。助けてくれ。一応私にも、家族はいるんだ」
リザは深々と頭を下げた。頭を下げた時、リザの胸がプルンと揺れた。シリアスな場面だが、俺はリザの胸に釘づけだ。
「…………」
俺はすぐに応えられないが、牛車の荷台からライドが声をかけてきた。
「金を稼げるなら、俺はどこでもいいぜ。むしろ水が無いなら、アオの魔法は最強だろう。俺にもリザと同じで、目的がある。食料もないし、このままエルメールの首都まで行くべきだ」
ライドはリザのことを知っていたのか、とくに否定しない。むしろこのまま行くべきだと言ってくる。
「しかしなぁ……」
エルメールの王都に行ったところで、満足な食事があるとは思えない。そこまで塩害に苦しんでいるなら、食も期待できない。しかし、このままでは旅を続けることは難しい。ここエルメール国は、食べられる野生の動物や魔物がほとんどいない。植物も枯れている。狩りで食料を得るのは難しそうだ。
俺は荷台にいるクーとプルウィアを見た。彼女たちは手作りのお手玉で遊んでいた。なかなかに微笑ましい光景だ。食料が無くなると、彼女たちの笑顔が消えることになる。
牛やオルフェの食料もままならない。やはり、このままエルメールの王都まで行くしかない。
「リザ。知り合いってのは頼りになるんだろうな?」
「手紙のやり取りはしていた。多分大丈夫だろう」
「多分かよ……。不安しかないんだが」
「アオ。ここで議論しても解決しないぞ。いずれ食料は尽きるんだからな」
なぜかライドが乗り気である。なんだか金を封筒に入れて、誰かに送る準備をしている。やはり、ライドも目的があって金を集めているようだ。俺の目的はハーレムだが、どうなんだろう?
仕方ない。ここまで来たなら行くまでだ。俺は次の国でも厄介ごとに巻き込まれることになった。やはり俺の目指す理想郷は、遥か遠いらしい。
ここまで何も言わずに俺を連れて来たリザには、罰を与えることにした。
これからは、俺の好きな時に、リザの胸をチュウチュウ吸わせろと、厳しく命令したのだ。
そしたらリザは目を輝かせてこう言った。
「なんだと!? 私の胸を!? い、いつでもいいぞ! アオ君なら大歓迎だ!」
リザはとても喜んでいて、罰になりそうになかった。
俺の欲望にまみれた罰は、与えるべきではなかった。
次の日、彼女は自分の乳を俺に吸わせようと襲い掛かってきた。もはやどっちが罰を与えられるのか分からず、俺は逃げ惑う羽目になった。
大都市がある場所では、川は流れていないので、雨水をろ過して生活している。もちろん、それだけでは足りないので、やはり水魔法使いの水か、水魔石に頼るしかない。
リザの故郷は、俺がいた国よりも、さらに水不足が深刻だ。
リザのいた国の名は、『エルメール』という。
エルメールはいつからか乾燥化が始まり、土地に含まれる『塩』により作物は枯れ果てた。当然、塩害の為に飲料水も次第になくなっていき、雨水に頼る生活に切り替わる。
さまざまな方法で塩水を蒸留して水を作るが、国民の人口に対して、水の量がまったく追いつかない。水を高額で売る『ルドミリア教会』が幅を利かせたせいもあって、エルメール国は急速に衰退した。
水不足にあえぐ国民に、高値で水を売りつけて利益を得るルドミリア教会。国王や貴族はルドミリアに服従していたので、国民がいくら死のうが気にしなかった。
もちろん、そんな暴挙をする国王や教会を許すほど、民は馬鹿ではない。いろいろと暴動も起こり、ルドミリア教会内部でも反発はあった。水を無償で提供するべきだと言う声も、上がっていたのだ。
しかし、そのような正義感にあふれた者は、社会的弱者が大半だ。巨大な権力と暴力の前に屈し、正義ある市民、司教や騎士たちは淘汰され、異端者として裁かれた。
これが、リザの住んでいた国で起こった、負のスパイラルである。
俺は、牛車で旅をしながら、その話をリザから聞いた。これから行くエルメールについて、聞いていたのだ。
話が進む中、リザはついに自分のことを喋った。
カミングアウトしたのである。
それはどんなことかというと。
リザはエルメール国にいた時、ルドミリア教会の神殿騎士だったというのだ。
「え? マジで? あのロイドの野郎がいた、ルドミリア教会?」
「本当だ。ロイドとは会ったことはないが、私は昔、ルドミリア教会の騎士だった。今は敵だがな」
彼女は国民に水を無償提供するべきだと言った一人であり、ルドミリア教会に属する騎士だった。
水を高値で売る教会からすれば、リザは厄介者。教会からは圧力がかけられ、やがては異端者として身を追われる羽目になった。
それからリザは、国を救うオアシスを求め、冒険者に身をやつし、ダーナ教会に改宗。国から逃げて旅をしてきたのだ。
年齢に反して彼女の腕が立つのは、元騎士だったから。いろいろとサバイバルの知識があったのは、騎士として訓練していたからだった。
たった一人で、冒険者として旅をしてきたリザ。彼女が強い理由が、今分かった。しかし、問題がある。
「おい。ということは、リザは犯罪者なのか? 知り合いに頼ると言ったが、いまさら犯罪者を助けてくれるのか?」
「大丈夫だ。私の知り合いもみんな、犯罪者扱いされてる」
「はぁ!? それって不味いだろ!! 俺達まで殺されるじゃねぇか! せっかく王都から逃げて来たのに、次に行く国でも追われる身じゃ、意味ないぞ!!」
俺は憤慨した。すでにリザのいる国に入っている。今は荒野のど真ん中だが、ちらほらと村らしきものが見え始めてる。すでに引き返して違う国へ行くとか出来ない。持ってきた食料にも限りがある。
「アオ君。君をだますつもりはなかったんだ。でもこうしないと私の国へ来てくれないと思った。だから頼む。助けてくれ。一応私にも、家族はいるんだ」
リザは深々と頭を下げた。頭を下げた時、リザの胸がプルンと揺れた。シリアスな場面だが、俺はリザの胸に釘づけだ。
「…………」
俺はすぐに応えられないが、牛車の荷台からライドが声をかけてきた。
「金を稼げるなら、俺はどこでもいいぜ。むしろ水が無いなら、アオの魔法は最強だろう。俺にもリザと同じで、目的がある。食料もないし、このままエルメールの首都まで行くべきだ」
ライドはリザのことを知っていたのか、とくに否定しない。むしろこのまま行くべきだと言ってくる。
「しかしなぁ……」
エルメールの王都に行ったところで、満足な食事があるとは思えない。そこまで塩害に苦しんでいるなら、食も期待できない。しかし、このままでは旅を続けることは難しい。ここエルメール国は、食べられる野生の動物や魔物がほとんどいない。植物も枯れている。狩りで食料を得るのは難しそうだ。
俺は荷台にいるクーとプルウィアを見た。彼女たちは手作りのお手玉で遊んでいた。なかなかに微笑ましい光景だ。食料が無くなると、彼女たちの笑顔が消えることになる。
牛やオルフェの食料もままならない。やはり、このままエルメールの王都まで行くしかない。
「リザ。知り合いってのは頼りになるんだろうな?」
「手紙のやり取りはしていた。多分大丈夫だろう」
「多分かよ……。不安しかないんだが」
「アオ。ここで議論しても解決しないぞ。いずれ食料は尽きるんだからな」
なぜかライドが乗り気である。なんだか金を封筒に入れて、誰かに送る準備をしている。やはり、ライドも目的があって金を集めているようだ。俺の目的はハーレムだが、どうなんだろう?
仕方ない。ここまで来たなら行くまでだ。俺は次の国でも厄介ごとに巻き込まれることになった。やはり俺の目指す理想郷は、遥か遠いらしい。
ここまで何も言わずに俺を連れて来たリザには、罰を与えることにした。
これからは、俺の好きな時に、リザの胸をチュウチュウ吸わせろと、厳しく命令したのだ。
そしたらリザは目を輝かせてこう言った。
「なんだと!? 私の胸を!? い、いつでもいいぞ! アオ君なら大歓迎だ!」
リザはとても喜んでいて、罰になりそうになかった。
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