53 / 79
フォンルージュ家編
52-闇の魔法
しおりを挟む僕はラルクを連れて部屋に戻り鍵をかける。
あの顔が…あの人の顔が…声が…頭から消えない…。
忘れろ、忘れろよ。お願いだから。
ああ、死にたい。今すぐに死にたい死にたい消えたい消えたい。
頭の中のあの人が、僕に死の呪文を唱え続けている。過去の情景がリフレインして止まらない。
自身の手を強く掴みすぎて爪がくい込んで血が出ているが、今の僕にはどうでもいい事だった。
「兄上、大丈夫ですか…?」
ラルクが心配そうに僕の肩に手を置いて顔を覗いてくる。
……ぁ……そうだ、抱いてもらえばいい。
抱いてもらえば忘れられる。快楽で足りないなら、あの苦痛を忘れるくらい痛くして酷くして貰えばいい。
僕たちはセフレなんだから。いいよね。
僕は衝動のままラルクの胸ぐらを掴み、齧り付くようにラルクの口にキスをする。
「あにっ…んん…ふっ…あにうえッッ!」
ラルクが僕を突き放す。
「ッ…兄上!なにして…」
なんだよ…いつも僕を手篭めにしてるくせに、僕からやったらダメなの…?
ラルクに近付き、首の後ろに手を回し誘うように下からラルクを見て、顔を寄せる。
「…抱いてよ。いつもしてるだろ?
今最高にそういう気分なんだ。酷くして、痛めつけて、壊れるくらい気持ちよくして…?
ね、いいでしょ…?」
早く早くはやくはやくはやく。
忘れさせて、おねがい。
ラルクの後頭部を掴み、下唇を甘えるように口で引っ張る。
「ね、おねがい…?」
僕を罵って嬲って蹴落として甚振って。
酷くして。おねがいラルク。
冷たい冷静な目が僕を見る。
「…いいですよ。分かりました兄上」
やった!抱いてもらえる!忘れられる!
はやく、はやく!
「準備しますから、ベットに横になっててください」
「ッ…そんなのいいから、今すぐ抱いてよ!」
「ダメです。準備しないと抱きません。
いいんですか?おれに抱かれたいんでしょ?」
ラルクに一喝されて渋々ベットに上がり、ラルクを待つ。
ラルクは部屋にある高そうな装飾がされた棚から何かを取り出して持ってくる。
動物性の革で出来たベルトみたいな手錠だ。
「兄上、両手を合わせて前に出して」
言われた通りラルクの前に手を差し出す。
そのまま両手首に手錠が嵌められ、締められる。両足も同様手錠と同じタイプの足枷が嵌められ、海老みたいにしか動けない。
期待に胸が高鳴る。後はラルクを煽って怒らせて酷くしてもらえばいい。
僕って最低だな。早く消えたい。
早く死んじゃうくらい、抱いて欲しい。
ギシ…
ラルクがベットに上がる。その重みでベットのスプリングが音を出す。
ゴクリと期待で喉がなる。自然と口角が上がってしまう。
はやく、この声を消して。
僕の横に寝そべったラルクが僕をギュッと抱きしめる。ラルクの腕が僕の背中を摩り、腕枕にしている方の手で頭を撫でる。
ラルクの胸に顔が当たり、ラルクの匂いと鼓動が感じられる。
抱き………は?
「…何してるの?」
「なにって抱いてるんですよ。兄上を」
何の冗談?面白くない。
「違うだろ、ぼ…俺を抱けと言ったんだ。こういう事じゃない。早く、セックスしてよ。こんな前戯いいからさ。早く、ねぇ」
手と足を拘束されているおかげでラルクを襲うことも出来ない。
なんで、なんで。やめて、こんなの望んでない。早く抱いて。エッチしよ。いつもやってるじゃん。なんで意地悪するの?
なんでなんでなんで。
「…こんな顔してる兄上を抱きたくないです」
……はぁ…?何を今更……僕が今までやめてと言っても止めなかったのに、なんだよ、なんだよそれ…ッッ!
「ふざけるなッッ!お前がしたくないとか関係ないッ!僕が抱けと言ったんだ!!今更かまととぶるなよ…ッ!
僕がやめてって言っても止めなかったくせに…ッ!なんで、なんで……!」
ラルクもアーノルドも…ッ…なんで急に優しくするの…?ずるい、ずるいよ…ッ!!
僕が幸せになんてなるわけないのに!
どうせ僕のことなんて好きになってくれるわけないのにッ!
僕のことなんて何も知らないくせに!
僕の中に入ってこようとするなッ!!
中途半端に期待させるようなことをしないで…ッ!!
僕がこれを受け入れてしまったら、受け入れた後に嫌われて捨てられてしまったら、
僕はもう耐えられない。
黒い感情に支配されていくのがわかる。
それが大きくなり、身体から溢れ出てくる。
溢れ出た黒いモヤは集合し、黒い触手に形を生していく。
この触手は闇魔法特有のものだ。この世界的に見た目が他の魔法より不気味で、使い方によっては簡単に人を傷付けることもでき、尚且つ使用できるものが少ないため毛嫌いされてる魔法。
使えるだけで差別される魔法だ。
どうやら僕の負の感情に反応して発動したらしい。
一気に増えた太い触手がラルクを押し退け、ベットに押し倒す。
「ッぁ…あにうえ!」
押し倒したラルクの両手を触手でまとめあげ僕についてる手錠のようにラルクの自由を奪う。
触手を使いラルクに付けられた革の手錠と枷を切り、身体が自由になる。
ここまでこの魔法を使いこなすのは初めてだ。
前まで小さい触手を1本程度しか出せなかったし、自分の意思でここまで自由に動かすことは出来なかった。僕に魔法の才能はないと思っていたが…
アニメではこの魔法は物語で人に危害を加える際によく使われていた。
ルークは影からこの触手を出し、主人公を階段から突き落とす。
そこにアーノルドが遭遇し、主人公が誰かに虐められていることに気付くのだ。
この世界では魔法で人に危害を加えることは重罪に値する。
だから今みたいに、ラルクの意思に反して体の自由を奪うこの行為は完全に犯罪。牢獄行き。
ルークみたいに人の命に関わるようなことをすれば死刑になる可能性すらある。
…安心したよ。僕はちゃんと悪役なんだね。
僕は身動きが取れずもがいているラルクの上に跨り、自身の服を手で、ラルクの服は触手で脱がせていく。
「…ラルクが悪いんだ。抱けって言ってんのに、何時までも僕を焦らすから……」
67
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。
あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。
だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。
よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。
弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。
そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。
どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。
俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。
そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。
◎1話完結型になります
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
人気俳優に拾われてペットにされた件
米山のら
BL
地味で平凡な社畜、オレ――三池豆太郎。
そんなオレを拾ったのは、超絶人気俳優・白瀬洸だった。
「ミケ」って呼ばれて、なぜか猫扱いされて、執着されて。
「ミケにはそろそろ“躾”が必要かな」――洸の優しい笑顔の裏には、底なしの狂気が潜んでいた。
これは、オレが洸の変態的な愛情と執着に、容赦なく絡め取られて、逃げ道を失っていく話。
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる