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4.man お調子者たち
しおりを挟む綾乃の働いている店ということが分かって最初は気持ちが重たかったが、どうやら座敷に対して接客に来るのは店長っぽいおじさんだけのようだ。30分も経つと俺は、綾乃が来ないことを確信していつものペースで飲めるようになっていた。時計は20時過ぎ、入って1時間というところで3人とも4杯目を飲みながら日本酒2合を回していた。アルコールが入って絶頂とは言わない手前の方の気分のいい時間帯がやってきたという感じ。
優馬はずっとカウンターで見た綾乃が可愛いと連発してくる。正直気まずいが何も知らないフリをしてそうだそうだと相づちを打つ。光希の話は、話というより質問ばっかりで医療系以外の就活についてとても詳しく聞いてくる。院に進学して病院の薬剤師になるつもりらしいが、製薬関係の企業に入ることとのメリットデメリットの比較が自分の中で終わらないらしい。院に入るとコネを探しての就職も視野に入れなければならないので、大学4年のうちに方向性だけは定めたいということだった。しっかり自分のことを考えている。単に学力が高いだけでなく、頭が良くて自分を常に考えている人間が近くにいるのはいい刺激になるかもしれない。俺自身の進路の悩みもいつか光希には打ち明けよう。開始から1時間がもっぱら就活系の話と綾乃が可愛いという優馬の永遠リピートで過ぎ去った。
不意に優馬が話題の矛先を俺に向けてきた。
「そー言えば気になってたんだけどさ、守人って広島出身だったよね?なんで東京に就職しようと思ったの?」
「んー、何でってのはそこまでないけど単純に企業数多いよね。規模も大きいし。20代くらいは東京で揉まれた方が成長できるかなって思った。まぁあとは、広島に帰る気も大阪に残る気もあんまり出てこなくて知らない土地に就職したいなって感じ。」
「そっかー。なんか思ったより理由普通だったわ。てか大阪出たんだったら割と関西でそのまま就職するイメージあるんだけど、関西の人って東京目指す人多い?」
「俺の周りの子の事しかわからんけど、半分くらいは関西かもね。関西圏も規模は大きめだし有名な企業もたくさんあるからどうしてもって事情がない人は関西で収まると思うよ。一応関東のも調べるくらいはするけどさ。2割くらいは地元戻ろうかなって雰囲気あるけど。」
「Uターン組もあるのか、確かにな。やー最近、就活かぶる人とかレベル高くて全員地元帰ってくれたら楽なのにとか思っちゃうよ。そもそも守人ってなんで広島出てきたの?」
その質問が出た時、俺は答えるべきか悩んだ。あまりいい理由ではないし、人に言っても空気が重たくなるだけだから周りには言ってこなかった。ただこの場に限って言えばみんな3ヶ月そこらの関係で、将来的に長い関係じゃない。結局、1時間分のお酒が後押しする形で俺は少しだけ話してしまった。
「高3の春に親父の会社が潰れちゃったんだけど、個人事業主だったから金銭的に回らなくなってさ。俺高3の間は広島の親戚の家にいて、大学は大阪のばあちゃんのところに世話になってたんだよね。まぁばあちゃんあんまり家にいない人だから実質は一人暮らしみたいな感じだったけど。」
沈黙しそうだった空気の中で光希が話を続けた。
「複雑な背景があったんだね。今言うのもあれだけど、一緒に生活してると守人くん結構頭良さそうに感じるんだ。家事とか効率いいし、自然とやってるんだろうけど生活力高くて。だから前に履歴書とか回し読みした時に少し不思議に思ってたんだ。阪大とか行けそうな空気の子がどうして私大なんだろうって。」
「それもまぁお金が理由かなぁ。今通ってる大学って成績が学科で3番以内の場合は、学費が半分免除。あと片親の場合も学費が半分免除なんだよね。うちはその倒産もろもろが尾を引いて高3の夏に親が離婚してるから、片親用の補助枠と成績で学費が全部浮いちゃう形。」
俺はこれ以上空気が重たくなるのを懸念して少し軽めの口調で話した。光希は、大変だったんだねと頷きながら聞いている。しかし、光希から優馬に視線を移すと優馬は半泣き状態だった。
「守人めちゃくちゃ苦労人じゃん。俺なんか親がちょっとした金持ちだから甘えまくってるから申し訳ないわ。気晴らししたい日とかあったら言えよ?守人が遊んでこなかった分、俺が世間の遊び方を伝授してやるから。」
励ます方向性はさておき優馬は、なんというかピュアだ。単純で純粋だと思う、本当に。羨ましい。こんな背景のせいか、俺は自分がどうしようもなくひねくれていると思う時がある。世間を曲げて見てしまうことがたまにあるから。今の優馬の発言だって、根っこは俺への感動や心配や励ましというポジティブな親切があるはず。でもどこかで親が金あると良いよなって返したくなってしまう自分も確かにある。褒めれたもんじゃないが、こういう負の感情や思考を隠せるのが自分の器用なところだ。雰囲気を壊さない締め方を知っている。
「じゃギャンブルとか女遊びとか覚えたくなる日が来たら連絡するわ。」
俺はにっこり笑いながらこの話題を締めにかかった。
重たい話や感情を笑顔とテキトー発言で流した瞬間だった。3人席の空いた一角、俺の隣に急に女の子が座ってきた。それも結構綺麗な子で歳も大体同じぐらいだ。俺たちは3人ともキョトンとする他なかった。1番落ち着いている光希がどうにか言葉を絞り出す。
「えっと、席間違えてません?誰か知り合いでしたか?」
突然現れた女の子は、天真爛漫という表現がぴったりな感じでニコニコしながら答えた。
「全く知り合いじゃないの。でもさっきトイレ行く時、この人が気に入ったからお邪魔じゃなければ話したくて。」
そう言いながら腕を俺に絡めてきて、俺は東京に来て1番の緊張を迎えた。面接の5倍は、緊張感がある。助けてくれと俺は優馬と光希の顔を見たが、何故かさっきまで半泣きだった優馬の顔がふてくされている。俺のSOSは、たった1メートルのテーブルさえ乗り越えられないみたいだ。
「んー、邪魔じゃないってことで良いかな?」
謎の女の子は、きっと将来大物になるだろうと思う。この状況は意味がわからない。
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