この異世界には水が少ない ~砂漠化した世界で成り上がりサバイバル~

無名

文字の大きさ
59 / 85
第二章

57 荒野の真ん中で、キャンプ?

しおりを挟む
 エルメールの国に入ったが、まだまだ大きな村や町には到着しない。依然として、荒野のど真ん中だ。

 ときおり大きなキャラバンを率いた商人とすれ違うので、水と食料の売買をするくらいだ。もう何日も牛車で歩き続けているが、一向に街へ辿り着かない。

 牛は常に歩き。重い牛車を引っ張っているし、一日の移動距離は20~30キロ程度。人間一人で歩くよりも遅い。体力のある馬だったら一日に100キロ以上踏破したかもしれないが、これは牛だから仕方ない。いくらバイソンみたいな牛でも、足が速いわけでも体力があるわけでもない。

 しかも夜になると真っ暗になるので、牛車を止めてその場で車中泊するしかない。

 荒野で旅をするのは過酷なのか、ここに来るまでに何度も人の死体や白骨死体を見た。

 水のない世界なので、野垂れ死ぬ冒険者が多い。俺たちもこうならないように、気を張らないとな。

 俺たちの今の役割だが、プルウィアとクーは飯の準備。

 ライドは周囲の見張り。

 リザとポニーのオルフェは、今夜の夕食に華を添える為、狩りに出かけた。

 俺は孤独に、水をせっせと作る係り。

 一人だけ水を作り続ける、むなしい係りだが、一番重要なことだ。なにせ、みんなの生活水を作るんだからな。

 とはいえ、ダーナ教会から、水魔石を数個もらってきている。それがあれば無理に俺が水を作る必要はないのだが、魔力制御の訓練も兼ねているので、俺は水を頑張って出し続ける。

 俺が旅を始めたころと比べると、段違いで水を生成できるようになった。計ってはいないが、多分数百リットル出せるようになってる。すごい速度での成長だ。さすが俺だ。

 水の質も、さらに上がってる。聖水には及ばないが、魔水と呼べるほどの、究極の水だ。

 俺は出来た水を小さな樽に詰めて、調理しているプルウィアに渡した。どうやら今夜はシチューを作るようだ。

「いつもありがとうございますアオ様」

 プルウィアがぺこっと頭を下げる。彼女の可愛いつむじが見えた。

「プル。いいかげん俺にアオ様っていうのやめないか? 様ってつけられるほど偉い人間じゃないぞ」

「そんなことありません。アオ様はみんなを救ってくれました。アオ様は勇者様です!」

 プルウィアが握り拳を作って俺を見てる。彼女の透き通る瞳が、俺の濁った両目に突き刺さる。

 彼女に俺の真の目的がばれたら、きっと失望されるだろうな。ハーレムの王国を築こうとしてるんだからな。

「じゃぁプル。せめて敬語は辞めてくれないか?」

「敬語ですか? でも、私はただの平民ですし……。勇者様に敬語を使わないのはどうかと……」

「いや、リザもライドも、クーだって敬語使ってないだろ。別にかしこまる必要はないんだぞ」

「は、はい。分かりました。少しずつ努力します」

 プルウィアはなんだか俺を神聖視してる。止めてほしい。いずれプルウィアを喰っちまおうと考えてるのに、それは止めてほしい。彼女に手が出しづらくなる。

「まぁ、そうだな。少しずつでいいから、敬語は辞めてくれ。んじゃ、今日のシチュー、楽しみにしてるよ。クーもがんばってくれ」 

「はい。アオ様」

「あぁ。分かってる」

 クーはかまどで火の調節を黙々とこなしていた。真面目で頼りになる女である。

 俺は再び水の生成に勤しむ。

 今度は水の濃度を変えて、生成してみる。

 今までは純水を出すだけだったが、アルカリ性の水を出せるようにしてみる。もしも魔法で強アルカリの水を出せるなら、油と混ぜ合わせて洗剤や石鹸を大量に作れるかもしれん。塩がいっぱいある国なら、塩析という手法で石鹸を作れるかもしれないからな。

 俺は新たな魔法実験に取り組んでいると、リザがどこからともなくやってきて、獲物を取ってきたと言った。

 こんな荒野でまともな生き物がいるのかと思ったら、モグラを取ってきたという。リザの手には灰色のモグラが握られていた。

「どうだアオ君! 私はやる女だ!」

「そ、そうか。すごいな。さすがリザだ」

「ふふん」

 リザはすごくうれしそうだ。

 彼女の捕まえてきたモグラは、大型の猫サイズ。とてもモグラの大きさではない。手は鋭い爪が生えているし、完全な魔物である。

 モグラを取るには地中を深く掘る必要があるのだが、リザは巣穴に燃えた木をぶち込み、煙を焚いていぶりだしたのだという。

 簡単に取れないらしく、リザは運が良かったと喜んでいる。

 彼女の手に握られているグッタリとしたモグラを見ると、なんだか哀れである。過酷な環境で頑張って生きていたのに、いきなり殺されるんだからな。弱肉強食だから、仕方ないッちゃ仕方ないけどさ。

 リザは取ってきたモグラをどうするのかと思ったら、血抜きをして内臓を取り出した。すぐに食うらしい。下処理が終わると、リザは毛が付いたまま火の中に投入。脂の乗ったモグラは、焚火の中で盛大に燃え上がった。

 10分も経てば、肉汁が垂れてきて、うまそうに見えるモグラ君。体毛は火で焼け落ち、ただの肉塊になってしまう。こうなると、可哀想とかいう感覚は無い。おいしそうとしか思わない。

「今夜はごちそうだな!」
 
 リザはすごく喜んでいる。肉が食べれるので、俺もうれしいことはうれしいが、丸焼きにされたモグラを見ると、なんだか微妙なうれしさだった。

 案外、可愛い見た目をしていたからかもな。

 ルドミリア教会のロイドとかは死んでもなんとも思わんが、可愛い動物や魔物が死ぬと、心が痛むな。やはり、地球にいた時の記憶があるからかな。

 俺はそう思いつつも、リザが切り分けてくれたモグラ肉をガツガツ食べた。




 
しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

処理中です...