スミス・ロード -辺境の鍛冶屋ー

シンゴぱぱ

文字の大きさ
23 / 39
第二章 湖の村日常編

1.用意周到

しおりを挟む
 湖の村の草の門の詰め所。
 そこに支度を始める何人かの者達が居た。
 時間はもう日もどっぷりと沈み、闇夜で行動できる獣の鳴き声が遠くに聞こえる。
 普通の人は寝静まる深夜だ。
 馬車に乗って来たフィートとイート。
 櫓で監視をしているビアン、アルテ、ビアンに酒のアテを作れとセガミにきたステイシア。
 草の門の班長であるヴィート。
 それぞれ、部屋にてミカゲ、ルード、ガッハ、カエデ、ルマリアが来ていた。
 部屋は男性女性でざっくり分かれ、女性側の装備の手伝いをイートがしていた。
 黒い上下の薄い長袖と長いタイツ。
 その上から縮緬鎖の上下の服を着、革鎧を装備していく。
 足のすねと手の甲はミカゲが、ガッハ以外サイズを調整した具足系統の小手や脚甲を取り付ける。軽い上に固く、矢や刃物も通りにくい。
 そして異様に黒い色で、金属らしい光沢などは一切なかった。
 大まかな装備を終え、関節や動く隙間に、毛皮と黒い羽根で組まれた、飾りの様な物で埋めていく。
 外部からの刺突武器の切っ先などから、急所をかばう装飾のような防具だ。
 羽や毛皮自体に魔力を注いで織り込んでおり、消音と若干の消臭が期待できる。
 一番始めに着た黒の上下の服はハイネックで首も覆っているが、そのあまりの部分も口と鼻を覆うことが出来るので、狼の変わり兜を被ればほぼ顔が隠れてしまう。
 部屋にて着替えたミカゲ、ルード、ガッハ、カエデ、ルマリア。
 装備ははたから見ると狼の変わり兜を被った野盗か何か妖しい集団だ。
 一際体躯の良いガッハが巨大な人狼のように見えなくはない。

 しかし、臭う。

 全身の装備は殆ど革装備だが、その革装備から発する匂い。
 血と、泥と汚物の様な何とも言えない匂いが周りを覆う。
 おそうじしたゴブリンの血や臓物を掻っ捌き塗り付けて乾燥したものだ。
 こうすることでゴブリンの臭いになじみ、行動しやすくなる。
 ミカゲも、ルードも何度も経験したことだが、慣れる…というものでは無い。
 ハイネックの布や鎧の隙間を守る毛皮や羽のおかげで緩和されることが救いだった。
 「計画通り、今から夜のうちに移動、ゴブリンの巣を潰すせめる
 ミカゲをリーダーにこの五人が選ばれた。
 催しの件にこの選抜が入っていたわけではないが、カエデが、大抜擢と言ってもよい。
 ルードとガッハはシード枠で行くことは決まっていた。
 偵察にはルード。殿をガッハに任せるためだ。
 指揮全般はミカゲが。カエデはいくつかの魔術、法術、そして技能に適した「術」にも長けているのも今回の採用の一つだ。
 併せて、経験させる為にルマリアだ。

 五人はフィートが操る馬車に乗り、ゴブリンの帰っていった洞窟に向かう。
 イートはその間の身の回り係だ。
 五人を近場で降ろした後、待機する予定だ。
 ガッハ以外にミカゲは短い短剣を渡す。
 刀身は少し黒く、片刃であるが切っ先は鋭くとがり、刃はかなり波打った形だ。
 波打った頂点が鋭角にとがり、毒を持つ魚のえらのとげとげの様に見えなくもない。
 「挿しても抜けやすく、斬っても血が残りにくい、大量に始末するときはこれを使ってくれ。」
 鞘に入れて渡し、取り付ける革紐も渡していく。
 それぞれ腰や抜きやすい場所に組み付けていく。
 ガッハの腕鎧も同じ装備で出来ているのか色合いが似ており、闇にきれいに溶け込んでいる。
「朝までには到着するだろう。一度軽く休憩してから現地の近場でもう一度打合せする。」
 ミカゲはそう言うと毛布を被る。仮眠を取るようだ。
 ミカゲの横に座っていたルマリアも同じようにする。
 対面にはルードとカエデ。馬車の進行方向に背を向けてガッハが真ん中で胡坐をかいている。
 そのまま寝ているようだ。
 ガッハの自重がいい塩梅なのか、馬車の揺れも衝撃をうまく吸収して走る。
 ミカゲ特性の鉄製の板バネを車軸に搭載し、車輪にも様々な加工をしている。
 然程荒れた道でも気にすることなく進むことが出来る。
 大きな道を出来るだけ通り、そこからゴブリンの洞窟まで進む。
 追跡してそこまでの道を、地理を把握しているイートがルート化する。
 彼女は戦闘こそは披露かつやくさせてもらっていないが、それ以外はである。
 唯一の悩みは、気にすることはないのだが、自他ともに認めるこぶり・・・
 
 さて、ほどなく洞窟に入る林の前の開けた平野につく。
 フィートとイートが食事を摂った場所の平野のかなり洞窟寄りの処だ。
 そこから少し林の中に入り、抜けると目的地の洞窟だ。
 平野の草を少し刈り、そこに簡易的に天幕を張る。
 フィートが周囲を警戒する中、5人は天幕で軽く打ち合わせをする。
 イートが馬車から色々準備をするために荷を下ろしている。
 装備を再確認し、五人はルードを先頭に闇の中に消えていく。

 ステイシアの魔術付与エンチャントで、変わり兜から覗く闇夜の中は明るくはない物の、はっきりとモノを認識することが出来る。
 話す声も、呟く程度で兜を被った面子に声が聞こえる仕組みだ。
 ゴブリンの巣の中は、彼等の独壇場ホームグラウンドだ。
 気を抜くことはできない。
 村や草原で見かける、群れから離れたばかりのゴブリンはそうそう脅威ではない。
 確かにはあるが、子供たちの威嚇でも退けることが出来るのだ。
 そういう時と場所の利点を把握せず、概ね人は彼らを軽視してしまう。
 退と。
 現に組合ギルド依頼クエストなどは下位ランクの代表だし、勇者の中にさえその認識があり、そう言う認識をもったまま彼らに挑み、その差に手痛いしっぺ返しを食らう者もいる。
 と思えるほどだけでも儲けものである。

 ルードが手を上げる。
 すぐ後ろにカエデ、少し距離を取り、ミカゲ、ルマリア、ガッハ。
 ルードが洞窟の入り口の前の林の境界線で、見張りを見つけ、一行を停めたのだ。
 洞窟の入り口にはゴブリンと、黒い犬の様な生き物が、入り口横で焚火をしている。
 門番のようだ。
 ゴブリンライダーが乗っている犬の子供だろうか。
 どちらにせよ食べ物の対象ではないということは、彼らはある程度の飢えを満たせる環境にいるという事である。
 村に攻めた来た主力を欠いていても、この集団はまだある程度の力は残っていると考えてよいだろう。
 ルードが立ち上がり、林を抜けようとする。
 ゆらりと姿が揺らぎ、途端に見えなくなる。
 カエデは両手を合唱し、その後指を複雑にからめると何かを呟く。
 焚火の炎が一瞬大きくなり、暖を取っていたゴブリンと黒い犬が驚いて散開する。
 やがて火は落ち着き、彼らは戻って来たものの、????とはなりつつも何かそうなるものでもあったのだろう程度でまた定位置に戻る。
 ルードが洞窟内に入り込むタイミングでカエデが焚火を大きくさせ、そちらに注意を払わせたらしい。
 同じにおいを漂わせた見えないものが通過しても、意識を集中しない限りはそうそうわかるものでもない。
 また彼らはそういう強烈な臭いの中で生活しているため、同じ匂いには鈍化しているのだ。
 逆にそういう臭いをしない、人の臭いなどいい匂いでしかないので、彼らは素早く察知することが出来るのだ。
 さらにはカエデとの連携やルードの技能によるところは多いのだが。

 しばらくして、又焚火が大きくなり、今度は弾ける。
 大きくなるだけならゴブリンもなれるかもしれないと、カエデが少し弄ったようだ。
 ゴブリン達はまた散開し、焚火を遠めに覗いている。
 
 ルードが姿を現す。
 カエデが洞窟の前を警戒し、ルードが3人の近くに。
 洞窟内の簡単な構造と部屋の数や深さ、そう言った事が淡々と報告される。
 ミカゲはその後何度か質問し、皆でカエデの元に。
「時間的にも良いだろう。突入する。」
 ミカゲの声が、兜の中から聞こえてきた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

処理中です...