女児霊といっしょに。シリーズ

黒糖はるる

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女児霊といっしょに。~晩出霊獣伝説~

第二章:共同戦線 6

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 一時はどうなるかと思ったが、どうにか邪怪を倒すことが出来た。
 オレとななは無事、そして茶々もボロボロとはいえ軽傷で済んでいる。

「ねーねー、茶々さん。大丈夫~?」
「うるさいな~……」

 心配しているのか煽っているのか、ななはスグナオルンデスXを飲んでいる茶々の周りを飛び回っている。

「なぁ、茶々。ちょっと聞いていいか?」
「また質問?昨日で満足しなかったの?」
「今日の件で、だよ」

 晩出市の邪怪については昨日聞いた通り。幸いさっきの邪怪はレアモノではなかったので楽だったが、そんなことより気になることがある。

「今日は連戦だったな」
「正確には三戦目だけどね」
「余計に酷いな。んで、昨日も邪怪が出たよな」
「それが?」
「おかしいだろ、邪怪がこんな頻度ひんどで現れるなんて」
「……そう思うよね」

 邪怪はある程度の負の感情が集まってから完全体になる関係上、成長は遅めだ。その過程で周囲に不幸を撒き散らし、それで発生した負の感情を取り込み更に肥大化する。それでもある程度の時間がかかる。
 また邪怪が生まれやすい場所もあるが、それでも急速な成長なんて殆どない。余程大きな負の感情が起きるような出来事……それこそ災害レベルのことが起きなければあり得ない。
 そしてひとつの地域、市単位で出現頻度をとると一週間に一、二回が普通だ。たまに二日続けて現れることはあるが、一日に三体も出現するなんてどう考えても異常だ。
 そのことは、茶々も重々分かっているようだった。

「昨日、オレが担当している霊のことを話したよな?」
「心が壊れちゃった霊がいっぱいって話?」
「そう、それ。この件も最近発生したんだが、そっちの件とタイミングが同じじゃないか?」
「……どういうことよ」
「もしかしたらこの二つが、だ」
「あんた、頭でも打ったの?」
「打ったけど、大真面目だよ」

 対霊処として前例のない精神崩壊した霊の多発。
 対邪処としては異常事態と言える邪怪の大量発生。
 これらが同時期に起きているのが全くの無関係とはどうしても思えない。

「具体的な原因は分からないし、どこでどう繋がりがあるのかなんて皆目かいもく見当が付かない。けど不自然だろ?」
「偶然じゃないの?世の中そんなに面白く出来ているとは思えないけど」
「そりゃあ本当に偶然時期が重なった可能性も十分あり得るけど……。霊も邪怪も、元は人の感情から生まれているんだから可能性はゼロじゃない」

 もし霊と邪怪、それぞれに影響を及ぼしている未知の存在がいるとしたら。
 それが知らない間に勢力を伸ばしていたら。
 かなりまずいことになるかもしれない。

「はいはい、分かりましたよ。駆郎君はとっても真面目で優秀で、念導者の未来をうれう立派な若者だってね」
「やっぱり馬鹿にしてるだろお前――」

 なおもオレの仮定を鼻で笑う茶々だった……が、そこにぱこん、と一発。
 車から降りてきた行兵衛が、スリッパらしき物で茶々の頭をはたいたのだ。
 意外な行動に、オレはぽかんとしてしまう。

「いった!?パパ酷い!」
「お前はもう少し駆郎君を見習った方がいい」

 急にオレのことを持ち上げてきたぞ、このセクハラおじさん。オレに恩を売って母さんとの接点を増やすつもりか?……と、邪推じゃすいしてしまったが。

一先ひとまず、こちらの仕事をフォローしてくれたことに感謝する」
「それはどうも」
「それと君の言う可能性の話だが、あり得ない話じゃないね」
「そう考えてもらえてがたいです」

 行兵衛はどうやらオレの考えに賛同の意を示してくれているらしい。
 これで互いに情報交換が出来れば、この異常事態を解決する糸口が見つかるかもしれない……そう希望を持った矢先だった。

「この件については、このはさんともじっくり話し合いたいねぇ」

 やっぱり、こいつの目当ては母さんだったか。

「あんたそればっかだな」
「でも、君とうちの娘だけの問題じゃないだろ?これは晩出市管轄の対邪処と対霊処、その店主同士の問題でもある」

 ぐうの音も出ない。
 店主の許可なく見習いであるオレ達が勝手に進めて良い話じゃない。

「……確かにおっしゃるとおりですね」
「じゃあ、近いうちに話す機会を設けるかな――」
「代わりに、一つ条件があります」

 オレは行兵衛の声をさえぎった。
 こんな変態野郎をタダで母さんに会わせる訳にはいかない。

「条件?聞かせてもらおうか?」
「こちら側からも対邪の念導者に依頼を出します。それを承知してもらえませんか?」
「つまり?」
「醒果会の対邪処もこの件に関わらせてもらいたい、ということです」

 少しでもオレ達が動きやすいように、母さんが不利な立場にならないように。
 一番信頼のある、対邪処“きつねび”に応援を頼むことだけは飲んでもらう。

「ふざけないでよ!誰が醒果会のヤツなんかと――」
「いいじゃないか。その条件は受け入れるさ」

 茶々が全力で拒否しようとしたが、行兵衛はそれを抑えて了承してくれた。
 拍子抜けするくらい、あっさりと。

「パパ、いくら色ボケしているからって限度があるでしょ!?」
「このはさんにアタックしたいのが第一目的だが、実際問題人手が足りないのは事実だろ?うちの上層部が他から念導者を回してくれるとは思えないしな」
「だからって、よりにもよって……むぅ」

 結局茶々も説き伏せられたようで、交渉はうまくいった。
 行兵衛のことは母さんを困らせるクソ野郎程度にしか認識していなかったが、キャリアを積んでいるだけあって言うことはごもっともだ。一応良識のある大人のようだ、セクハラすることを抜けばの話だが。

「ねぇ、駆郎にぃ」

 にゅっとオレの後ろからななが顔を出す。
 そういえばすっかり存在を忘れていた。大人との交渉場面はななにとって退屈だったのだろうか。
 あれ?忘れていると言えば、何かとても大事なことがあったはずだったのだが……。

「仕事、行かなくていいの?」

 あ、それだ。

「しまったぁぁぁぁっ!浄霊の仕事忘れてたぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 まずい、まずいまずいまずい!
 完全に遅刻だ、百パーセント遅刻だ畜生ちくしょう
 オレは急いで散乱した浄霊道具をまとめてバスに乗ろうとして――そうだ、邪怪騒ぎでバスなんか来る訳ないじゃねーか。
 徒歩でいくのか?
 絶対間に合わないよ、日が暮れること必至だ。

「よかったら乗っていくかい、駆郎君?」

 そこで天からの助け。否、変態の助け。
 行兵衛が「どうぞ」と言わんばかりにワンボックスカーの扉をオープンして待っている。

「良からぬ事を考えてませんよね?」
「オレがタクシー代にさっきの交渉を反故ほごにするとでも?そいつは心外だな。これはうちの茶々を助けてくれたほんのお礼だよ」
「別に助けてもらってないし!駆郎が勝手に割り込んできただけだから!」

 そこは認めたくないのかい。相変わらず面倒な女子だ。
 あれ?オレの知り合いの女子って、大体面倒臭い人しかいなくないか?

「く・ろ・う・に・ぃ?」
「霊パワーで圧力かけても怖くねーからな」
「せいっ」
「ぐふぁっ」

 ななの肘鉄砲エルボーガンが腰に直撃した。

「で、乗るの?乗らないの?」
「お……お言葉に……甘えさせて……いただきます……」

 腰を押さえて、よろよろと。とても情けない足取りでオレは“りばやし”の車に乗り込むのだった。
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