輪廻を終える方法~無限進化と創造神の法則~

たぶり

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人類の見守り役

35話 初めてやる人間の見守り役

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 「石橋まる子の行動に影響を与えるには、精神に直接働きかけるのが良いでしょう。
 その方法は、対象に意識を向け、してほしい行動を念じるだけです。
 それは言葉でもイメージでも大丈夫です」
 こちらに向かって優しく微笑みながら、アガパンサは教えてくれる。


 あ.......でも、何を語り掛けたらいいかな。

 確か、石橋さんは”人に気を使えるようになる”っていうのが課題点なはず。であれば、無愛想だったり、人に気を使えてない部分が克服できるような語り掛けが大切になるのか。

 お、丁度、お客さんに呼ばれて石橋さんが注文を取りにいったぞ。
 その様子を見てみよう。

 石橋さんを呼んだのは二人の中年の夫婦だ。

 「いらっしゃいませ....ご注文をどうぞ」
 石橋さんは無愛想に言う。

 「タラコスパゲッティと.........えーっと......」
 奥さんが注文しているが、呼んだにも関わらずメニューを決めかねていたようだ。

 石橋さんは元々無愛想だった顔がさらに険しくなる。
 おいおい、大丈夫か?

 と、その瞬間............

 石橋さんの周辺に赤黒いオーラが出現し、体を包み込んだ。
 うわ!!なんだこれ...

 《アガパンサ、これは一体なんだ?》
 異様な光景に思わずアガパンサに聴く。

 《石橋まる子の感情が乱れ、低層の真相界の影響を受けやすくなった事を意味します。この赤黒い色はパーゲトルでしょう》

 パーゲトルか!母さんの家で読んだ、アースの歴史に書いてあった世界だな。それにしても、なんでだろう。パーゲトルと聴くと胸が締め付けられる感じがする。

 俺がパーゲトルの事に思いを巡らせていると.......


 チっ!!!

 あ、石橋さん、苛立ちすぎて舌打ちしちゃった。
 こりゃ大変だ。

 ん.........?でも、石橋さん、舌打ちした後に”しまった!”っていう顔をしたぞ。
 まるで自分の意志でやったわけじゃないような感じだ。

 しかし、メニューを眺めている奥さんの顔は目に見えて不機嫌になる。
 同様に、赤黒いオーラが体を取り巻き始めた。

 「......なにも舌打ちすることないでしょ!!こんな酷いお店出ましょ!」
 奥さんは立ち上がり出口へと向かった。
 それに続いて夫も立ち上がり、お店から出ていった。

 後に残された石橋さんは動揺している。
 可哀そうだな......
 あの赤黒いオーラの事もあり、なんか訳ありっぽいし。
 
 んん?
 
 同僚のウエイターと見られる男性が、立ち尽くす石橋さんを心配しているな。
 多分、ご夫婦が機嫌を害してお店を出た事は知っていても、石橋さんが舌打ちしたことは知らないだろう。

 石橋さんに声をかけようか迷っているようだ。
 その男性は水色っぽい綺麗なオーラが出ていた。
 
 あ!閃いたぞ。
 なぜか知らんが、これは行ける気がする。
 
 俺は同僚男性の精神にイメージで念じてみた。

 石橋さん、大丈夫だよ。あのご夫婦は機嫌が悪かったんだ。ただ、笑顔で対応するともっと良かったかもね。誰でもこういう事あるから気にしないようにね。

 と、同僚男性が石橋さんに優しく声をかけているイメージを浮かべた。
 石橋さんの未来にとってもっとも大切な事を、この男性を通じて示唆する作戦である。

 スタスタ。

 おお!同僚男性が動きはじめた。ぐっじょぶ!

 そして、石橋さんに声をかける。

 「石橋さん、君は笑顔が足りないよ。あれじゃ相手が怒っても仕方がないな。ただ、今回のご夫婦は機嫌が悪かったみたいだね。まあ、こういう事ってよくあるから」

 ぐわー!!
 少しきつめの言い方に変換されてるけど、まあ........何となく俺のイメージした事に近い。
 石橋さんは、君は笑顔が足りないよ、と、いきなり言われてカチンと来たようだが、すみません.....とぶっきらぼうに呟いた。


 同僚の男性の言い方が、俺のイメージした感じの言い方では無かったのでモヤモヤする。

 ただ、なぜ正確に俺のイメージ通りにならなかったのかはよく分かる。
 これはエルトロンの感覚なのだろうか?
 
 
 過去、石橋さんが積み上げてきた周囲との関係性と、石橋さんが持つ他人に対するイメージに原因がある。
 第一に石橋さんに対して同僚が優しい言葉をかけるだけの関係を、石橋さんは築けていなかった。
 その関係性から観て不自然なほどの影響を与えることはできない。

 例えるなら、親友でない人間に親友のようなセリフを言わせることはできないってことだ。


 もう一つ、石橋さんが他人に対して持つイメージだ。

 石橋さんは厳しい親に育てられたものだから、”人間とは厳しいものである”という思い込みがある。変な思い込みの事を偏見と言っても良いだろう。

 この偏見があるせいで、石橋さんに接する相手が、《石橋さんが持つ人間へのイメージ通り》に振る舞ってしまう事が増えてくるのだ。
 エルトロンの知識によると、神のイメージに実体があるように、人間が持つイメージにも力がある。それは相手の振る舞いすら変えるらしい。

 人間は厳しいものだと思い込んでいる人間には、人から厳しくされる事が増えるということだ。
 また相手が厳しくなるような振る舞いをするし、厳しい人とも出会いやすくなる。
 
 だから、石橋さんが持つ人間に対するイメージに沿って、俺の”同僚の男性が石橋さんに優しく忠告しつつ励ます”イメージが少し変換されてしまった。

 ただ、この法則が全てと言うわけではなく、その人物のカルマによっても周囲の人間の対応は変わってくるとエルトロンの知識にある。

 
 うん、まあ、初めての試みにしては上等な結果だろう。

 「今のは周さんが影響力を行使したのですか?」
 俺の様子を見ていたアガパンサが感心したように言う。

 「ああ、そうだよ」

 「初回から成功されるとは......すごいですね。人間に対して共感がある事の強みなのでしょうか。私の場合は、担当しているのが国など地域全体の人間への影響ですので、個人に対する語りかけはあまり得意ではないのです。あまり応えてくれなかったことが多いですね」
 蒼く輝く髪を揺らしつつ、首を横に振って言う。
 その様子は、少し寂しそうだ。

 確かに、アガパンサを見ていると、人間への共感があるとは言い難い。石橋さんの事を石橋まる子と呼んでいる辺り、やはり自分とはかけ離れた存在として人間を観ている。
 その精神的距離が、こうした働きかけが成功しづらい要素を作っているのだろうと思った。

 まあ、担当している場所が違うのだから苦手で仕方がないのだが。


 エルトロンは対個人への働きかけを担当していたのだろうか?

 あれ、そういえば........

 「俺がやったのと同じような事をしている人達って他にも沢山いるのか?」

 「沢山おります。実質的には、真相界にいる全ての存在がそうだと言えるでしょう」

 え!?まじかよ。いるとは思っていたけど、全ての存在がそうだとは思わなかった。
 俺の驚いた顔を観て、アガパンサが上品に笑いながら言った。

 「ふふっ......ただ、周さんのように意図的にアースの人間に影響を与えている人は全体の1割満たないと思います。
 アースで守護霊と言われるようなガイド役をしている者、または真相界で友人であった者がアースで転生した者を導いたりなど、伝えきれないほど色々な立場の方達がいます。
 他の9割は、自由に真相界で過ごした結果、自然と、アースの人間の行動に影響を与えているケースが大多数です」

 続けて、アガパンサが話してくれた。

 「ちなみに、さっきの赤黒いオーラが出現した時、石橋まる子がお客さんに失礼行為を働きましたね。
 あれはパーゲトルにいる誰かが石橋まる子の行動に影響を与えていました。
 それが意図的なものか、そうでないかは分かりませんが.......」

 やはり、さっきのは石橋さんによる行動じゃないのか。
 思ったよりも、アースの人間は他の世界からの影響を受けながら暮らしているのが分かった。

 「そういえば、石橋さんの同僚の男性からは水色っぽい綺麗なオーラが出ていたんだが....」

 「それは、人間が誰かを哀れんだり、助けようと思っている時に出るオーラです。水色は主にニンファルや、場合によっては、その上の界であるメルシアの存在が影響を与えやすい精神状態を示しています。ただ、オーラの質に関しては思いの強さ以上に、哀れみや助けたいという気持ちの動機が関係しています」
 
 水色はメルシアの存在が影響を与えやすいのか。
 だから、俺が”これはいける!”って直感したのかもしれない。

 想いの動機によってオーラが変わる......
 動機がそれほど重要とは考えたことは無かった。

 ただ、アースにいた時に、下心を持ってやった事の多くは失敗していた気がする。
 それってもしや下層の真相界にいる何者かの影響なのだろうか。

 う~ん.......

 俺が、アースにいた頃の自分の行動を思い返していると......

 「周さんは素晴らしく飲み込みが早いですね。流石です!
 では、次の場所へ行きましょうか」
 アガパンサがそう言った。

 「ああ、分かった。次はどこに行くんだ?」

 それはですね.......と、いたずらっぽく笑い、アガパンサは俺の肩に手をおいた。
 
 次の瞬間、

 目の前にはレンガ造りの家が立ち並び、その奥には城がそびえ立っていた。
 しかも、右の通りを観ると、一角を生やしたユニコーンのような馬が馬車を引いているのが見える。
 魔法使いのような姿形をした女性、肘や膝などが空いた身動きしやすそうな鎧を着た細見の男性などが普通に歩いている。

 国民的RPGのような世界が広がっている。

 一体なんだ?ここ。


 「ここがニンファルです」

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