女児霊といっしょに。シリーズ

黒糖はるる

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女児霊といっしょに。~晩出霊獣伝説~

第四章:眠り姫達のパーティー 1

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 対霊処“あまみや”の会議室……というかオレの家のリビングルームで、晩出市の危機への対応を決める会議が開かれていた。
 出席者はオレと母さん。ななとミサキちゃん。
 “りばやし”からは茶々と行兵衛。
 そしてキーを握る柴犬、狼慈丸。

「この可愛いワンちゃんが伝説の霊獣か……」
―悪かったな―

 行兵衛は半信半疑なのか狼慈丸の体をべたべた触りながら感触を確認している。いや、あんた単にもふもふしたいだけだろ。

「とにかく、今確定していることをまとめると……澱神無が復活しようとしているのは間違いなし……っと」

 オレはホワイトボードに情報を書き記していく。
 因みにこのホワイトボードは母さんが昔大安売りで買った品だ。やっと使う機会があってよかったな、ホワイトボードさん。

「狼慈丸はその気配に気付いて急いで帰還して、そのせいで柴犬になってしまった……っと」
―柴犬言うな―
「でも私は好きだなー」
―きゃうきゃう~ん♪―

 茶々にもふもふされて喜んでいる姿からは威厳をさっぱり感じない。
 本当に千年以上の時を生きた霊獣なんだよな?心配になってきたぞ。

「んでもって、ミサキちゃんとその他六人の生け贄にされた霊も澱神無の復活の兆候ちょうこうによる副産物的に解き放たれた……っと」
「あたい以外のヤツはどうなっているんだ?」
「今のところ四人は奥部小でつぼみちゃんっていう子が保護してくれている。あ、その子も霊だから」
「すっごく可愛いんだよー」
「その辺に関しては、あとで案内してあげるよ」

 まだ見つかっていないのは二人。おそらく晩出市内を彷徨さまよい中、それかもう奥部小に引き寄せられているのだろうか。
 どちらにせよ、彼女達も救済しないといけないな。

「最近邪怪がやけに多く出現しているのは……そっちのことは狼慈丸の方が詳しいよな?」
―まぁな―
「じゃあ説明よろしく」
―もう少し敬えや、駆郎―

 そんなこと言われても(主に女性に)もふもふされて喜んでいるような柴犬もどきに敬意を持つ方が難しいぞ。今の姿を逆手にとって楽しんでいるなんて、性別逆のアバターを使っているネカマみたいだ。
 そもそも、まずあんたの威厳ゲージがほぼゼロなんですが。

―邪怪の大量発生には澱神無が発する波動が関わっている。要するに通常の邪怪の振りまく不幸の強化版みたいなものだ―

 狼慈丸はテーブルの上にひらり、と飛び乗って説明を始める。が、行儀が悪いということで母さんのひざの上に乗せられてしまう。

―その波動が邪怪の成長を促進し、完全体を増やしていく。生まれた邪怪は不幸を振りまき人々を捕食、それによって発生した負の感情が澱神無の復活を早めていくという訳だ―
「復活の必要な物は手先任せってことか」
「すごーく迷惑だねー」
「ホントだよ、私達の仕事を増やしてくれちゃってさ。っていうか澱神無って結局邪怪の何なの?」

 茶々が素朴な疑問を口にする。
 確かに、邪怪に似た性質を持っていることから異常に成長した邪怪の一種くらいの認識だったのだが、その正体は何なのだろうか。海底という人智を越えた深き場所に溜まったから、突然変異を起こした、みたいな。
 だが、狼慈丸にもその真の正体を知っている訳ではないようだ。

―正確には我でも分からない。が、少なくとも晩出市の邪怪の元になっているのは確かだ―
「へぇ、それってどういうことなのよ?」
―お前もこの地で邪怪を相手にしていれば知っているだろう。連中の多くが海の生き物を身にまとい、稀に核を三つ所持していることを―
「そうだけど、まさかその原因がそいつってこと?」
―ご名答だ―

 嬉しくない正解に、溜息ためいき一つ吐き出す茶々。

―海の生き物も三つの核も、本来澱神無の持つ特徴だった。だが千年前の戦いで澱神無の因子が晩出市中に飛び散ってしまった。だから現在も出現し続けているこの地特有の個体は、言うならばヤツの落とし子のような存在なのだ―

 つまるところ、晩出市の邪怪は澱神無の因子で汚染されているため行動や特徴がリンクしている。今回の大量発生は自身の復活のために手下として使役し、各地から負の感情を集めさせているのか。
 ん?ちょっと待てよ。

「そもそも何故澱神無は復活しようとしているんだ?」

 最大の問題はそこだ。どうして急に復活することになったんだ?伝承通りなら千年前に浄怪されたはずなのに。

―そこが他の邪怪と違うところのようだな―
「狼慈丸がそう言うってことは、これも理由不明ってことか?」
―否定はしない。が、我は消せないけがれのようなものだと考えている―

 狼慈丸曰く、千年前に突如として澱神無がこの地に上陸した時点で土地が穢れてしまったとのこと。
 海より現れたそれは邪怪の発生条件と照らし合わせると、海底に溜まったゴミのように凝り固まった負の感情の権化。そしてそれが土地全体に自身の因子いんしを撒き散らしたことで一種のサイクルが形成されてしまい、倒されても晩出市中から負の感情を少しずつ集めて復活してしまう。
 そしてそのサイクルが丁度千年前後で、それに巻き込まれてずっと海底に繋ぎ止められていたのがミサキちゃん達生け贄の霊ではないか、ということだそうだ。

「私も気になることがあるんだけど、いいかな?」

 ここでずっと狼慈丸の頭をもみもみしていた母さんが手を止めて、膝の上――もふられ続けていた狼慈丸に質問した。

「他の場所でもこういう感じの現象ってあるの?」
―我が関わる中ではこれが初めてだが、仲間の霊獣から似たような話を聞いたことがあるな―

 他の霊獣とも交流があるんだ、それは初耳。いや、ほとんどの念導者がそうか。霊獣と出会えること自体がレアケースなんだから。

―霊獣のたまり場で小耳に挟んだくらいだがな―

 たまり場って、ノリが軽いな霊獣の世界。
 思ったより神秘性がないぞ。

「……ということで、ここまで出た情報から言えることは、戦力が圧倒的に足りないってことだな」

 ホワイトボードに書いた文字からは絶望的な状況しか感じない。
 規格外の大きさの怪物とその手下がわさわさ増殖中。その手下のせいでどんどん怪物復活までのリミットが縮まっている。しかも怪物本体は核を三つ持つという耐久力に加え、その内再生するという能力持ち。
 それに対して最高の対抗策となり得る存在が、現在ただの柴犬。いつ元に戻るのかは不明。念導者はそれなりにいるが、大変心許ない。

「“きつねび”には応援を要請したけど、そっちはどうなんだ?」
「無理無理。うちの上層部はただでさえ越権行為が大嫌いなのよ?同じ清寂会の中でも管轄地域をまたぐのを嫌うくらいに」
「んなこと言ってる場合じゃねーのになぁ……」

 偉い功績を持って良い椅子いすに座っているというのに、ろくでもない大人しかいないのかよ。
 現場だけで対応するのにも限度ってもんがあるぞ。

「それならオレに任せな」

 ここで行兵衛が名乗りを上げる。自分を指さす気取ったポーズで格好付けているが、どんな妙案があるというのだ。

「ここだけの話なんだが、清寂会では新兵器を作っているんだよ。邪怪を一撃で吹っ飛ばせるぐらいに強力なのをな。それがあればクソデカ野郎相手でもやり合えるってもんだ」

 意外にも真っ当な話が出てきた。その新兵器とやらがあればこの絶望的な戦力差をひっくり返すことが出来るかもしれない……が。

「でも腰の重い清寂会がそんな大事な物を貸してくれるのか?」

 念導者の派遣すらも出し渋るような連中が開発途中の武器を、ましてや醒果会の念導者の前で使うことを良しとするとは思えない。

「ふっ、そういう時の切り札があるじゃないか」
「切り札?」
「このはさんだよ」

 意味不明なことを言ったかと思ったら、行兵衛は瞬間移動テレポートレベルのスピードで母さんの背後に回り込んで無駄に豊満な胸をもみしだく。

「このはさんの魅惑的ボディをもってすれば、うちの上司達だって何でも快く貸してくれるさ」

 ニカッ。
 キメ顔で笑う行兵衛の顔面に、
 当然だ、馬鹿野郎。

「誰が、勝手に、もんで、いいって、言いました?」
「ぐげっ、うぎゃっ、ふごっ、もびゅっ、ぼひっ」

 馬乗りになった母さんは一切の慈悲なく、鉄拳を振り下ろし続ける。
 あんまり殴り過ぎないでくれ、おっさんの血でこのあとの掃除が大変になるから。

「茶々的にはいいのか、アレ」
「別に~。セクハラするパパが悪いんだし」
「ならいいけど」

 自分の父親がボコボコにされている現場で平然としているのも凄いが、セクハラしまくってもパパって呼んでくれる娘っていう点でも凄いな。とっくに嫌われていてもおかしくないんだから、そこには感謝しておけよ。

「うひゃあ、あれ死なねーか?」

 あと、粗暴なミサキちゃんですらどん引きしていた。













「ひゃあ、ひょへひひょいへはほんへひまふ(じゃあ、オレ一人で頼んできます)」

 しこたま殴られて顔面全体生肉ユッケみたいになった行兵衛だったが、案外まだ平気そうだった。もう四、五分くらい殴り続けても生きていそうだな。

「そうだ、私の方でアテがあるから頼んでみるわ」

 ユッケ顔の父親を見ても動揺しない茶々が、思い出したかのようにそう言った。

「でも清寂会は派遣してくれないんだろ?」
「そっちじゃなくて、フリーの人」
「なるほど、その手があったか」

 茶々はどうやらフリーで対邪の仕事をしている念導者とのツテがあるようで、そちらにも声を掛けてくれるようだ。
 さて、澱神無の復活までにどれだけ戦力をかき集められるか。
 タイムリミットまで全力で取り組まないと。
 ああ、不安だ。
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