141 / 149
女児霊といっしょに。~晩出霊獣伝説~
第七章:澱神無 3
しおりを挟む最前線から後退。
これで一息つけるだろう。
そう思ったが、現実はそう甘くはなかった。
オレ達が逃げた先に、今度は澱神無の体から放たれた巨大な海洋生物が刺客として立ちはだかる。
パンチ力に定評のあるモンハナシャコ。
流氷の妖精という呼び名で有名なクリオネ。
生きた化石で名前に反して蜘蛛やサソリに近いらしいカブトガニ。
少々マイナーな人選である。いや、海選……海鮮?
「ゆっくりする暇もないみたいですなぁ……」
カブトガニの突進を、ヒノエさんがポルターガイストではねのける――が、続けてモンハナシャコのパンチが繰り出される!
相馬さんが咄嗟に聖結の結界で盾を作るが一撃で砕け散ってしまう。さすが、元の大きさでも瓶や水槽を割る生き物だ。パンチ力は異次元レベルだ。
「きゃあっ!?」
ナルカちゃんの悲鳴。妖精のような姿をしたクリオネの真の姿――頭部を開きバッカルコーンと呼ばれる器官を伸ばすところを見てしまったからだ。可愛げのある姿から悪魔のような見た目に変貌する様を見たのだから当然の反応だろう。
この器官を伸ばしているということは餌を捕食するつもりということだ。そして狙われているのは――牛来さんだ。
「ぬぅっ!?」
筋骨隆々屈強な腕に、バッカルコーンが絡みつく。一瞬狼狽えたが、牛来さんは即座に戦斧を振り下ろしてバッカルコーンを切断、妖精という名の悪魔を引き離す。
「よくも私の相方に触手プレイをしましたね!」
相馬さんがクリオネに向けてナイフの刃を射出、正確に中心部を貫く。その一撃でクリオネは浄怪されて消えていった。
澱神無の分身のような存在であるこいつらは、核を持っていないらしい。つまり一定の量を浄怪出来れば消せる。
「ならば、オレ様もお返ししてやる!」
牛来さんが薪割りのようにモンハナシャコを叩き割る。パンチで応戦しようとしていたが磁轟刃もとい分厚い鉄板の前では無力だったようだ。
「そ~れっ!」
そして茶々はカブトガニを蹴り上げて裏返して、細い足が蠢く中へスラッシャーの先端をざくざくと何度も突き立てて浄怪。
「これでやっと刺客を倒しきったな……って」
三匹を浄怪し、再び澱神無へと攻撃をしようとしたが。
砂の中から飛び出す太い管。その先には鋭い歯のついた顎――オニイソメだ。
―駆郎、避けろ!―
どん、とオレの体が押し倒される。
狼慈丸だ。
鋭い顎の狙う対象が、オレから狼慈丸へと移る。
オレを庇ってしまったせいで、そのひ弱な体はオニイソメに切断されてしまった。
ぼとり。
柴犬と同程度の大きさの頭部が、オレの目の前に落ちてきた。
「ろ、狼慈丸ぅうっ!?」
―顔面セーフだ、問題ないワン―
「って、生きてるんかい」
―だって我、一応霊獣だものワン―
首ちょんぱしたら死んだかと思うじゃないか。
心臓に悪いじゃねーか、この野郎。
―あと悪いんだが、頭を拾ってくれ。動けないワン―
「あんまり気分は良くないな、犬の生首って」
狼慈丸の首を拾い上げて、胴体の断面にぴったりとくっつけてあげると無事復活。霊獣の生態は未知な点が多いな。
「しっかし、まだ出てきますか……」
オニイソメ意外にも新たな刺客がぞろぞろと海より現れ始めた。
毒針を持つ巻き貝、アンボイナ。
金槌のような頭部の鮫、シュモクザメ。
猛毒殺人クラゲ、キロネックス。
丸呑み上等の魚、フウセンウナギ。
他にもいっぱい……。
どいつもこいつも何で人間並みに大きいんだよ。
「こりゃ、キリがないなぁ……どうしよっかな~……」
茶々の言う通り、刺客を相手にしているだけで相当な消耗戦。大方澱神無に辿り着く前にこっちが力尽きてしまうだろう。
「こいつらはオレが引き受ける」
ならば、戦力を二手に分ける方がまだ効果がある。
「オレとななが刺客と戦う。その間に他のみんなは澱神無討伐に専念してくれ」
「駆郎とななの二人でやれるの?これ、ゲームオーバーになるまで終わらない、無限に湧き続けるゾンビゲームみたいなものだけど?」
「お前を含めて対邪の皆さんがやっつけてくれたらクリア出来るだろ?」
「なるべくライフがゼロになる前に終わらせるようにしてあげるよ」
にひ、と微笑むと茶々、そして牛馬コンビは再度攻撃を開始。ポルターガイストで宙に浮き、澱神無の周囲を跳び回って浄怪していた。
「安請け合いしちゃったけど、大丈夫なの~?」
「ぶっちゃけ、ヤバイ」
毒タイプの貝とクラゲが迫る。
ヴェルデアローの矢で貫き、毒を打ち込まれるより先に浄怪。
「ホント、駆郎にぃって馬鹿」
「悪かったな」
砂浜に落ちて刺さった矢を、ななが回収。
オレは装填し直して鮫と鰻を貫く。
「お人好し過ぎってこと。少しは自分のことも考えてよ」
「なんだそれ。体は大事にしているぜ」
背後から迫るオニイソメの顎。
その腔内に、ななは矢を放って内部から破壊した。
「心配させないでってことだよ」
「この仕事をする限り、無理な相談だな」
まだ刺客は現れる。
オニヒトデ、コウイカ、ヤマトメリベ、アカエイ、トビウオ、ガンガゼ、ミズダコ、エチゼンクラゲ、チョウチンアンコウ、ウバザメ、グソクムシ、アオミノウミウシ、ハリセンボン、フナクイムシ、オウムガイ、タラバガニ、マンボウ、アメフラシ、メガマウス、ウミヘビ、ユメナマコ、シオマネキ、イセエビ、リュウグウノツカイ……。
海の生き物オンパレードだ。
下手な図鑑よりも種類が豊富な気がする。
「駆郎にぃ、一言いいかな?」
「死亡フラグじゃなければいいぞ」
「なんか、生き物に詳しすぎてキモイ」
ありがとう、フラグクラッシャー。
戦いが終わったらみっちりお説教、それから生き物大好き教の布教活動をするからな。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
なお、スピンオフもございます。
ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!
オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ラン(♂)の父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリー(♀)だった。
ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。
学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。
当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。
同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。
ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。
そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。
まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。
その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。
こうしてジュリーとの同居が決まった。
しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は騒然となった。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
神木さんちのお兄ちゃん!
雪桜
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます!
神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。
美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者!
だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。
幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?!
そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。
だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった!
これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。
果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか?
これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。
***
イラストは、全て自作です。
カクヨムにて、先行連載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
