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女児霊といっしょに。~晩出霊獣伝説~
第七章:澱神無 2
しおりを挟む「…………でかい」
それしか感想が出なかった。
目の前には海から頭部だけを出している澱神無。それだけでも五十メートル近い大きさだ。
その体には海底より出でし者らしく全身が海洋生物で埋め尽くされている。晩出市の邪怪の体に必ず海洋生物部分が存在するのは、こいつが純度百パーセントの海洋生物まみれの肉体だから、ということか。
海からは捕食器官であろう口が付いた触手が無数に飛び出していて、まるで海の中で踊っているわかめのような動きをしていた。
だが、オレ達がやって来ても澱神無の触手は捕食しようとする気配がなかった。
すぐ目の前に武器を持った敵が何人もいるというのに。
自身を討伐しに来た者達がいるというのに。
「寝てるのかなぁ……」
「それはないと思う」
ななのボケはあり得ないと思うので受け流す。どう見ても目玉ぱっちりガン開きでこっちを見ているのだから。これで目に入っていないのだとしたら、巨大なそれはただのガラス玉なのかと言いたくなる。
「もしかして、自分では動けないとか?だから手下を使って邪魔してきてた、って考えられない?」
茶々の意見は一理ある。この巨体、そして狼慈丸が不完全と言っていたように体を動かすのがリスキーなのかもしれない。いざ海から上がったら崩れてしまう、そんな深海では体を保つことは出来ても陸では潰れてしまう深海生物状態という可能性。
「んじゃ、ちょっと斬らせてもらいますか」
試しに触手を一本切断してみようと茶々がスラッシャーを構え――るそぶりを見せた途端、捕食器官が迫り来る!
「うわっ!?」
がちん、と鋭い歯がぶつかり合い、砂浜の中で蠢いている。茶々は寸前で回避したため無傷であったが、一歩間違っていたら怪我どころか食われて一発退場だったかもしれない。
「なるほど、敵意を見せたら容赦しないってかんじな訳ね」
「らしいな。ってか、無謀なことするなよ」
「でも攻めないと何も解決しないでしょ?」
「それはごもっともだ」
不完全な体故に無用な戦闘は望まないが、害をもたらす相手にはきっちり対応する。それが澱神無のスタンスということか。
つまり、体がまだ脆くて緩いうちに倒せば市街地への被害は抑えられてハッピーエンド。倒せず完全体になれば好き勝手暴れるか支配されるかでバッドエンド、と。
単純明快な話だ。
ボス戦をまともに出来る最大のチャンスは、まさに今だけ。
この瞬間に、全力で立ち向かわなくてはいけないのだ。
「私達対邪念導者が前衛、澱神無に攻撃を加えるから。駆郎とななは後衛で私達のことを随時サポートをよろしく」
「了解だ」
「なな、頑張るっ!」
「霊七人衆は私達をポルターガイストを使ってあいつのところまで浮かして送ってね。ある程度こっちで動くけど、食べられそうになったら緊急退避させてよ」
「要はあたいらが危ないって思ったら下がらせればいいんだな?」
「そういうことっ♪」
茶々を司令塔に、それぞれが配置についていく。
「まったく、少しはオレ達先輩の意見を聞いたらどうだ?」
「ありゃ?反対意見でもあった?」
「いえ、最善策ですが。気持ちの問題ですよ」
「生意気で悪いね、私はそういうキャラだからさ」
軽口を言い合い少しでも恐怖と緊張を解こうとする茶々、牛来さんに相馬さん。
その体は次第に宙に浮いていく。ポルターガイストを発生させている霊力が三人の体を包んでいた。
「千年ぶりの復活おめでとう。そしてさようなら!」
茶々が高速で澱神無へと肉薄。霊力が念導者の運動能力に上乗せされることで、本来では出せないスピードによる移動を可能にしていた。
「まずは一本目!」
スラッシャーが迫る触手を断ち切る!
だがすぐに次の触手が茶々の足元から、何本も一斉に飛びかかってくる!
「ふんぬぅっ!」
その触手を牛来さんが戦斧を一振りしてはねのける!
「まだまだですよっ!」
更にその触手を次々と切り落とす相馬さん!
「触手だけでも多過ぎない!?キリがないよ!」
澱神無の周りを飛びながら触手の相手をする茶々。そこへ放たれる黒い針――ウニの棘だ!
「下がって茶々さん!」
間一髪、フタチさんが気付いて強制的に前線から退かせた。おかげで棘は行き場を失って海に落ちていく。
「サンキュー、いい緊急避難サポートだったよ!」
「褒めてくれて嬉しいですが私、横文字は苦手です!」
一旦砂浜に戻ってきた茶々、そこへオレは駆け寄る。
「お前のヴェルデアロー、使っていいか?」
「ご自由に。何に使うか知らないけど」
「代わりにこれを渡しておく」
オレは聖結の札を束で渡す。
「念導札?私らじゃあうまく使えないんだけど」
「大丈夫だ、それは念を送るだけで発動するようにしてあるタイプだ。ぶっちゃけ一般人でも使えるよう最悪強く握るだけでもオッケーだ」
「で、効果は?」
「結界……まぁ今ならバリア代わりになるかもな。牛馬コンビにも分けてやってくれ」
「分かった、有り難く使わせてもらうね」
簡潔にやり取りを済ませると、茶々はすぐに前線へと戻っていった。そしてまた、空中を舞って触手を切り落としていった。
「駆郎にぃ、念導銃……というか弓矢?それを借りてどうするの?」
「浄怪に使うに決まってるだろ」
「でも刺さらないでしょ」
ななの言う通り、砂浜から発射していたら届いても刺さるかどうかは怪しいところ。だが、それを解決する方法はある。
「なな、オレを浮かせてくれ」
「うん、いいよー……って、駆郎にぃも行くの!?」
そう、ななだってポルターガイストを使えば人の一人や二人、簡単に浮かせられる。以前なんて短距離とはいえ三十人以上を持ち上げたことだってある。
茶々は専門外のオレのことを気遣って後衛にしたが、サポートなら前線でだって出来るのだ。
こんなところでもたもたしているなんて性に合わない。
「あーもう、分かったよ!なるべく死なないように気をつけて!」
「いや、死ぬ気はないからね!?」
全くもって締まらないやり取りでオレは前線へ出ることに。
どうしてオレの一大決戦の時はいつもこんな調子なのだろうか。
「駆郎!?何、こっちに来てるのよ!?」
で、当然茶々に怒られる訳で。
「足らない戦力の足しにはなるだろーが」
「だからって……」
「これでも邪怪とそれなりに戦っているんだよ!もう兼業レベルでな!」
対霊と対邪の掛け持ちなんてあまり聞かないが。ここ数日のオレはまさに兼業状態なのである。それに対霊処の念導者だって戦闘能力の高い悪霊と戦う時だってある。対邪処には及ばないが、決して戦闘が苦手という訳ではない。
「はぁ。死んでも知らないからね!」
「死ぬ気はないから――ってこれ、さっきも言ったな」
ひゅるるっ、と。
オレに向かって触手が伸びてきた。よく見ると吸盤もついていて、まるで烏賊蛸の類いのようだ。捕食器官から逃れても絡め取られる可能性もある。
「早速使わせてもらうぜ、ヴェルデアロー!」
オレは触手へ向けて矢を一気に発射。捕食器官の中に吸い込まれていった矢は中心部からまとめて浄怪の念を放射し、触手を消滅させていく。
「なな、矢の回収だ!」
「ちゃんと受け取ってねっ!」
更に海へと落下していく矢はななの力を借りて手の中へとリターン。これで少ない本数でも十分に戦えるのだ。
「やるじゃん、その使い方」
「茶々が矢を使い回すのを思い出してね。霊との相性抜群だろ?」
「だべってる暇はねーぞ、後輩!」
振り下ろされた蟹のハサミを、牛来さんの戦斧が受け止める。
ばきり、と殻が割れる音はしたが澱神無はなおも振り下ろす力を緩めない。殻が砕けようとも意地でもオレ達を叩き潰すつもりだ。
「しつこい蟹爪ね!」
割れた部分にスラッシャーが突き刺さる。茶々は更に中で刃をかき混ぜて、蟹のほぐし身を作っていく。
さすがにこれはたまらないと感じたのか、澱神無は蟹のハサミを引っ込めていく。
「よし、いい調子――」
茶々の声が途中で途切れた。
「――げほっ、がはっ!?」
次に声が聞こえたのは遙か後方、海面に打ち付けられる寸前で浮いていた。
その胴体には丸々としたナマコ。あれが弾丸となって茶々をサッカー漫画のゴールキーパーよろしく吹っ飛ばしたのだ。
「痛いし……気持ち悪いし……最悪っ!」
ナマコを海の中へ投げ捨てて反撃に出ようとする茶々へ、今度はホタテの貝殻が手裏剣になって高速回転。
「私も使わせてもらうよ!」
茶々は迷わず聖結の札を握り、結界を展開。貝殻は結界に弾かれて粉々に砕け散った。
そして結界が解けると今度こそ茶々は反撃に転じ、澱神無の胴体――カメノテがへばりついた部分に一太刀喰らわせた。
だが、澱神無は動じない。それどころかそのカメノテをロケットパンチの如く、茶々へとお見舞いする。
「ぐぁっ……!?」
身をよじって直撃は避けたが、茶々はまたしても吹き飛ばされて海上に打ち付けられる。しかも最悪なことに、カメノテはまだ止まらない。
「今度はこっちだと!?」
牛来さんへと強烈な推進力で迫るカメノテ。ロケットエンジンでも付いているのかと思う程のパワーだ。
「ぐぬぅっ!」
真っ向勝負で、戦斧を盾にして受け止める牛来さん。だが威力を相殺しきれない。
「しつこいですね!」
「ヴェルデアローを食らいやがれ!」
相馬さんとオレはカメノテを両側から攻撃、少しでも浄怪させて、ロケットパンチの威力を削いでいく。
「ぅおりゃぁっ!」
そして、やっとのことで牛来さんはカメノテをはじき返すことに成功。漸くロケットパンチの猛攻が止んだ。
「痛かったじゃないっ!」
海上より復活した茶々は一気に澱神無の頭頂部まで跳躍、そこにスラッシャーを深々と突き立てる。が、またそのお返しにと茶々は触手ではたき落とされ、更についでとばかりにオレ達全員に向かってヒトデの流れ星が降り注がれた。
「逃げて下さいっ!」
ヨスズちゃんが茶々を。
「一回戻るぞ~」
イツマちゃんが相馬さんを。
「うわーっあぶなーいっ!」
ムマシちゃんが牛来さんを。
「駆郎にぃっ!」
そしてなながオレを、砂浜まで緊急避難で吹っ飛ばす。急速な方向転換で体に負荷がかかるが、ヒトデが刺さるよりはまだマシだと思う。
間一髪。
ヒトデは海の中へ沈んでいき、オレ達は全員無事に後退することが出来た。
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