女児霊といっしょに。シリーズ

黒糖はるる

文字の大きさ
106 / 149
女児霊といっしょに。~晩出霊獣伝説~

第二章:共同戦線 6

しおりを挟む

 一時はどうなるかと思ったが、どうにか邪怪を倒すことが出来た。
 オレとななは無事、そして茶々もボロボロとはいえ軽傷で済んでいる。

「ねーねー、茶々さん。大丈夫~?」
「うるさいな~……」

 心配しているのか煽っているのか、ななはスグナオルンデスXを飲んでいる茶々の周りを飛び回っている。

「なぁ、茶々。ちょっと聞いていいか?」
「また質問?昨日で満足しなかったの?」
「今日の件で、だよ」

 晩出市の邪怪については昨日聞いた通り。幸いさっきの邪怪はレアモノではなかったので楽だったが、そんなことより気になることがある。

「今日は連戦だったな」
「正確には三戦目だけどね」
「余計に酷いな。んで、昨日も邪怪が出たよな」
「それが?」
「おかしいだろ、邪怪がこんな頻度ひんどで現れるなんて」
「……そう思うよね」

 邪怪はある程度の負の感情が集まってから完全体になる関係上、成長は遅めだ。その過程で周囲に不幸を撒き散らし、それで発生した負の感情を取り込み更に肥大化する。それでもある程度の時間がかかる。
 また邪怪が生まれやすい場所もあるが、それでも急速な成長なんて殆どない。余程大きな負の感情が起きるような出来事……それこそ災害レベルのことが起きなければあり得ない。
 そしてひとつの地域、市単位で出現頻度をとると一週間に一、二回が普通だ。たまに二日続けて現れることはあるが、一日に三体も出現するなんてどう考えても異常だ。
 そのことは、茶々も重々分かっているようだった。

「昨日、オレが担当している霊のことを話したよな?」
「心が壊れちゃった霊がいっぱいって話?」
「そう、それ。この件も最近発生したんだが、そっちの件とタイミングが同じじゃないか?」
「……どういうことよ」
「もしかしたらこの二つが、だ」
「あんた、頭でも打ったの?」
「打ったけど、大真面目だよ」

 対霊処として前例のない精神崩壊した霊の多発。
 対邪処としては異常事態と言える邪怪の大量発生。
 これらが同時期に起きているのが全くの無関係とはどうしても思えない。

「具体的な原因は分からないし、どこでどう繋がりがあるのかなんて皆目かいもく見当が付かない。けど不自然だろ?」
「偶然じゃないの?世の中そんなに面白く出来ているとは思えないけど」
「そりゃあ本当に偶然時期が重なった可能性も十分あり得るけど……。霊も邪怪も、元は人の感情から生まれているんだから可能性はゼロじゃない」

 もし霊と邪怪、それぞれに影響を及ぼしている未知の存在がいるとしたら。
 それが知らない間に勢力を伸ばしていたら。
 かなりまずいことになるかもしれない。

「はいはい、分かりましたよ。駆郎君はとっても真面目で優秀で、念導者の未来をうれう立派な若者だってね」
「やっぱり馬鹿にしてるだろお前――」

 なおもオレの仮定を鼻で笑う茶々だった……が、そこにぱこん、と一発。
 車から降りてきた行兵衛が、スリッパらしき物で茶々の頭をはたいたのだ。
 意外な行動に、オレはぽかんとしてしまう。

「いった!?パパ酷い!」
「お前はもう少し駆郎君を見習った方がいい」

 急にオレのことを持ち上げてきたぞ、このセクハラおじさん。オレに恩を売って母さんとの接点を増やすつもりか?……と、邪推じゃすいしてしまったが。

一先ひとまず、こちらの仕事をフォローしてくれたことに感謝する」
「それはどうも」
「それと君の言う可能性の話だが、あり得ない話じゃないね」
「そう考えてもらえてがたいです」

 行兵衛はどうやらオレの考えに賛同の意を示してくれているらしい。
 これで互いに情報交換が出来れば、この異常事態を解決する糸口が見つかるかもしれない……そう希望を持った矢先だった。

「この件については、このはさんともじっくり話し合いたいねぇ」

 やっぱり、こいつの目当ては母さんだったか。

「あんたそればっかだな」
「でも、君とうちの娘だけの問題じゃないだろ?これは晩出市管轄の対邪処と対霊処、その店主同士の問題でもある」

 ぐうの音も出ない。
 店主の許可なく見習いであるオレ達が勝手に進めて良い話じゃない。

「……確かにおっしゃるとおりですね」
「じゃあ、近いうちに話す機会を設けるかな――」
「代わりに、一つ条件があります」

 オレは行兵衛の声をさえぎった。
 こんな変態野郎をタダで母さんに会わせる訳にはいかない。

「条件?聞かせてもらおうか?」
「こちら側からも対邪の念導者に依頼を出します。それを承知してもらえませんか?」
「つまり?」
「醒果会の対邪処もこの件に関わらせてもらいたい、ということです」

 少しでもオレ達が動きやすいように、母さんが不利な立場にならないように。
 一番信頼のある、対邪処“きつねび”に応援を頼むことだけは飲んでもらう。

「ふざけないでよ!誰が醒果会のヤツなんかと――」
「いいじゃないか。その条件は受け入れるさ」

 茶々が全力で拒否しようとしたが、行兵衛はそれを抑えて了承してくれた。
 拍子抜けするくらい、あっさりと。

「パパ、いくら色ボケしているからって限度があるでしょ!?」
「このはさんにアタックしたいのが第一目的だが、実際問題人手が足りないのは事実だろ?うちの上層部が他から念導者を回してくれるとは思えないしな」
「だからって、よりにもよって……むぅ」

 結局茶々も説き伏せられたようで、交渉はうまくいった。
 行兵衛のことは母さんを困らせるクソ野郎程度にしか認識していなかったが、キャリアを積んでいるだけあって言うことはごもっともだ。一応良識のある大人のようだ、セクハラすることを抜けばの話だが。

「ねぇ、駆郎にぃ」

 にゅっとオレの後ろからななが顔を出す。
 そういえばすっかり存在を忘れていた。大人との交渉場面はななにとって退屈だったのだろうか。
 あれ?忘れていると言えば、何かとても大事なことがあったはずだったのだが……。

「仕事、行かなくていいの?」

 あ、それだ。

「しまったぁぁぁぁっ!浄霊の仕事忘れてたぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 まずい、まずいまずいまずい!
 完全に遅刻だ、百パーセント遅刻だ畜生ちくしょう
 オレは急いで散乱した浄霊道具をまとめてバスに乗ろうとして――そうだ、邪怪騒ぎでバスなんか来る訳ないじゃねーか。
 徒歩でいくのか?
 絶対間に合わないよ、日が暮れること必至だ。

「よかったら乗っていくかい、駆郎君?」

 そこで天からの助け。否、変態の助け。
 行兵衛が「どうぞ」と言わんばかりにワンボックスカーの扉をオープンして待っている。

「良からぬ事を考えてませんよね?」
「オレがタクシー代にさっきの交渉を反故ほごにするとでも?そいつは心外だな。これはうちの茶々を助けてくれたほんのお礼だよ」
「別に助けてもらってないし!駆郎が勝手に割り込んできただけだから!」

 そこは認めたくないのかい。相変わらず面倒な女子だ。
 あれ?オレの知り合いの女子って、大体面倒臭い人しかいなくないか?

「く・ろ・う・に・ぃ?」
「霊パワーで圧力かけても怖くねーからな」
「せいっ」
「ぐふぁっ」

 ななの肘鉄砲エルボーガンが腰に直撃した。

「で、乗るの?乗らないの?」
「お……お言葉に……甘えさせて……いただきます……」

 腰を押さえて、よろよろと。とても情けない足取りでオレは“りばやし”の車に乗り込むのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ラン(♂)の父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリー(♀)だった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。 しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は騒然となった。  

処理中です...