やがて光りの王となり

雉村由壱

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【 第二章 】異国の仕立て屋と黒衣の王

娼館

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「ねぇカイ、アルヴァンデールにはいつ立つの?」

 寝台に腰かけ身支度を整えていたカイは、突然女からそう言われ黒い瞳を見開いた。
 女は裸で寝台にうつ伏せで横たわり顔をこちらに向けニヤリと笑う。白く艶めかしい背中に長い金髪が流れている。

「どこで知ったんだ?」
「ふふっ、遊び女あそびめの情報網はすごいのよ」

 そうはぐらかされるが、この女にはいつも心を読まれているのではないかと思わされる。本当は既に旅立つ日も知ってて言っているんじゃないだろうかとカイは思った。

「何も言わずに行くつもりだったの? 薄情ね」

 女がクスクス笑う。

「今言おうと思ってたんだ」

 カイは苦笑いしながらそう答えた。
 本当にそうするつもりだった。都合よく甘えさせて貰ったのだ。別れる際は礼くらい言おうと思っていた。

 彼女はミランダ。この娼館でカイが贔屓にしている娼婦だ。長い金髪と控えめな胸とさっぱりした性格が気に入っていた。

 ミランダと会うまでは金も無いので娼婦ではないそこら辺の娘を口説いては関係を持っていた。カイの黒い瞳と黒い髪と整った風貌があれば、女に不足することは無かった。適度に伸ばした顎髭あごひげと、伸び過ぎて適当に後ろへ流している前髪にも女達は色気がある言ってくる。

 カイは特に金髪の女が好みだった。だが行為の最中に相手の顔が見えると何故かガッカリした気分になる。皆そこそこの顔だったのだが、どの娘にも本気になることは無く、逆に本気になられてトラブルになることもしばしば。

 結局、女の身体だけを欲しがる酷い男なのだと言う自覚もあった。

 ミランダはこんな場末の娼館ではあり得ない程の美女だが、それでもやはり顔が見えると萎える。しかし彼女は怒ったりすることなくカイの好きにさせてくれた。しかも一夜の金額も破格だった。
 『貴方は顔が良いから私も楽しめる』などと言っていたが好意や執着は微塵も感じなかった。実に不思議な女だ。

「明後日には立つ予定なんだ」
「そう」

 微笑みを湛えて返事をするミランダにカイは(やっぱりこの女、知ってるな)と思った。

「君には感謝してるよ」
「フフ、私も楽しかったわ。また会うこともあるかもね」
「そうだな」

 次にこの国に戻るのはいつになるか分からない。もう彼女とは会うことは無いだろうが、カイは挨拶程度にそう答えた。

 身支度を済ませ出口へ向かった。
 ミランダはローブを羽織っただけの姿で見送ってくれた。

「じゃ、行くよ」
「ええ、素敵な出会いを」

 扉を閉めるその一瞬、手を振る彼女の瞳が赤く光ったような気がした。気になったがもう会うことは無い女だ。カイはそのまま娼館を後にした。

 外は日が昇り始めていた。
 季節は春の初め。冷たい朝の空気を頬で切り、長めの黒髪をなびかせる。カイは静かな街道を早歩きで進んだ。
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