左半身でしか魔術を使えない異世界

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失われた記録

その三 誰が為の世界

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………もうすぐ目の前で大切な人が死ぬ。
「無事か?」

「この…傷を見て…無事…におも…える?」
いたい気な少女の全身には無数の傷が刻み込まれていた。
そりゃそうかな…こんなことになったのは…




約二年前。
吸血種の一人。ダンテ・スフィア
王都より遥か北の村より逃げてきた吸血種。
そこにいたもう一人の同胞は、その場で捕獲された。
…あいつは今頃どうしているかな。
逃げた日からざっと5日。
幾ら人間より身体維持機能に優れている吸血種でも、腹は減る。
「腹…減ったな」
足元がふらつく。
ヤベェ…
人目のつかない洞窟に逃げ込んだのはいいが、それが裏目に出た。
だんだん意識も朦朧としてくる。
目眩もする。
もう人の血を何日も吸ってない。
これは…死ぬか?
すると遠くから声が聞こえてきた。
「ねぇ!ちょっと!あなた大丈夫?ねぇ!返事をして!」
少女の声だ。
でも悪いな…そんな気力も無いんだわ…
そこで意識がシャットダウンした。


「…きて!」
ん?
「起きて!」
声だ。
声が聞こえる。
俺死んだと思ったんだけどな?
それに従い、ゆっくり瞼を上にあげる。
「あっ!起きた!大丈夫?怪我してない?」
なんなんだこの娘は…
「あっあぁ問題ない。ところで君はいったい」

「私?私はノア!ノア・ラインハルト!」
少女は大してない胸を強調するかのように胸を張る。
「えっと…一応聞くけど君は人間だよね?」

「うん!お兄さんは吸血種でしょ?」
この娘…俺の素性知ってて助けようとしたのか。
「あぁ…しかし何故助けたんだ?」

「えっ?それはお兄さんが困ってたからに決まっているでしょ?」
ッ──。
昔の友が言っていた。
必ずこの世界には優しい人がいると。
それがこの娘なんだ。
「お腹減ってるの?それだったら今から私の村においでよ!きっと皆も歓迎するよ!」
…真偽は不明だけど。
今はこの娘に従うしか選択肢はない。
「分かった…案内してもらえるか?」

「うん分かった!こっちだよ!」
俺は少女に手を差し伸べられる。
…これが優しさなのか?
俺はその手を力無く握る。
そこから歩き始めて数十分。
柵に囲まれた小さい村に辿り着いた。
「ここが君の?」

「うん!」
少女に連れられるまま、俺は村を回った。
皆いい人だ。
こんな俺を歓迎してくれた。
肝心の食糧(人の血液)は死んだ人間の血を吸えと言われた。
まあ処理係だ。
それでも良かった。
俺はここにいられるならば。
ノアは今年で19歳らしい。
それにしてはかなり子供っぽかったが…






一年後
俺は彼女に告白した。
彼女はそれを受け入れてくれた。
寧ろ嬉しいと泣いて喜んでくれた。
美しい空のような青髪、健康的な白い肌。
…綺麗だ。











それからまた一年後。
村が、魔物の群れの襲撃を受けた。
俺はその頃外の警護の見回りに言っていたので、気づいたのは1時間後のことだった。
まずい…
ただ村に走った。
身体は酸素を取り込もうとして、熱くなっている。
それでも走る。
どんなに苦しくても、俺は彼女を救わないといけないんだ!
…村に戻った。
待っていたのは腐臭と人の死体。大半が焼き尽くされた村の家々。
「──ノアッ!!」
魔物共を持ち前の身体能力を活かして蹴散らしながら、村中を探す。
待っていてくれ!後少し!後少しッ!
─────いた!!!!
倒れてる。
一体の魔物の姿も確認出来る!
「そこを!!どけぇ!!!!!!!」





「ヒュー…ヒュー…」
焼かれた肺で必死で酸素を取り込むノア。
「何…し…に…きた…の?」

「お前を…助けに来た」

「…おば…か…おそ…いよ」

「…無事か?」

「この…傷を見て…無事…におも…える?」
そうだ。
俺は弱い。愛する人一人守ることすら出来ない愚かで弱い吸血種だ。
「まだ…しにた…くな…い」
考えろ…何かある。絶対なにかあるはずなんだ!!!
刹那。脳内に一つの考えがよぎる。
「悪いな…」
自身の長い爪で口の中を掻き切る。
中は自分の血で満たされていく。
「…口開けてくれるか?」

「え?」
ノアは困惑しながらも、ダンテの言葉に従う。
「愛してる」

「!?」
ダンテがノアの柔らかい唇に口付けする。
吸血鬼の血を飲み込めば、飲み込んだ人もまた、吸血鬼になる。
それは吸血種でも何ら変わらない。
もう一人ではない。
自分には守るものがあるんだから。
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