女児霊といっしょに。シリーズ

黒糖はるる

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女児霊といっしょに。~学校の七不思議~

第六章:蝕愛 12

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 入院中、色んな人がお見舞いに来てくれた。



「元気そうだね、駆郎君」

 病室の引き戸が開くと、坊主頭が飛び出してきた。可児校長だ。その手には見舞いの品として大量の高級蟹缶があった。

「学校を荒らしちゃって申し訳ないです」
「いいんだよ。君は精一杯やったんだ。それを誇っていいんだよ」

 ベッドの横のパイプ椅子に座ると、可児校長はにかっと歯を見せて笑った。

「でも窓ガラスとか机とかその他諸々壊しちゃって……」
「その程度で怒っていたら、渡り廊下で暴力団の抗争みたいなことした時点で怒っているから安心していいよ」
「ですよねー……」

 よく考えたら既に迷惑をかけていた。そもそも怪異が度々起きる奥部小の校長なのだからちゃんと肝が据わっているのだろう、大爆破祭りくらいでは驚かないようだ。

「修理代は凄いけどね」
「ごめんなさい」

 即、謝った。
 頭を下げたら傷口がちょっと開いて痛かった。

「そういえば、なんですけど」
?」
「あったんですけど、悪霊と戦っていて……こうなりました」

 申し訳なさそうにそーっと可児校長の手に鍵――だった物を渡した。
 それは真っ黒でねじ曲がって、ただの鉄屑にしか見えない。
 だが、それは正真正銘奥部小の鍵だった物体です。信じて下さい。

「まぁ……いいですよ。なくした私がいけない訳ですからね~、はっはっは」

 目が笑ってないよ、可児校長。

「ところで君が助けた相棒の霊は、ここにいるのかい?」
「いますよ。オレと一緒にいないと奥部小に引き寄せられちゃうんで」
「そうか。で、どこにいるんだい?」
「可児校長の……後頭部を鏡にしてます」
「わ~い、つるつる~」



「お兄さんおけが大丈夫なの~っ!?」
「こら、美羽!病院では静かにって言ったでしょ!」

 お次は随分騒がしい子の登場だ。どたばたと足音を立てて駆け込んできたのは美羽ちゃん。そして追いかけて入ってきたのは紅花さんだ。
 いつもは土か泥で汚れている美羽ちゃんの服だが、今日は見舞いということもあって純白のレースがあしらわれたワンピースは綺麗だった。

「六年生のお部屋がねーすごくすごーく大変なことになってたんだよ!あれってお兄ちゃんがやったんだよね!校長先生が言ってたよ!」

 その言い方だとオレが悪いことしたみたいに聞こえるんですけど。確かに学校内でドンパチするのは褒められたことではないけど。

「こら、失礼でしょ!駆郎さんはね、美羽の学校を救ったヒーローなのよ!」
「そうなの?ピカリンマジカルみたいな?」
「どちらかというと武錬ぶれんファイターレクスじゃないかしら?」
「えっ」
「えっ」

 紅花さんの口から、特撮ヒーローの名前が出てきてびっくりした。オレも見ている、ピカリンマジカルと同様に朝の子供向け番組だ。

「もしかして、紅花さんも見てます?」
「ええ、恥ずかしながら……。主役の子がタイプなので」

 母さんと同じ理由でした。
 流石イケメン俳優の登竜門。奥様のハートをしっかりキャッチしている。

「じゃあ軌創組きそうぐみブンボウジャーズも知っていたりします?」
「……はい、好きです。特に青い子がお気に入りで……って、おばさんが子供向け番組を本気で見てるなんて変ですよね」
「いえいえ、そんなことないですよ。うちなんて一家揃って見てますから」
「ぶ~ぶ~、ママとお兄さんだけでおしゃべりずるい~。みうも入れてくれないとパパに言っちゃうよ~?」

 それだけはやめて。
 絶対誤解招くから。殺されるから。



「駆郎さん……失礼します……」

 その次。静かにそーっと入室してきたのは禄矢君だった。

「やぁ。どうだい、体調は戻った?」
「はい、おかげで。それより駆郎さんの方が大丈夫なんですか!?」
「肩とお腹に穴が開いたけど問題ナッシングだな」
「軽いですね……」
「子供の時、母さんの仕事についていって髪の毛ごっそり食べられた方がショックだったよ」
「うわぁ、酷い」

 念導者を続ける上で致死寸前の怪我はよく負うので気にしていられない。そして力量を見誤ると死ぬので注意。
 禄矢君には少し刺激が強い話だったかな。

「悪霊はきっちり封印したから安心していいよ。これでバッチリエロライフが楽しめるな!」
「や、やめて下さいよ!僕はそんな……むぅ」

 もじもじとわかめみたいに動いていて、恥ずかしがっているのが丸わかりだ。悪霊はド畜生だったが、可愛くて愛でたくなる気持ちには同感だ。

「分かるよ、エロに興味津々なのを否定したくなるその気持ち。でも安心しろ、男は大体変態だ!多分きっと!先輩が保証する!」
「そんなこと言っても……僕がエロ本読んでるなんて知られたら……絶対いじめられるよ……」

 昔からいるよな、茶化す馬鹿野郎。どうせ自分だって読むくせにノリでいじめる奴。
 パイルドライバー決めてやりたい。

「そんなこと気にするな!もし言う奴がいたらオレがエロとは何か、買う時のコツからバレない隠し方までみっちり教えて矯正してやる!」
「それは心強い……ですけど、駆郎さんはエロの伝道師にでもなるんですか?」
「……マエスエロと呼んでくれてもいいぞ」
「呼びませんよ」



「お~い、駆郎。来てやったぞ~」

 最後に来たのは父さんだった。
 ぬぼーっと猫背気味で病室に入ってくる。徹夜明けなのか目の下のくまがブラック過ぎる。そして眠そうだ。

「父さん、大事な話があるんだ」

 オレは大真面目な顔で、父さんを見つめた。
 確認しなければいけない、とても大切な事項があるのだ。

「……お前がそんな顔をするってことは……アレのことだな」
「察しが良くて助かるよ、父さん」

 オレが放つオーラで一般人の父さんにも気持ちが伝わったようだ。
 空気が二人分の真面目オーラに飲み込まれて、セメントで固められたように重苦しくなっていく。

「アレは……滞りなくうまくいったんだよな?」
「当然だ。父さんがそんなヘマをしでかすとでも?」
「それを聞いてほっとしたよ。もしアレが失敗していたら、オレの入院期間は延びていたかもしれない」
「そうならなくて良かったよ。きっちりバックアップもあるからな」
「父さんは一流だな。抜かりがない」
「ちょっと~、変な話し方やめてよ~。気持ち悪い」

 ななが割り込んできたせいでハードボイルドな空気がぶち壊されてしまった。
 もう少しこの空気に浸っていたかったのに。

「折角いいところだったのに、水を差すなよ」
「だって何言ってるのか意味不明だったんだも~ん。アレって何よ~?」

 どうやら一人蚊帳の外にされたのが不服だったようだ。

「アレは、アレだよ。お前も知っている」
「何よ」
「ピカリンマジカル☆アニマルんずの最新話を録画したかどうかって話だ」
「はい?」
「だから、ピカマジ☆ドラゴンの大活躍回だよ」

 そう、今のオレは入院生活中。ピカマジ☆ドラゴンのバトルシーンに必殺技、きっとあるだろう初お披露目ひろめの変身シーンに正義に目覚めた後のロンロンの揺れる気持ち。そして予告にあった“暴れん坊”の意味について。録画に失敗したくない最高の回になること間違いなしの最新話が無事撮れたかどうか、オレと父さんはその話をしていたのだ。

「ピカマジ☆ドラゴンが気になるのはななも分かるけど……あの話し方いる?」
「いるだろ。ここは病院、男二人がピカリンマジカルの話を公共の場で堂々とするのは全国の女児に対して失礼に値する。男のピカマジファンとして、最低限のマナーを守ったのさ」
「あっそう……」

 だから自分から聞いておいて興味を失うのはやめろよ。それから冷ややかな視線も勘弁してくれ。普通に傷つく。

「どうした駆郎?ななちゃんが何か言っているのか?」
「ん?ななか?録画してくれてありがとう、愛してるっ!って言ってたよ」
「言ってないよ!ばかーっ!」



 というお馬鹿全開フルスロットル毎日大騒ぎで医者に怒られまくりな入院生活だったが、あっという間に一週間が過ぎて無事退院。
 体は全快、傷も完全に塞がって支障もなし。
 心もみんなの励ましとハイテンションさを貰って元気もりもり。念ももりもり。
 ただ、一つだけ気掛かりなのは。

「あと一週間しかねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「ファイトだよ、駆郎にぃっ」

 夏休み開始まで残り一週間。まだ課題が二つもある。
 一つは午前四時四十四分四十四秒に職員室前モニターに映る怪現象。
 もう一つは後回しにした人形娘の霊だ。
 頑張れ、オレ。
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