女児霊といっしょに。シリーズ

黒糖はるる

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女児霊といっしょに。~晩出霊獣伝説~

第六章:焦燥のバトル・ロード 6

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 景色から民家がなくなり、針葉樹しんようじゅばかりになってきた。海へ向かっているのに、まるで森にいるような気分だ。アスファルトの上にも落ち葉が大量に敷かれており、車体越しに踏んだ柔らかさが伝わってくる。

「…………うぅっ」

 先程からナルカちゃんの様子がおかしい。幼さのある笑みは消え失せて、怯えたように歯をカタカタと鳴らしている。

「大丈夫か、ナルカちゃん?」
「……い、いかんのぅ。怖くて震えが止まらん」

 目的地との距離が縮まる程に震えは大きくなっている。澱神無の気配が強くなっていて、それを感じているのだろう。
 ナルカちゃんの怯えが伝播でんぱしたのか、他の霊達も顔が恐怖色に染まっていく。平気なのは関係のないなな、それとミサキちゃんだけだ。

「ミサキちゃんは怖くないのか?」
「馬鹿にするなよ。あたいは修羅場しゅらばをくぐってきたんだ、この程度のことで怖じ気づいていられるかってんだ」

 と、吐き捨てるように言うが、そんなミサキちゃんの指先は小刻みに震えていた。どう見てもやせ我慢をして、恐怖心を押さえ込んでいた。
 震えるミサキちゃんの手を、そっとななの小さなてのひらが包み込んだ。

「……なんだよ」
「大丈夫、なながついてるから」
「お、お前は関係ないだろうが……」

 ななの優しさに触れたせいか、ぷいと目線を逸らすミサキちゃんだった。
 そんな微笑ましい姿の後で申し訳ないが、これだけは言わせてもらおう。

「……みんな、この先はもっと怖いことになるぞ」
「ちょっと駆郎にぃっ!何で脅すようなこと言ってるの!?」

 ななが静止しようとするが、オレはそれを押しのけて続けた。

「降りるなら今のうちだ。君達にはこれ以上辛い思いをしてほしくない。……勿論、君達の分までオレ達は戦うから安心してくれ」

 ただでさえ生け贄にされて人として味わう最大級の恐怖を受けながら死んでいった彼女達なんだ、これ以上過去のトラウマに塩を塗り込むようなことは忍びない。
 無理をして、また精神崩壊を起こした存在そのものが不安定な霊に逆戻りしてほしくない。

「そうだな。お前があたいらを気遣ってくれているってことは分かった。だけど……」
「だけど?」

 みしり。
 ミサキちゃんの拳が、顔面にめり込んだ。

「だけど、ここで退いたらあたいらは悲劇の被害者のまんまだろーがクソボケ!」

 殴られた衝撃で窓ガラスに後頭部をしたたかにぶつけ、視界にちかちかと星が瞬いている。あと鼻血も出ていた。

「……それだけ啖呵切れるなら大丈夫そうだな」

 結果的に、彼女を奮い立たせることになったようだ。でも、吹っ切れたようで良かった。まさかグーパンチもついでに飛んでくるとは思わなかったが。

「あたいは戦う。お前らはどうする?」
「その台詞はむしろわてのものですが?」
「一応私達の方が年上ですし、ねぇ?」
「わたくしも精一杯頑張りたいですっ」
「僕はだらけながらでいいなら……眠いし」
「えー、なんかもりあがってるかんじ?わはははっ!」

 どうやら、みんなミサキちゃんと同意見のようだ。

「ナルカちゃんは……どうする?」
「いちいち聞くでない、妾は念導者の娘だぞ?」
「なら、決まりだな」

 最終決戦を前に、オレ達は覚悟と決意をひとつに出来た。
 そんな、少年漫画ならきっと熱いワンシーンであろう瞬間に――

「来るぞ、邪怪なのじゃっ!」

 ――最悪のタイミングで横やりが入った。

「みんな、どっかに掴まってろっ!」

 運転している牛来さんが叫ぶが、車内に掴まれそうな場所は殆どない。そしてどうしようかと思案する暇もなく、車体が大きく揺れる。激しいハンドルの切り方で、どこからか飛んでくる攻撃を避けているのだ。
 どん、どん、どん!
 車の真横で爆発が巻き起こり、針葉樹の枯れ葉が舞い散る。巨大な弾丸のような物体がワンボックスカーを鉄屑に変えようとしている。

「――うぉうっ!?」

 更に急ブレーキ。
 車体が前のめりになりひっくり返りそうになりながら、緊急停車した。
 直後、目の前に巨体が落ちてきた。
 邪怪。
 オレ達を狙っていたのはこいつか。
 きっとこいつも澱神無が足止めとして送ってきた刺客だろう。
 その姿は巨人の警察官という出で立ち。おそらく交番か警察署で生まれたのであろう。ホヤの頭には目玉がめり込んだ警察帽子。両肩にはそれぞれパトカーのサイレンとシンボルマークとして有名な旭日章きょくじつしょう。右腕には警棒、左手にはピストル……撃ち込まれたのはこれの弾丸だろう。左足には手錠が巻き付いていて、右足は何故か溶けかけ。そして腹部には大きく開いた捕食器官があった。

「これまた強そうだな……」

 普通の人間の警察官でも強いというのに特大サイズなのだから性質たちが悪い。しかも今なら澱神無による再生力増し増しのサービス期間中。反吐が出るキャンペーンだ。












「……駆郎達は先に行っていろ」
「ここはボクらが引き受ける」

 ましろとこがねが降車して、積み込まれていた自身の浄怪道具を持ち出す。

「おい、まさかお前ら――」
「まさかもさかさもねーだろ。ここはあたしらが出るのが最適だろ?」

 ましろの言う通りだ。
 澱神無のいる場所にいち早く向かうには車が必要で、運転出来る牛来さんと相馬さんは抜けられない。何よりこの二人はベテランの先輩だ。茶々は同年代ではあるが晩出市の怪異には詳しいし、オレは対霊処の念導者だから浄怪技術を殆ど持ち合わせていない。故に双子で互いを信頼し合っているましろとこがねが真っ先にしんがりを務めるのは、理にかなってはいる。
 そんなこと、頭では分かっている。
 でも……。

「お涙頂戴のB級映画じゃあるまいし、お決まりの展開なんて糞食らえだろ。心配するんじゃねぇよ」
「専門外の駆郎に心配される程、ボクらは弱くないから」

 そんなオレのことを察してか、二人はそっくりな笑みを浮かべて警察官の邪怪へと立ち向かっていった。

「だから、そういうのが死亡フラグだろーが……!」

 唇を噛みしめて、オレは心の中で叫んだ。
 だがそれは不安という心の隙間から、声という形となってれ出してしまっていた。

 火薬が爆ぜ、火花がちらちらと光る。
 地響きと木々がへし折れる音が耳に届く。
 それでも、止まらない。
 ワンボックスカーは、最終決戦の地へと走り続ける――
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