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〚第三章〛〜家族編〜

〚55話〛「過去Ⅱ」

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 「でも…まだあるんだ」
 
 …それを聞いた私は声にならなかった。
 こんな体験をしたのにまだあるのか。
 
 地球での事が衝撃的すぎて忘れていたのだ、話の最初に言った、…“これまで3つの世界を転々としてきた“と言ったことを。
 
 …そういえばまだ奴隷紋の事が分かっていなかったことに気づいた。
 
 「…続けるよ…」
 
 「‥うん。」
 
 2つ目の世界は祈り村という山奥の小さな村だったそう。名前は詩亜瑠。
 その村では火を起こすにも食事をするにも井戸から水を汲むにも祈るという。
 
 6歳になるまでは普通に生活できていたそうだ。
 普通に母親の愛を受け、普通に幼馴染と遊んで、普通に過ごしていた。
 
 6歳の時。
 幼馴染と朝早くにかくれんぼをしたらしい。
 ただそれが起こってしまった、幼馴染が井戸に隠れようとして落ちてしまった。
 
 詩亜瑠は、ただ友達を助けたいだけだった。
 大人の力を借りようと急いで友達の家に向かった、そこで友達の親に助けを求めた。
 
 なのに親たちは冗談だと思ったのかまともに話を聞いてくれず追い出されてしまう。
 幼馴染はいつまで持つかわからなかった、なので急いで井戸の場所まで戻って井戸に入った。
 
 そこで子供の力だけで何とか助け出せたが、詩亜瑠は足を滑らせ井戸に落ちてしまう。
 
 そこで気を失ってしまうが夜がくるちょっと前に何とか意識を取り戻したそう。
 
 そこから自力で這い上がって、家に帰ってみると。
 
 家族から。
 
 村人達から。
 
 幼馴染の親から。
 
 村長から。
 
 掟破りとして忌まれて、村の外れのボロ小屋に閉じ込められてしまったらしい。
 
 そこでのご飯は地面に撒かれた腐った雑炊。
 
 それから3年…閉じ込められていたが抜け穴を発見し、何とか食料を確保し生き延びていたらしい。
 
 抜け穴からは逃げることができたが、森にいる肉食動物、熊などから逃れたりは出来ないことや、精神的に逃げることが出来なかったそうだ。
 
 たまに来てくれる幼馴染や幽霊という不思議な存在の柚希さんがいたお陰で、そんなに苦ではなかったらしい。
 
 そして幼馴染がお祭りに詩亜瑠を連れていきたいと言うのでついて行った。
 
 そこで幼馴染と本当に楽しい時間を過ごしたらしい。
 
 だが、長くは続かなかった。
 
 詩亜瑠と連れているとバレていたらしい、 裏切り者として幼馴染の紅葉が刺されたそうだ。
 
 ナナにはそっからの記憶は無いらしい。
 
 「……」
 
 本当に……辛い人生を歩んできたのね…。
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