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【 第三章 】やがて光りの王となり
震⑤
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「じゃあ、うちで食事していきなさい」
ヘルガの突然のその言葉にマティアスは喉から「へ?」と裏返った声が出た。
「その飛竜に乗っていくならすぐ着くでしょう? 少し位出発が遅れてもいいじゃない。すぐ用意するから」
ヘルガはそう言うとマティアスの返事を待つこと無くスタスタと家に戻っていく。
「へ、ヘルガさんっ! で、でもっ」
マティアスは一刻も早くバルヴィア山へ向かいたかった。アルヴァンデールの被害状況は分からないが時間が経てば経つほど当然被害は広がる。焦るマティアスの肩にウィルバートが手を乗せた。
「マティアス、そうさせてもらおう。俺たち、今朝から何も食べてない。この後を最善に乗り切るならば準備は怠るべきじゃない」
ウィルバートの言葉にマティアスはハッとした。これは言わば戦だ。短時間であっても出来る限りの準備や装備を整えるべきだ。幼少から散々習ってきたことなのに冷静さを欠いていた。
「わかった。そうしよう」
マティアスはヘルガの後を追い歩きながら、ダンに声をかけた。
「ダン、この村にも魔術の杖を持っている人はいるか? できれば提供してもらいたい。あと、ウィルにも剣が欲しい」
「わ、わかった! 探してくるよ!」
ダンは頷き走りながら近くにいたマルコや若者たちに声をかけはじめた。それを見ながらマティアスとウィルバートも急ぎハラルドの家に入った。
「何も用意してなかったから大したもの無いけど」
マティアス達が家に入るとヘルガが次々と料理や食べ物を出してきた。同じ二人暮らしなのにどうしてこうも料理の作り置きや保存食が大量にあるのかいつも疑問だ。
「いえ、十分過ぎますよ。私の料理は三通りくらいでしたから、久しぶりの豪華な食事です」
「でも頑張って作ってくれてたよな」
マティアスが苦笑いで言うとウィルバートが優しく微笑んで褒めてくれた。
「そうね、レオンは慣れないなりに毎日頑張ってたわねぇ」
ヘルガにも褒められてマティアスは胸の奥がくすぐったくなった。
「経験の無いことばかりで……。でも、とても楽しかったです」
マティアスは涙を堪えて笑顔で答えた。
「さあさあ、どんどん食え」
ハラルドがそう言って二人にパンの入った籠を差し出してきた。
「はい、いただきます」
久しぶりに食べるヘルガが焼いたパンは素朴で温かかった。
しっかりと食事を取るとウィルバートはハラルドと共に一旦丸太小屋に行った。途中になってしまった仕立ての仕事をそれぞれ村人たちに返してもらう為と、家に残った食材の説明など諸々だ。
マティアスはウィルバートを待ちながらゆっくりヘルガの料理を味わっていた。
「髪、編んであげる」
ヘルガがそう言って櫛とリボンを持って来た。
「ありがとうございます」
ヘルガが優しい手つきで髪を梳かしてくれる。ウィルバートとは違う小さく柔らかな手だ。
「良く手入れされてるわねぇ」
「あ、ウィルがやってくれてて」
「ふふ、大事にされてるわねぇ」
「あ……はい……」
何となく二人の関係が見破られている気がしてマティアスは耳が熱くなるのを感じた。
「……ヴィーが来た時ね、『選んで生まれた土地でも無いのに、そこに執着するヒトの仔は実に馬鹿で、実に可愛い』って言われたわ」
ヘルガはクスクス笑いながら、マティアスの髪を編んていく。
「本当よね……おばあちゃんになると頭が固くなるのよね。もっと柔らかく考えられれば、あなたたちともっと楽しい時間が過ごせたのに……本当に馬鹿よね……」
マティアスは何と返したら良いか分からなかった。ヘルガは悪くない。何も言わずに家に居座った自分の方が断然悪い。しかしマティアスは自身がアルヴァンデールの王である事を悪いとは言いたくない。
「ヘルガさん……私は、息子さんに生きていて欲しかったし、お会いしてみたかったです……」
そう言うのがマティアスの精一杯だった。ヘルガは「フフッ」と笑い、それから静かに続けた。
「……ヴィーも関わってるのね」
「……はい」
ヘルガにもう嘘をつく必要も無いとマティアスは思った。
「あの子が人でないのは分かってたわ。あの子が来ると妖精たちが皆隠れるもの。でもヴィー自体は無邪気でとても良い子」
マティアスは静かに頷いた。
「レオン、まずは自分の命を優先に。それで、もし余裕があったらでいいから、あの子も助けてあげて……」
「はい。やってみます」
マティアスは自分の一人の力で何が出来るか分からないが、多くの人が自分を支えようとしてくれていると感じた。
「はい! 出来た!」
ヘルガはそう言うと手を離した。マティアスの金髪はきっちりと編み込まれ、編み終わりの毛先には青いリボンが結ばれていた。以前バルヴィアがこの家で髪に着けていたものだ。
「ありがとうございます」
マティアスはその青いリボンを見つめ微笑んだ。
ヘルガの突然のその言葉にマティアスは喉から「へ?」と裏返った声が出た。
「その飛竜に乗っていくならすぐ着くでしょう? 少し位出発が遅れてもいいじゃない。すぐ用意するから」
ヘルガはそう言うとマティアスの返事を待つこと無くスタスタと家に戻っていく。
「へ、ヘルガさんっ! で、でもっ」
マティアスは一刻も早くバルヴィア山へ向かいたかった。アルヴァンデールの被害状況は分からないが時間が経てば経つほど当然被害は広がる。焦るマティアスの肩にウィルバートが手を乗せた。
「マティアス、そうさせてもらおう。俺たち、今朝から何も食べてない。この後を最善に乗り切るならば準備は怠るべきじゃない」
ウィルバートの言葉にマティアスはハッとした。これは言わば戦だ。短時間であっても出来る限りの準備や装備を整えるべきだ。幼少から散々習ってきたことなのに冷静さを欠いていた。
「わかった。そうしよう」
マティアスはヘルガの後を追い歩きながら、ダンに声をかけた。
「ダン、この村にも魔術の杖を持っている人はいるか? できれば提供してもらいたい。あと、ウィルにも剣が欲しい」
「わ、わかった! 探してくるよ!」
ダンは頷き走りながら近くにいたマルコや若者たちに声をかけはじめた。それを見ながらマティアスとウィルバートも急ぎハラルドの家に入った。
「何も用意してなかったから大したもの無いけど」
マティアス達が家に入るとヘルガが次々と料理や食べ物を出してきた。同じ二人暮らしなのにどうしてこうも料理の作り置きや保存食が大量にあるのかいつも疑問だ。
「いえ、十分過ぎますよ。私の料理は三通りくらいでしたから、久しぶりの豪華な食事です」
「でも頑張って作ってくれてたよな」
マティアスが苦笑いで言うとウィルバートが優しく微笑んで褒めてくれた。
「そうね、レオンは慣れないなりに毎日頑張ってたわねぇ」
ヘルガにも褒められてマティアスは胸の奥がくすぐったくなった。
「経験の無いことばかりで……。でも、とても楽しかったです」
マティアスは涙を堪えて笑顔で答えた。
「さあさあ、どんどん食え」
ハラルドがそう言って二人にパンの入った籠を差し出してきた。
「はい、いただきます」
久しぶりに食べるヘルガが焼いたパンは素朴で温かかった。
しっかりと食事を取るとウィルバートはハラルドと共に一旦丸太小屋に行った。途中になってしまった仕立ての仕事をそれぞれ村人たちに返してもらう為と、家に残った食材の説明など諸々だ。
マティアスはウィルバートを待ちながらゆっくりヘルガの料理を味わっていた。
「髪、編んであげる」
ヘルガがそう言って櫛とリボンを持って来た。
「ありがとうございます」
ヘルガが優しい手つきで髪を梳かしてくれる。ウィルバートとは違う小さく柔らかな手だ。
「良く手入れされてるわねぇ」
「あ、ウィルがやってくれてて」
「ふふ、大事にされてるわねぇ」
「あ……はい……」
何となく二人の関係が見破られている気がしてマティアスは耳が熱くなるのを感じた。
「……ヴィーが来た時ね、『選んで生まれた土地でも無いのに、そこに執着するヒトの仔は実に馬鹿で、実に可愛い』って言われたわ」
ヘルガはクスクス笑いながら、マティアスの髪を編んていく。
「本当よね……おばあちゃんになると頭が固くなるのよね。もっと柔らかく考えられれば、あなたたちともっと楽しい時間が過ごせたのに……本当に馬鹿よね……」
マティアスは何と返したら良いか分からなかった。ヘルガは悪くない。何も言わずに家に居座った自分の方が断然悪い。しかしマティアスは自身がアルヴァンデールの王である事を悪いとは言いたくない。
「ヘルガさん……私は、息子さんに生きていて欲しかったし、お会いしてみたかったです……」
そう言うのがマティアスの精一杯だった。ヘルガは「フフッ」と笑い、それから静かに続けた。
「……ヴィーも関わってるのね」
「……はい」
ヘルガにもう嘘をつく必要も無いとマティアスは思った。
「あの子が人でないのは分かってたわ。あの子が来ると妖精たちが皆隠れるもの。でもヴィー自体は無邪気でとても良い子」
マティアスは静かに頷いた。
「レオン、まずは自分の命を優先に。それで、もし余裕があったらでいいから、あの子も助けてあげて……」
「はい。やってみます」
マティアスは自分の一人の力で何が出来るか分からないが、多くの人が自分を支えようとしてくれていると感じた。
「はい! 出来た!」
ヘルガはそう言うと手を離した。マティアスの金髪はきっちりと編み込まれ、編み終わりの毛先には青いリボンが結ばれていた。以前バルヴィアがこの家で髪に着けていたものだ。
「ありがとうございます」
マティアスはその青いリボンを見つめ微笑んだ。
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