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【 第一章 】未熟な王子と暫定騎士
ウィルバートの帰還⑧
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「ウィルバート・ブラックストン及び、バルヴィア山麓調査隊、計三十三名。ここに帰還したことをご報告申し上げます」
城の広い謁見の間に、膝をつき頭を垂れたウィルバートの声が響く。そんなウィルバートを玉座から見下ろし、国王は低く通る声で言葉を掛けた。
「ブラックストン。長い任務、ご苦労であった」
アルヴァンデール王国国王、イーヴァリ・ルティカイン・アルヴァンデールはマティアスの祖父に当たる。
深い茶色の長い髪と顎髭には白いものが多くなってきたが、深い緑の瞳はまだまだ力強い。
普通ならば、多くの子や孫に囲まれているはずだが、その玉座の隣に座るのは孫のマティアスただ一人だ。
「定例報告書で随時把握はしておるが、今一度、現状報告を」
「はっ。ご報告致します」
謁見の間には官職に就く貴族達も同席している。彼らが聞きたい内容はただ一つだ。
「バルヴィア山坑内は第四階層まではほぼ毒霧は消えておりますが、第五階層では二日で小鳥が死にます。定例報告にて陛下から指示を頂き第一階層から第三階層の間で調査採掘を進めておりましたが、もうそれほど火焔石は残っておりませんでした」
ウィルバートの説明に貴族達からあからさまにがっかりした溜め息とざわめきが漏れる。
火焔石は六角柱をした黒いこぶし大の石で、火に焚べるとその一つで暖炉を一日中暖め続ける。
バルヴィア山で採れるこの石は、長きに渡りアルヴァンデール王国へ莫大な富をもたらしてきたのだが、十二年前の『黒霧の厄災』以来、大規模な採掘作業は行われていない。
昔の様な贅沢な暮らしを取り戻したい貴族達は火焔石の大規模な採掘再開を待ち望んでいる。
「採掘は引き続き第三階層までとする。採掘量を増やすつもりはない。皆、引き続き火焔石に頼らない産業の開発に取り組むように」
貴族たちの希望を打ち砕く様にイーヴァリが断言した。
「それで、新種の蚕を発見したと聞いているが」
イーヴァリがウィルバートに向かって聞いた。
ウィルバートが目配せすると、従者が小さな盆に乗せた繭玉をイーヴァリとマティアスの両方に差し出してきた。
マティアスは繭を摘み上げ見つめ、小さく独り言のように呟いた。
「綺麗だ……」
その新種の繭は雪のように真っ白だった。
このアルヴァンデール王国とその近隣諸国で知られている繭は、濃い黄色か黄緑色をしている。だから染める時は繭自体の色よりも濃い色にしか染めることが出来ない。
だがこの白い繭ならば淡い色の染付も可能だ。濃い色でも従来より、より鮮やかに染まるだろう。何より真っ白な反物も作ることができる。
マティアスはこの繭から新たな産業が広がる予感に胸が踊る思いがした。何よりそれをウィルバートか持ち帰ったことが誇らしい。
「素晴らしい発見だ。すぐに養蚕家と研究を進めるように」
「はっ! 承知致しました」
イーヴァリの指示にウィルバートは頭を下げた。
城の広い謁見の間に、膝をつき頭を垂れたウィルバートの声が響く。そんなウィルバートを玉座から見下ろし、国王は低く通る声で言葉を掛けた。
「ブラックストン。長い任務、ご苦労であった」
アルヴァンデール王国国王、イーヴァリ・ルティカイン・アルヴァンデールはマティアスの祖父に当たる。
深い茶色の長い髪と顎髭には白いものが多くなってきたが、深い緑の瞳はまだまだ力強い。
普通ならば、多くの子や孫に囲まれているはずだが、その玉座の隣に座るのは孫のマティアスただ一人だ。
「定例報告書で随時把握はしておるが、今一度、現状報告を」
「はっ。ご報告致します」
謁見の間には官職に就く貴族達も同席している。彼らが聞きたい内容はただ一つだ。
「バルヴィア山坑内は第四階層まではほぼ毒霧は消えておりますが、第五階層では二日で小鳥が死にます。定例報告にて陛下から指示を頂き第一階層から第三階層の間で調査採掘を進めておりましたが、もうそれほど火焔石は残っておりませんでした」
ウィルバートの説明に貴族達からあからさまにがっかりした溜め息とざわめきが漏れる。
火焔石は六角柱をした黒いこぶし大の石で、火に焚べるとその一つで暖炉を一日中暖め続ける。
バルヴィア山で採れるこの石は、長きに渡りアルヴァンデール王国へ莫大な富をもたらしてきたのだが、十二年前の『黒霧の厄災』以来、大規模な採掘作業は行われていない。
昔の様な贅沢な暮らしを取り戻したい貴族達は火焔石の大規模な採掘再開を待ち望んでいる。
「採掘は引き続き第三階層までとする。採掘量を増やすつもりはない。皆、引き続き火焔石に頼らない産業の開発に取り組むように」
貴族たちの希望を打ち砕く様にイーヴァリが断言した。
「それで、新種の蚕を発見したと聞いているが」
イーヴァリがウィルバートに向かって聞いた。
ウィルバートが目配せすると、従者が小さな盆に乗せた繭玉をイーヴァリとマティアスの両方に差し出してきた。
マティアスは繭を摘み上げ見つめ、小さく独り言のように呟いた。
「綺麗だ……」
その新種の繭は雪のように真っ白だった。
このアルヴァンデール王国とその近隣諸国で知られている繭は、濃い黄色か黄緑色をしている。だから染める時は繭自体の色よりも濃い色にしか染めることが出来ない。
だがこの白い繭ならば淡い色の染付も可能だ。濃い色でも従来より、より鮮やかに染まるだろう。何より真っ白な反物も作ることができる。
マティアスはこの繭から新たな産業が広がる予感に胸が踊る思いがした。何よりそれをウィルバートか持ち帰ったことが誇らしい。
「素晴らしい発見だ。すぐに養蚕家と研究を進めるように」
「はっ! 承知致しました」
イーヴァリの指示にウィルバートは頭を下げた。
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