137 / 149
女児霊といっしょに。~晩出霊獣伝説~
第六章:焦燥のバトル・ロード 6
しおりを挟む景色から民家がなくなり、針葉樹ばかりになってきた。海へ向かっているのに、まるで森にいるような気分だ。アスファルトの上にも落ち葉が大量に敷かれており、車体越しに踏んだ柔らかさが伝わってくる。
「…………うぅっ」
先程からナルカちゃんの様子がおかしい。幼さのある笑みは消え失せて、怯えたように歯をカタカタと鳴らしている。
「大丈夫か、ナルカちゃん?」
「……い、いかんのぅ。怖くて震えが止まらん」
目的地との距離が縮まる程に震えは大きくなっている。澱神無の気配が強くなっていて、それを感じているのだろう。
ナルカちゃんの怯えが伝播したのか、他の霊達も顔が恐怖色に染まっていく。平気なのは関係のないなな、それとミサキちゃんだけだ。
「ミサキちゃんは怖くないのか?」
「馬鹿にするなよ。あたいは修羅場をくぐってきたんだ、この程度のことで怖じ気づいていられるかってんだ」
と、吐き捨てるように言うが、そんなミサキちゃんの指先は小刻みに震えていた。どう見てもやせ我慢をして、恐怖心を押さえ込んでいた。
震えるミサキちゃんの手を、そっとななの小さな掌が包み込んだ。
「……なんだよ」
「大丈夫、なながついてるから」
「お、お前は関係ないだろうが……」
ななの優しさに触れたせいか、ぷいと目線を逸らすミサキちゃんだった。
そんな微笑ましい姿の後で申し訳ないが、これだけは言わせてもらおう。
「……みんな、この先はもっと怖いことになるぞ」
「ちょっと駆郎にぃっ!何で脅すようなこと言ってるの!?」
ななが静止しようとするが、オレはそれを押しのけて続けた。
「降りるなら今のうちだ。君達にはこれ以上辛い思いをしてほしくない。……勿論、君達の分までオレ達は戦うから安心してくれ」
ただでさえ生け贄にされて人として味わう最大級の恐怖を受けながら死んでいった彼女達なんだ、これ以上過去のトラウマに塩を塗り込むようなことは忍びない。
無理をして、また精神崩壊を起こした存在そのものが不安定な霊に逆戻りしてほしくない。
「そうだな。お前があたいらを気遣ってくれているってことは分かった。だけど……」
「だけど?」
みしり。
ミサキちゃんの拳が、顔面にめり込んだ。
「だけど、ここで退いたらあたいらはただの悲劇の被害者のまんまだろーがクソボケ!」
殴られた衝撃で窓ガラスに後頭部をしたたかにぶつけ、視界にちかちかと星が瞬いている。あと鼻血も出ていた。
「……それだけ啖呵切れるなら大丈夫そうだな」
結果的に、彼女を奮い立たせることになったようだ。でも、吹っ切れたようで良かった。まさかグーパンチもついでに飛んでくるとは思わなかったが。
「あたいは戦う。お前らはどうする?」
「その台詞はむしろわてのものですが?」
「一応私達の方が年上ですし、ねぇ?」
「わたくしも精一杯頑張りたいですっ」
「僕はだらけながらでいいなら……眠いし」
「えー、なんかもりあがってるかんじ?わはははっ!」
どうやら、みんなミサキちゃんと同意見のようだ。
「ナルカちゃんは……どうする?」
「いちいち聞くでない、妾は念導者の娘だぞ?」
「なら、決まりだな」
最終決戦を前に、オレ達は覚悟と決意をひとつに出来た。
そんな、少年漫画ならきっと熱いワンシーンであろう瞬間に――
「来るぞ、邪怪なのじゃっ!」
――最悪のタイミングで横やりが入った。
「みんな、どっかに掴まってろっ!」
運転している牛来さんが叫ぶが、車内に掴まれそうな場所は殆どない。そしてどうしようかと思案する暇もなく、車体が大きく揺れる。激しいハンドルの切り方で、どこからか飛んでくる攻撃を避けているのだ。
どん、どん、どん!
車の真横で爆発が巻き起こり、針葉樹の枯れ葉が舞い散る。巨大な弾丸のような物体がワンボックスカーを鉄屑に変えようとしている。
「――うぉうっ!?」
更に急ブレーキ。
車体が前のめりになりひっくり返りそうになりながら、緊急停車した。
直後、目の前に巨体が落ちてきた。
邪怪。
オレ達を狙っていたのはこいつか。
きっとこいつも澱神無が足止めとして送ってきた刺客だろう。
その姿は巨人の警察官という出で立ち。おそらく交番か警察署で生まれたのであろう。ホヤの頭には目玉がめり込んだ警察帽子。両肩にはそれぞれパトカーのサイレンとシンボルマークとして有名な旭日章。右腕には警棒、左手にはピストル……撃ち込まれたのはこれの弾丸だろう。左足には手錠が巻き付いていて、右足は何故か溶けかけ。そして腹部には大きく開いた捕食器官があった。
「これまた強そうだな……」
普通の人間の警察官でも強いというのに特大サイズなのだから性質が悪い。しかも今なら澱神無による再生力増し増しのサービス期間中。反吐が出るキャンペーンだ。
「……駆郎達は先に行っていろ」
「ここはボクらが引き受ける」
ましろとこがねが降車して、積み込まれていた自身の浄怪道具を持ち出す。
「おい、まさかお前ら――」
「まさかもさかさもねーだろ。ここはあたしらが出るのが最適だろ?」
ましろの言う通りだ。
澱神無のいる場所にいち早く向かうには車が必要で、運転出来る牛来さんと相馬さんは抜けられない。何よりこの二人はベテランの先輩だ。茶々は同年代ではあるが晩出市の怪異には詳しいし、オレは対霊処の念導者だから浄怪技術を殆ど持ち合わせていない。故に双子で互いを信頼し合っているましろとこがねが真っ先にしんがりを務めるのは、理にかなってはいる。
そんなこと、頭では分かっている。
でも……。
「お涙頂戴のB級映画じゃあるまいし、お決まりの展開なんて糞食らえだろ。心配するんじゃねぇよ」
「専門外の駆郎に心配される程、ボクらは弱くないから」
そんなオレのことを察してか、二人はそっくりな笑みを浮かべて警察官の邪怪へと立ち向かっていった。
「だから、そういうのが死亡フラグだろーが……!」
唇を噛みしめて、オレは心の中で叫んだ。
だがそれは不安という心の隙間から、声という形となって漏れ出してしまっていた。
火薬が爆ぜ、火花がちらちらと光る。
地響きと木々がへし折れる音が耳に届く。
それでも、止まらない。
ワンボックスカーは、最終決戦の地へと走り続ける――
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!
オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。
ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。
学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。
当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。
同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。
ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。
そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。
まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。
その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。
こうしてジュリーとの同居が決まった。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
霊和怪異譚 野花と野薔薇
野花マリオ
ホラー
その“語り”が始まったとき、世界に異変が芽吹く。
静かな町、ふとした日常、どこにでもあるはずの風景に咲きはじめる、奇妙な花々――。
『霊和怪異譚 野花と野薔薇』は、不思議な力を持つ語り部・八木楓と鐘技友紀以下彼女達が語る怪異を描く、短編連作形式の怪異譚シリーズ。
一話ごとに異なる舞台、異なる登場人物、異なる恐怖。それでも、語りが始まるたび、必ず“何か”が咲く――。
語られる怪談はただの物語ではない。
それを「聞いた者」に忍び寄る異変、染みわたる不安。
やがて読者自身の身にも、“あの花”が咲くかもしれない。
日常にひっそりと紛れ込む、静かで妖しいホラー。
あなたも一席、語りを聞いてみませんか?
完結いたしました。
タイトル変更しました。
旧 彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる
※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。
エブリスタにも公開してますがアルファポリス の方がボリュームあります。
表紙イラストは生成AI
薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~
黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。
─── からの~数年後 ────
俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。
ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。
「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」
そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か?
まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。
この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。
多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。
普通は……。
異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。
勇者?そんな物ロベルトには関係無い。
魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話。ここに開幕!
● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。
● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
