不幸な少女の”日常”探し

〚第三章〛〜家族編〜

〚69話〛「ボア戦」

　私は銀色のレイピアを鞘から引き抜くと左手の盾を魔物へ伸ばし、右手に持っているレイピアを後ろへ伸ばし、刃先を魔物へ向ける、本ではこれがレイピアの基本的な構えと書いてあった。
　
　「そろそろボアが動き出すわよ、気をつけてね、ナナ」
　
　お母さんの麻痺魔法の効果が切れ始めたボアの前足が少し前へ向かう。
　
　ボアは猪形の魔物だ、元は猪、雄には牙があるが、これは雌、牙がない代わりに死を恐れず頭蓋骨を当てる突進をしてくる。
　この世界の猪の雌には牙がない、魔物化すると、生殖本能が無くなり子を守る必要がなくただ突進…攻撃特化の魔物へと身体が作り変わっていく。生殖本能が無くなるだけで生殖行為自体は出来るが。
　
　どの魔物でも攻撃特化へと身体が作り変わっていくのだが、それには濃い魔素を何年か浴びるか、長い年月の経った魔物か、それぐらいしないとほとんど目に見えた変化は無い。
　
　目の前のボアだって後ろ足が太くなり突進力を上げ、頭蓋骨を厚くし突進への攻撃力と耐性を高めた身体へと作り変わっている。
　
　「来るわ！」
　
　「はぁ……」
　
　息を吐き集中力を高める。猪の突進への対策は麻痺中に考えてある。あとはそれに身体を従わせるだけ。
　
　あの脚の太さ的に動いた瞬間に身体を動かさないと間に合わない。
　
　ボアは口を下に向け頭を当てようと突進して来る。
　それと同時に盾を落とす、落ちる速度に合わせ姿勢を低くし小さく右に出つつボアに向かい両手でボアの目に刃先を向ける。
　
　ボアは魔物中で稀な単純思考の魔物で、突進の対象がいるとそれに頭を合わせ、下を向きただ突進する。
　下を向く習性上視界が悪く、突進するまでに角度を決め突進すると、僅かな視界を頼りに目の前にある”物”目掛けて進む。
　
　そして殆ど曲がれないので攻撃線上にいる”物”優先で突進する。
　なので…
　
　私の構えたレイピアはボアの眼球を貫き細い刀身は骨の隙間を通り脳へと達した。
　
　手応えは完全に脳を穿いた向こうにある頭蓋骨にあたった感触だった。
　そして余った突進力によりレイピアが振られ脳が切り刻まれた。
　
　ボアはレイピアが抜けて少し進んだ距離を行くと自然に倒れた。
　
　「…ふぅ、おめでとうナナ、レイピア初勝利ね！」
　
　「うん…っ」
　
　「はいこれ、レイピアが錆びないようにしっかりと血を拭くのよ？やり方はナイフのときと一緒よ？」
　
　「わかった」
　
　決して刃には触れずに腹の部分をなぞっていく。
　…このレイピア両刃なんだよね…。
　
　「…両刃はどう拭けばいいの？」
　
　普通に人差し指と親指で刃を挟んで拭くといいらしい。
　ちょっと残念だ、もうちょっと良い方法があると思ったんだけど…。