104 / 149
女児霊といっしょに。~晩出霊獣伝説~
第二章:共同戦線 4
しおりを挟む「邪怪は専門外だってのに、何で相手にすることが多いかなぁ……」
いくら念導者といえども浄怪道具がなければ倒せない。出来るのは“りばやし”到着までの時間を稼ぐことだけだ。しかもこいつは人を食べてエネルギー満タンの状態で、きっと強い。
無傷で生き残るのはちょっと厳しいか?
「っと、危ねぇっ!?」
ひゅん、と風を切って魚の骨が飛んできた。焼き魚を食べた後に残るアレだ。だがその鋭さは段違い、というか大きさも全然違う。鉄パイプみたいな太さの小骨が飛んできて、コンクリートの壁に突き刺さっている。
「やるじゃねーか――うおぉっ!?」
小骨攻撃に気を付けようと思っていたら、今度は猛ダッシュで近づいてきた。さすがゴキブリを内包しているだけあって、移動速度は今まで会った邪怪の中で一番速い。こんなスピードで体当たりされたらバスもひしゃげますわ。
紙一重で躱して、オレは黒烏の刃を威嚇代わりに邪怪へと向ける。だが邪怪は気にしていないのか、ただ触角をひょこひょこと動かしているだけ。そのゴキブリそのものな動きが生理的嫌悪感を催させる。
邪怪は細い六本の足を器用に動かして方向転換、再びオレへと向き直る。
確かゴキブリはその性質上、前進しか出来ないはず。だからこうして突撃直後に方向転換をしている。つまり豪速の突進攻撃は正面での対決の時に来るということ。
「それならっ……!」
邪怪の視界から外れるよう、オレは素早く背後へと回り込む。
そう、常に正面以外の場所にいれば必殺技を食らうことは避けられるのだ。時間稼ぎをするにはもってこいの戦法だ……少々格好悪いが。
当然邪怪もそれに応戦してしゃかしゃかと方向転換をするが、オレはそれより速く次の地点――邪怪の死角へと回り込んでいく。
ぐちゃり。
何か、踏んだ。
靴越しでも分かる、不快な感触。
まさかと思い足元へと視線を移すとそこには生ゴミの塊。恐らく邪怪が落とした体の一部だろう。
「うげっ……」
その一瞬の気の緩みを狙われた。
高速回転しながら骨が飛んでくる。今度は鶏肉料理、フライドチキンだった物と思われる太い骨。
「がはっ!?」
胸部に直撃、棍棒で殴られたような衝撃が全身を駆け抜けていく。
幸い仕事服越しだったため外傷はなくて済んだが、体の内側ではズキズキとダメージが疼いている。
「くそ、なかなかヘヴィだぞ……」
スピーディーな突撃が持ち味なくせに遠距離攻撃も持ち合わせている、厄介な邪怪だ。しかも捕食器官も殺意高めな形をしている。少しでも口の中に入ってしまえば一撃でミンチにされてしまうだろう。
隙がない。
昨日の邪怪が可愛く見えるレベルだ。
「駆郎にぃ、大丈夫!?」
そこに怪我人の避難を終えたななが戻ってくる。
「今のところは、な。それよりちゃんと“りばやし”に通報したか?」
「したけど、遅れるかもって言ってた」
「マジかー……」
頼む、はよ来てくれ。
こいつの相手は骨が折れそうなんだ、物理的にも。
「うわ、こっち来たっ!」
邪怪が動き出す。猛スピードで突進、オレは衝突寸前のところで避けきる。邪怪は速さそのままに民家へ突撃して、玄関を破壊しながらダイナミック家庭訪問。もう住民は避難していて人的被害はないが、一般人なら突進一撃で即死だろう。
ゴキブリの素早さがこの大きさになると脅威であることがよく分かる状況だ。
「また来るよ!」
瓦礫の中からもごもごと邪怪が身を震わせながら、這い出てくる。一対の触覚を自在に動かして、周囲の様子を探りながらゆったりと。
オレはその隙に念導札を複数握り、カウンターをかます準備をする。
「いつでも来やがれ」
また突進してくるなら撃罰でその気色悪いゴキブリ頭を吹き飛ばしてやろう、そう思っていたのが読まれたのか――
「ぐえっ」
――林檎の芯が飛んできた。しかも頭に直撃。
「駆郎にぃ、今のはかなり痛かったよね」
「……うん」
よりによってガードの薄いところに当てやがって。視界がぐらぐら揺れて気持ち悪い。軽口が思いつかないくらい気持ち悪い。
「危ないっ!」
ななの叫びではっとすると、邪怪が再び突撃してきていた。生ゴミショットで怯んだところへの追撃だ。
しかし、その邪怪の進行方向が急に変わり、オレの真横の壁に激突していた。なながポルターガイストで攻撃対象をねじ曲げたのだ。
「ナイスだぜ」
「当然でしょ!」
頭が壁にめり込んでいて抜け出せない邪怪の体に、オレは撃罰をべたべたと大量に貼り付ける。
一つ爆発すると連鎖的に他の撃罰も爆発。まるで花火のように次々と爆音が響き渡っていく。それと同時に邪怪の肉体も細切れになってアスファルトの上に撒き散らせていく。
「……臭~い」
「生ゴミとゴキブリの邪怪だからな」
これが悪霊相手なら光になってくれるのだが、邪怪なので飛び散った肉片は消えず悪臭を放つだけ……ならまだしも、徐々に本体へと戻っていき再生を始めている。要するに汚物のシャワーを振り撒いただけなのだ。
「ゴミはちゃんとゴミ袋に入れておかないといけないのに~」
「あいつの袋っつーかてるてる坊主、破れてるから」
「じゃあ駆郎にぃが入れてよ」
「嫌だよ、なながやってくれ――そうか、再生を封じれば時間が稼げるじゃねーか」
ぴこん、という効果音と共に豆電球が頭上で点灯したような気がした。
オレは聖結の札を使い、這いずる肉片を閉じ込める。四方八方光の壁に阻まれた肉片は行き場を失い、ぐるぐる堂々巡りし始める。
やはり有効だ。
「ななの助言のおかげだねっ」
「……そういうことにしておいてやるよ」
「上から目線過ぎるなー」
名案が出たところまでは、まあまあ良かった。ただ、問題は聖結の札をそんなに持っていないということだ。
ただでさえ作るのが大変なタイプなので仕方ないのだが、飛び散った肉片一つ一つに使う訳にはいかない。この後にも対霊の仕事があるんだし。
「あ、抜け出したよ」
「あんまり削れなかったな」
結局、邪怪の行動を阻害する程再生を封じることは出来ず、果たして邪怪は戦線復帰するのだった。
オレはすかさず邪怪の死角へと移動、突進攻撃をされないよう常に動き続ける。それに対応して邪怪も遠距離攻撃を多用、野菜の切れ端や腐ってぐずぐずになった物体を発射してくる。
「おら、よっと!」
飛来する魚の小骨を、黒烏を用いてフルスイングで打ち返す。小骨は鮫頭の部分に刺さるが、邪怪は意に介さないで小骨の連射を続ける。おかげでオレの足元には針山が築かれていき、次への一歩が地獄の観光地状態になってしまう。
動きが止まったオレへと、また邪怪が突っ込んでくる。しかしそれはななのポルターガイストによって曲げられて不発、だがそうなることを分かっていたのかスピードを緩めていた邪怪はすぐにオレへと向き直る。
「人を食べて知能を得た……って感じか?」
悪霊レベルではないが、理にかなった戦法をその巨体でされると困る。ましてやオレは対霊処の念導者だ。邪怪対策が不十分だというのに手加減無用過ぎて勘弁してほしい。
「泣き言言っても食べられちゃうだけでしょー」
「そりゃそうだけどさ、二日続けて相手するのは嫌になるよ」
もし逆に対邪処の人が霊を相手にすると、同じように困るのだろうか。
なんてことを考えているところへ生ゴミの嵐が襲来。包装用のラップや排水溝のぬめりが体に纏わり付いてきた。
「きゃーっ……あ、平気だ」
「ずるいぞ、なな!」
「だって霊だもーん」
ななは体を非接触状態になることで生ゴミ祭りの中でも平然としている……否、臭いだけはキツイらしい。「おえぇっ」と、何度もえずいている。もっとも、直接汚物を浴びているオレよりかは幾分かマシだが。
「うわっと、やべぇ。これ滑るっ!?」
体中のぬめりのせいで思うように体を動かすことが出来ない。少し力を入れただけで派手に転んでしまいそうだ。それこそコントのように。
生まれたての子鹿みたいにぷるぷるしながら立っていたら、やはり邪怪が突っ込んでくる。
「なな、頼む!」
「いいよ!えいっ!」
ななのポルターガイストで邪怪の突撃は曲がった――が、邪怪自身もぬめりのおかげでドリフトしてそのボディアタックがオレに直撃。更に足元のぬめりによってカーリングよろしくついーっと体が道路の上を滑っていく。
「うわああああああああっ!?」
戦場がどんどん遠ざかっていく。邪怪の姿も小さくなっていく……かと思われたが、邪怪も一緒にカーリングして迫ってくる。
何が悲しくてゴキブリ鮫野郎とぬめぬめデートをしなくてはいけないのか。
しかも行く先はT字路。このままではオレは壁と邪怪の間に挟まれてぺしゃんこだ。
「待てぇーっ!」
ななが急いで飛んで来ようとしているが、ぬめぬめのスピードの前では敵わない。
どうする!?
あいつに対抗する術はないのか!?
残された手は――あるにはある。でも無事では済まないだろうし、決定打にはならない。
だが、やるしかない。
邪怪がオレにぶつかるその瞬間に、黒烏を突き刺すのだ。
衝撃は吸収できないから肩は確実にイかれるし、黒烏が貫通したら結局押し潰されることに変わりはない。
でも、一矢報いることは出来るし大ダメージを与えられれば時間稼ぎになる。
最悪重傷で済めばいい。ゆっくり静養すれば完治するだろうし。
致命傷にならなければ、の話だが。
「ああ、くそ。うまくいってくれよ」
一撃を食らわすその一瞬に全てを賭けて、オレは黒烏の切っ先を邪怪へと向ける。
どかっ、と背中に衝撃が走る。
T字路の壁にぶつかったのだ。割と痛いが、それよりヤバイのが今からやって来る。
邪怪との距離はあと――
ばごんっ!
――眼前まで迫っていた邪怪は、直角にすっ飛んでいった。
「……あ」
左からやってきた車に撥ね飛ばされたようで、邪怪は大量の生ゴミを撒き散らして道路に横たわっていた。あれがもし人間だったら内臓はみ出し状態、といったところか。
「駆郎にぃ、生きてる!?……って、臭」
「邪怪のぬめりのせいだから。断じてオレの臭いじゃねーからな」
ななはオレの何を心配しているんだか。
ってそれより、今邪怪を撥ねた車は――
「いや~、遅れてごめんごめん」
――“りばやし”の車両だ。
車内から茶々がにひひっ、と笑いながら降りてきた。
昨日と同じく人を小馬鹿にした、場違いなノリ。しかしそんな茶々の体はボロボロで、切り傷や打撲まみれだった。
「傷だらけじゃねーか、お前」
「まーね、さっきまで別の邪怪と戦っていたし」
「連戦かよ」
つまり、ろくに体を休めずに駆けつけたということ。対邪処の念導者は戦闘一本に特化した訓練をしているせいで回復面は薬頼みで、それの効果が最大限出るまでには大体一日かかる。要するに対邪において連戦は基本御法度、というかそんなにホイホイ邪怪は出ない。
「さっさとあの邪怪を倒すぞ」
「は?別に駆郎の助けなんていらないんですけど」
「そんな状態でよく言えるな」
対邪処としてのプライドなのか、オレの申し出を断ろうとする。
だが、どれだけ断ろうとも勝手に戦わせてもらうがな。
「……邪魔にだけはならないでよ」
「了解だ」
茶々も自分の消耗具合とプライドを天秤にかけて考えたようで、渋々了承してくれた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!
オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。
ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。
学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。
当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。
同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。
ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。
そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。
まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。
その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。
こうしてジュリーとの同居が決まった。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
霊和怪異譚 野花と野薔薇
野花マリオ
ホラー
その“語り”が始まったとき、世界に異変が芽吹く。
静かな町、ふとした日常、どこにでもあるはずの風景に咲きはじめる、奇妙な花々――。
『霊和怪異譚 野花と野薔薇』は、不思議な力を持つ語り部・八木楓と鐘技友紀以下彼女達が語る怪異を描く、短編連作形式の怪異譚シリーズ。
一話ごとに異なる舞台、異なる登場人物、異なる恐怖。それでも、語りが始まるたび、必ず“何か”が咲く――。
語られる怪談はただの物語ではない。
それを「聞いた者」に忍び寄る異変、染みわたる不安。
やがて読者自身の身にも、“あの花”が咲くかもしれない。
日常にひっそりと紛れ込む、静かで妖しいホラー。
あなたも一席、語りを聞いてみませんか?
完結いたしました。
タイトル変更しました。
旧 彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる
※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。
エブリスタにも公開してますがアルファポリス の方がボリュームあります。
表紙イラストは生成AI
皆が望んだハッピーエンド
木蓮
恋愛
とある過去の因縁をきっかけに殺されたオネットは記憶を持ったまま10歳の頃に戻っていた。
同じく記憶を持って死に戻った2人と再会し、再び自分の幸せを叶えるために彼らと取引する。
不運にも死に別れた恋人たちと幸せな日々を奪われた家族たち。記憶を持って人生をやり直した4人がそれぞれの幸せを求めて辿りつくお話。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる