女児霊といっしょに。シリーズ

黒糖はるる

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女児霊といっしょに。~学校の七不思議~

序章:ななふしぎ 3

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 夜の廊下は恥で火照ほてった身体を冷ますのに十分な涼しさだった。
 いつ頃の物か分からないトロフィーや開校当初の写真が並ぶ職員室前を通り抜け、広い渡り廊下を歩く。
 左手側には昇降口。所々塗装の剥げた下駄箱も見える。小学生だった頃は大きく感じた下駄箱が、今では小さ過ぎるように思える。
 いや、下駄箱だけじゃない。廊下も狭いし天井も近い。勿論校舎が縮小したのではなくオレが成長しただけなのだが、不思議な感覚だ。母さんはオレの頭が子供のままなんて思っているようだが、それなりに脳味噌みそも成長しているのだ。
 それと、もう一つ感じることがある。
 ――不穏な空気。
 誰もいない校舎は静寂に包まれているせいで、至る所から怪異の気配が漏れ出ていることに嫌でも気付く。どこかに潜んでいる七不思議の元凶達だろうか、それとも晩出市の中心地だから色濃く気配が漂っているのだろうか。いずれにせよ、気持ちの良い環境ではない。
 だが。
 怖がっていてどうするんだ。これから“あまみや”を継ぐ人間が怪異に恐れをなしていたら仕事なんか出来ないだろ。
 ばしん、と思い切り両ほほを叩いて気合いを入れる。力加減を間違えたせいで結構痛い。涙が出てしまったが、誰も見ていないので気にしない。手の甲で乱暴にごしごしと涙を拭うと、目の前に女の子が立っていた。














「――――ッ!?」

 声に鳴らない悲鳴が出た。
 腰まで伸ばした綺麗な紺青こんじょうの髪に、白い無地のワンピース。背丈からして十歳前後の女の子だ。
 だが、一目で分かる。この子は霊の類いだと。こんな時間に一人で子供が学校にいることがまずおかしいし、そもそも全身から霊気がダダ漏れだ。
 この霊は一体何者なんだ?
 可児校長が言っていた七不思議の中に当てはまりそうなのは一年生の怪くらいだが、夕方と呼べる時間はとっくに過ぎている。それに一年生の怪は多分、オレが一年生の時に見たことのある奴だろう。少なくともこんな子ではなかったはずだ。
 ということは七不思議じゃない野良の霊か?では依頼された件じゃないからノーカウント……って、そういう問題じゃない。
 今日は打ち合わせのためだけに来ていて、浄霊道具は全部家に置いてきた。つまりは丸腰。
 この状況……どうしよう。女の子の霊は不思議そうにずっとオレのことを見上げている。念導者だとばれてしまったのだろうか。
 会話を試みてみるか?放つ霊気に悪意はない、ということは人に害を及ぼす悪霊タイプではないということだ。意思疎通が可能なはず。だが、もしそれに失敗して悪霊に変貌するようなことになったら丸腰のオレに残された手はナッシング。詰み。ジ・エンド。霊の方はこちらに物理的干渉をすることが出来るが、生者は念導者であっても道具なしでは霊には触れることが出来ないのだからだ。
 どんな目にあうだろうか。いくら念導者とはいえ悪霊に本気で襲われれば殺されるだろうし、死ぬより酷いことになるかもしれない。
 初仕事で殉職。いや、まだ仕事が始まってすらいないからただの霊的不審死扱いで明日のニュースになる。切ない。天宮このはの息子がそんな死に方をしたら末代まで笑われるよ。いやいや、オレで末代だわ。
 女の子の霊はまだじーっとこちらを見ている。決断するなら早い方がいい。この子がアクションを起こす前に。
 よし、決めた。
 オレは引きつった笑顔できびすを返す。

 ――見なかったことにしよう。

 軽快なステップで校長室へ向かってさっさと緊急回避。先程の宣言で大恥をさらしたことなんてどうでもいい。マッハで戻ろう。
 リズミカルなステップのまま一気に廊下を突き進み、ノックもせずに校長室へ文字通り転がり込む。
 さぁ、早く帰って浄霊道具の準備をしなくては。

「……あれ?」

 しかしそこに母さんの姿はなく、可児校長だけが湯飲みを片付けていた。

「おかえり。早かったね駆郎君」
「あの、母はどこに…?」
「あー、君が下見に行ったすぐ後に帰ったよ。見たいドラマがあるからって」

 おいおい、そりゃないぜ母さん。(多分)愛する息子をほったらかしにしてドラマを優先するなんて……いつものことか。
 ついこの間の高校の入学式だって保護者席からいつの間にかいなくなっていたし、もっと小さい頃には一緒に出かける約束を何度忘れられたことか。その辺のことに無頓着というか抜けているというか、母さんのいい加減さは昔からだった。今更嘆いたって時間の無駄だな。

 オレは可児校長に一言挨拶をすると奥部小を後にした。
 心許ない街灯の下を、早歩きで通り抜けていく。
 じっとりと汗が滲んでくる。嫌な汗だ。まだ霊気を感じる。神経が過敏になっているのか、誰かに見られているような気がする。
 振り返ると、誰もいない。周囲を見渡しても、誰もいない。
 見慣れた道。かつては通学路だったはずなのに、どこか知らない場所に迷い込んでしまったような気味の悪さが足元に絡みついてくる。
 早く帰ろう。
 早歩きは次第に全力疾走フルスピードに変わっていた。

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