輪廻を終える方法~無限進化と創造神の法則~

たぶり

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人類の見守り役

36話 女勇者マルファーニを解析したら....

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「ニンファルに興味がおありのようでしたのでお連れしてみました。
 この辺りの地域には魔物もいます」
 アガパンサが気をきかせてサプライズをしてくれたらしい。

 それを聴き.........
 俺は目を輝かせる!

 ふおぉぉおおおおおおおおおおお

「こんな世界があるのゲームとかアニメの中だけかと思ってたよ!!」

「うふふっ......仮相界にあるもので真相界がモデルでないものなど一つもありません。アースの人間の意識はもれなく真相界に包まれています。
 ですので、アースの人間の意識にのぼるという事は、必ず、真相界にそれに近い物があるということなんです」
 想像以上に俺が喜んでいたらしく、その様子を見てアガパンサは嬉しそうだ。

 え?まじで!?じゃあ、少年がジャンプする雑誌にある漫画のような世界も真相界にはあるのか!!?

 生きていて良かった.......

 いや、神になって良かった.....って所か。

「この世界には魔物がいるって事は、勇者とか魔王とかいるのか?」

「はい。ここにも勇者と魔王はいます。ただ、ニンファルは広大であり、他の地域においても別の勇者と魔王が多数存在しています」

 やっぱ勇者と魔王いる!しかも、いっぱい!!

「とりあえず、勇者ご一行の様子を観てみたいのだが......」

「影響力を行使する訓練もできますし、良いと思います。ちなみに、私達の姿は彼らには見えないでしょう。神の領域に足を踏み込んだ存在はニンファルのような低層の真相界で姿を現すことは難しいです」
 え?そうなのか。じゃあ、通りに立つ、今の俺たちは誰にも認識されていないってことか。

「では、勇者の所へお連れしますね」
 アガパンサが俺の肩に手を置くと......



 目の前に、水晶が美しく輝く洞窟内らしき光景が広がった。
 どの水晶も青と紫を基調に怪しく光り輝いている。

 ドゴォオオオオン!!
 うわ、なんだこの轟音。

 俺が音がする方向を観てみると、カツマラアの小型版のような5m近くの魔人が大剣を地面に叩きつけていた。

 もうもうと土煙が辺りに漂う。
 ふおぉぉお!土煙の中から、勇者らしき人物が飛び退いてきた。

 え、もしかして、女勇者なのか。
 背中まで届く黒髪が見える。髪は後ろで縛っているようだ。

 意外と鎧などは着ておらず、上は丈の短い茶色のジャケットに中はシャツなのだろうか。下はカーキ色の軍服のようなズボンとブーツ。アースの軍人のような格好だ。
 ただ、腰に剣の鞘があるのと、手にした剣が光を放っていて、それが異世界感を出している。

 勇者ご一行がいるのかと思ったが、どうやら勇者一人である。


 俺が観察している間に、女勇者はハンパない跳躍力で洞窟内の天井まで跳んだ。

 天井の水晶のつららのような物に難なく片手で掴まり、下にいる魔人の様子を伺っている。
 どうやら、土煙がたっている間に身を隠し隙を伺うことにしたらしい。


 魔人は女勇者を見失い、周囲を見渡している。

 そして、女勇者が天井から剣を構えて魔人を攻撃する動作に移った。


 魔人......殺しちまうのか?
 俺の脳裏に魔人への哀れみが湧いた瞬間。

 なぜか、俺の観ている場面がスローモーションになる。

 え?どういうことだ?女勇者がゆっくりと動いている。

 次に、赤黒いオーラが女勇者の身を包んだ。
 げ!?あれって.......


 ......

 できるかな。
 やってみよう!

 俺は、女勇者に集中し、

 ”女勇者が睡眠魔法を使い魔人を眠らせ、見逃してやる”

 というイメージを浮かべた。

 その瞬間、女勇者は殺気に満ちた顔から、ハっと我に返ったような顔をした。
 同時に赤黒いオーラは消し飛び、深紅色に金が混じったようなオーラが出現してきた。
 うん?俺の髪色と同じじゃないか。

 突然、スローモーションが解け、通常どおりに世界は動き出す。

 直後、魔法陣が魔人の足元に出現し、紫の雲のようなものが出てきて......魔人は手に握っていた大剣を地面に落とす。
 魔人はズドォオンという音をあげながら、うつ伏せに倒れ眠りに落ちた。

 女勇者は天井から地面に音もなく降り立つ。

 そして、自身の両手を不思議そうに眺めながら、「どういうこと....?」と呟いている。

 顔を見てる余裕は無かったが、正面から観てみると、目鼻立ちがスラっとした美形である。しかし、どことなく、やんちゃな印象を漂わせる好戦的な顔だ。

 戸惑っている様子を見ると、女勇者はこれまで睡眠魔法は使えなかったのか?
 それを俺が使わせたのだろうか。

 《今のは周さんが影響力を行使されたのでしょうか?》
 アガパンサが俺に聴く。

 《ああ》

 《よくあの一瞬でそのような事が出来ましたね......》

 アガパンサは神業を観たかのように感嘆の声を漏らした。
 え?アガパンサはスローモーションで観えなかったのか?
 どうやら俺だけの事らしい。

 《魔人が殺されちまう....って思った瞬間に、周りがスローモーションになったからイメージする余裕が出来たんだ》

 《スローモーションですか....?》
 やはりアガパンサはスローモーションにならなかったらしい。

 《まあ、それについては気にするな。魔人が殺されなくて本当に良かった。ちょっとあの女勇者の事を解析してみてもいいか?》

 《ええ、どうぞ!周さんは本当にお優しいですね......》
 何でか知らんが、アガパンサが俺の事をじっと見つめている。
 やめろよ。そんな綺麗な蒼い目で見つめられたら解析に集中できないじゃないかっ!

 まだ戸惑っている女勇者の内側を観るよう意識する。

 俺の脳裏に実体の姿と文字が浮き上がってきた。

 実体は銀とオレンジが混合されたような、アースには存在しない髪色を持つ容姿端麗な女神であった。
 顔はキレイというよりは可愛いという印象に近い。髪型はウェーブがかった髪が肩まで伸びている。

 -----------------------------

 実体 女神エラールユリオプス
 ニンファル顕現体 マルファーニ

 マルファーニは、ニンファルに存在するグラブダル地域において、勇者として認知されている。
 気性が荒いが能力向上への意欲が強い。敵を倒すことで己の実力が向上し、その結果、魔王を打ち倒せると信じて疑わない。

 前世、アースにて木下吾郎であった時には大人しい性格であり、恵まれた知能による冷静な判断が得意であった。その性質も手伝いアースでの人生が実り、自我を一つ抜け出すことに成功した。

 その一方、感情を出すことにより自分をコントロールできなくなる事への恐れ、自身の知能に囚われがちな点が、主な課題点として残る。

 今世、勇者としての生き方により感情のコントロールや、自身の知能を疑い、それ以上の答えを導き出す知性が得られるよう導かれている。

 なお、それらが達成出来たのであれば、ウラノスに属する、女神エラールユリオプスとしての自我を取り戻すことになる。

 ----------------------------

 《えっ!!!??》
 俺は目ん玉を飛び出させながら脳裏に浮き出た個人情報を読む。

 う、ウソだろ?まじか。

 この女勇者、アースで仲の良い同僚だった木下吾郎なのか?
 こんな所で、こんな形で会うなんて.......

 お、お前.........こんな美女な勇者として転生してたのか.....
 そこまで考えた所で、疑問がわいた。


 あれ?俺がアースで死ぬ2週間前ぐらいに吾郎は死んだはず。
 赤ん坊からこの目の前の女勇者にまで成長した期間は2週間ではないと思う。

 どういうことだ??

 と、疑問を感じた途端、新たな文字が脳裏に浮き出てきた。

 ----------------------------

 自我を脱することに成功した場合、極めて自然に、実体としてニンファルで生活していたマルファーニとしての過去を死後に思い出します。
 なお、木下吾郎の自我が死後にマルファーニとして統合される前に、メルセルという仮相界に滞在していたピアリーという女性がマルファーニとしてニンファルで誕生していました。

 現在では、ピアリーと木下吾郎は統合され、マルファーニとして存在しています。
 また、木下吾郎はマルファーニとしての過去を思い出したのと同時に、ピアリーとしての過去を思い出すことに成功しているでしょう。
 ピアリーも木下吾郎としての過去をすでに思い出しています。

 ----------------------------

 輪廻転生ってそんな仕組みだったのか........

 ん?じゃあ、俺はいまだに野田周としての過去しか知らないのだが、それってどういうことなんだ?エルトロンの知識か他の人間の知識か分からんが、よく自分の知らなかった知識が意識にのぼることはあるけど。

 ・・・・・・・・

 特に回答は得られないようだ。

 俺が難しい顔で考えこんでいると、隣にいたアガパンサが言った。

 《周さん、大丈夫ですか?何か気になる事でもあられました?》

 《ああ。この女勇者、俺の友人の生まれ変わりらしい》

 《あら、そうなんですね》
 アガパンサはそれほど驚いていなかった。こうした事は日常茶飯事なのかもしれない。

 この女勇者、吾郎の生まれ変わりか.....そう考えると、できるだけ良い方に導いてやりたいという思いが湧いてくる。

 そういえば小さい事なんだが気になる文章があった。

 《解析してみると、マルファーニの課題点の所に、”自身の知能を疑いそれ以上の答えを導き出す知性が得られるよう導かれている”と書かれていたんだが、これってどういう事なんだ?》

 《真相界における知能と知性の違いは、知能は自我由来のものであり、知性は実体まで含めた世界由来の物であるという違いがあります。
 例えば、アースにおいては知能指数という概念があります。これは知能です。しかし、知能があるからといって賢い生き方ができるとは限りませんね。

 知能があるゆえに知能を悪用して身を亡ぼす、または、知能があるゆえに他者を見下し人格を汚してしまえば、それは賢いとは言えません。
 この場合では、知能が高く知性が低いということになります。
 人間は自身の知能を扱えるだけの知性も必要ということです》

 《そうなのか。確かに、知能指数が低くても周囲の人に優しくて周囲からも愛されて幸せそうな人はいるな。結果として賢い生き方をしているという点で、知性が高いということか》

 《そうです。木下吾郎は知能が高かったがゆえに、自身の知能に囚われてそれ以上のものが観えなかった面もあるのでしょう。そのため、マルファーニとしての生き方では自身の知能では理解できない出来事が多く起こってきます》

 《今、女勇者が睡眠魔法を使えたことに当惑しているのも、その一つなのかな。俺がマルファーニの行動に干渉するであろうことも吾郎の進歩の過程に組み込まれていた.....ということなのか》

 人間の進歩の過程は奥深すぎる。この法則を作った存在は、俺の想像が及ばない果てしない何かなのかもしれない。



 あ、そういえば、この魔人の解析もできるのかな。

 魔人の内側を覗き込むように意識を集中する。

 え.........う、ウソだろ.....!?
 なんだよ、これ!!

 俺の脳裏に信じられない、いや、信じたくない情報が記されていた。
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