やがて光りの王となり

雉村由壱

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【 第三章 】やがて光りの王となり

想い②

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 一瞬で燃え消えるヴィーを見送ると家の中からバタバタと階段を降りる音が響いてきた。そしてバンッと玄関扉が開くとマティアスがもの凄い勢で飛び出してきた。

 マティアスは玄関脇に立っていたカイに気付かず、そのまま階段を駆け降りて家の前の通路に走り出た。そして髪を振り乱し通路の左右を必死に見ている。

 明らかに自分を探しているのだろうと思い、カイは声をかけた。

「マティ……」

 声を発したと同時にマティアスの身体が金色に光り輝き、そしてスウッと光が消えると共にマティアスもその姿を消した。

「マ、マティアスッ?!」

 突然のことにカイは慌てて階段を転げるように降り、マティアスのいた場所に走り、辺りを見回す。しかしそこには静かな夜の森しか無い。

「あぁ……っ!」

 カイは頭を抱えオロオロと家の周りを走り回りマティアスを探した。するとそれほど経たずして目の前が金色に光り輝き、眩しさに目を凝らすとその光の中心にマティアスが姿を現した。

「ウィルッ!」

 マティアスはすぐさまカイに抱きついてきた。

「い、いかないでっ! 何でもするからぁっ!」

 カイは唖然としながらしがみつくマティアスを見つめた。

「く、空間移動……か……?」

 マティアスが顔を上げる。月明かりに照らされたその顔はまた涙で濡れていた。

「お、お願い……側にいて……っ」

「マティアス……」

 必死に訴えてくるマティアスをカイは安堵と共に抱きしめ、頭を撫でながら耳元で囁いた。

「ここ、どこだか分かるか?」

「え……あれ……?」

 カイが顔を上げてマティアスを見ると、濡れたエメラルドの瞳は丸太小屋を見つめて呆然としていた。

「俺が一人で出て行ったと思ったのか?」

 カイが少し笑いながらそう尋ねるとマティアスはカイの胸の中で嗚咽を漏らし始めた。

「驚かせちゃったな。ごめん」

 カイはマティアスの背中を擦り謝った。

 今の現象は以前マティアスとヴィーが話していた妖精に空間を超えて運んでもらう術だろう。
 妖精たちは少しでもマティアスが望んでいなければそれを叶えないと言っていた。だから術を使ってアルヴァンデール王国に帰ることは出来なかったのだが、今の移動は完全にマティアスがカイの側に行きたいと望んだと言うことだ。

 カイの胸にマティアスへの愛おしさが溢れた。

「裸足じゃないか。ほら、中に入ろう」

 カイはマティアスを担ぐように抱き上げると玄関先の階段を登った。マティアスは抱きかかえられながらすすり泣き、カイの背中に必死にしがみついていた。

 丸太小屋の中に入り、暖炉前のラグにマティアスを降ろした。暖炉の残り火に細い枝を焚べ、急いで火をおこす。

 マティアスは寒さからか、カイが居なくなったと思ったからか、小刻みに震えていた。

「マティアス。ごめん、不安にさせた」

 カイは涙で濡れた頬を撫でながらその頬に軽いくちづけをし、その震える身体を抱き締めた。マティアスは首を横に振りながらカイの胸にしがみついてくる。

「け、軽蔑されてもっ、恨まれても仕方ないって……分かっているっ……」

 カイはさらにマティアスをきつく抱き締め、耳元で囁いた。

「マティアス、事実を知っても俺の気持ちは変わらない。ずっとそばにいる」

「で、でもっ!」

 マティアスはカイの胸から顔を離し見つめてきた。

「私は、ウィルの……大事な家族の記憶まで……奪ってしまったんだっ」

「……俺にも、家族がいたのか?」

「……ウィルの家族は『黒霧の厄災』で皆亡くなって……。ウィルはボルデ村の生き残りだ。そんな大事な記憶なのに………っ! 家族をもう一度殺してしまったようなものだっ」

 カイにとって家族がいたと言うのは嬉しい情報だった。既に死んでしまっているのは残念ではあるが。『黒霧の厄災』で犠牲になったとすると、子供の頃に既に失っていた事になる。その後マティアスに出会ったことを予想すると、過去の自分がマティアスを好きになり愛し執着した理由が分かる気がした。

「マティアス。そんなに何もかも罪の意識を背負わなくていい」

 泣き過ぎて真っ赤に腫れたマティアスの瞳を見て、頬を手の甲で優しく撫でた。

「処刑か記憶剥奪かで記憶剥奪を選んだのは正解だったんだ。だってこうしてまた出会えたんだから! それに、俺でも同じことをするよ。ここに来てお前が瀕死で医者も見つからなかった時、俺は何でもいいから助ける方法は無いかと考えてた。きっとそれと同じだったんだ」

「ウィル……」

「マティアス、祖国を危険に晒してしまった事も一人で背負うな。俺にも背負わせてくれ。……一緒に帰ろう」

 暖炉の炎が強く燃え上がり薪が爆ぜる音がする。炎の灯りで照らされたマティアスの顔を見つめてカイはさらにその言葉を口にした。

「俺はどんな形であれお前の側にいる。お前がそれを許さなくてもな」

 それを聞いた途端、マティアスは目を見開きさらに涙を溢れさせた。

「ハハッ、もう泣きすぎだ。目が溶けちまうぞ」

「うん……ごめんっ……」

カイは再び泣くマティアスを抱き寄せ背中を撫でた。
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