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妖精界の騒乱

26話 龍達による大規模襲撃

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  ズドドドドドドド!

 雪を巻き上げながら漫画走りを快調に続ける。
 おーっし、あのノッポの山まであと少しだ。
 
 「ムスカリ君、この辺りの事は良く知っているのか?」
 背中にしがみつく銀髪の少年に尋ねる。

 「うーん、よく知らない」
 うん?ここに住んでいたのにこの辺りの事を知らないのか?
 まあ、年齢も若そうだし、知らないってこともあるか。

 もちろん、僕はムスカリ君に関しても何も知らない。知ろうにも妖精界、メルシアの事について前提知識が僕に無さすぎるので質問しようにもできない。相手がまだ小さい少年であるなら尚更だ。

 まあ、僕の実体はこの世界の事を良く知っているようだが、都合よく知識が湧いてくるわけではない。たまに無意識に何となく分かる時がある、といった程度だ。

 いずれにせよ、瞑想による答えでこの子と出会ったのだ。
 何かしら女神様の意図する事があるのだと思う。
 この子を保護してほしかったのだろうか?

 「そうか。僕もこの世界の事は何も知らないよ。仲間だな!」
 僕は野蛮な感じでへらへら笑いながら言った。子供相手になるとついノリが軽くなる。

 「.......................」
 おや、どうした?ムスカリ君が沈黙した。
 仲間と言われるのが心外だったか?

 


 「ぐす.......うぅ............ぐす......ひっく......」
 ムスカリ君泣き出したよ。何か地雷でも踏んだか?

 「メグル.................僕ね。人間の事を........ぐす......ずっと悪い奴らだって教えられて育ってきたんだ。でも、メグルみたいな......ひっく.....人間もいるんだね」
 人間を悪い奴らとして教わってきたか....あまりショックは受けない。確かに、略奪戦争だらけの世界史を知れば素敵な存在と思う方が難しいだろう。
 それにしても...........この言い方、ムスカリ君は人間ではないのか?

 「ありがとう。きっと、ムスカリ君だっていい人間なんだと思うよ。全ての人間が悪いわけではないさ」
 この流れで、君も人間なんだろ?とはストレートに聞きづらい。遠回しにムスカリ君について探る言葉を口にした。

 「僕は............自分が何なのか分からないんだ。母さんや父さんも人間なのか分からない」
 ボソッとムスカリ君が口にする。

 「え!?それってどういうこと??」
 
 「人間だった頃のことは覚えてる。だから、今の僕は自分を人間だと思ってるんだけど、そうじゃないのかも。あ、でも、みんなを殺していったあの妖精は僕達を”人間の出来損ない”って言ってた」

 ムスカリ君は人間だった頃の記憶があるのか!?もしかして、それってアースで人間をやってた僕と同じじゃないのか?え、元々、人間だったのなら、なんで人間を悪い奴らだって教わってきたのか....それに、人間の出来損ない??話を聴くほど謎は深まる一方だ。

 「人間の出来損ないってひどいな。昔から、他の人をバカにする奴の方がバカだって相場は決まってるぜ。気にするなよ」

 「....................うん」
 ムスカリ君は呟いた。何だか煮え切らない感じである。

 
 ズドドドドドド!!
 お!目の前に谷が迫っている。幅は40mほどか。問題ない。これまでもこれぐらいの谷は飛び越えてきた。周式大ジャンプにて飛び越えて見せよう。

 「しっかり掴まれよ!」
 僕はノミの如き跳躍力で谷を飛び越えるイメージを描いた。
 ドドド......メグルいっきま~す!!とうっ!
 体が空へと吸い込まれるように飛び上がり、谷底を見れば川が流れるのが見渡せ、天を仰ぎ見れば龍の大きな口が迫ってくるのが伺え.........

 ギャーーーーーーー!!!

 バクッ!
 
 僕は龍の上下の顎に挟まれ、食われまいと抵抗する!
 両手で上の牙を抑え、両足で下の牙を抑える。嫌だぁー!!臭そう!思わず息を止める。
 ていうか、お前たち食事は摂る必要ないんじゃないのか?いや、そう思っているけど実はそうじゃなかったりして......それとも噛み殺すためだけの行動?うわ、噛み殺されるとか言葉のインパクト強すぎ....背中にしがみついてるムスカリ君は大丈夫か?刺激強すぎてPTSDになったりしないだろうな。

 一瞬の内に、色んな思考が錯綜する。
 どうするどうする?

 あ....................そうだ、転移しよう。さっきの大ジャンプの着地点に立っているイメージをした。
 その瞬間、僕は大ジャンプに成功していた場合の着地点にいた。
 
 谷を覗き込むと、谷底の方へと垂直に急降下していく赤い龍が見えた。
 僕は今さっきまであいつの口腔内こうくうないにいたのか。

 ムスカリ君もいるし、今は逃げるが勝ちだな。
 この子が今どんな心境か知らないが、確認するのは危機を脱してからだ。

 目的地に向かおうと後ろを振り返ると............

 龍の牙が迫っていた。

 うわ!一体だけじゃないのか!?
 赤い龍に襲われてすぐだったので、2匹目の龍に対しては冷静でいられた。

 僕は今の場所から10mほど上空に転移した。

 フ...

 上空に出現し、元居た場所を見下ろした。

 茶色の龍が谷の方へ駆け、噛みつきのためにヘッドスライディングを決めていた。
 吹雪で視界が悪いが、見える。

 バッサバッサ.....ん、何か飛ぶ音がするぞ?

 空からさらに黒い龍が襲ってくる!?
 こっちに向けた喉の奥を黄色く光らせながら。

 ウ、ウソだろ!?雷光線出すの?今出すの?飲み会の後、友人が電車の中でゲロ吐きそうなのを見て焦るのと同じ心境だ。

 見下ろした時に見えた森の中に転移するイメージを浮かべる。
 
 フ...

 森の中に転移した。
 ドッカァアァアアアアン!!

 ギャーーーーー!!!
 10mほど離れた場所に雷光線が着弾し、衝撃で僕たちは吹き飛ばされる。
 両手を後ろに回し背負っているムスカリ君を支えながら吹き飛ぶ。

 しまった......ブレスと同じ方向に転移してしまった。
 ムスカリ君にも魔法障壁をかけてあるから大丈夫だと思うが......

 「大丈夫か!?」

 「................」

 恐怖で気絶してるのか。
 どおりで静かだと思った。ケガをしてなければいいのだが。
 心配だが、今は龍地獄を脱するのが先だ!!
 
 目的地に向かってるかは分からないが、ひとまず森の中で隠れつつ必死に前進する。
 空を見渡せば.......3頭どころじゃない。1、2、3、4、5、6..........




 まあ、なんていうことでしょう。

 上空を観ただけでも50匹ぐらいの龍がいらっしゃるじゃないですか。
 げんなり.......これは軽く死ねるな。

 え?一斉にこっちに口を開けた?雷光線で吹き飛ぶ様子を見られてたか....
 50匹前後の龍の喉の奥が光り出す。
 森の中に隠れたから一斉掃射ってわけ!?
 こいつらに自然への愛は無いのか。絶対に逃がしてなるものかという気迫を感じる。

 クソッ!そーいう事ならこっちも絶対に逃げ延びてやるよ!!
 
 しかし、どうしたらいいんだろう。
 
 ポクポク......チーン!あ、閃いた。

 近くに川があったよな。
 川の水が盛り上がり川の上空にいる龍達を飲み込むイメージをした。
 直後に、上空の様子を伺う僕の視界にも川の水が上空の龍5匹ほどに襲い掛かるのを観た。
 もちろん、ダメージは見込めないだろう。
 だが........
 龍達全員が反射的に川の方へとブレスを向けた。

 直後に、ズガァーン!!ドゴォオォオオオン!ズガガガガァ!だの、轟音が響き渡る。
 きっと川は跡形もなく破壊されてるだろうな。
 
 あいつら僕が転移するのを見てた。だから、川の方で動きがあれば川に転移して何かの魔法を使ったと思うだろう。
 
 その隙に、僕はこの場から脱出するぜ!!

 


 と、進行方向へと視線を戻すと.................

 



 信じられないほど美しい女性が立っていた。

 ザ・氷の女王。
 というような外見である。輝くような青い髪色で色白の妖艶な顔、氷で出来ているかのような輝くドレス。左右にスリットが入っていて美しい足が垣間見える。
 
 「あんたここは危ないぞ!龍達が上空にいるんだ!!」 

 「.......え?...ウ、ウソ....!?あんなに多くの龍達が集まるなんて....あなたはどうするの?一緒に逃げましょう!!」
 美しい女性がこちらに手を差し伸べた。
 気絶したムスカリ君を背負っているのでその手を取ることができないが、首を縦に振って頷き、彼女と共に走りだした。

 振り返ってみると、僕たちが逃げ出した途端、龍達が退散していくのが見える。
 え?何でだろう?さっきの、絶対に逃がすまいという気迫はどこにいったのか?
 まあ、いいや。
 
 今は目の前の美しい女性と共に行こう。
 
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