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マルフィに起きた大異変
49話 グランディの病院で真相界の治療法を見学する
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カラフルなビルが立ち並んでいるが、よく見渡してみるとこの近辺には水色のビルが多い。
あと、アースにあるビルよりも、全体的に丸みを帯びている感じがする。
道路もあるらしく、舗装された路面の色はベージュ色であった。
周囲の建物の色も相まって、全体的にポップな印象を受ける。
「可愛らしい感じの世界だな」
周囲を見渡しながら、俺がそう呟いた。
「うふふ....そうですね。グランディはアースや他の仮相界で蓄積されてきた”常識的感覚”から抜けるための世界と言っても良い場所です。周さんも気がつかれたように、ビルも丸みを帯びていたり、路面がベージュ色であったり、少しずつアースと違いますよね。
それはアースで蓄積された常識から少しずつ抜けだすためにそうなっているようです」
「このコロルっていう都市は、アースから来た人の多いスランザ地域にあるんだ。私はここの都市にある病院で目を覚ましたんだよ」
母さんがエメラルド黄色の髪をかき上げながら言う。
母さんが目を覚ました場所なのか。
武骨な感じのニンファルと違い、不思議と癒される感じがする。保養地といった印象を受けるのだ。
そのままの感想をアガパンサに言うと.......
「グランディは仮相界での過酷な試練を終えた人が休息を得るために滞在する場所でもあります。だから癒される感じがするのかもしれません」
あと、ビルの合間から大きな山が見える。
その山は全体的に黄色がベースで所々淡い朱色と、アースではあまり見られない色合いだ。
どうやら自然の多い場所にこの都市があり、また、都市自体も自然と共存しているのかもしれない。今、見渡しただけでも2、3か所、公園のような自然豊かな場所が観える。
植物の色は山と同様、黄色と淡い朱色である。
ムスカリ君は子供らしく歩道でピョンピョン跳ねている。
ちなみに、歩道は茶色の艶々した小石が敷き詰められている。
「しかし、俺の代わりになる人間をどうやって探そうかな......」
俺は腕を組み考えこんだ。
「周さんの意図をしっかり伝えるためには、周さんと波長が合う人間を探す必要があります。それには、精神の進歩の道のりにおける同じ課題点を持っている人間が良いかもしれません」
またも良いアイデアを出してくれる。アガパンサは何でも知ってるな。
課題点.........俺の場合だったら、カルーナに言われた、”人との争いを極度に避ける性質(臆病な性質)”だろうな。それがゆえに真相界に来てから襲われ続けているわけだし。
さて、同じような課題点を持つ相手をグランディでどうやって探そうか?
気持ちを落ち着けて少し考えてみよう。
ポクポクポク.........チーン!
閃いた。
「介護士とか看護師とか、人のケアをする仕事をしている人間から探せばいいんじゃないかな!」
俺と同じ職業なら、同じような課題点の人間は多いだろう。
「いい考えだねー!早速、探してみよう」
母さんが同意してくれた。
「人のケアをする仕事といえば、アースから来た人間を看護する病院があります。そこを観にいくのはいかがでしょうか?」
「母さんが目を覚ましたような病院か。そうだね、行って見よう!」
「丁度、あそこに病院がありますので、行って見ましょうか。ただ、真正面から入ると職務の妨げになってしまうので姿を消していくのが良いと思います。それでよろしいでしょうか?」
「ニンファルの時と同じ状態にできるのか?どうやるんだ?」
「頭頂部に意識を集中させると上層の波動に近づき、自然とこの世界の住民から見えなくなると思います。ムスカリ君はまだ子供ですので、波動を高めた人間の傍にいれば見えなくなると思います」
言ったとおりにしてみる。
おお!?体の存在感が薄くなった感じがする。透明人間化しているのだろうか。ただ、自分じゃ分からない。
「はい!周さんもルーティアさんもしっかり消えています」
これでいいのか。母さんもすぐに成功したらしい。
俺からはいつも通りに見えるが、この世界の住民からは見えないようだ。
姿を消した俺達は病院へと向かった。
どうやら波動を高めた状態だと、様々な物をすり抜けることもできるらしい。
ドアをすり抜け、病院のロビーに入った。
病院にはアースと同じような服装の看護師と見られる女性や、患者と見られる人達がいる。
《病院にいっぱい人がいるけど、みんな何を診てもらうんだ?病気の身体はすでにアースに置いてきただろうに.......》
《アースでの病気は精神を発端に引き起こされている例が少なくありません。ですので、病気の身体を捨てても、いまだに症状が残る人もいます。そのような方達もこの病院では診ているのです》
アガパンサは複雑な心の内を感じさせる表情で言う。
何となく分かるが、人間ならではの複雑な精神が病を引き起こす元なのだろう。アガパンサは人間の複雑な精神が少し苦手なのかもしれない。いつも接している妖精達は純粋だからな。
《しかし、精神に効く薬なんて無いだろうし、どうやって看てるんだろうな》
《めぐ君と波長の合う人間を探すついでに観ていこうか!》
母さんがムスカリ君と繋いだ手をぶんぶんしながら意気揚々と言う。
《そうですね。ぜひ、観ていきましょう》
俺たちは、正面にある診察室と見られる部屋に入った。
そこには医者と看護師と見られる男女が一人ずつ、患者が一人いる。
医者は昭和の俳優のような中年男性、看護師は丸顔の人の良さそうな中年女性、患者は柔和な顔つきをした老婆である。
「先生いつもお世話になっております。先日よりは少し良くなったんですが、まだまだ腰がいとーて、いとーて.........」
老婆が、どこかの方言を使いつつ先生に話しかける。
「おお....そうですか。腰の痛みは辛いですよね。また塗り薬を出しておきます。
ところで小山田さん、この腰の痛みには根本の原因がありまして、小山田さんの場合では”人に気を使いすぎる性質”がこの腰の痛みを引き起こしているようです。
小山田さんの家にはテレビがあるでしょう。今、流行りの大河ドラマ《鬼将軍の旅路》でもご覧になられると良いかもしれませんね。
堂々とした主人公の影響を受けて、人に気を使いすぎる性質が緩和され、腰の痛みが治っていくかもしれません」
「はあ......分かりました。先生の言う事ならやってみよーと思います。お薬もありがとうございます」
医者と患者である二人の間でこのようなやり取りがあった。
なるほど!
相手の常識に合わせて薬を出し、根本原因である精神的欠点を解消するためのアドバイスも行う事で治療を進めていくのか。
それにしても、腰が低すぎるから腰を痛めるって冗談のような話だな。
しかし......
あの老婆の様子だと、実際にやるかどうかは分からない。
人に気を使いすぎる性質が過ぎて、ただ相手に合わせているだけな感じがした。
テレビの登場人物から受ける影響なんて大きくは無いだろうが、本人に根本原因にきづく気が無いのでは、この辺りのアドバイスから始めるしか無いのだろうか。
この世界の医者はアースよりも辛抱強さが必要になるな。
《この世界の医者って大変だな》
俺はダンディな医者を見ながら呟いた。
《そうですね。患者の多くは体に根本原因があると妄信しています。しかし、医者は精神に根本原因がある事を説明しなければいけない立場にいますから......患者は数年、時には数十年経っても根本原因に気が付かない事もあります》
アガパンサは残念そうな顔で顔を横に振る。
それにしても、この医者は何者なのだろう?
相手の病の根本原因を当たり前のように見抜いているようだが。
《この医者を解析してみてもいいか?》
《はい。ぜひ、ご覧になられてください》
むしろ、アガパンサが観てもらいたそうに言う。
俺は目の前の医者の内側を覗き込むように意識を集中させた。
脳裏に情報が浮かび上がる。
--------------------------------
実体 天使マルビューレ
メルシア顕現体 イルヴェス
思いやりに満ち溢れ、辛抱強い性格。ただ、時折、自身の知能や知識に慢心することがある。そのため、現在、精神の進歩の上での課題点は”知識を重要視しすぎるあまり、知識に囚われがちな点”にある。
イルヴェスは58年前にアースを去り、精神の進歩と共に、グランディ→メルシアへと所属界も変化していった。
アースに居た頃は女性の看護師として日本の病院で勤めていた。
看護師時代には医学全体における西洋医学偏重に疑問を持ち、東洋医学・栄養学などを勉強し、様々な治療法や健康法を研究するのをライフワークとしていた。
それらの生き方が報われ、グランディにおいては医者として人間を診る立場になる。
なお、グランディにおける医者としての精神の進歩と共に、メルシアに存在していた医者イルヴェスとしての過去を思い出すことになった。そして、グランディに来た人間を診る事を再度希望し、現在、その職務に就いている。
現在の職務を通じ、知能に慢心しない精神を築けたなら、天使マルビューレという女性としての過去を思い出すことになる。
--------------------------------
目の前のダンディな医者は、アースに居た頃、女性だったのか。
どうやらメルシアが所属界らしいが、グランディに降りてきているらしい。
だから下の界であるグランディに来た人の患っている病の根本原因などが分かるのだろうか。
アースでは、西洋医学偏重に疑問を持ち、東洋医学や栄養学を研究か........
俺は介護士だったけど、確かに周囲で医療にあたる人達の中には西洋医学への疑問を持つ人も多かった。薬や外科手術による表面だけに対処する治療法に終始し、病の根本解決にならないと感じる人もいたのだ。
根本的治療法を追い求めていった結果、精神面からのアプローチに辿り着いたのだろうか。
まあ、薬に大きな効果が見込めない真相界においては精神面からのアプローチの方が主流なんだろうけど。
それにしても........
《課題点である”知識に囚われがち”っていうのは、どういう事なんだ?》
《これは、知識があるゆえにそれ以外が観えなくなりやすいということです。例えば、料理を作る際に日本料理の知識があるゆえに、それ以外の国の料理の知識が入ってきにくくなります。
これが知識に囚われるという状態で、そうなりやすい事がイルヴェスの課題点です》
《そうなのか。だとするなら、イルヴェスはどういう導きをされる事が多いのだろう?》
《そうですね........現在持っている知識が通用しづらい環境が作られ、その知識からの脱却を促されることが多いですね。その先に、もっと普遍的で価値のある知識を得るよう導かれる事が多いです》
《日本料理の例えだったら、日本料理の作り方を知ってるだけでは行き詰まるように導かれるってことか......その先にもっと高度な知識が得られるにしても、その過程は苦しいだろうな》
《ええ、苦しいと思います。ただ、こうした導きがあるのは良い生き方をしている人達に対してが多いでしょう》
《何だか分かる気もする。今の知識だけでやっていけるのは長期的に観ると不幸な事かもな。一つの知識に頼り切ると、他の色々な知識を得る機会が無くなるから......
ん??そうなると、良い生き方をしていない人達に対しては違うってことか?》
《全てがそうではないのですが、進歩の停滞を産む”一つの知識への依存”が観られれば、進歩の勢いが強い人ほど、芽の段階でその依存は摘み取られます。進歩が停滞中であると、知識に対する依存や慢心があっても放置されざる得ないことも多いです。
慢心の状態では、導く側もインスピレーションを届ける事が困難ですので》
《そうか。教えてくれてありがとうな》
目の前のダンディな医者にも色々な過去、そして、未来がある。
俺も同じようなものなんだろうな。
今アガパンサから聴いたことを何となく頭で整理してたら......
「イルヴェス先生、次の患者様をお呼び出ししても宜しいでしょうか?」
と、看護師らしき女性の声が聴こえた。
その声の主を観た瞬間........突如として、確信めいた思いが湧いてきた。
”この女性になら俺の代わりにマルフィに行ってもらえる!”
と。
あと、アースにあるビルよりも、全体的に丸みを帯びている感じがする。
道路もあるらしく、舗装された路面の色はベージュ色であった。
周囲の建物の色も相まって、全体的にポップな印象を受ける。
「可愛らしい感じの世界だな」
周囲を見渡しながら、俺がそう呟いた。
「うふふ....そうですね。グランディはアースや他の仮相界で蓄積されてきた”常識的感覚”から抜けるための世界と言っても良い場所です。周さんも気がつかれたように、ビルも丸みを帯びていたり、路面がベージュ色であったり、少しずつアースと違いますよね。
それはアースで蓄積された常識から少しずつ抜けだすためにそうなっているようです」
「このコロルっていう都市は、アースから来た人の多いスランザ地域にあるんだ。私はここの都市にある病院で目を覚ましたんだよ」
母さんがエメラルド黄色の髪をかき上げながら言う。
母さんが目を覚ました場所なのか。
武骨な感じのニンファルと違い、不思議と癒される感じがする。保養地といった印象を受けるのだ。
そのままの感想をアガパンサに言うと.......
「グランディは仮相界での過酷な試練を終えた人が休息を得るために滞在する場所でもあります。だから癒される感じがするのかもしれません」
あと、ビルの合間から大きな山が見える。
その山は全体的に黄色がベースで所々淡い朱色と、アースではあまり見られない色合いだ。
どうやら自然の多い場所にこの都市があり、また、都市自体も自然と共存しているのかもしれない。今、見渡しただけでも2、3か所、公園のような自然豊かな場所が観える。
植物の色は山と同様、黄色と淡い朱色である。
ムスカリ君は子供らしく歩道でピョンピョン跳ねている。
ちなみに、歩道は茶色の艶々した小石が敷き詰められている。
「しかし、俺の代わりになる人間をどうやって探そうかな......」
俺は腕を組み考えこんだ。
「周さんの意図をしっかり伝えるためには、周さんと波長が合う人間を探す必要があります。それには、精神の進歩の道のりにおける同じ課題点を持っている人間が良いかもしれません」
またも良いアイデアを出してくれる。アガパンサは何でも知ってるな。
課題点.........俺の場合だったら、カルーナに言われた、”人との争いを極度に避ける性質(臆病な性質)”だろうな。それがゆえに真相界に来てから襲われ続けているわけだし。
さて、同じような課題点を持つ相手をグランディでどうやって探そうか?
気持ちを落ち着けて少し考えてみよう。
ポクポクポク.........チーン!
閃いた。
「介護士とか看護師とか、人のケアをする仕事をしている人間から探せばいいんじゃないかな!」
俺と同じ職業なら、同じような課題点の人間は多いだろう。
「いい考えだねー!早速、探してみよう」
母さんが同意してくれた。
「人のケアをする仕事といえば、アースから来た人間を看護する病院があります。そこを観にいくのはいかがでしょうか?」
「母さんが目を覚ましたような病院か。そうだね、行って見よう!」
「丁度、あそこに病院がありますので、行って見ましょうか。ただ、真正面から入ると職務の妨げになってしまうので姿を消していくのが良いと思います。それでよろしいでしょうか?」
「ニンファルの時と同じ状態にできるのか?どうやるんだ?」
「頭頂部に意識を集中させると上層の波動に近づき、自然とこの世界の住民から見えなくなると思います。ムスカリ君はまだ子供ですので、波動を高めた人間の傍にいれば見えなくなると思います」
言ったとおりにしてみる。
おお!?体の存在感が薄くなった感じがする。透明人間化しているのだろうか。ただ、自分じゃ分からない。
「はい!周さんもルーティアさんもしっかり消えています」
これでいいのか。母さんもすぐに成功したらしい。
俺からはいつも通りに見えるが、この世界の住民からは見えないようだ。
姿を消した俺達は病院へと向かった。
どうやら波動を高めた状態だと、様々な物をすり抜けることもできるらしい。
ドアをすり抜け、病院のロビーに入った。
病院にはアースと同じような服装の看護師と見られる女性や、患者と見られる人達がいる。
《病院にいっぱい人がいるけど、みんな何を診てもらうんだ?病気の身体はすでにアースに置いてきただろうに.......》
《アースでの病気は精神を発端に引き起こされている例が少なくありません。ですので、病気の身体を捨てても、いまだに症状が残る人もいます。そのような方達もこの病院では診ているのです》
アガパンサは複雑な心の内を感じさせる表情で言う。
何となく分かるが、人間ならではの複雑な精神が病を引き起こす元なのだろう。アガパンサは人間の複雑な精神が少し苦手なのかもしれない。いつも接している妖精達は純粋だからな。
《しかし、精神に効く薬なんて無いだろうし、どうやって看てるんだろうな》
《めぐ君と波長の合う人間を探すついでに観ていこうか!》
母さんがムスカリ君と繋いだ手をぶんぶんしながら意気揚々と言う。
《そうですね。ぜひ、観ていきましょう》
俺たちは、正面にある診察室と見られる部屋に入った。
そこには医者と看護師と見られる男女が一人ずつ、患者が一人いる。
医者は昭和の俳優のような中年男性、看護師は丸顔の人の良さそうな中年女性、患者は柔和な顔つきをした老婆である。
「先生いつもお世話になっております。先日よりは少し良くなったんですが、まだまだ腰がいとーて、いとーて.........」
老婆が、どこかの方言を使いつつ先生に話しかける。
「おお....そうですか。腰の痛みは辛いですよね。また塗り薬を出しておきます。
ところで小山田さん、この腰の痛みには根本の原因がありまして、小山田さんの場合では”人に気を使いすぎる性質”がこの腰の痛みを引き起こしているようです。
小山田さんの家にはテレビがあるでしょう。今、流行りの大河ドラマ《鬼将軍の旅路》でもご覧になられると良いかもしれませんね。
堂々とした主人公の影響を受けて、人に気を使いすぎる性質が緩和され、腰の痛みが治っていくかもしれません」
「はあ......分かりました。先生の言う事ならやってみよーと思います。お薬もありがとうございます」
医者と患者である二人の間でこのようなやり取りがあった。
なるほど!
相手の常識に合わせて薬を出し、根本原因である精神的欠点を解消するためのアドバイスも行う事で治療を進めていくのか。
それにしても、腰が低すぎるから腰を痛めるって冗談のような話だな。
しかし......
あの老婆の様子だと、実際にやるかどうかは分からない。
人に気を使いすぎる性質が過ぎて、ただ相手に合わせているだけな感じがした。
テレビの登場人物から受ける影響なんて大きくは無いだろうが、本人に根本原因にきづく気が無いのでは、この辺りのアドバイスから始めるしか無いのだろうか。
この世界の医者はアースよりも辛抱強さが必要になるな。
《この世界の医者って大変だな》
俺はダンディな医者を見ながら呟いた。
《そうですね。患者の多くは体に根本原因があると妄信しています。しかし、医者は精神に根本原因がある事を説明しなければいけない立場にいますから......患者は数年、時には数十年経っても根本原因に気が付かない事もあります》
アガパンサは残念そうな顔で顔を横に振る。
それにしても、この医者は何者なのだろう?
相手の病の根本原因を当たり前のように見抜いているようだが。
《この医者を解析してみてもいいか?》
《はい。ぜひ、ご覧になられてください》
むしろ、アガパンサが観てもらいたそうに言う。
俺は目の前の医者の内側を覗き込むように意識を集中させた。
脳裏に情報が浮かび上がる。
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実体 天使マルビューレ
メルシア顕現体 イルヴェス
思いやりに満ち溢れ、辛抱強い性格。ただ、時折、自身の知能や知識に慢心することがある。そのため、現在、精神の進歩の上での課題点は”知識を重要視しすぎるあまり、知識に囚われがちな点”にある。
イルヴェスは58年前にアースを去り、精神の進歩と共に、グランディ→メルシアへと所属界も変化していった。
アースに居た頃は女性の看護師として日本の病院で勤めていた。
看護師時代には医学全体における西洋医学偏重に疑問を持ち、東洋医学・栄養学などを勉強し、様々な治療法や健康法を研究するのをライフワークとしていた。
それらの生き方が報われ、グランディにおいては医者として人間を診る立場になる。
なお、グランディにおける医者としての精神の進歩と共に、メルシアに存在していた医者イルヴェスとしての過去を思い出すことになった。そして、グランディに来た人間を診る事を再度希望し、現在、その職務に就いている。
現在の職務を通じ、知能に慢心しない精神を築けたなら、天使マルビューレという女性としての過去を思い出すことになる。
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目の前のダンディな医者は、アースに居た頃、女性だったのか。
どうやらメルシアが所属界らしいが、グランディに降りてきているらしい。
だから下の界であるグランディに来た人の患っている病の根本原因などが分かるのだろうか。
アースでは、西洋医学偏重に疑問を持ち、東洋医学や栄養学を研究か........
俺は介護士だったけど、確かに周囲で医療にあたる人達の中には西洋医学への疑問を持つ人も多かった。薬や外科手術による表面だけに対処する治療法に終始し、病の根本解決にならないと感じる人もいたのだ。
根本的治療法を追い求めていった結果、精神面からのアプローチに辿り着いたのだろうか。
まあ、薬に大きな効果が見込めない真相界においては精神面からのアプローチの方が主流なんだろうけど。
それにしても........
《課題点である”知識に囚われがち”っていうのは、どういう事なんだ?》
《これは、知識があるゆえにそれ以外が観えなくなりやすいということです。例えば、料理を作る際に日本料理の知識があるゆえに、それ以外の国の料理の知識が入ってきにくくなります。
これが知識に囚われるという状態で、そうなりやすい事がイルヴェスの課題点です》
《そうなのか。だとするなら、イルヴェスはどういう導きをされる事が多いのだろう?》
《そうですね........現在持っている知識が通用しづらい環境が作られ、その知識からの脱却を促されることが多いですね。その先に、もっと普遍的で価値のある知識を得るよう導かれる事が多いです》
《日本料理の例えだったら、日本料理の作り方を知ってるだけでは行き詰まるように導かれるってことか......その先にもっと高度な知識が得られるにしても、その過程は苦しいだろうな》
《ええ、苦しいと思います。ただ、こうした導きがあるのは良い生き方をしている人達に対してが多いでしょう》
《何だか分かる気もする。今の知識だけでやっていけるのは長期的に観ると不幸な事かもな。一つの知識に頼り切ると、他の色々な知識を得る機会が無くなるから......
ん??そうなると、良い生き方をしていない人達に対しては違うってことか?》
《全てがそうではないのですが、進歩の停滞を産む”一つの知識への依存”が観られれば、進歩の勢いが強い人ほど、芽の段階でその依存は摘み取られます。進歩が停滞中であると、知識に対する依存や慢心があっても放置されざる得ないことも多いです。
慢心の状態では、導く側もインスピレーションを届ける事が困難ですので》
《そうか。教えてくれてありがとうな》
目の前のダンディな医者にも色々な過去、そして、未来がある。
俺も同じようなものなんだろうな。
今アガパンサから聴いたことを何となく頭で整理してたら......
「イルヴェス先生、次の患者様をお呼び出ししても宜しいでしょうか?」
と、看護師らしき女性の声が聴こえた。
その声の主を観た瞬間........突如として、確信めいた思いが湧いてきた。
”この女性になら俺の代わりにマルフィに行ってもらえる!”
と。
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