この異世界には水が少ない ~砂漠化した世界で成り上がりサバイバル~

無名

文字の大きさ
71 / 85
第二章

69 アルテアの戦術

しおりを挟む
 俺たちは会議場に移動したが、そこにあるのは、本、本、本だった。一応、おまけ程度の椅子とテーブルがあり、ほとんど図書室と言った感じだ。

 しかし、ここで会議するのか? 本だらけで、狭いぞ。俺とクーがきょろきょろしていると、アルテアが教えてくれた。

「ここは第二会議室です。貴重な書物も数冊あるので、勝手に持ち出さないようお願いします」

 俺とクーが近くにあった本を触ろうとしたら、先に注意された。アルテアも俺の扱いが分かってきたようだ。

「では、そちらの椅子に座ってください。今から説明します」

「おう。よろしく頼む」

 俺はクーの横に座り、アルテアは俺たちの向かい側に座った。木製の、学校にあるような長机だ。かなり年季が入っている。

「まずは何から説明しましょうか」

「できれば手短に頼む」

「手短ですか、わかりました。出来る限り手短に話します」

 アルテアは手短と言いながら、国の成り立ちや自己紹介、家族構成などから説明を始めた。

 手短に頼むと言ったのに、これはどういうことだ。

 たっぷり30分かけて、国や王族、貴族の力関係を教え込まれた。オーガにしては頭の良いクーも、すでに脳内の回路が焼き切れている。あまりに複雑な家族関係で頭が混乱する。

 これは追記だが、アルテアの自己紹介で分かったことがある。

 彼はなんと、14歳だった。

 俺と同じような童顔でチビ、短小包茎のくせに……、いや、短小包茎は余計だった。俺は彼の股間を見たことが無い。もしかしたら、巨根かもしれん。

 とにかく、俺と同じような背格好のくせに、14歳だという。これは、本格的にお姉さまたちが黙っていないショタっ子だな。

 アルテアの年齢には驚いたが、やはり話が長い。クーは覚えるので大変なのか、必死でメモをとっているありさまだ。

「アルテア。悪いが、いい加減作戦とやらを教えてくれないか?」

「分かっています。まずはアオ様とクーさんに、事前の知識が必要だと思いましたので。ではここから作戦の概要をお話しします」

 そう言って、アルテアは王城の俯瞰図を出してきた。建物の内部構造がよく分かるイラストが描いてある。馬鹿な俺にでもわかるように作られている。

 アルテアはその俯瞰図をもとに、作戦に重要な場所を一つずつ説明して来る。ここが謁見場で、ここが騎士の詰め所で、ここが浄水場で、などなど。いろいろと教えてくる。大切な話なんだろうが、まったく作戦の話に進まない。勘弁してほしい。

 結局二時間かけて、たっぷりと王城の内部、加えて、『王位奪還作戦』の話を聞いた。

 すべて作戦には必要な話だったので仕方ないが、もっと短く話してほしい。俺は案外馬鹿なんだぞ。クーも、一見クールで知的な女に見えるが、中身は脳筋なんだ。

「アオ様。分かりましたか?」

「あぁなんとなく分かったよ。結局作戦ってのはこうだろ?」

『奇襲をかけて将軍たちを陽動し、警備が手薄になった王城に別働隊が突入。もぐりこませていた密偵スパイと連携し、宝物庫に忍び込み、水魔石を強奪、または焼き払う。さらにアルテアの作った水薬で王都の水質を変化させ、飲めなくする。アルテアには特殊な水薬があるので、水の利権を盾に、国を取り戻す交渉に移る。そして、交渉成立後、アルテアが王位に就く』

「そんな感じだろ?」
 
「まぁ、そうですね。本当にざっくりとした内容ですが、作戦はそのような形で進めます」

 俺もアルテアも簡単に言っているが、この計画を練るのに、数年かかったらしい。

 奇襲をかけるタイミング。王が一人になるわずかな時間。宝物庫を開ける鍵。内部に送り込んだスパイとの連携。アルテアの姉を救出できる最短ルート。そして、アルテアの得意な水質変化の魔法で、水薬開発。

 かなりの労力と時間、金をかけて作戦を練ったようだ。ちなみに、水薬を投入する場所は決まっている。王都に大規模な下水処理施設がある。そこにアルテアの開発した水薬を大量にぶち込むようだ。

 俺が前に湖の水を聖水に変えたが、こんどは逆パターンだ。綺麗な水を汚染させる作戦だ。こっちには解毒剤があるので、それを交渉材料に国を取り戻す。今は雨季でもないし、水がなくなれば、兵士や民はすぐに死に絶える。

「この作戦の肝は、奇襲をかけて陽動することです。それには、優秀な兵士が何人も必要になる。現在、水不足と食料不足は、アオ様のおかけで何とかなりそうです。残るは、兵士の確保です。それが問題なのです」

 ふむ。兵士が足りず、手詰まりか。

「何人必要なんだ?」

「陽動に5000人、王都の突入部隊で2000人。王城への突入部隊が100人程度です」 

「ず、ずいぶん必要なんだな。それで? こっちの数は?」

「今すぐ戦える兵士は、砦の外から集めても、3000人程しかいません」

 3000だと? 全然足りてねぇぞ、無理に決まってるじゃねぇか。

「アルテア。それって厳しすぎないか? 金で雇える傭兵がいたとしても、残りの数は無理じゃないか?」

 この国は衰退してるし、ギルドがきちんと運営できてるのかも謎だ。そんな大部隊の傭兵団なんていそうにない。

「おっしゃる通り、お金だけでは解決できそうにありません。それが問題なのです。ですので、こちらに味方になりそうな将軍を説得しているのですが、なかなか好材料が無く、味方に引き入れることが出来ていません」

「ん? 味方になりそうな将軍? 敵の中に良い奴がいるのか?」

「はい。おります。我が国に仕える、風の魔将軍、ルセリアです」

 え? 魔将軍? ルセリア? ちょっとまて。話の流れが急に変わったぞ。

「ルセリア将軍は我が姉の友です。とても誠実な方で、ダーナ教会派の人間です。彼女は以前から説得を試みているのですが、王に対する忠誠心と、家族を人質にとられているため、味方になってくれませんでした」

 ふーん。それで? どうするんだ?


「そこでアオ様。ぜひとも、作戦の切り札になる、ルセリア将軍の説得。ダーナ様のお導きで、なんとかしてもらえませんでしょうか?」

 アルテアがめちゃでくちゃなことを言った。合わせてメチャクチャである。

 ルセリア将軍の説得だと? ダーナ様のお導きで? なんで俺が説得するの?

「俺が急に言っても無理だろう。ダーナ様の使いだと言っても、詐欺だと疑う。納得するわけがない」

「大丈夫です。本物の水魔法使いだと見せれば、すぐに納得するはずです」

「本物? 本物ってなんだよ。水魔法使いは基本、みんな神の御使いなんだろ? 俺だけ本物ってことはないだろ」

「すべてを癒し、浄化する、聖水。これを出せるのは水神リル様と数名の英雄のみ。これが本物でなくてなんなのですか?」

「いや、それはわかんないけど。ただの偶然じゃないか?」

 勘弁してくれ。なんで俺が敵の将軍の説得を? 今度は本当に殺されちまうぞぃ!

「アオ様には我々の現状を細かく説明し、いかに厳しい状態か分かって頂けたはずです。今、我々に必要なのは、ダーナ様のお導きなのです!」

 なんでそうなる。どこをどう間違ったらそうなるんじゃ! 

 俺は憤慨していると、隣に座っていたクーが大きな拍手をしていた。

「アルテア様。実に素晴らしい作戦です。あなた様とアオの護衛は、オーガ族族長の娘、クーがお受けします。命に代えても守ります。国取りに成功した暁には、我が一族を国民として迎えいれて下さい。お願いします」

 クーはどさくさに紛れて、一族の悲願をねじ込んできた。ほとんど作戦内容を理解していないのに、むちゃくちゃである。ライド並みにずる賢い。

「もちろんですクーさん。ではアオ様! ルセリア将軍の説得をお願いしていただけるのですね!」

「…………」

 無理やり感がすごいが、まぁいいぜ。やるとこまでやるって誓ったからな。

 はふぅっと、深いため息をついて、俺は言った。

「そのルセリアって奴とは、どこで会うんだ? 説得する日時と場所は整えてあるのか?」

「はい! なんとかなると思います。会談の場所は追ってお知らせします。ありがとうございます、アオ様」

 アルテアが、「しめしめ。うまく話が進んだぞ」みたいな顔をしている。純真無垢な顔をしている割には、策士かもしれん。

 ということで、俺は風の魔将軍ルセリアの説得に向かうことになるのであった。






しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

処理中です...