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第三部 王都の社交

67.囁きは甘く無慈悲な夜の魔王 *

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 おかしい。
 フェリシアンさんの忠告通り、ルイに愚痴は言っていないのだけど。
 ただ午前中に聞いた音色が素敵だった、今度は弾いている姿も込みで聞かせて欲しいと、彼と顔を合わせたら真っ先に伝えたいと思っていた正直な感想を言っただけなのに――。

 なにしろ朝食を済ませて以降、全然姿を見なかったルイは、本当についいましがたにこの主寝室に寛いだ姿でやってきたばかり。
 主寝室の長椅子に腰掛けてのんびり本を読んでいたわたしが、彼のややお疲れな様子に就寝前のお茶として用意されているハーブティをすすめながら話しかけてのことなのだけれど。
 
 おかしい。
 ハーブティーはいつぞやの怪しいものではなく、普通のただの神経を緩めるお茶のはず。
 そもそも飲んでもいない。
 ぼんやり立っているものだから、大丈夫かしらとわたしも立って彼のそばに近寄っただけなのに何故!?
   
「お疲れの……はず、ですよね?」
「そんなことはいま問題ではありません」
 
 わたしの両頬を手で包んで、やけに悩ましい熱ぽさを滲ませた眼差しと声でそう仰っていますけど、問題あるでしょう。
 
 リュシーやマルテの目撃証言によると、ルイは午前中の演奏後、日中はお庭で危ないからと人を寄せ付けず、例年夏の間に作って備蓄しているという太陽の光と熱の力を凝固させた固形燃料を作り続けていたそうで。
 でもって日が傾きはじめてからは、シモンに軽食を運ばせてご自分の部屋にこもりおそらくは魔術研究に勤しんでいたらしく、いつもなら習熟度合いが気になるのか毎日なんとなく近くで様子を眺めていたヴェルレーヌの講義の際も顔を出さず、夕食の席にもいらっしゃらない根の詰めよう。
 
 だから、そう――。
 問題ないはずがなく、お疲れのはず。
 
「お疲れの時はきちんと休んでほしいのですけど……」
「ええ、休むつもりいでいたものを……感じいるような……いえ、随分と勝手なことを言う」
「あの、ちょっと意味がわからな……」

 言い終わらないうちにしっとりと唇が重なり、寝間着の上に羽織っていたものをするりと脱がされ長椅子の上に落とされた。

「マリーベル……」

 ほぼ顔を合わせたなり、なんなのと思いつつも……唇を離しながら名前を囁かれて、体の内側に甘い痺れが波紋のように広がっていく。
 青味の増した灰色の瞳と同じくらい、きっとわたしも熱に潤んだみたいな目で彼を見てしまっているだろう。

「ルイ……?」

 気がつけば、寝台の上に運ばれて押し倒された格好になっていて。
 ルイはルイで、ご自分が羽織っていたガウンを脱いで寝台の足元の側へと放り投げ、素肌にゆったりと緩いシャツを羽織った姿になっている。

 あの、本当に……どうしてこんなことになっているの……?
 いえ、いまやルイにこうして迫られても、以前のように反射的に逃げるようなことはなくなってはいるのだけれど。
 むしろ逃げられなくなっているといいますか。

 ユニ家から、フォート家に戻ってひと月程。
 一番変わったのは、おそらくこうした夜の自分だと思う。

「どうし……」

 すらりと指の長いやや骨張った手の指先が、わたしの唇にそれ以上なにか言うのを止めさせるように触れて、彼が女性も羨む長い睫毛を伏せるのを見て、あ、だめ……と反射的に胸の内で呟く。
 さっきよりもずっと深い口付けに頭がぼうっとしてくる。

「ぁ、ん……」

 ルイを強く拒めない……むしろ応じてしまう。
 じわりと痺れを感じる指先を伸ばして彼の首に腕を回せば、いよいよ口づけは貪欲さを増して互いの舌がもつれ合う濡れた音がし始める。

 ああだめ……力抜けちゃう。
 そう思った時には、ルイの首に回していたはずの腕はぱたりと寝具の上に落ちていた。

「……ルイ」

 ため息がこぼれる。
 銀色の……綺麗な髪がまっすぐに落ちてわたしの頬をくすぐり、真上からわたしを見下ろしているルイになんだか胸が一杯になって、同時に締め付けられるような切なさも覚えて、また彼に少し震える手を伸ばしてしまう。
 今度は彼の額に、落ちてくる頭を耳の後ろへと撫で付けるように。

「……お疲れのはず、ですよね?」
「まだ、言いますか」

 ふっと苦笑に目を細めながらの、わたしの傾き始めた理性を見透かすルイの言葉にどきどきする。
 だって……、と尚もルイを止めようとしたら、彼に触れている片手を取られて口元へ引き寄せられた。

 指先に口づけ、時折、悪戯のようにちろりと舌先で曲げた指の関節を舐めるルイの表情のあまりの淫靡さにくらくらする。
 無駄に麗しいお顔はこういった時はもはや凶器だ。
 彼の顔が降りてきて左耳を軽く食まれて、やっ……と甘えるような声と吐息を漏らしてしまう。

 嫌?

 わたしをすっかり組み伏せて、そんなことを囁いてくるルイが少しだけ恨めしい。
 ルイはわたしの言質を取りながら進めるのが好きだ。
 たぶん、好きだと思う。

「あ……ん……」

 首筋をたどる唇と舌に、また漏れてしまいそうな声を閉じ込めるため、往生際の悪い抵抗で固く口元を引き結ぶ。
 そんなことをしてもきっと無駄だし、ますます彼は意地の悪いことをしてくると知らないわけでもないのに。

「その、自分でも無駄な抵抗とわかっていて抗おうとするところ嫌いじゃないですよ、マリーベル」
「ん……ぁあ、だ……め……」 

 寝間着の上から右胸を包む熱い手には、とっくに気がついてる。
 頂きがつんと固くなっているのを探られ、羞恥に頬を熱くしながらもたまらない気持ちになってしまって、キスしてとルイに囁く。

 服の上から胸を探っていた手が肩に回ってわたしを抱き起こし、噛みつくように唇を奪われて思わずルイの頭を抱きしめるように抱える。
 さらさらの彼の髪に指を差し入れてその首の後ろを撫でれば、わたしの肩を支えていない彼のもう一方の手が寝間着の閉じた胸元の紐を解いて、肩からゆっくりと滑り落とされた。

 後頭部に伸びてきた彼の手がわたしの髪を柔らかく掴み、わたしは顔を傾けて繰り返される彼の口づけを角度を変えて受け止める。
 上手くなりましたねと、キスの合間に聞こえた好色さを滲ませた声には応じず、ルイとのキスに溺れる自分がひどく淫らに思えるけれど、わたしをそうしたのはこの人だもの。
 上手くなったなら、それは教師が悪徳好色魔術師だからだ。
 離れてくたりとルイの右肩に顔を伏せれば、よしよしと子供にするみたいに髪を鷲掴んでいた手で頭を撫でられた。

「本当に疲れていない……?」

 固形燃料は魔術具だ。
 魔術具は使う時は魔力を必要としないけれど、作る時は魔力を必要とする。
 日中、備蓄のためのそれを作り続けていたのなら、それなりに消耗しているはず。

「しつこいですね、貴女も」
「だって」
「顔、上げてください」

 言われて彼を仰ぎ見れば、彼は悪徳魔術師そのものな笑みを浮かべ、寝間着を滑り落とした掌が胸からお腹を通って腰へとわたしの肌をゆっくりと撫で下ろすのに体がふるりと震える。

「あっ……」
「そんな顔して、やはり寝ましょうと私が言って貴女こそ大丈夫ですか?」

 とっさに答えられなくて、頬がかあっと熱くなる。
 素肌を撫でる彼の手に身動ぎしながら、大っ……丈夫に決まってます……と途切れ気味に言ってもあまり説得力はない。
 かわいらしくも強情だ、と首筋を甘く噛まれた場所から毒が回るような疼きにぞくぞくする。
 首筋を食みながらルイの頭が下りてくると同時に、体を撫でさすっていた彼の掌が右胸をやわやわと弄び始めてわたしは狼狽した。

「やっ……あっ、っ……だ、め……」
「寝ますか、マリーベル?」

 わたしを掛け布を払った寝具の上に横たえて、すっと目を細めてそんなことを密やかな響きで囁き左胸に口元を寄せてくるルイが、本当に、心の底から悪徳好色魔術師で睨みつけようとしたけれど銀色の頭が見えるだけ。
 その口内で固く張り詰めた箇所を吸われ、舌先で頂きを転がすように嬲られれば、為す術もなく小さく悲鳴を上げるしかない。

「いや……だめなの、あぁっ……」
「嫌なら止めましょうか?」
「……や、ルイ……」

 もっと触れて欲しい、溶けてしまうくらいに。 
 縋るように彼の着ているシャツの布地を握って、わたしの胸から顔を上げた彼の顔を見る。
 目尻からこめかみへと流れ落ちた湿った感触の上にルイの唇が重なり、ねだるように目を閉じれば今度は口元に彼の唇が落ちてきて、太腿で下着の紐が解かれる気配がした。
 触れているだけの唇にお願いと声にはださずに口元を動かし彼に強請る。

「っん……」

 口元ではなくずっと下がった場所から聞こえ出した濡れた音と、彼の脚に自分の爪先をすり寄せるほどもどかしさを覚えていたぬかるんだ場所を探るルイの指に、合わさった唇の隙間から声が漏れ、堪らず手にしていた彼の服をさらにぎゅっと握りしめる。

「マリーベル……」

 僅かに身を起こして熱い吐息と共に促すルイの囁きに、シャツのなかへ手を滑り込ませて細身に見えるのに意外と鍛えられている胸に直に触れる。
 わたしのおぼつかない手とは違い、粘質な水音をさせながら更にあふれさせるようにわたしの脚の間の襞を的確に探るルイの指を感じながら彼の背へと手を這わせれば、片腕を曲げて体を支えてわたしに斜めに被さっているルイが満足気なため息を吐いた。

「貴女のその慣れない手つきで撫でられるのは、なかなかくるものがありますね……」
「嫌……? っ……んぅ」
「その逆です。ああ……いくらでもあふれてきますね、気持ちいい?」
「あっ……い、や……」

 左耳をくすぐる舌先と言葉に引き出される、背筋をぞくぞくと這い登るような快感におののきながら小さく頷けば、口ではいやと仰るしどちらでしょうなんて意地の悪いことをルイは言うけれど湿った声音だった。
 探る指も触れていた体もわたしから一度離れ、身を起こして彼がもどかし気に着ているものを脱ぎ捨てる。

「慎ましやかな夫婦の営みは、あくまで子を成すためのもので快楽のためではない。そう、作法の上では――」

 たしかにヴェルレーヌに渡された貴族向けの作法書にもそうあった。
 ご丁寧にも閨のことまで記されているのだ。
 夫婦の営みでも互いの肌を晒すことはしないものであるらしい。
 繋がることは着ていてもできる。

 わたしだって流石にこの年齢になるまでなにも知らないわけじゃない。
 それに王宮は、こういってはなんだけれど火遊びに興じる人が結構多くいるのだ。
 むしろ恋愛遊戯の一つも出来なくてどうするといった向きの方も一定数いる。
 作法書が実際どれほど守られているものかは、ちらちらと聞いた話を考えるとちょっと疑問に思える。
 王宮に出入りするご夫人やご令嬢の方々、女官など女性だけのお喋りには、時に、殿方が驚くだろう過激なものも含まれる。

「ですが、くないよりいはいほうがずっといいでしょう」
「はっ、あぁ……る、ぃ……っ」

 横たわっているわたしに覆いかぶさるように抱きすくめてきた、ルイの素肌とすぐに溶け合う体温に蕩然して、脚の間に触れている硬く熱を持った彼の身にほぼ無意識に擦り寄れば、ぐっとルイが小さく呻く。

 彼の両脚がやや強引にわたしの脚を割り開いて閉じないように押さえつけ、それまで彼の指で探られていた場所に彼自身を擦り付けるような動きに、ああっと、とめどなく出てしまう声と喘ぎが抑えられなくなる。

 わたしの喘ぐ声と、繰り返されるため息のようなルイの吐息。
 淫猥な水音と互いの体を擦り付け合う音、寝具の擦れる音。
 ぬるぬると彼を濡らす自分の淫らさと、彼が与える快感にわけがわからなくなってしまいそうになる。
  
「ぁっ、ああっ、……ん、だめっなのっ」
「おかしくなりそうで? もうなっているのでは……?」
「ああ、んっ!」
「私が動かずとも……っ、……ご自分でも……わかっているのでしょう?」

 これでは足りないと――。
 
 囁かれながら右胸に口付けられて、泣き濡れた声で彼の名を繰り返し、指よりもずっと太くて熱を持ったそれが襞の谷間に沿い、脚の付け根で蜜に濡れている芯にも軽く触れるのを、ひくひくと疼く襞の間深くに埋めるように挟み擦るように動く。
 ひどく恥ずかしいこんなこと……こんな淫らなことをしてしまう自分がいるなんて知らなかった。
 けれども、わたしだけでなくルイも眉をひそめて吐息を乱しているのが感じられると、もっとと望んでしまう。

「いや、や、だって……ああっ……」
「……私のせい? ああそうですね……とめどなく濡れて蕩けながら……私を求めるのが好きな貴女を教えたのは、たしかに……っ」
 
 魔術は危険を伴うし、結構体力が必要らしくてその優美な見た目からは意外に思えるほど鍛えられているルイの体はしなやかに固く締まっていて、よく見ると細かい傷跡なんかも結構ある。

 子供の頃の鍛錬でついた傷と、魔物相手の怪我と、少しばかり人間につけられたものとで顔ほど綺麗ではないでしょう……と、なんとなく傷跡をたどるわたしの指を外しながらそんなこと冗談めかして言うから指で辿っていた場所に口付ければ、触れるのは好きですが触れられるのはそうでもないとルイは言った。
 こんなことを許すのはわたしだけだ、と。

「あっ……あっ、んん……っ」

 上り詰めるのに時間はかからず、それでも許してくれないルイに腰をひねるように震わせて彼から逃げようとすれば、寝具の上に押さえつけられて呼吸もままならないくらいに深く口付けられる。
 腰をわずかに持ち上げた彼の手の指が溶けきった奥まで潜りこみ、爪先で寝台の上を蹴らずにはいられない焦燥をさらに煽り立ててくる。

 ふるえる余韻がまだ残っているのに……。
 ゆっくりと探られ、奥からあふれ出る蜜を底から表面へと掻き混ぜるように、抜かずに入れては引くようにされて、さっきよりももっと泣き濡れた甘い声を上げることを彼の唇と舌で阻まれ、与えられる快楽は逃げ場を失ってまたあっという間に上り詰める。
 ひくひくと彼の指を食いしめる中を感じながらも、ぐったりと力が抜けてしまった体をルイにすり寄せれば、まだでしょうと少し冷ややかな声音で耳打ちするルイにだめと首を振って抵抗するけれど、悪徳好色魔術師とわたしが言えば悪徳は否定しても好色は否定しないだけあって、ルイは容赦がない。

 やだ、やだと訴える声を彼に飲み込まれ、押さえ込まれながら執拗に中をゆっくり焦らすように、自分の淫らさを意識させられる粘質な水音を立てられながら、なにもかも真白にわずかな間時間すら飛ばされて、それこそ小さく死んだようになっていたら、いつの間にか足元まで下がっていた彼が顔を埋め、宥めるような動きの舌で更に追い込んでくる。
 
「ぅ……ぁん、は……っぅ……」

 もう喘ぐことしかできなくて、まともな言葉にならない。
 熱い吐息と、囁く声と喘ぐことしかできないもどかしさと、互いの体の間で生じている音。
 指先まで怠くて力が入らないのに、感覚だけは鋭敏で何度も何度もふるえてしまう。

「ほ……んと、に……だめなの……」
「でしょうね」

 濡れた指で内腿を撫でられてもぴくりと肩を揺らすわたしを見下ろして、ルイは満足そうな笑みに目を細めた。
 すごく悪くて、愉快そうな顔をしていて……わたしのことだけを見ている。

「あ、っ……」

 ルイの手の甲が左右の頬を撫でて、ぴくんと肩が動く。 
 薬を使われた最初の夜以外、彼との行為は密やかだ。
 囁くような言葉、甘い喘ぎもほとんど彼に飲み込まれてしまう。
 
「そんな泣きそうな顔しないでください」
「だって……あなたがっ……」

 ゆるやかにまた覆いかぶさって抱き締めてきた体の重みを感じながら、その背に腕を回して深く息を吐く。
 頬を掌で包まれて、ゆるやかに触れるだけの口づけをされて、耳元に顔を寄せたルイが囁くように尋ねる。

「……私が欲しい?」
「うん……」

 自分でも、信じられないほど恥じらいも慎みもない答えを返し、押し当てられた熱と硬い杭のような彼に息を詰めてその肩にしがみつく。
 そんなわたしを宥めるように額に唇を落として、ルイはさらに意地悪く選ばせようとする。
 ゆっくり馴染ませるように進むか、一息に貫くか、あるいは抜き差ししながら適度に。
 正直、なんでもいい。入口で焦らすようにされてあなたの好きでいいから……と口走れば、一息に奥まで突かれて声にならない吐息だけの叫びが喉の奥から出て、奥がびくりと収縮するより早く身を引いてごく浅いところに留まって抽送を繰り返すルイに、ひどいと目で訴えたけれど彼を一層残酷にしただけだった。

「……貴女ともあろう人が、マリーベル」
「あっ……っ」
「私の好きに? 主導権を手放して……」

 覚えさせて、奥まで刻み付けて、なにも考えられなくさせられたい?
 そんなの、もうしてると……本当にどうかなりそうな快感に意識を委ねかけたところで、急に動きをとめてゆっくりと内襞に自らを含ませるようしてくるのに、首を振って小さな子供みたいに泣きたくなる。

「や……あ……」
「……マリーベル」

 ひどく意地の悪いことを言うルイだけれど、その声は掠れて普段の余裕も欠けらもない。
 そのことが余計にわたしの熱ともどかしさを高めて、焦らされて何度も慄えては軽く彼を締め付けてしまうわたしに、ルイが顔を顰めて低く唸るようなため息を漏らす。
 今度は焦らすことなく奥を突き上げられたのに、ああっとわたしは声を上げ、彼に手足を巻きつけしがみつく。
 突かれるたび、内側でも外側でも彼を締めつけてしまう。

「本当にっ……好きにはさせてくれない……」

 いつの間にかわたしに合わせて動いているルイに、あ……あっと声をこぼすわたしを黙らせ、なにもかもを閉じ込めるように、深い口づけと腕と脚が絡まるように彼の体が押し付けられる。 
 絶え間なく深い場所をかき混ぜてはより奥へと突かれて、首を振って泣きじゃくる子供みたいな声で弱々しく彼の名を繰り返し呼んでは、だめなの……だめっと訴える。
 
「いや、もう……ああっ、だめなのっ」
「……ええ、私も……っ」

 脈動するルイに合わせ、流し込まれているものを飲み込むようにわたしの奥底が蠢く。
 やがてそれが徐々におさまるにつれて、指先一つも動かせないほどぐったりとなってしまったわたしから、ため息とともに自身を引き抜いたルイはゆるやかにわたしを抱き締めた。

「マリーベル?」
「ん……だめ」
「心配せずとも、これ以上はこちらの身が持たない……」
 
 わたしの髪を撫でながら、ルイが深いため息を吐く。
 そして、少々意地の悪いことをしたと謝った。
 まったくだと思いながらも、もううとうとしてしまって体だけでなく意識も保つのが難しい。

「ちゃんと、眠って……」

 朦朧とする意識のなかでルイにそう言ったのが限界で、覚えているのは彼が苦笑しおやすみと言ったところまで。
 ぐらりと体が傾ぐような、なにか揺さぶられるような感覚に襲われた気もしたけれど、きっと深い眠りに急速に落ちてしまったからに違いない。
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