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女児霊といっしょに。~学校の七不思議~
序章:ななふしぎ 4
しおりを挟む自宅に辿り着き、靴を適当に脱ぎ捨ててリビングに駆け込む。果たしてそこにはごろ寝してドラマを見ている母さんの姿があった。テレビに映っているのはイケメン俳優が主役を務めている刑事ドラマのようだ。
「あら駆郎。もう帰ってきたの?」
「あら、じゃないよ。黙って帰るなんて困るんですけど」
「だって見逃しちゃ嫌じゃない」
「それ録画してあるじゃん」
「私はリアルタイム派なのよ」
知らんがな。と言いたくなったが、これ以上何を言ってもエンドレスなので喉元まで来た言葉は飲み込んでおいた。
そんなことより浄霊道具を準備することの方が先だ。オレは急いで自室へ向かおうとして階段を登り――
「ところでさ、駆郎の後ろにいる女の子って誰?」
「何だよ、今急いで――」
振り返ると、階段の一段下にさっきの女の子の霊がぼうっと立っていた。相変わらずじーっとこちらを見つめて。
「どわぁぁぁぁっ!?」
驚いた拍子に足を滑らせ、女の子の霊の身体をすり抜けてそのまま階下へ転げ落ちる。更に後頭部をフローリングの床にしたたかに打ち付け、視界に星が飛び散った。
「ぬお~~~~~~~っ!!」
情けない叫びを上げながら、ごろごろと転がり悶えながらリビングに帰還。
痛い。絶対タンコブ沙汰だ。
そして脳味噌がシェイカーで振られたみたいに気持ち悪い。視界がぐるぐるとメリーゴーランドしてる。
「頭、大丈夫?」
心配そうにかけられる声。だが、それは母さんの声じゃない。
ぐらんぐらんに揺れる視界を気合いで取り戻して焦点を合わせると、そこには無垢な衣装を身に纏うあどけない少女の顔。
お迎えに来た天使か。
答えはノー。あの女の子の霊だ。霊に頭の心配をされることになるなんてお笑いぐさだ。
いやいや、そうじゃなくて。
「何で、お前がオレの家にいるんだよ……!」
こいつ、いつの間に我が家に侵入したんだ。
「ずっとお兄ちゃんの後ろについてきただけだよ?」
ずっと感じていた霊気の原因はこいつだったのか。
後ろを見てもいなかったのはずっと死角にいたってことなのだろう。悪質だな。
「つまり、その子は駆郎がお持ち帰りしちゃったのね?こんな小っちゃい子を毒牙にかけようなんて、私はそんな風に育てた覚えはないんだけど?」
母さんがさも事情を知っているかのようにしゃべり出す。見当外れな推理をよくまぁそんなに自信満々に言えるな。
「ふざけている場合かよ。この子、どう見ても霊。オレ、ロリコンじゃない。ご理解いただけましたか?」
「冗談冗談、小粋なオカルトジョーク。私が人間と霊を見間違えるほど老眼になったと思った?」
「今年で四十二歳だろ」
「見た目が若けりゃ実年齢なんて飾りよ」
「あの~、親子で喧嘩は良くないんじゃないかな……と、思うんですけど」
口を挟んできたのは女の子の霊だ。母さんとの言い合いに夢中になっていてすっかり忘れていた。
「いいのよ。こんなこと日常茶飯事。いつもこんな調子だから心配ご無用って意味ね」
「ならオッケーです。続きをど~ぞっ」
「よーし、納得してくれたみたいだし心置きなく――じゃねーから。結局お前は何なんだよ」
母さんのジョークのせいで本題から話が大きく逸れてしまった。
問題なのはロリコンとか実年齢とかそんなどうでもいいことではなく、この子が何者で何のためにオレをストーキングして不法侵入したのかということだ。
「何って言われても……自分が誰なのか覚えてないの」
「へ?」
「キオクソーシツって言うのかな?ついさっきね、小学校で目が覚めてからのことしか覚えてないのよねー。で、自分の名前も思い出せないんだよ~。ホント困っちゃう」
そんなあっけらかんと言われても。困っちゃうのはこっちの方だよ。
記憶のない霊ほど面倒な奴はいない。善良な霊ならなおさらだ。記憶があればそれを元に未練を果たせば浄霊出来るし、意思疎通が不可能な悪霊なら有無を言わさず強制浄霊してしまえばいい。だが、害意のない霊を強制的に、というのは霊倫理的によろしくないし後味が悪い。かといって手がかりがほぼゼロで未練が何かを探るというのも骨が折れる。
悩ましい。優柔不断とはこのことだ。だからモテないんだ、とよく言われたし自覚はしているつもりだ。
ベテランの母さんならどんな答えを出すのだろう。そう思ってそっと顔を覗き込むと、満面の笑みを浮かべていた。
とびっきりの、まるで少女のような清らかな笑顔。歳不相応な笑顔。
まずい。母さんがこの表情をしている時は大抵よくないことを考えている。特にオレや父さんが被害を被るタイプの、余計なことだ。
「うんうん、これも修行の一環だね。というわけで駆郎、この子が気持ちよく浄霊出来る手立てを探しなさい!」
ほら、予感的中。
全部オレに丸投げしてきたよ。
「ちょ、ちょっと待てよ。七不思議の方はどうするんだ?」
「当然同時進行に決まっているでしょ。この子とだって奥部小で会ったんだからヒントの一つや二つはその辺に転がってるんじゃないの?」
「そんな適当な……」
「ゴーゴー、ファイト!ママは応援しているぞ!」
チアガールみたいな動きをしても可愛くないからな、歳を考えろ。
ただでさえ初仕事で緊張しているのについでに修行とは……頭痛がする、タンコブのせいで物理的にも。そんなオレを余所に、母さんは女の子の霊と楽しそうに話している。
「というわけで、うちの駆郎に任せたから安心してね♪え~っと……そう、ななちゃん!」
「ななちゃん?」
「そう、名前がないと色々不便でしょ?だから仮の名前よ。可愛い名前でしょ、ななちゃん♪」
「まさか名無しだからななちゃん、なんてことはないよな?」
すかさずオレはツッコミを入れた。
「そ、そんなわけないでしょ~……ねぇ?」
狼狽えてるのが丸わかりだぞ。
母さんは名前を付けるのもいい加減だ。十分あり得ると思って言わせてもらったが、どうやらビンゴのようだ。流石、オレを産むのに苦労したからクロウと名付けた人だ。
「これは、その、あれよ。七不思議に因んでるのよ。断じて名無しじゃないわよ?」
「分かった、うん。そういうことにしておく。で、君はこの名前で納得して――」
「うんっ!とってもいい名前!なな、とっても嬉しい!」
ワーオ、飛び上がって三回転宙返りするくらい喜んでくれてるぞ。よかったね、母さん。
しかし、この子――ななは天真爛漫な笑顔を見せてくれるんだな。最初に会った時は正直怖かったが、今は無邪気な子供にしか見えない。口元から覗かせる八重歯が清らかな幼さの魅力を引き立てている。
まぁオレとしては初仕事の難易度が上がっただけで、大変迷惑なんですけどね。
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