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人類の見守り役
33話 アースの人間を影響する訓練
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俺たちは森の中にいた。
アガパンサが正気に戻ったので雪は早々と融けてきている。それに従い、森の本来の美しさが戻ってきたらしい。
妖精界の森の木々は、透明感のある青、黄色、ピンク、緑など様々な色の葉っぱが調和したようについている。花は様々な色があるが、その全てが薄っすらと光り輝いていた。
妖精族の心の美しさの反映だろうか?
いやいや、確かに森は美しい。が、それどころじゃないだろ。
ないぞ。村が無い。
ムスカリ君のいた村に転移してきた.......はずだった。
着てみたら森の中じゃないか。
「あれ........おかしいな。この高台からの景色は見覚えがある。ここに村があったのは間違いないんだが」
俺は頭を掻きながら、周囲の木々を見渡す。
「実は、私、この近辺に人間の住んでいる村があるって聴いた事がないんです......」
ニルバナさんがおずおずと切り出した。
「私もそうよ」
アテナさんも同意する。
母さんも村が無いか見渡しているが、見つからないようだ。
ムスカリ君はというと........村が無くなった事に混乱して泣きそうになっている。
育った村なのだろうから、それが無くなるショックは大きいだろう。
少しでも落ち着けるよう、俺はムスカリ君の頭を撫でる。
村が消えたか。
古代の物が紛れ込み偶然出現したのであれば、確かに、またどこかに行ってもおかしくない。ただ、ムスカリ君は消えていない。
何らかの理由で村が現れ、ムスカリ君を俺が保護した後、村そのものは消えた。
この事は何を意味するのだろう?
今、俺は..............
ムスカリ君が「自分は”前は”人間だった」「人間は悪い存在だと教えられてきた」と言っていた事。それらを思い起こしていた。
この事実を考えると、ムスカリ君はアースから直接来たわけではなく、別の世界に移動し過ごしたのちに、このメルシアに出現したと考えるのが自然だ。
普通に考えれば、人間は悪い存在だと教え込まれたのは、アース以外の世界でのことだろう。
様々な疑問を整理すると..........一つの結論にいきつく。
「なあ、アガパンサ。別の世界と、このメルシアがごちゃ混ぜになる事ってあるのか?」
「っ!?.....そ、そうですね。そのような事例は最近、確認されていました。ミストラス大陸の辺境の地でアースで観られるようなビル群が発見され、その後、消えたり、メルザル大陸の森林地帯で中世ヨーロッパの城が発見され、それもまた消えたりなどです」
アガパンサは驚いた様子でこれまで知った事例について話す。
眠りから目覚めてからやけに頭の回転がいいような気がする。
エルトロン効果なのか?
「となると、アースと同じような真相界も存在してるってことになるな」
仮相界にあるものがそのまま真相界に来ることはないだろうと考えると、自然とそうなる。
「はい。あります!その世界の名前はマルフィです。アースで生活してきた人間達の意識が作り上げた実体の世界です」
そうか。となると、本来、ムスカリ君のいた村はマルフィにあり、様々な世界に出現している可能性がある。
まずはマルフィに行ってみるか?とはいっても、マルフィにムスカリ君の家族がいるか分からないのだが............
「マルフィに行く事って可能か?」
「おそらく........周さんには難しいかもしれません。マルフィはアースに執着を残した人間の行く下層の真相界です。無自覚かもしれませんが、周さんはすでに神の領域に足を踏み込んでいるお方です。精神的距離がありすぎて、直接、行くことは不可能でしょう。
おそらく、この中にいるメンバーの中では、ムスカリ君以外、行く事のできる存在は居ないと思われます」
アガパンサは美しい顔を俯かせ、なぜか申し訳なさそうに言う。
あれ?母さんは行けないのか?疑問に思ったが、まあいいや。別の方法を聴こう。
「そ、そうなのか。何か方法があったりするのか?」
「はい、あります。マルフィに近い、下層の真相界にいる誰かの潜在意識に入り込み、その方に行ってもらうという方法がございます。相手の意識を完全に操作することはできませんが、慣れると強い影響力を行使することができるでしょう」
そうなのか。何だか難しそうだな.........
「めぐ君!アガパンサ様ならきっと、やり方を手取り足取り教えてくれるよ!そうですよね、アガパンサ様?」
母さんがアガパンサに対してやけに馴れ馴れしい。
まあ、俺もアガパンサに対し、様も使わず、敬語すら使ってないが。
それにしても、なんだよ、手取り足取りって........
「えっ!!あっ.....あの....はい。そのためにアースの人間に対して影響力を与える立場に立ってみるのが練習に良いと思います....」
アガパンサらしかぬたどたどしさだ。
なぜか、頬を紅潮させている。か..可愛い....。
それにしても、母さんに対して何か萎縮してないか?
本当に何があったんだ。
「それは俺としても本当にありがたい。ぜひ、頼むよ」
「はい!それでは、ひとまず私の別宅に行きましょう。先ほどの私邸は色々な事情により壊れてしまったので......」
なに!?もう一つ家があるのか。まあ、この広大な土地だし、場合によっては建材すらもいらないんだから持っていてもおかしくないか。
「ムスカリ君、あともう一つの辛抱だからな。家族も別の世界で生きてるさ、必ず会わせてやるからな!」
俺はムスカリ君を抱き寄せ、頭をグリグリ撫でた。
ムスカリ君は笑顔を見せてくれた、少し元気が出たようである。
アガパンサは俺たちを周りに集める。
「おや?アガパンサも転移できるの?」
「はい。私の実体は神の領域にあるらしく、転移を行うことができます」
アガパンサが目を閉じると、その瞬間........
センスの良い美しい大部屋が目の前に広がっていた。
室内にはすごい光沢のあるソファー、ルビーのような輝きを湛えた木製の大机、トパーズのような輝きの椅子などがある。
右側には大窓があり、そこからは淡い虹色が揺らめくような美しい海が広がっている。
左側も一部が大窓であり、そこからは透明感のある光を発する花畑が見えた。
息を飲むような美しさである。
妖精達二人は、尊敬するアガパンサ様の家ってことで、きゃいきゃい喜んでいる。
「みなさん、ご自由にご寛ぎください。周さんはこちらへどうぞ」
アガパンサは俺をソファーへと案内してくれた。
光沢を放つソファーに座る。
え!?
何だこのソファー。座った途端に心が包まれるような安心感がある。物にも実体があるってことで、ソファーの性質が精神に直接作用してきたらしい。
アースの家具も目指す所はこういう所だったよなと考えさせられる。物的制約がある以上、難しいとは思うけども。
まあ、今はアガパンサとの訓練に集中だ!
隣にアガパンサが座る。
青く輝くドレスのスリットから美しい足が見えて困る。
しかも、アガパンサからは甘くて冷涼感のあるいい香りがする....。
「神の領域に到達した人間がアースの人間に影響力を行使するにあたって、特別な環境はいりません。リラックスした精神があれば十分です」
ソファーはリラックス効果あるけど、アガパンサは興奮効果のが大きい気がする。
「そうなのか。分かった。やり方を教えてくれ」
心臓を高鳴らせながらボソボソと伝える。
「まず私と手を繋ぎ、眼を閉じてください。
暗闇の中に真っ白の大画面があるのをイメージしてください。次に、その大画面の前で立っている感覚をイメージしてください」
俺はそうする。
すると、すぐに俺の意識はイメージの中に入り込んだらしい。
暗闇の中、目の前には白い大画面がある。隣にはアガパンサがいる。
「はい。成功しましたね!流石です。」
微笑みを浮かべつつ、俺の手を取り、アガパンサは自分の存在を俺に確認させる。
イメージの中に入り込んだ。
自分にこんな面白いことが出来るとは思わなかった。
「実際の俺たちは、さっきの部屋で目を瞑って座ってる状態なのか?」
俺は暗闇の中、周囲を見渡しながらアガパンサに聴いた。
「いえ、さっきの部屋から私達は姿を消し、文字通り、イメージの中に入り込んでいます。神の領域に踏み込んだ存在のイメージには強い実体があり、私達は実際にその中にいます。
他のみなさんの事はご安心ください。妖精達はこうなる事を知っていますから」
口元に手をあててふふっと笑いながら言う。
では、早速、始めます。
アガパンサは続けてそう言うと、目の前の大画面には.........
上空から見た都会らしき街並みが映っていた。
俺が住んでいた場所の近所だ。空からでも分かる。
アースにある《JR横浜駅 》の周辺の景色が映っている。
アガパンサが正気に戻ったので雪は早々と融けてきている。それに従い、森の本来の美しさが戻ってきたらしい。
妖精界の森の木々は、透明感のある青、黄色、ピンク、緑など様々な色の葉っぱが調和したようについている。花は様々な色があるが、その全てが薄っすらと光り輝いていた。
妖精族の心の美しさの反映だろうか?
いやいや、確かに森は美しい。が、それどころじゃないだろ。
ないぞ。村が無い。
ムスカリ君のいた村に転移してきた.......はずだった。
着てみたら森の中じゃないか。
「あれ........おかしいな。この高台からの景色は見覚えがある。ここに村があったのは間違いないんだが」
俺は頭を掻きながら、周囲の木々を見渡す。
「実は、私、この近辺に人間の住んでいる村があるって聴いた事がないんです......」
ニルバナさんがおずおずと切り出した。
「私もそうよ」
アテナさんも同意する。
母さんも村が無いか見渡しているが、見つからないようだ。
ムスカリ君はというと........村が無くなった事に混乱して泣きそうになっている。
育った村なのだろうから、それが無くなるショックは大きいだろう。
少しでも落ち着けるよう、俺はムスカリ君の頭を撫でる。
村が消えたか。
古代の物が紛れ込み偶然出現したのであれば、確かに、またどこかに行ってもおかしくない。ただ、ムスカリ君は消えていない。
何らかの理由で村が現れ、ムスカリ君を俺が保護した後、村そのものは消えた。
この事は何を意味するのだろう?
今、俺は..............
ムスカリ君が「自分は”前は”人間だった」「人間は悪い存在だと教えられてきた」と言っていた事。それらを思い起こしていた。
この事実を考えると、ムスカリ君はアースから直接来たわけではなく、別の世界に移動し過ごしたのちに、このメルシアに出現したと考えるのが自然だ。
普通に考えれば、人間は悪い存在だと教え込まれたのは、アース以外の世界でのことだろう。
様々な疑問を整理すると..........一つの結論にいきつく。
「なあ、アガパンサ。別の世界と、このメルシアがごちゃ混ぜになる事ってあるのか?」
「っ!?.....そ、そうですね。そのような事例は最近、確認されていました。ミストラス大陸の辺境の地でアースで観られるようなビル群が発見され、その後、消えたり、メルザル大陸の森林地帯で中世ヨーロッパの城が発見され、それもまた消えたりなどです」
アガパンサは驚いた様子でこれまで知った事例について話す。
眠りから目覚めてからやけに頭の回転がいいような気がする。
エルトロン効果なのか?
「となると、アースと同じような真相界も存在してるってことになるな」
仮相界にあるものがそのまま真相界に来ることはないだろうと考えると、自然とそうなる。
「はい。あります!その世界の名前はマルフィです。アースで生活してきた人間達の意識が作り上げた実体の世界です」
そうか。となると、本来、ムスカリ君のいた村はマルフィにあり、様々な世界に出現している可能性がある。
まずはマルフィに行ってみるか?とはいっても、マルフィにムスカリ君の家族がいるか分からないのだが............
「マルフィに行く事って可能か?」
「おそらく........周さんには難しいかもしれません。マルフィはアースに執着を残した人間の行く下層の真相界です。無自覚かもしれませんが、周さんはすでに神の領域に足を踏み込んでいるお方です。精神的距離がありすぎて、直接、行くことは不可能でしょう。
おそらく、この中にいるメンバーの中では、ムスカリ君以外、行く事のできる存在は居ないと思われます」
アガパンサは美しい顔を俯かせ、なぜか申し訳なさそうに言う。
あれ?母さんは行けないのか?疑問に思ったが、まあいいや。別の方法を聴こう。
「そ、そうなのか。何か方法があったりするのか?」
「はい、あります。マルフィに近い、下層の真相界にいる誰かの潜在意識に入り込み、その方に行ってもらうという方法がございます。相手の意識を完全に操作することはできませんが、慣れると強い影響力を行使することができるでしょう」
そうなのか。何だか難しそうだな.........
「めぐ君!アガパンサ様ならきっと、やり方を手取り足取り教えてくれるよ!そうですよね、アガパンサ様?」
母さんがアガパンサに対してやけに馴れ馴れしい。
まあ、俺もアガパンサに対し、様も使わず、敬語すら使ってないが。
それにしても、なんだよ、手取り足取りって........
「えっ!!あっ.....あの....はい。そのためにアースの人間に対して影響力を与える立場に立ってみるのが練習に良いと思います....」
アガパンサらしかぬたどたどしさだ。
なぜか、頬を紅潮させている。か..可愛い....。
それにしても、母さんに対して何か萎縮してないか?
本当に何があったんだ。
「それは俺としても本当にありがたい。ぜひ、頼むよ」
「はい!それでは、ひとまず私の別宅に行きましょう。先ほどの私邸は色々な事情により壊れてしまったので......」
なに!?もう一つ家があるのか。まあ、この広大な土地だし、場合によっては建材すらもいらないんだから持っていてもおかしくないか。
「ムスカリ君、あともう一つの辛抱だからな。家族も別の世界で生きてるさ、必ず会わせてやるからな!」
俺はムスカリ君を抱き寄せ、頭をグリグリ撫でた。
ムスカリ君は笑顔を見せてくれた、少し元気が出たようである。
アガパンサは俺たちを周りに集める。
「おや?アガパンサも転移できるの?」
「はい。私の実体は神の領域にあるらしく、転移を行うことができます」
アガパンサが目を閉じると、その瞬間........
センスの良い美しい大部屋が目の前に広がっていた。
室内にはすごい光沢のあるソファー、ルビーのような輝きを湛えた木製の大机、トパーズのような輝きの椅子などがある。
右側には大窓があり、そこからは淡い虹色が揺らめくような美しい海が広がっている。
左側も一部が大窓であり、そこからは透明感のある光を発する花畑が見えた。
息を飲むような美しさである。
妖精達二人は、尊敬するアガパンサ様の家ってことで、きゃいきゃい喜んでいる。
「みなさん、ご自由にご寛ぎください。周さんはこちらへどうぞ」
アガパンサは俺をソファーへと案内してくれた。
光沢を放つソファーに座る。
え!?
何だこのソファー。座った途端に心が包まれるような安心感がある。物にも実体があるってことで、ソファーの性質が精神に直接作用してきたらしい。
アースの家具も目指す所はこういう所だったよなと考えさせられる。物的制約がある以上、難しいとは思うけども。
まあ、今はアガパンサとの訓練に集中だ!
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青く輝くドレスのスリットから美しい足が見えて困る。
しかも、アガパンサからは甘くて冷涼感のあるいい香りがする....。
「神の領域に到達した人間がアースの人間に影響力を行使するにあたって、特別な環境はいりません。リラックスした精神があれば十分です」
ソファーはリラックス効果あるけど、アガパンサは興奮効果のが大きい気がする。
「そうなのか。分かった。やり方を教えてくれ」
心臓を高鳴らせながらボソボソと伝える。
「まず私と手を繋ぎ、眼を閉じてください。
暗闇の中に真っ白の大画面があるのをイメージしてください。次に、その大画面の前で立っている感覚をイメージしてください」
俺はそうする。
すると、すぐに俺の意識はイメージの中に入り込んだらしい。
暗闇の中、目の前には白い大画面がある。隣にはアガパンサがいる。
「はい。成功しましたね!流石です。」
微笑みを浮かべつつ、俺の手を取り、アガパンサは自分の存在を俺に確認させる。
イメージの中に入り込んだ。
自分にこんな面白いことが出来るとは思わなかった。
「実際の俺たちは、さっきの部屋で目を瞑って座ってる状態なのか?」
俺は暗闇の中、周囲を見渡しながらアガパンサに聴いた。
「いえ、さっきの部屋から私達は姿を消し、文字通り、イメージの中に入り込んでいます。神の領域に踏み込んだ存在のイメージには強い実体があり、私達は実際にその中にいます。
他のみなさんの事はご安心ください。妖精達はこうなる事を知っていますから」
口元に手をあててふふっと笑いながら言う。
では、早速、始めます。
アガパンサは続けてそう言うと、目の前の大画面には.........
上空から見た都会らしき街並みが映っていた。
俺が住んでいた場所の近所だ。空からでも分かる。
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