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〚第四章〛〜絶望の底編〜

〚109話〛「スキルの差」

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 不気味にこちらを覗く異形の顔が異形の血で隠れてゆく。
 僕は銀色のレイピアを振り刀身に付いた血を地面に飛ばしながら、あの頃の事を思い出していた。
 
 「そうよ、そういう相手を斬る様な武器はなるべく刀身に付く血を落としながら戦うの、そうしないと血や脂で切れ味が悪くなるわ」
 
 ミチミチッと音を立てながら突進して来る異形に、僕はレイピアを深く振りかぶり、
 
 「いい?突進して来るタイプの魔物は基本正面から受けては駄目よ、避けて切りつけるか魔法で対処するか、本当なら魔法で動きを止めたり地面から魔物に向かって何か刺さるような魔法を発動するのが良いのだけど、ナナは魔法を使えないしナイフしか使ったことないから正面から受けないことを意識すれば良くなると思うわ」
 
 【スキル•絶対超越】を発動しワラジムシの異形が当たる瞬間に横に転移し、異形の脚に向かって振り下ろした。
 魔導ミスリルの刃が、異形が発動してる【スキル•風纏】とぶつかり合い、酷く火花を散らす。
 
 そして幾度と無く来る腕と、風纏の無数の斬撃により、何重もの衝撃がレイピアと腕に走り絶対超越を使っているのに耐えるのがとてつもなく辛い思いだった。
 
 そしてラスト二本の脚を、振り切ったレイピアによって斬り落とされ、咀嚼音の様な悲鳴を上げながら斬り落とされた何十本もの脚を、勢い収まる所まで引きずり滑ってゆく。
 引きずった後には異形の血が凄まじい量で道を作っていた。
 
 警戒しながら鑑定を使い、残りの体力を確認すると、残り12と瀕死の状態だった。警戒を解かずまたレイピアを大きく引く、そして異形の近くへと転移する。
 
 その瞬間触覚の一本が風纏を纏わせながら一瞬で僕の頭まで迫る、それは分かっていたので姿勢を低くし躱す、そしてレイピアを振り切った…が、まるでただの鉄の剣で岩を切ったような感触が僕の手に広がり、視線を向けると切ったはずの場所が数十cm程しか切れてなく、触覚による追撃が足元に迫っていた。
 
 僕はレイピアをもう一本左手に生成させつつ、回転しながら上にジャンプし避ける。そして回転の勢いを乗せながら二撃さっきの傷の上に入れる。
 
 一撃でさっきと同じく肉が少し見えるぐらいまで斬れ、二撃目で肉に深く刃が通った。そしてこれでは決定的なトドメとなる部位に攻撃を入れられていないので、真上に逆さまに転移する。
 
 そして岩肌の天井を踏みしめ、二刀のレイピアを振りかぶり真下に飛ぶ、レイピアを振り切ると二撃目で異形の内臓は完全に抉りて斬った。
 
 そして異形の動きは完全に止まった。二階層はこれで完全に空になった、帰るための第一歩を踏み出した。
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