女児霊といっしょに。シリーズ

黒糖はるる

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女児霊といっしょに。~学校の七不思議~

第六章:蝕愛 4

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 母さんに奥部小の祠について訊ねてみたが存在すら知らなかった。また、これまでの奥部小絡みの資料を確認したが祠に関する記述はなかった。母さんが忘れてしまったということでもないようだ。
 有力な手掛かりがなかったので、あと出来ることは浄霊道具の準備くらいだった。
 浄魂は当然、先人のように封印することも考慮して新品の祠も用意。そして祠に貼り付けるための札も多めに作っておいた。
 念導札―封蓋フウガイ―。
 文字通り、蓋して封印するための念が込められている札だ。
 これがオレの出来る万全の準備だ。

 そして次の日。
 可能なら授業が始める前に禄矢君に取り憑いている悪霊を浄霊、もしくは封印したい。一刻も早く解放してあげたい。

 だが、禄矢君は登校してこなかった。

 担任教師が「体調不良でお休みです」と伝えると残念そうな声を上げる女子達。禄矢君自身は女子と触れ合うのを苦手としているが、それに反して人気はあるようだ。
 だが、そんなことよりも欠席する程の体調不良というのが気になった。まさか悪霊が何かしたのだろうか。
 放課後は真っ先に禄矢君の家に向かわなくては……授業中、そう思っていた矢先にどす黒い気配が廊下から溢れ出てきた。

 教室の引き戸が開く。
 姿を現したのは欠席のはずの禄矢君。だが、明らかに様子がおかしい。顔は真っ青な上に、血走った眼球が白目を剥いている。

「あれ?今日はお休みってお母さんから連絡があったのよ?」
「……」

 戸惑っている担任教師を一瞥いちべつするとすぐに興味をなくしたように視線を外す。

「やばいんじゃない駆郎にぃ?あれ絶対やばいよ!」
「分かってる。浄霊の準備をしてくれ」
「ここでするの!?みんないるのに!?」
「本当は嫌だけどな」

 一般人の前で浄霊をするのは御法度ごはっと……ではないが、なるべくそういう事態にならないようにするのが念導マナーだ。しかし、今は一刻を争う。
 禄矢君が、オレに襲いかかってきたからだ。

「あナたねぇっ!?」

 跳び蹴りが炸裂。禄矢君の体格からは想像つかない脚力で、オレの体は教室の掲示板に叩きつけられた。
 腕を組んで胴を守ったことで臓器へのダメージは防げたが、背中を強打したせいで一瞬意識が飛びそうになった。

「きゃーっ!」
「逃げろぉっ!」
「か、樫戸君!?やめなさい!」

 六年三組は騒然となる。
 突然の凶行に担任教師は止めに入ろうとするが、腕の一振りで吹っ飛ばされてしまう――が、ななのポルターガイストがクッション代わりになり、怪我なく床に転がるだけで済んでいた。

「くそっ……背中が痛ぇ。オレにもフォローがほしかったんだけど」
「しょうがないでしょ!急でびっくりしちゃったの!」

 悪態をつくと言い訳してくるななだったが、ちゃんと浄霊の準備はしてくれておりオレの手元に黒烏と念導札を送ってくれた。

「殺しテヤるぅぅぅぅっ!」

 まるで獣のようなうなり声を上げて、禄矢君が飛びついてくる。爪で引っ掻こうとしてくるのを黒烏で受け止めるが、すぐさま攻撃方法を切り替えて今度はオレの首元に手を伸ばしてくる。守りが間に合わず、オレの喉は華奢な腕に捕らえられてしまう。

「ぐぇっ!?」

 にわとりが絞められたような声が漏れた。
 ぎりぎりとオレの気道が圧迫されて呼吸が出来ない。
 小学生の握力では不可能なパワーだ。オレも死にそうだが肉体を酷使されている禄矢君も危険だ。

「駆郎にぃっ!」

 オレは酸欠で朦朧もうろうとする意識の中、ななが飛ばしてきた一枚の札を手に取って禄矢君の体に叩きつけた。
 念導札―剥霊ハクレイ―。
 取り憑いた霊を生身の肉体から引き離す念が禄矢君の体を駆け巡る。

「ぐっ……ぉ……がががががが」

 びくびくっ、と全身が震え始め、オレの喉元に込められた力が抜けていく。

「げほっ、おぇ……窒息するかと思ったぞ」

 あと少し遅れていたらオレまで霊になるところだった。
 ナイスだったぜ、なな。

「……ぁ……ふぁ」

 禄矢君が崩れ落ちる。糸が切れたように支える力をなくした体をオレが支えると同時に、悪霊が抜け出していく。
 黄土色のぼろ布をローブのように被っている女の霊だ。薄汚れたその布は至る所に変色した血飛沫が付いており、誰がどう見てもまともじゃない格好をしていた。












「やっと会えたな」

 オレは禄矢君の体をななに預けて立ち上がる。黒烏を手の中で一回転させ悪霊に向け、いつでも浄霊出来るよう身構える――が、その瞬間に相手は霧散してしまう。

「おい待て!」

 周囲の気配を探っても悪霊はいない。不快極まりない濃厚な残り香が漂っているだけで、本体の姿はどこにもなかった。

「くっそぉっ!逃げられた!」

 がんっ、と机に八つ当たりの拳を打ち込む。
 痛い。やらなきゃよかった。

「でもよかったよ。ほらほら、禄矢さんの顔見てよ!」

 一方、ななはとても嬉しそうだ。それもそのはず、悪霊が抜けていったことで禄矢君は文字通り憑きものが取れてすっきりした顔になっていたからだ。
 悪霊には逃げられたが、一先ず禄矢君のことは守れたようだ。不幸中の幸いだ。
 でも体の方が心配だ。保健室に連れて行こう。
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