スミス・ロード -辺境の鍛冶屋ー

シンゴぱぱ

文字の大きさ
11 / 39
第一章 湖の村攻防編

10.帰路

しおりを挟む
 王都に向かう街道。
 そこはめったに使われない道であった。
 その道を帝国との国境付近まで整備させて、馬車でも普通に進むことが出来る様になったのは、数年前に終焉しゅうえんしたと思われる魔王軍との戦いに他ならない。
 戦争による副産物。
 必要になってからするのでは、勿体無い。
 必要であろうと予測し、それを時機タイミングを見て利用する。
 これからの人にはそういう『先見』を持って貰いたいものだ。

 数頭の馬に引かせた馬車の中で、彼女は、『戦争』という言葉ワードから思考をひろげていた。
 車輪は四つ。箱形の馬車でコーチと言われるタイプだ。
 前輪と後輪は別連結で、街道から来る衝撃を緩和する、板バネのような物が後輪の軸の辺りに。
 前輪にはコイル状の様な物が取り付けられていた。
 馬車の衝撃緩和の機構もそうだ。『智の勇者』の知識の公開によって、いの一番に物好きなおっさんが制作に取り掛かった。
 公には王国の中央のなんたらさんがであるのだが、非公式ではミカゲおっさんの作ったこのタイプが一番初めで、出回っているどの馬車よりも、には性能は一番だろう。
 ちなみにコーチという馬車は基本4頭引きの大型馬車であるのだが、それ以下の数頭でも引ける特別なタイプで、元々を、馬が引くタイプに改造しているだけで、馬が引くならの種類と言う事だ。

 その馬車の中、ルラースのマントの様に『青』を基調とした長めのスカートのワンピースを着た黒髪の女性。
 瑞々しく張りのある肌。
 しかし、若いだけでない、只者で無いオーラを放つ彼女。
 そして柔らかそうなクッションの座席に座り、足を組んで座っている。
 スカートの前の辺りに長めのスリットがあり、そこから組んだ足が覗き、その白さを強調していた。
 彼女の座席の横に置かれたいかつい分厚い本と、その上に置かれたつばの広い帽子。
 立て掛けている長い杖。
 長い黒髪に頬と胸元を隠し、その髪を口に咥えたり指で遊んでいる。
 外を見る瞳は片眼が赤、もう片方は澄んだ薄い青色をしていた。
 その向かいの席には、ルラースと同じ青のマントを付け、「正装」した騎士が一人、緊張した面持ちで正しく座っていた。

「そこまで緊張せずとも、この子は噛み突いたりはせぬぞ。」
 女性が緊張した騎士に何回目かのその言葉を言う。

 騎士と彼女の間には灰色のクッションがあった。
 いや、正確にはそのクッションは生きていて、騎士の顔を時折見つめていた。
 かなりでかい、大の大人が寝ても少し余裕のある車内だが、その殆どをこの灰色の狼は占拠していた。
 彼女の使い魔の狼だ。
「いえ、緊張しているわけではないのです・・・。」
 騎士は何度目かのその返答をする。

 大きく窓が有るとはいえ、馬車の中に男女二人と使い魔。それも恐ろしく美人で、髪を遊ばせて居る仕草など、単的に言うなら妖艶エロティックだ。
 騎士は心の中で神に祈り、理性を保つので正一杯だった。
「ワシが魅了の魔法チャームでも掛けたら、盛りの付いた犬の様に腰を振ってきそうじゃな。」
 彼女はクスリと笑い、騎士の顔に視線を移す。
 わざとらしく、ゆっくり足を組みなおすが、スリットから覗く白い絹の様な肌の足筋が、見えそうで見えない足の付け根を、灰色の狼の体が絶妙に邪魔で、想像を掻き立てられる。
「ステイシア殿、どうかそれだけは。私には心に誓った婚約者フィアンセがいますので・・・」
「ではこの任が終わったら、婚約者フィアンセも大変だのぉw」
 意地悪な目線を騎士に向けながら、少し前屈みに、胸元を強調させた。
 顔も美形な上に、色白で張りのある胸の谷間。白い肌と綺麗な脚。
 そして、妖艶な色気。
 例えるなら、夢魔サキュバスとその使い魔と同じ部屋に閉じ込められているようなものか・・・。
 暇つぶしとしてステイシアに絡まれ始めたかわいそうな騎士は、交代迄の後数分を必死に耐え続けていた。
 

 馬車の側面には狼の文様。この領地ではよく見かける「銀狼騎士団」の文様だ。
 魔の森に住む神獣の銀狼フェンリルを象ったもので、この領主シデラース領の家紋にもその狼の文様は使われていた。
 彼女は湖の村の守備隊の一人で、定期的な報告で王都に行き、領主に謁見して定期報告をした帰りであった。
 警備など不要というのは誰もが判っている事なのだが、領主の息子の一人も守備隊の一人で、この騎士たちも彼の処に向かうがてらであった。
 馬車の前と後ろに騎馬二体づつ。その後を貨物の馬車が一台。
 殿にも騎馬二体。
 そしてステイシアの遊び相手の計7人。
 騎士の中に女性騎士がおり、殆どはその騎士が相手をする予定だったのだが、
 同姓でさえ緊張してしまう美女と馬車によってしまい、現在いじられてる彼がその代わりだ。
 狼は体を丸めて寛いでいた。騎士を見たり、足でちょっかいを出してくる主人に顔を向けたりしていたが、窓の外を見上げ、紅潮する騎士を弄る主人に顔を向ける。
「ナニか来るぞ。」と狼の口から言葉が漏れる。
「大丈夫じゃ、索敵の魔法にはかなり前からかかっておる。野盗か何かかのぉ。もう少ししたら矢が飛んでくるからとりあえず馬車を停めてくれぬか。」
 ステイシアは杖を持ち帽子をかぶり、立ちながら騎士に言う。
 馬車が止まり、騎馬に乗った騎士たちも緊張が走る。
「貨物の馬車も近くに、矢除けの魔法を使う。」 
 馬車からステイシアは出て来て、手に持った杖で地面を二回たたく。
 荷馬車がステイシアの乗っていた馬車の横に着く。
 カツンと音がして馬車や身構える騎士達の近くに矢が転がる。
 数本飛来した矢も同じように見えない何かにカツンと当たり、地面に転がる。
 道の横の林から、道の後ろ、前からと、馬に乗った者や手に手に獲物を構えた
 男たちが周りを囲む。
「荷物と女を置いて行け。」
 一際体格も良く、使い込まれた斧を持ち、獣の皮を服のようにした髭面の男が声を放つ。
 「こっ・・・!」
 騎士の一人が、この馬車の一団をと高らかに言おうとする口元に、いつの間にか近くに来ていたステイシアの杖と、顔が寄る。
 野党の視線が突如ステイシアに集中する。
「夢魔か?かなりの上玉だな。」
「夢魔とは。それは誉め言葉かの?大した精力も無さそうじゃし、気にも止まらなかったわ。」
「気の強い女だな。きらいじゃねぇ、一晩中まわしつづけてや「むりじゃ。」」
 野盗の話しにかぶせるようにステイシア。
「どれもこれも、わしの中に挿入はいっった瞬間萎えそうなやつらばかりじゃ。全員相手をしても一晩もかからんぞ。
 わしのそばにおる騎士殿の方が尽くしてくれそうじゃ。」
 口元からぺろりと舌を出し、舌なめずりするステイシア。
 罵倒されているのだが、その言葉に想像と妄想を働かせ、つばを飲み込む野盗と男の騎士達。
 女騎士は時と場が違えば、相手によっては言ってみたい!とその言葉に痺れている。

「お、女以外はこ!!」
 斧を持った野盗が声を出した瞬間、大きな灰色の塊が覆いかぶさり、
 その喉元と肩から赤い血しぶきが上がる。
 狼の口から、さっきまで斧の男の、肩と喉口周りの部分が吐き出される。
「ステイシア、どうする?皆噛み砕くか?」
 灰色の狼はステイシアに指示を仰ぐ。
 野盗のリーダーは瞬殺。回転の速い者どもはすぐさま逃走準備に入る。
「動けぬぞ。」
 ステイシアの声が不自然に周りに響く。
 野盗達は逃げようにも、足が縫い付けられたように動けなくなってることに気づく。
 馬に乗っていた野盗達も、馬からぼとぼととおち、呻いている。
「・・・お主ら、愉しませてくれるのじゃろう?・・・」
 ステイシアの笑みは、使い物にならなくなるまで遊んでよいおもちゃを見つけて、さもうれしそうだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

処理中です...