134 / 208
【 第三章 】やがて光りの王となり
決意①
しおりを挟む
翌日、カイはハラルドから馬車を借り領主の屋敷へと向かった。
幌の中ではマティアスが毛布に包まり横になっている。さすがにマティアスを寝巻きのまま領主宅へ連れて行くわけにもいかないのでハラルドの服を借りた。着ることは出来たが袖もズボンもだいぶ丈が足りてない。
マティアスは昨日の水浴びで体力を使ってしまったらしく昨晩から微熱が続いていた。やはり傷は深いらしい。今日は静養すべきだとカイは言ったが、マティアスは今日行くと言って聞かなかった。確かに治癒魔法で完治出来れば静養も必要無くなるのだが。
やはりマティアスはあの魔術師に治癒を依頼するつもりなのだろうかとカイは不安にだった。『会ってみないことには』とマティアスは言っていたが、それはつまり抱かれても良いと思える相手なら依頼すると言うことなのだろうか。
魔術師がでっぷりと太り脂ぎった中年男なら嫌がるかもしれないが、あの魔術師はマティアスに引けを取らないほどの美形だった。あれならマティアスも応じてしまうような気がしてくる。
領主の屋敷が近づき、カイは耐えられず馬車を停めた。
「な、なぁ!」
幌を捲り上げ、荷台で横たわるマティアスの横に座った。マティアスは不思議そうに毛布から顔を出した。
「今すぐ治ったとしても、ここからはフォルシュランド経由で帰るしかないんだ。しかも徒歩だ。二ヶ月か、もしかしたらそれ以上かかるかもしれない。冬に森や山を越えるのは健康体であっても危険だ。結局どこかで冬を越すことになる可能性もある。ルーカスが心配なのはわかるが、今日明日で国に辿りつける訳じゃない。だから……だからさ!」
カイがまくし立てるように、だが言葉を詰まらせながらそう言うとマティアスはゆっくり起き上がった。
「心配してくれてるんだな、ありがとう。……だが、私は自分よりも民を優先に考えねばならない立場だ。ルーカスの件を差し置いても、私の不在期間は出来るだけ短くすべきだと思う。私への反対勢力が主犯格ならなおさらだ……」
カイは歯をギリッと鳴らした。マティアスは余程の事情がない限りもうあの魔術師の治癒を受けるつもりなのだと分かった。
「ウィル……あのさ、我儘を聞いて欲しいのだが……」
うつむくカイにマティアスがさらに続ける。顔を上げてその緑の瞳を見るとそこには威厳に満ちたアルヴァンデールの王ではなく、ただのマティアスが不安そうな顔でカイを見つめていた。
「私が治癒を受ける時、側にいてくれないか。見知らぬ男に好き勝手されるのは……正直、怖い」
それは他の男に抱かれている所を見ていろと言うことで……。それはカイにとっては何よりの苦痛になると想像できた。だが、マティアスも苦痛であるのだ。その苦痛を一緒に耐えて支えて欲しいと頼まれている。
カイは深く深く深呼吸し、「分かった」と言った。
「お待ちしておりました。さあどうぞ」
領主宅の執事がそう出迎え、カイとマティアスは顔を見合わせた。今日来ることを知っていたような言い方に薄気味悪さを感じつつ、二人は二階奥の部屋へと案内された。
執事が扉をノックし、「お二人をお連れしました」と言うと中から「どうぞ」と声がした。執事は扉を開け二人を中へと促すとそのままお辞儀をし立ち去った。
広いが何もない部屋。大きな窓を背にし、ポツンと置かれた革張りの一人掛けのソファに男は座っていた。外からの光を背負い顔はよく見えない。
「先日、治癒していただきましたレオンと申します。命を助けていただきありがとうございました」
マティアスが魔術師に向かい丁寧に礼を述べる。
「起き上がれるようになったようだね。まだ体調は悪そうだが」
逆光でも魔術師がニヤリと嗤うのがわかった。
「その男から完治の方法を聞いて来たのだろう? さあ、どうする?」
早速本題に入る魔術師にカイは苛立ち、無意識に魔術師を睨んだ。
「少しお聞きしたいのですが」
マティアスが尋ねると魔術師は「どうぞ」と手を差し出し質問を促してきた。
「治癒魔法が使えるということは、貴殿はこの国の王家や貴族に仕えてらっしゃるのですか」
「私は誰の下にもつかないよ」
マティアスの質問に魔術師はサラリと答える。
その質問でカイは気付いた。マティアスが治癒魔法を受けるかどうか魔術師に会って決めると言ったのは、もしこの者がバルテルニア王家と関わりがあり、マティアスがアルヴァンデールの王だとバレた場合、抱かれたことが弱みになる可能性を考えて、では無いだろうか。
カイはマティアスが好みで決めるのではないかと低次元なことを考えていた己が恥ずかしくなった。
「そうですか……。身体を繋ぐ治癒というのはどこの系統の魔術なのですか?」
「系統? んー、私の独自かなぁ」
「独自!? 独学で骨を接ぐほどの魔術を!?」
マティアスが驚き声を上げた。
魔術の知識が全くないカイにはよく分からない話で、ただマティアスの横で黙って聞いているしかない。
「しかし……身体を繋いで治癒をする原理がよく分からないのです」
「なに、簡単な理だよ。ヒトの仔から溢れる生気を取り込み傷へと流すだけだ」
「よ、妖精を介さないのですか……?」
「そなたはその小さいのに好かれておるな。うざったく無いのか? 常に視界を飛んでおるだろう」
カイはマティアスが妖精にビーズを拾わせていた光景を思い出した。金色の光に包まれ実に美しかった。しかしこの魔術師が治癒で見せた魔術は炎だった。つまり二人は系統が全く違うらしい。
「レオン、こちらの方がレオンを治療した時、紫っぽい炎が出たんだ。傷口が燃えるように」
カイは何となく一情報としてマティアスにそれを伝えた。しかしマティアスはカイのその言葉を聞くとバッとカイの方を向いた。
「赤紫の炎?!」
「あ、ああ。そうだ」
マティアスの剣幕にカイは驚きつつ返事をした。
幌の中ではマティアスが毛布に包まり横になっている。さすがにマティアスを寝巻きのまま領主宅へ連れて行くわけにもいかないのでハラルドの服を借りた。着ることは出来たが袖もズボンもだいぶ丈が足りてない。
マティアスは昨日の水浴びで体力を使ってしまったらしく昨晩から微熱が続いていた。やはり傷は深いらしい。今日は静養すべきだとカイは言ったが、マティアスは今日行くと言って聞かなかった。確かに治癒魔法で完治出来れば静養も必要無くなるのだが。
やはりマティアスはあの魔術師に治癒を依頼するつもりなのだろうかとカイは不安にだった。『会ってみないことには』とマティアスは言っていたが、それはつまり抱かれても良いと思える相手なら依頼すると言うことなのだろうか。
魔術師がでっぷりと太り脂ぎった中年男なら嫌がるかもしれないが、あの魔術師はマティアスに引けを取らないほどの美形だった。あれならマティアスも応じてしまうような気がしてくる。
領主の屋敷が近づき、カイは耐えられず馬車を停めた。
「な、なぁ!」
幌を捲り上げ、荷台で横たわるマティアスの横に座った。マティアスは不思議そうに毛布から顔を出した。
「今すぐ治ったとしても、ここからはフォルシュランド経由で帰るしかないんだ。しかも徒歩だ。二ヶ月か、もしかしたらそれ以上かかるかもしれない。冬に森や山を越えるのは健康体であっても危険だ。結局どこかで冬を越すことになる可能性もある。ルーカスが心配なのはわかるが、今日明日で国に辿りつける訳じゃない。だから……だからさ!」
カイがまくし立てるように、だが言葉を詰まらせながらそう言うとマティアスはゆっくり起き上がった。
「心配してくれてるんだな、ありがとう。……だが、私は自分よりも民を優先に考えねばならない立場だ。ルーカスの件を差し置いても、私の不在期間は出来るだけ短くすべきだと思う。私への反対勢力が主犯格ならなおさらだ……」
カイは歯をギリッと鳴らした。マティアスは余程の事情がない限りもうあの魔術師の治癒を受けるつもりなのだと分かった。
「ウィル……あのさ、我儘を聞いて欲しいのだが……」
うつむくカイにマティアスがさらに続ける。顔を上げてその緑の瞳を見るとそこには威厳に満ちたアルヴァンデールの王ではなく、ただのマティアスが不安そうな顔でカイを見つめていた。
「私が治癒を受ける時、側にいてくれないか。見知らぬ男に好き勝手されるのは……正直、怖い」
それは他の男に抱かれている所を見ていろと言うことで……。それはカイにとっては何よりの苦痛になると想像できた。だが、マティアスも苦痛であるのだ。その苦痛を一緒に耐えて支えて欲しいと頼まれている。
カイは深く深く深呼吸し、「分かった」と言った。
「お待ちしておりました。さあどうぞ」
領主宅の執事がそう出迎え、カイとマティアスは顔を見合わせた。今日来ることを知っていたような言い方に薄気味悪さを感じつつ、二人は二階奥の部屋へと案内された。
執事が扉をノックし、「お二人をお連れしました」と言うと中から「どうぞ」と声がした。執事は扉を開け二人を中へと促すとそのままお辞儀をし立ち去った。
広いが何もない部屋。大きな窓を背にし、ポツンと置かれた革張りの一人掛けのソファに男は座っていた。外からの光を背負い顔はよく見えない。
「先日、治癒していただきましたレオンと申します。命を助けていただきありがとうございました」
マティアスが魔術師に向かい丁寧に礼を述べる。
「起き上がれるようになったようだね。まだ体調は悪そうだが」
逆光でも魔術師がニヤリと嗤うのがわかった。
「その男から完治の方法を聞いて来たのだろう? さあ、どうする?」
早速本題に入る魔術師にカイは苛立ち、無意識に魔術師を睨んだ。
「少しお聞きしたいのですが」
マティアスが尋ねると魔術師は「どうぞ」と手を差し出し質問を促してきた。
「治癒魔法が使えるということは、貴殿はこの国の王家や貴族に仕えてらっしゃるのですか」
「私は誰の下にもつかないよ」
マティアスの質問に魔術師はサラリと答える。
その質問でカイは気付いた。マティアスが治癒魔法を受けるかどうか魔術師に会って決めると言ったのは、もしこの者がバルテルニア王家と関わりがあり、マティアスがアルヴァンデールの王だとバレた場合、抱かれたことが弱みになる可能性を考えて、では無いだろうか。
カイはマティアスが好みで決めるのではないかと低次元なことを考えていた己が恥ずかしくなった。
「そうですか……。身体を繋ぐ治癒というのはどこの系統の魔術なのですか?」
「系統? んー、私の独自かなぁ」
「独自!? 独学で骨を接ぐほどの魔術を!?」
マティアスが驚き声を上げた。
魔術の知識が全くないカイにはよく分からない話で、ただマティアスの横で黙って聞いているしかない。
「しかし……身体を繋いで治癒をする原理がよく分からないのです」
「なに、簡単な理だよ。ヒトの仔から溢れる生気を取り込み傷へと流すだけだ」
「よ、妖精を介さないのですか……?」
「そなたはその小さいのに好かれておるな。うざったく無いのか? 常に視界を飛んでおるだろう」
カイはマティアスが妖精にビーズを拾わせていた光景を思い出した。金色の光に包まれ実に美しかった。しかしこの魔術師が治癒で見せた魔術は炎だった。つまり二人は系統が全く違うらしい。
「レオン、こちらの方がレオンを治療した時、紫っぽい炎が出たんだ。傷口が燃えるように」
カイは何となく一情報としてマティアスにそれを伝えた。しかしマティアスはカイのその言葉を聞くとバッとカイの方を向いた。
「赤紫の炎?!」
「あ、ああ。そうだ」
マティアスの剣幕にカイは驚きつつ返事をした。
5
あなたにおすすめの小説
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
うちの鬼上司が僕だけに甘い理由(わけ)
藤吉めぐみ
BL
匠が勤める建築デザイン事務所には、洗練された見た目と完璧な仕事で社員誰もが憧れる一流デザイナーの克彦がいる。しかしとにかく仕事に厳しい姿に、陰で『鬼上司』と呼ばれていた。
そんな克彦が家に帰ると甘く変わることを知っているのは、同棲している恋人の匠だけだった。
けれどこの関係の始まりはお互いに惹かれ合って始めたものではない。
始めは甘やかされることが嬉しかったが、次第に自分の気持ちも克彦の気持ちも分からなくなり、この関係に不安を感じるようになる匠だが――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる