女児霊といっしょに。シリーズ

黒糖はるる

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女児霊といっしょに。~学校の七不思議~

第六章:蝕愛 3

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「なな、今日はすぐ帰るぞ」
「えー?調査はもういいの?」

 祠を見終えると、オレはすぐに帰り支度をする。
 あれ程の残り香を残す悪霊なら、もしかしたら母さんも知っている可能性がある。念導札のデザインは母さんの使う物と違うから直接は関係しないだろうけど、小耳に挟んだ情報くらいはあるかもしれない。
 それに家にある文献にもしかしたら祠に封印した人の活躍が記されている可能性もある。
 なので今日はささっと帰りましょう。

「……あのぉ……すみません……」

 が、校門の手前で呼び止められた。それも、かなり小さな声で。ななが騒いでいたら聞き逃してしまいそうな程だ。

「……あれ、君は……」

 オレを呼び止めたのはボーイッシュな女の子だ。確か図書委員の子で――

「ああ、あの時本屋で――」
「そ、その話はしないで下さいっ!ク、クラスのみんなに知られると困ります!」
「お、おう。そうだな」

 結構な大声が出るじゃないか。
 まぁ、官能小説をドキドキしながら読もうとしていた……なんて学校で言われたら困るもんな。
 そういえばあの時、この子から恐ろしく濃厚な悪しき気配が漏れ出ていたよな……。

「駆郎さん。七不思議のことで相談したいことがあるんです」
「ああ、大歓迎だ。………えっと…君は――」
「六年三組の樫戸かしど禄矢ろくやと言います」
「そうか、禄矢ちゃんか……………ん?」












 名前を聞いてから、物凄く違和感。
 禄矢、ロクヤ、ろくや……女の子の名前じゃないよな。ランドセルの色で判断しようとしたが水色かよ。でも小柄で華奢だし……いやいや、この年頃だと女子の方が大きいはずだよな。しかし、この可愛さはやはり女子では……?

「一応なんですけど、僕は男子です」
「…………そうか。ごめん、間違えてた」

 ずっと女の子だと思ってたよ、オレ。
 だって他の女子よりよっぽど可愛いんだもん、間違えるよ絶対!
 でもこれで本屋での挙動不審な行動に合点がいく。オレもこの年頃に同じことをしていた気がする。どんなに可愛くても中身は男の子なんだな。

「いいんです。よく間違えられるんで、もう慣れっこです」

 平気そうに振る舞おうとしているが、やはり女子扱いは恥ずかしいのか赤面でもじもじしている。その仕草が余計に可愛い。
 やめろ、新たな扉を開きかねない。

「駆郎にぃ……だからね」
「分かってるよ。あとどっちにしろ手は出さないから」

 ななのオレに対するイメージは犯罪者予備軍まで発展しているのかよ。どんどん悪化しているじゃねーか。

 禄矢君曰く、もっと早く話したかったのだが女子の密集地帯に入ることが出来ず、放課後になってやっと話しに来られたようだ。見た目から分かる通り体力はないし、女子達に自分から近づくなんて恥ずかしい。何より話したい人がオレ――官能小説を読んでいた現場を見られた相手なので、極力人目に付かないところで話したかったようだ。

「で、相談の内容はなんだい?」
「それなんですけど……ぼろ布を被った女の人がうろうろしているって話は聞きましたか?」
「何人かから教えてもらったよ。あと、そのちょっと前に祠が壊されたって話も」
「それならその女の人が現れなくなったって話も?」
「それも聞いているよ」
「……僕、その現れなくなった日からずっと体が変なんです」

 禄矢君の相談は、体調の変化だった。第二次性徴とか成長痛とかではなく、もっと原因不明な変化だった。

「いつも体が重いんです。まるで誰かが僕の中に入っているような……僕自身の重さが増しているかんじなんです」

 よくいる悪霊に背中に取り憑くタイプがいるがその場合はのしかかられている感覚になるはずだし、それに背中に乗っていたらオレの目に映っているはずだ。

「体力もどんどんなくなっていて、ちょっと走っただけで疲れたり倒れそうになったり……」

 取り憑くタイプなら生ける者の生命力を奪う寄生虫みたいな奴もいる。最悪死ぬまで吸い続けるから性質《たち》が悪い。

「それに……話しづらいんですけど、その……エッチな……本とか、写真を見ようとすると凄く睨まれているというか恨まれているような視線を感じるんです」

 禄矢君の母親は厳しいらしく特にエロ関係は言語道断ごんごどうだんレベルで、ドラマの恋愛描写すらまゆをひそめるらしい。だが、母親がいない場所でもエロを許さぬ何者かの念を感じるらしい。

「もしかして本屋でオレと会った時も妙な視線を感じていたりしたのか?」
「はい……あの時もありました。ページをめくる度にどんどん強くなって……」

 どうやらオレが感じた汚泥のような気配と禄矢君を見つめる視線は同一のようだ。しかもぼろ布霊が出現しなくなったのと同じタイミングで始まったとなると……ほぼ確実に彼と六年生の怪は関連している。

「やっぱり……エッチなこと考えているから悪霊が憑いちゃったのかな……」
「それはない……とも言えないな」
「うぅっ……そうですよね」
「でも、悪いのは君に憑いた悪霊だ。決して恥じることじゃない」

 そう、エロは決して悪いことではない。それを否定してしまったらオレもアウトだし、世の中の大半は悪人になってしまうだろう。

「何も心配することはないよ。君のエロ心はオレが救う!」

 だからこそエロの道を征く先輩として、オレは禄矢君の思いを救う。
 必ず悪霊の魔の手から守り切ってみせる。
 と、格好良く決めたのだが……禄矢君の反応は微妙。そして隣で浮いているななの視線が冷たすぎてもはや痛い。

「……という冗談はさておき、禄矢君にお守りをあげよう」

 静寂に耐えきれず、オレは話を切り替えて念導札をバッグから取り出した。霊を寄せ付けない効果がある防心だ。先週使いすぎてあまりストックがないが、禄矢君の身を守るにはこれが一番だ。

「ありがとうございます。えっと、これはどうやって使えばいいんですか?」
「持っているだけで効果があるよ。ただ君の場合悪霊が体内に入っている可能性が高いから、中にいる霊の力を弱める……くらいの効果になるけどね」

 本来であれば即座に浄霊したいが、相手の性質や未練の方向性が未知数、しかも霊力がとても強いのは確定している。そのためある程度の対策は必須だ。禄矢君には申し訳ないが今日のところは防心で乗り切ってもらい、明日以降本格的な浄霊を開始していくしかない。

 禄矢君は何度も頭を下げながら帰宅していった。
 さて、オレ達も早く帰って浄霊のための準備をしなくては。

「ねぇ……駆郎にぃ」
「何だよ。エロの下りイジリなら無視するぞ」
「そうじゃなくてさ……禄矢さんに憑いている霊のことなんだけど」

 てっきり先程の高らかに宣言したエロ心に対する苦言かと思ったが、ななの顔はいつになく真剣だった。

「中にいる霊の気配、駆郎にぃには感じなかった?」
「ちょいちょい異臭みたいなのは感じてたよ。特にエロの話をしているあたりで」
「それもそうなんだけどね。う~ん……何て言うか分からないんだけど、中の霊が“私の子を取らないで~”みたいな雰囲気を出してたの」
「私の子って……それは――」

 禄矢君にはちゃんと母親がいる。それも厳しめの親だ。それなのに“私の”ってどういうことだよ。死んだ生みの親が憑いてきた、という事例もなくはないが、今回は昔の祠が関係しているのだからそれとは違う。

「――嫌な予感がするな」

 具体的には表現出来ない、何か。
 虫の知らせ、とでも言うべきだろうか。
 オレ達はとてつもなく邪悪で恐ろしい存在を相手にしている気がしてきた。
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