90 / 208
【 第一章 】未熟な王子と暫定騎士
赤紫の炎Ⅱ③
しおりを挟む
マティアスの回答に魔物が驚く。
「おいっ! 少しは迷わんか! お前は王になるのだろう?」
「私に求められているのは子種の提供だけだ」
「随分卑屈じゃのう。まあいい。髪でいいぞ。その髪で三年守ってやろう」
(髪で三年……。冷静になれ。それで本当に大丈夫か考えろ……!)
マティアスは自身に言い聞かせた。
魔物が持ち掛けた契約。落とし穴があってもおかしくはない。
ウィルバートが記憶を奥深くまで奪われていた場合、三年で人らしい生活が出来るようになるだろうか。
ここまで来たら自分の身が、魂が滅びようともウィルバートには幸せになってもらいたい。
マティアスは決意を固めて魔物に言った。
「三年経ったら髪はまた伸びてる」
「アハハ! それで髪を提供できる限りあの男の面倒を見ろと?」
愉快そうに嗤う魔物を見つめてマティアスは頷いた。
「そんな何度もはさすがに飽きてしまうわ。三回までだな。三年を三回で九年間じゃ。それ以上は嫌じゃ」
九年。九年あれば赤子でも九歳。やや心許ないがなんとかなるだろうとマティアスは思った。しかしもう一つ安心感が欲しいとも思った。
「わかった。九年でいい。但し、ウィルを人らしい生活に導いてくれ。お前は上級クラスだろ? それくらいは簡単な筈だ」
マティアスの要求を魔物は鼻で嗤った。
「ヒトらしい生活か。お前の知らない土地で職を得て、知らない者たちと友になり、知らない女と結婚して子を作る。そう言う生活か?」
マティアスの胸が抉られ、再び涙が溜まる。しかしもうウィルバートは自分を覚えてはいないのだ。森を這いずり回り、獣に喰われてしまうより、温かい家で家族を持ち穏やかに暮らして行く方が何倍も良い。
そこにマティアスが居ないとしても。
「……そうだ」
マティアスは涙を零しながら言った。それを見て魔物は頷いた。
「よし、では決まりだ。名を名乗り、我に要求と対価を申せ」
魔物が手をかざす赤い光が広い部屋全体を照らした。
その光は赤紫の炎に変わり、マティアスに着けられている鉄の手枷と足枷が燃え上がった。それはまるで綿を燃やした時の様にあっさりと燃え尽きた。
手足が自由になったマティアスは立ち上がるとまっすぐに背筋を伸ばして宣言した。
「我が名はマティアス・ユセラン・アルヴァンデール。三年ごとに伸ばした髪を対価に、九年間、ウィルバート・ブラックストンの命を守り、人らしい生活に導く事を要求する」
するとマティアスの身体全体が赤紫の炎に包まれた。あの時と同じように熱さは感じない。空中に浮いていた魔物はマティアスの正面に降り立つとゆっくりと口を開いた。
「我が名は、バルヴィア。対価を受け取り、その願い聞き入れよう」
「なっ!」
その名を聞いてマティアスは驚いた。
「ま、待て!」
「契約成立じゃ」
「おいっ! 少しは迷わんか! お前は王になるのだろう?」
「私に求められているのは子種の提供だけだ」
「随分卑屈じゃのう。まあいい。髪でいいぞ。その髪で三年守ってやろう」
(髪で三年……。冷静になれ。それで本当に大丈夫か考えろ……!)
マティアスは自身に言い聞かせた。
魔物が持ち掛けた契約。落とし穴があってもおかしくはない。
ウィルバートが記憶を奥深くまで奪われていた場合、三年で人らしい生活が出来るようになるだろうか。
ここまで来たら自分の身が、魂が滅びようともウィルバートには幸せになってもらいたい。
マティアスは決意を固めて魔物に言った。
「三年経ったら髪はまた伸びてる」
「アハハ! それで髪を提供できる限りあの男の面倒を見ろと?」
愉快そうに嗤う魔物を見つめてマティアスは頷いた。
「そんな何度もはさすがに飽きてしまうわ。三回までだな。三年を三回で九年間じゃ。それ以上は嫌じゃ」
九年。九年あれば赤子でも九歳。やや心許ないがなんとかなるだろうとマティアスは思った。しかしもう一つ安心感が欲しいとも思った。
「わかった。九年でいい。但し、ウィルを人らしい生活に導いてくれ。お前は上級クラスだろ? それくらいは簡単な筈だ」
マティアスの要求を魔物は鼻で嗤った。
「ヒトらしい生活か。お前の知らない土地で職を得て、知らない者たちと友になり、知らない女と結婚して子を作る。そう言う生活か?」
マティアスの胸が抉られ、再び涙が溜まる。しかしもうウィルバートは自分を覚えてはいないのだ。森を這いずり回り、獣に喰われてしまうより、温かい家で家族を持ち穏やかに暮らして行く方が何倍も良い。
そこにマティアスが居ないとしても。
「……そうだ」
マティアスは涙を零しながら言った。それを見て魔物は頷いた。
「よし、では決まりだ。名を名乗り、我に要求と対価を申せ」
魔物が手をかざす赤い光が広い部屋全体を照らした。
その光は赤紫の炎に変わり、マティアスに着けられている鉄の手枷と足枷が燃え上がった。それはまるで綿を燃やした時の様にあっさりと燃え尽きた。
手足が自由になったマティアスは立ち上がるとまっすぐに背筋を伸ばして宣言した。
「我が名はマティアス・ユセラン・アルヴァンデール。三年ごとに伸ばした髪を対価に、九年間、ウィルバート・ブラックストンの命を守り、人らしい生活に導く事を要求する」
するとマティアスの身体全体が赤紫の炎に包まれた。あの時と同じように熱さは感じない。空中に浮いていた魔物はマティアスの正面に降り立つとゆっくりと口を開いた。
「我が名は、バルヴィア。対価を受け取り、その願い聞き入れよう」
「なっ!」
その名を聞いてマティアスは驚いた。
「ま、待て!」
「契約成立じゃ」
13
あなたにおすすめの小説
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
うちの鬼上司が僕だけに甘い理由(わけ)
藤吉めぐみ
BL
匠が勤める建築デザイン事務所には、洗練された見た目と完璧な仕事で社員誰もが憧れる一流デザイナーの克彦がいる。しかしとにかく仕事に厳しい姿に、陰で『鬼上司』と呼ばれていた。
そんな克彦が家に帰ると甘く変わることを知っているのは、同棲している恋人の匠だけだった。
けれどこの関係の始まりはお互いに惹かれ合って始めたものではない。
始めは甘やかされることが嬉しかったが、次第に自分の気持ちも克彦の気持ちも分からなくなり、この関係に不安を感じるようになる匠だが――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる