やがて光りの王となり

雉村由壱

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【 番外編 】

Homunculus [9]

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 城に戻り馬車から降りると沈み始めた陽が城壁を赤く染めていた。

「すみませんが一つ持ってきていただけますか」

 馬車に積まれた二つある木箱の内一つに手をかけると馭者が慌てた様子で答えてくる。

「いえ、二つともお運び致します!」
「いや、一つ持っていただければ、」
「いえいえ! ウィルバート様に荷物運びなど!」

 こういう時に己の立場の変化を見せつけられる。自分が偉くなったと勘違いし傲慢にはなりたくない。さっさと一つ持っていってしまおうと思った時、夕暮れの赤い視界の端に金髪が写った。

 マティアスの金色の髪とよく似た輝き。だがその持ち主はマティアスよりも一回り身体が大きい。そしてその広い背中を小さく丸めてコソコソと門の外を伺っているように見えた。

「あー……では二つともお願いします。私の部屋に置いといてください」

 ウィルバートはやや迷いつつも馭者に荷物運びを頼み、その金髪の男の元へ向った。

「……クラウス殿下?」
「お! おおっ、ウィルバート殿かっ」

 ウィルバートが声を掛けるとクラウスはビクリ身体を震わせ、驚いたように振り向いた。

(この人、ちょっと苦手なんだよなぁ……)

 声を掛けるべきか迷ったが、ただならぬ様子に無視もできなかった。しかし振り向いたその風貌にうっすらとした恐怖心が湧く。あくまでうっすらなのだが。それはクラウスが先王イーヴァリの生き写しだからだ。この顔を見ると十八歳になる前のマティアスに手を出しイーヴァリの怒りを買って、光の剣で処刑されそうになったことを思い出す。

「このような所で何をされておいでですか」

 ウィルバートの問いにクラウスは城門の外に再び目を向けた。

「いかん、見失う! ウィルバート殿、少し付き合ってくれ」

「は?」

 クラウスは戸惑うウィルバートに構うことなくその腕を掴むとグイグイ引っ張っていく。

「ちょっ、お待ちください、殿下!」

 マティアスの叔父であるが似ているのは髪色だけ。ウィルバートと同じくらいの背丈だが筋肉量はウィルバートよりも多い。何より時を渡り二十一年前からやってきたのでマティアスの叔父とは言えまだ十九歳。有り余る熱量と傲慢さで他人がどう思おうがお構い無しだ。

(マティアスが本当に似なくて良かったよ……)

 ウィルバートの元上官であるアーロン・クランツは昔、「マティアス様もいずれクラウス様のように雄々しくなられる」と言っていた。その当時はクラウスを肖像画でしか見たことがなかったが、実物を見て心底似てないと思った。

(でも、自分勝手な所は少しにてるかも?)

 クラウスはウィルバートを引っ張ったままグイグイ進み、城の外まで出てしまった。
 南に面した正門からはすぐに城下町が広がる。夕暮れ時の街は市場が店じまいを始め、道路を歩く人々も家路を急いでいる。そんな人々の間をクラウスは縫うように進んでいく。長身に光り輝く金髪。夕闇に紛れても目立つ容姿に人々が振り返っていた。
 腕は離してもらったが、城の外に王子を一人で置いて帰る訳にもいかず、ウィルバートは仕方なくクラウスの後に着いて歩いた。

「殿下、どこへ向かわれているのか教えていただけますか」
「どこへ向かっているか、私にもわからん」
「は?」

 こちらを見ずに答えるクラウスにウィルバートの不信感は増す。

「アーロンを追っている」
「隊長をですか? またなぜ?」

 その質問にクラウスは鋭い視線ウィルバートに向けてきた。今まで全然こちらを見もしなかったのに。

「あいつはっ! 用があるからと私との食事を断ったのだ!」
「は、はぁ……」
「私より優先すべき用など存在するか?! 有り得ないだろう!」

 あまりの剣幕にイーヴァリの面影を感じ、首根っこがゾワゾワとした。しかし今注目すべき所はそこではない。

「あいつ……月に二回は部屋に来るって言ってたのに……それすら来なくなって……しまいにはこれだっ……」

 ブツブツと恨み節を吐くクラウスにウィルバートは内心驚きながらも平静を保つよう努めた。

(まさか、隊長とクラウス殿下がそういう関係だったとは……)

 しかしどうやらクラウスはアーロンに振られる寸前のようだ。昔の関係はウィルバートの知るところではないが、アーロンは現在三十半ばだ。十九歳のこのワガママ王子を相手にするのはなかなか厳しいだろう。

「クラウス殿下は隊長を慕ってらっしゃるのですね」

 ウィルバートが苦笑いを浮かべつつそう口にするとクラウスは「ふんっ」と鼻を鳴らした。そして視線を前方に戻すと様子を伺いながらさらに歩いていく。その視線の先には確かにアーロンらしきオレンジの髪をした人影が見えた。

「あいつが私に惚れてるんだ。なのにちっとも素直にならない。いつもそうだ」

「あー……左様でございますか……」

 その『いつも』は二十年前の話なのだろう。ウィルバートはクラウスを少し不憫に思った。二十年も経つと人は変わる。特に十五、六の少年だったアーロンと、今の近衛兵隊長のアーロンではほぼ別人だろう。もちろん、変わらない部分もあるとは思うが。
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