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6.woman 霧散していく隠し事
しおりを挟む全員分のお酒を渡し終わり、私は三岳を一口だけ口に含んだ。女の子が焼酎を飲みながら接客するなんて絶対に怒られる風景だ。友達しかいないので情状酌量はしてもらえるかもしれないし、焼酎一杯くらいではそんなに酔わない私の体質を店長が知っているのは幸いだ。きっとバレても大目玉は食らわない。しかし、ロックなので濃いはずなのにいつもより水っぽく感じる。守人の前で緊張しているのが自分でも分かる。手の平で滲んでいるのも手を洗ったときの水ではなくて汗なんだろうと思う。幸いにも優馬という男の子がひたすら梨香子と話しているだけの雰囲気なので気疲れは少なめだ。たまにその優馬という人が私に話題を振ってくるが当たり障りのないプロフィールを埋める感じの質問ばかりだ。梨香子がたまに代弁してくれることもあって楽だと感じていたが、広島出身だという話になった瞬間に話が動いてしまった。
「え、広島出身なら守人と同じじゃん!
歳一緒だし知り合いとかじゃないの?高校は?」
優馬は急に元気になってしまい、話に守人を混ぜ始めた。守人がどこまで話しているのか分からないが、こっちは同じ高校の子が店にいると梨香子や華ちゃんに言ってしまっているので後でややこしくなるのを避けるには正直に答えるほかなかった。
「広島高校だよ。まぁその、守人は同級生。」
勢いが良かった優馬が急に普通のテンションに戻り、守人に質問を投げる。
「店入ったとき何で言わなかったんだよ、
カウンターの子可愛いって話した時も完全スルーだったし。」
「ごめんごめん、あんまり店員とか見なくてさ。
席ついてからも俺の向きからカウンター見えなかったじゃん?あんま機嫌悪くせんといて。」
守人が困り気味で回避するのが聞こえる。あぁ三岳まで用意したけれど、意外と簡単じゃないかと思った。私が困らない範囲を全部答えたとして結局質問受けたり責められたりは守人が預かるしかない。優馬の視点で考えれば守人に強く出ることはあってもこっちには絶対あり得ない。不意に華ちゃんと目があった。その一瞬で華ちゃんが私と守人がただの同級生じゃないことを感じ取っているのが分かった。このやり取りの一部始終や三岳を飲んだりほんの少しだけ機嫌が悪そうだったりというところからそんなに分かるものだったか。少し後悔したがもう仕方がない。それに華ちゃんなら変に騒ぎ立てることはないから安全だ。そうこうしている間に優馬と守人の小競り合いが終わった。
「守人さー、隠し事多いキャラなの?
さっきの話といいさ、あれこれ1人で抱え込んじゃう人はモテないよ?」
優馬はすっかり機嫌を直してはいるが、守人をいじっていく方向はキープするようだった。梨香子が隠し事と聞いて急にキラキラし始める。
「なになに!何の隠し事なの?」
すると、初めて光希というもう1人の男子が口を挟んだ。
「優馬、それは守人のすごく個人的なことだろう。
こういうとこで話すもんじゃないよ。」
光希の発言を聞いた守人の顔が安心していくのが感じ取れた。
「でも聞きたいよぉ~。」
梨香子が食いついているので優馬は逃げ方に困っている。正直、今日初対面なら何も聞かないように梨香子をなだめるだろうが守人のこととなるとやっぱり興味が出てしまう。梨香子に頑張って欲しいと願う自分があった。ゼロでは逃げ切れないと思ったのか優馬が適当に話の入り口だけ小出しにして逃げようとし始めた。
「いや、俺もさっき聞いた話だし高校3年とかの話だからわざわざするほどの話じゃないよ。ね?もうこの話やめよ?」
高3というワードが出たせいで私の興味は引くに引けなくなった。しかし梨香子はもう仕方ないかと話を掘り下げるのを諦めそうだ。優馬と光希はほっとした顔でお酒を一口含もうとしている。話が続かないと踏んだ守人はトイレに行こうとしている。守人が強引に止めに入らないってことはきっと私のことじゃないけど、どうしても気になる。それは私が守人に振られる前なのか、後なのか、ほとんど同時期なのか。それが私たちの関係に影響あったのか無かったのか。こういう葛藤は嫌いだ。大体いい方向には結論が出ないし、何より自分が醜いのをひどく思い知らされる。そして私の場合、一旦醜くても構わないという答えを出してしまうようにできている。今までもこんな風に失敗したことはあるのにまたその方向を選んで私は話を辞めさせないことにした。
「ねえ優馬くんその話気になるから教えてよ。」
この日初めて私は優馬という男の子に対し微笑んだ。どうしようもなく小賢しいと思う。でも守人がトイレに行ったこのタイミングしかない。案の定、優馬は今日の推しメンである私の参戦に動揺した。そして口を滑らせ始めた。
「守人の家、高3の時に倒産しちゃって平たく言うとそこから家族ばらばらで生活してるっぽい。高3の間は親戚の家で、大学は大阪の婆ちゃんのところってさっき言ってた。まぁこれ以上のことは俺も光希も知らないし、本人から、、、」
優馬が話すのをやめた。私の目が涙で溢れてしまったから。私は必死に涙を溢さないようにした。泣いてない振りを試みた。でもどうもこれは隠せないなと思ってちゃんと前を向いた時、優馬が話すのをやめたのは私のせいだけじゃないと分かった。守人が優馬の肩を掴んでいる。とてもとても怒っていて今まで見たことがない守人が立っている。
「その話しないでくれ。あと俺今日はもう帰るよ。」
守人はその二言しか言わなかった。その二言とほとんど同時に入ってきた綺麗な黒髪の女性が立ち尽くしている。そしてその女性は店から出ていく守人を追いかけて消えてしまった。そのせいで私は守人を追いかけるタイミングを失った。いや、それがなくてもきっと追いかけられない。追いかけて何を伝えるというんだろうか。どうしてそんな大きなことを秘密にして別れたのか、何か私にできることはなかったのか、なぜ何もさせてくれなかったのかなんてことを言うのだろうか。まぁ全て本音には違いない。ただ自分でわかってしまっていることがある。1番聞きたいのは、それがなければ今でも私が好きか私と付き合っていると思うか。こんな隠し事がぶつけられた瞬間でさえ、私はどうしようもなく女なのだと痛感してしまうのは虚しい。
私が混乱している間に男子2人は会計を済ませて守人の所へ向かったようだった。その後華ちゃんと梨香子が私の心配をしてくれているうちにどうやら22時が来たようで、店長が私に上がっていいよと伝えに来た。あからさまに元気が無くなっている私が気になったせいか、帰り際に店長がなぜか無糖の缶コーヒーをくれた。もらったものはと思いながら飲み始める。梨香子と華ちゃんの後ろを歩きながら、今日の飲みきついなぁと少し思った。
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