やがて光りの王となり

雉村由壱

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【 第二章 】異国の仕立て屋と黒衣の王

フォルシュランド②

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「カイにもう気持ちが無いと言ったら嘘になるけど……、好きでもない人と結婚するのが幸せだとは思えないわ。アルト兄さんにもそう伝えたの。私、ここに残っても結婚する気は無いって」

 ニーナは十九歳。きっと友人たちの半数以上は既に嫁ぎ、残りも嫁ぎ先が決まっていない者はほぼいないだろう。もしかしたらアルトはこのまま行き遅れの妹を実家に住まわせるよりは、ヨエルに同行させた方が親戚縁者の目から遠ざけられて良いと考えたのかもしれない。

「それにヨエル兄さんもカイも独身でしょ? 所帯を持ってたら出来ないような挑戦をしようとしてる。私もそこに混ぜて欲しいの! きっと役に立てるわ!」

 ニーナは目をキラキラと輝かせた。ヨエルの向上心に近いものを感じる。兄妹というものは実によく似ている。

「ヨエルは男だ。経営が軌道に乗った時、結婚しようと思えば出来る。でも君は女だ。後で結婚したいと思っても難しくなる」

「好きな人となら結婚したいけど、私には結婚が人生の目的じゃないの。ねぇ、カイは知ってる? アルヴァンデールの今の王様、もう二十代半ばなのに独身だそうよ。でも凄い敏腕で若いのにどんどん改革してるんですって!」

 カイもアルヴァンデール王国については調べていたので知っていた。しかしカイがそれを知った時、『国王と言う立場で結婚しないなんて、なんて無責任な奴』と言う印象だった。

 そもそもただの商人の娘が異国の王様に憧れて結婚を拒否するのはかなり馬鹿げている。しかし、ニーナがただ自分を追いかけて来るわけではなく、それなりに覚悟を決めての行動であるならば、もはやカイに止める権利もない。

「わかったよ。考えがあっての事ならいいんだ」

 カイの答えにニーナはニカッと可愛らしい笑顔を浮かべた。

「私、頑張るから! これからもよろしくね!」

 ニーナとの話を終えてダイニングに戻るとヨエルがコソコソ聞いてきた。

「で? 諦めてくれたか?」
「……来るって」
「なっ! お前、ちゃんと説得しろよ!」
「いや、俺目当てで来る訳じゃないみたいだから。なら止める権利は俺には無いだろ。他人の人生に口は出せないよ。実の兄ならともかく?」

 カイはそう言って“ニーナの兄”を見た。
 ヨエルはぐぬぬ、と息を詰まらせると席を立った。

「ニーナ、ちょっとよく話そう!」

 ヨエルが台所に居るニーナを呼びに行く。
 カイはテーブルに置かれたパンを取り、齧りながら兄妹の動向を見ていた。


「で、どうなった?」

 アールグレーン家長男のアルトが在庫の生地やボタンなどのパーツを餞別に分けてくれると言うのでヨエルとカイはアルトについて倉庫で物品を見ていた。その時アルトがニヤニヤしながら聞いてきた。

「兄さん、なんでニーナに行っていいって言ったんだよ……」

「いいなんて言ってないぞ。『ヨエルが良いって言うならいいぞ』って言ったんだ」

「そんな丸投げな……」

「いやだってさ、あいつ言い出したら聞かないし、嫁にも行かずこの家に居座られるよりいいかなって」

 どうやらカイの予想は当たっていたようだ。

「あと五年もしてニーナが完全に行き遅れたら、カイも貰いやすくなるだろう?」

 アルトがそう言ってカイにニヤけた視線を向けてくる。

「俺は結婚しませんよ。一人だけを一途に、ってのが無理なので」

 カイは物品を物色しながら答えた。『あげる』と言われてノコノコ来たが、在庫品だけあってあまり良いものがない。どれも古臭く流行遅れの印象だ。

「アハハハ、奇遇だなぁ。私もだよ」

 既に結婚して子供が三人もいるのにアルトがそう笑う。

「ま、そう言わず、連れてってやってくれよ」

「あま、普通に使えるとは思うけどさ……」

 ヨエルか渋々応える。兄なりに妹を心配しているのだろうが、確かに家事をしてくれる人がいるのは助かる。

 カイはそう考えながら掌サイズの小箱を手に取り開けた。

「アルト、これも頂けますか?」

 中身を見せるとアルトは「おっ!」と驚いて声を上げた。

「そんなのあった?」

 中身は黒真珠で出来たボタンだった。真珠を二つに割り、半球状にして台座に固定してある。台座の形状もシンプルで流行を追ってない分、今でも十分に使えそうだ。

「良いの見つけたなぁ。いいよ。持って行って」

「ありがとうございます」

 カイは礼を言ってその箱を持って行く荷物へ入れた。


 翌々日、三人は荷馬車に大量の荷物を積んでアルヴァンデール王国へと出発した。

「なんか、こんなに積んでいると山賊に襲われそうね……」

 ニーナが不安げに荷台を見つめる。

「まあ、フォルシュランドからアルヴァンデール王国までの街道は比較的治安が良いから大丈夫だと思うけどね」

 ヨエルはそう答えた。
 一応護身用の剣も持っている。

(人数によるけど、大抵は俺一人で倒せると思うしなぁ)

 カイは口には出さないが、かつて放浪していた頃の事を思い出していた。

 森で暮らしている時、賊に襲われたことがある。その賊達は思ったより弱く、一人から剣を奪ってしまえば、カイ一人で全員を倒せた。

(むしろ荷物一式手に入って好都合だったなぁ)

 そんな事をぼんやりと考えながら、カイはアルヴァンデール王国に向けて、馬車を走らせた。
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