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女児霊といっしょに。~学校の七不思議~
第七章:最後の一週間 3
しおりを挟む「お~い。起きろ~」
午前四時半。そろそろ夜明けを迎える時刻だ。
オレは緊張感の欠片もなく爆睡しているななを、廊下でころころ転がして起こした。
「もう朝~?まだ眠いよ~……」
「確かに朝に近いけど……。そうじゃなくて、仕事だ」
あと十四分後、目の前にあるモニターに何かが映る、らしい。その瞬間が本当に訪れるのかどうかの確認のために、徹夜で泊まり込んでいるのだ。
「あと五分だけ寝ていたい~」
「絶対寝過ごすパターンだからやめろ」
寝転がろうとするななを持ち上げて三点倒立させる。嫌がったななは暴れて腕を振り解くが、それで完全に目が覚めたようで顔はシャッキリしていた。
空が段々と白んでいく。
怪現象に似つかわしくない、新しい朝――夜明けだ。
四の数字が並んでいるとはいえ怪談の季節である夏の四時頃は夜明け、あまり雰囲気とマッチしていない。
「ねー、やっぱりただの噂じゃないの~?」
「オレだってそう思うけど、ちゃんと確認しないと徹夜したのが無駄になるだろ」
「ななはしっかり寝たよ?」
「オレは寝てないんだよ」
「駆郎にぃも眠ればよかったのに」
「二人とも爆睡したら寝過ごすかもしれないじゃねーか」
「それはまずいね」
「だろ?」
「じゃあ目覚まし時計を使えば良かったんじゃない?」
「………それ、昨日言ってほしかったわ」
そんなこんなで無駄話をしている間に、遂にその時を迎える。
四時四十四分四十秒。
残り、四秒。
三、二、一、零。
――ザザッ。
モニターに、昔懐かしい砂嵐とカラーバーが交互に映る。
オレは勿論、ななもリモコンを弄っていない。勝手に起動した。
「うわ、本当に始まっちゃった」
モニターに映る映像は乱れ気味で、不快なノイズが混ざり耳に悪い。
砂嵐とカラーバーが突然、別の映像に切り替わった。
それは何処かの海辺。砂浜と白い波。曇天の空に切り立った崖。
岩場の合間から、伸びる黒い手。
映像が切り替わる。
誰かの誕生パーティ風景。家族が揃って歌を歌っている。でもその中にある違和感。家族の間を、黒い影が移動していた。
映像が切り替わる。
山の中をドライブしているようだ。街灯は殆どなく、ハイビームのライトだけが頼りの道。その先から、四つん這いの女がフロントガラス目掛けて突っ込んできた。
映像が切り替わる。
廃墟探検をしている不良達。ふざけ合って騒いでいる彼らの目の前に、顔面が砕けた人らしきモノが突然現れた。
映像が切り替わる。
高級住宅街らしき場所。そこのゴミ捨て場で山積みになったゴミ袋。その一つがころりと転がり落ちると、ボロボロのマネキンが起き上がっていた。
映像が切り替わる。
結婚式場で新郎新婦が嬉しそうに指輪交換をしている。しかしそれを見ている親族や友人と思われる人物は全て頭がなかった。
映像が切り替わる。
アトリエのような場所。夜なのか室内は真っ暗だが、サンルーフから差し込む月光が一筋の光を当てている。その先には真っ白な顔の女が一人笑って立っている。
映像が切り替わる。
漆黒の夜、ありふれた街中の道路。その一本道を、無表情な仮面を付けた集団が一列になってふらふらと歩き続けている。
映像が切り替わる。
にこにこと笑っている赤ちゃん。周囲からは保護者と思われる声。しかしその声が途切れた瞬間、赤ちゃんの顔はのっぺらぼうになった。
映像が切り替わる。
ある家庭のホームビデオらしく、はしゃいでいる子供達が映っている。しかしその子供達を、窓に貼り付きずっと見つめている人がいた。
映像が切り替わる。
何かの講習会の様子。講師がホワイトボードの前で説明をしているが、その目はギョロギョロとカメレオンのようにあさっての方向を向いたままだった。
映像が切り替わる。
人体模型が一体、置かれている。特に不自然な点はなく微動だにしない、かと思われた瞬間に目玉がボロボロと落ちた。
映像が切り替わる。
一面真っ黒。だが、ちかちかとサブリミナル・メッセージのように何かが映し出されている。それは、多分全身真っ赤に染まった女だろう。
「うえ~……何コレ」
「恐怖映像のバーゲンセールかよ」
椀子蕎麦状態で次々に不気味な映像が映し出されている。段々目がくらくらとなり、不安な気分になってくる。
しかし、その映像のいくつかに既視感を覚えた。
既視感――だけじゃない。全体的にチープさというか、全部作り物の映像感が凄い。しかも画質の悪さからかなり昔の物っぽい。
これって、よく特番に組まれる“恐怖映像百選”みたいな物じゃないか?
オレは浄魂を巻いた黒烏でモニターをこつん、と突っついてみた。するとモニターの電源が一発で落ちて画面は真っ暗。
すっぽーんっ。
同時にモニターの裏から色白な女の子が飛び出してきた。
黒髪おかっぱの、和服を着た女の子だ。
「……………お前かよ」
どう見ても、三年生のフロアで出会った人形娘の霊だった。
どうやら、三年生の怪と職員室の怪の犯人は同じ霊だったようだ。
「嘘、やだ!私丸見え!?」
人形娘の霊は慌てふためいて、阿波踊りの如くばたばたしている。オレを謎空間の穴に誘った時みたいなミステリアスさが微塵も感じられない滑稽さだ。
「ねぇねぇ、あなたも霊なんだよね?」
「は、はぁ!?誰よあなた!?」
パニックな人形娘の霊に対して、ななはお構いなしにぐいぐい行く。
そういえばななはこいつと会ったことがなかったな。
「名前は?どうして霊になっちゃったの?教えて!友達になろう!」
「いきなり失礼ね!あと馴れ馴れしい!」
それは同感。
ななよ、初めて会う人は普通警戒するから。友子ちゃんの時はうまく行ったかもしれないが、みんながそのノリを受け入れられる訳じゃないぞ。
「そうだ!あなたテレビの中にいたよね!?じゃあさ、こないだのピカリンマジカル見た!?ピカマジ☆ドラゴンが仲間になった話!必殺技もカッコ良かったよね!ピカマジ☆ドラゴン・ブレイカー!って!」
「知らないわよ!キララなら分かるけど、そのピカ何とかなんて見てないわ!」
「キララって、あのラッキー・キララ!?ななは見たことないんだ~。よかったら教えてくれない?」
「嫌よ!面倒臭い!あーもう、何なのよこの子!」
ななのテンションに乗せられて、人形娘の霊のミステリアスメッキがバリバリ剥がれていく。もはや茶化されてイラついている普通の女児霊だ。
「もうっ!折角戻ってこれたのに邪魔ばっかりしてっ!もう帰る!」
怒り心頭かんかんになった人形娘の霊はななを突き飛ばすと、廊下の先へ猛スピードで飛んでいき姿を消した。
「待ってよ~!もっとお話しようよ~っ!」
オレとななは後を追ったが、もうどこにも姿は見当たらず隠れている気配もなかった。
「逃げられちゃったね~」
「大方お前のせいだがな」
「お友達になれると思ったんだけどなぁ……」
しゅんとして隅っこで「の」の字を書いているなな。今時ここまで漫画的な落ち込み方する霊っているんだ。と、どうでもいい感想。
面倒臭いのでななは放っておくとして。
この件、どうもおかしい。
あの人形娘の霊の言動や行動の一つ一つが妙に引っ掛かる。
絡まった糸屑――家庭科の裁縫で失敗した時みたいな気分だった。
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