女児霊といっしょに。シリーズ

黒糖はるる

文字の大きさ
73 / 149
女児霊といっしょに。~学校の七不思議~

第六章:蝕愛 4

しおりを挟む

 母さんに奥部小の祠について訊ねてみたが存在すら知らなかった。また、これまでの奥部小絡みの資料を確認したが祠に関する記述はなかった。母さんが忘れてしまったということでもないようだ。
 有力な手掛かりがなかったので、あと出来ることは浄霊道具の準備くらいだった。
 浄魂は当然、先人のように封印することも考慮して新品の祠も用意。そして祠に貼り付けるための札も多めに作っておいた。
 念導札―封蓋フウガイ―。
 文字通り、蓋して封印するための念が込められている札だ。
 これがオレの出来る万全の準備だ。

 そして次の日。
 可能なら授業が始める前に禄矢君に取り憑いている悪霊を浄霊、もしくは封印したい。一刻も早く解放してあげたい。

 だが、禄矢君は登校してこなかった。

 担任教師が「体調不良でお休みです」と伝えると残念そうな声を上げる女子達。禄矢君自身は女子と触れ合うのを苦手としているが、それに反して人気はあるようだ。
 だが、そんなことよりも欠席する程の体調不良というのが気になった。まさか悪霊が何かしたのだろうか。
 放課後は真っ先に禄矢君の家に向かわなくては……授業中、そう思っていた矢先にどす黒い気配が廊下から溢れ出てきた。

 教室の引き戸が開く。
 姿を現したのは欠席のはずの禄矢君。だが、明らかに様子がおかしい。顔は真っ青な上に、血走った眼球が白目を剥いている。

「あれ?今日はお休みってお母さんから連絡があったのよ?」
「……」

 戸惑っている担任教師を一瞥いちべつするとすぐに興味をなくしたように視線を外す。

「やばいんじゃない駆郎にぃ?あれ絶対やばいよ!」
「分かってる。浄霊の準備をしてくれ」
「ここでするの!?みんないるのに!?」
「本当は嫌だけどな」

 一般人の前で浄霊をするのは御法度ごはっと……ではないが、なるべくそういう事態にならないようにするのが念導マナーだ。しかし、今は一刻を争う。
 禄矢君が、オレに襲いかかってきたからだ。

「あナたねぇっ!?」

 跳び蹴りが炸裂。禄矢君の体格からは想像つかない脚力で、オレの体は教室の掲示板に叩きつけられた。
 腕を組んで胴を守ったことで臓器へのダメージは防げたが、背中を強打したせいで一瞬意識が飛びそうになった。

「きゃーっ!」
「逃げろぉっ!」
「か、樫戸君!?やめなさい!」

 六年三組は騒然となる。
 突然の凶行に担任教師は止めに入ろうとするが、腕の一振りで吹っ飛ばされてしまう――が、ななのポルターガイストがクッション代わりになり、怪我なく床に転がるだけで済んでいた。

「くそっ……背中が痛ぇ。オレにもフォローがほしかったんだけど」
「しょうがないでしょ!急でびっくりしちゃったの!」

 悪態をつくと言い訳してくるななだったが、ちゃんと浄霊の準備はしてくれておりオレの手元に黒烏と念導札を送ってくれた。

「殺しテヤるぅぅぅぅっ!」

 まるで獣のようなうなり声を上げて、禄矢君が飛びついてくる。爪で引っ掻こうとしてくるのを黒烏で受け止めるが、すぐさま攻撃方法を切り替えて今度はオレの首元に手を伸ばしてくる。守りが間に合わず、オレの喉は華奢な腕に捕らえられてしまう。

「ぐぇっ!?」

 にわとりが絞められたような声が漏れた。
 ぎりぎりとオレの気道が圧迫されて呼吸が出来ない。
 小学生の握力では不可能なパワーだ。オレも死にそうだが肉体を酷使されている禄矢君も危険だ。

「駆郎にぃっ!」

 オレは酸欠で朦朧もうろうとする意識の中、ななが飛ばしてきた一枚の札を手に取って禄矢君の体に叩きつけた。
 念導札―剥霊ハクレイ―。
 取り憑いた霊を生身の肉体から引き離す念が禄矢君の体を駆け巡る。

「ぐっ……ぉ……がががががが」

 びくびくっ、と全身が震え始め、オレの喉元に込められた力が抜けていく。

「げほっ、おぇ……窒息するかと思ったぞ」

 あと少し遅れていたらオレまで霊になるところだった。
 ナイスだったぜ、なな。

「……ぁ……ふぁ」

 禄矢君が崩れ落ちる。糸が切れたように支える力をなくした体をオレが支えると同時に、悪霊が抜け出していく。
 黄土色のぼろ布をローブのように被っている女の霊だ。薄汚れたその布は至る所に変色した血飛沫が付いており、誰がどう見てもまともじゃない格好をしていた。












「やっと会えたな」

 オレは禄矢君の体をななに預けて立ち上がる。黒烏を手の中で一回転させ悪霊に向け、いつでも浄霊出来るよう身構える――が、その瞬間に相手は霧散してしまう。

「おい待て!」

 周囲の気配を探っても悪霊はいない。不快極まりない濃厚な残り香が漂っているだけで、本体の姿はどこにもなかった。

「くっそぉっ!逃げられた!」

 がんっ、と机に八つ当たりの拳を打ち込む。
 痛い。やらなきゃよかった。

「でもよかったよ。ほらほら、禄矢さんの顔見てよ!」

 一方、ななはとても嬉しそうだ。それもそのはず、悪霊が抜けていったことで禄矢君は文字通り憑きものが取れてすっきりした顔になっていたからだ。
 悪霊には逃げられたが、一先ず禄矢君のことは守れたようだ。不幸中の幸いだ。
 でも体の方が心配だ。保健室に連れて行こう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

霊和怪異譚 野花と野薔薇

野花マリオ
ホラー
その“語り”が始まったとき、世界に異変が芽吹く。 静かな町、ふとした日常、どこにでもあるはずの風景に咲きはじめる、奇妙な花々――。 『霊和怪異譚 野花と野薔薇』は、不思議な力を持つ語り部・八木楓と鐘技友紀以下彼女達が語る怪異を描く、短編連作形式の怪異譚シリーズ。 一話ごとに異なる舞台、異なる登場人物、異なる恐怖。それでも、語りが始まるたび、必ず“何か”が咲く――。 語られる怪談はただの物語ではない。 それを「聞いた者」に忍び寄る異変、染みわたる不安。 やがて読者自身の身にも、“あの花”が咲くかもしれない。 日常にひっそりと紛れ込む、静かで妖しいホラー。 あなたも一席、語りを聞いてみませんか? 完結いたしました。 タイトル変更しました。 旧 彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる ※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。 エブリスタにも公開してますがアルファポリス の方がボリュームあります。 表紙イラストは生成AI

短い怖い話 (怖い話、ホラー、短編集)

本野汐梨 Honno Siori
ホラー
 あなたの身近にも訪れるかもしれない恐怖を集めました。 全て一話完結ですのでどこから読んでもらっても構いません。 短くて詳しい概要がよくわからないと思われるかもしれません。しかし、その分、なぜ本文の様な恐怖の事象が起こったのか、あなた自身で考えてみてください。 たくさんの短いお話の中から、是非お気に入りの恐怖を見つけてください。

30日後に巨大隕石が衝突すると知らされた世界で、本当に大切なものを見つけた

てるぽに中将
SF
20××年、突然に世界中で同時に「30日後に恐竜を絶滅させた隕石よりも何倍も大きいものが衝突する予測」があり、「この隕石によって地球上のすべての人間が消滅する」との発表があった。 最初は誰もが半信半疑だった。映画の中の世界だと思った。だが、徐々に秩序を失い周りが変化していくうちに自らもその世界の変化に対応しなくてはいかなくなっていくのだった――。 読者の皆さんも「一番大切なもの」は何か? それもついでに考えていただければと思います。  ※小説家になろう にて「中将」の名前で同じ作品を投稿しています。

処理中です...