【異種BL】/NTERSEⓒT -淡紫の花-【獅子×人間】

宇崎初夏

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031『感情のはじまり』

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 淡く、それでいて艶やかな薄紫の後頭部と震えている背中に手を添えて。力の限りを尽くして。自分の方へ引き寄せて。

 絶対にそんなわけはないのに、根拠の無い「大丈夫」を囁き続けては、あまりにも無力な自分に絶望する。

 本来は座る資格の無いはずだった玉座。獅子の毒牙きばに侵される恐怖。彼の存在を消そうとする者達の刃。彼の存在を必要以上に崇拝する者達の目。

 今にも枯れてしまいそうなのに、懸命に咲き誇ろうともがくこの花はとてもとても苦しそうで、何故だか異様にうつくしく見える…………らしい。

 俺から見たその花は、シオンは、ただの幼馴染みで、小さな頃から一緒に同じ時間を過ごしてきた、ただの青年でしかなかったのに。

 頑なに「助けて」って言わないシオンを助けたい。当たり前みたいに、平民の俺にできることは無い。だからせめて、俺と一緒に居る時はシオンがシオンのままで居れるように、とか思ってはいるけど、そのうち叶わなくなるのかもしれない。

 眠ってしまったシオンをベッドに寝かせてから、俺はグルグル唸るレオ様の前に跪く。

「レオ様、お願いがあります」

 この際、縊り殺されたって構わない、シオンのためだ。どうかシオンのためになってくれ。

「シオンを解放かえしてください」

 少しの間をおいて、不機嫌に喉を鳴らしていたレオ様は目をまんまるにしたかと思えば、その場にゴロゴロ転がって酸欠寸前ってくらいの勢いで大爆笑。意味がわからない!

「あーーーーはっはっはっはっはっは!! 俺が? シオンを? 本当にお前は愉快なにんげ……あっはっはっはっはゴホゴホッはぁ……はぁ……はぁ…………」

 こっちは真剣なんだぞ! 何でそんな、え、大丈夫?

 目に涙をいっぱいためて、肩で息をしているレオ様のすぐ傍を星霊せいれいのエアル様がひらひら舞っていた。

「お前、度胸あるなぁ! 気に入ったぞ!」

 星霊の優雅さとは程遠い、豪快に笑いながら俺の頭上を飛び始めたエアル様から赤色のキラキラした粒子……鱗粉? を俺に振りかける。

「良かったな」

 やっとまともに喋れるようになったレオ様が言う。

星霊そいつの加護は絶大だ。有事が起これば、必ずお前を守るよう作用する」

 なんで、って聞くよりも早く、レオ様は続ける。

「お前はシオンにとって大事な者だからな。シオンが悲しむ顔は見たくない、それだけだ」

 俺達の話し声が届かないほどにすやすや眠っているシオンを見るレオ様の目は、文字通りの愛する者を慈しむ目をしていた。

 けどレオ様がシオンを想う気持ちは愛情深いというよりも重くて、本当の意味でとにかく重い支配くびわを着けているようにしか見えなくて。

 日頃、深くなっていくシオンの傷を見るたびに、どうしても『この事態を受け入れてはいけない』と黒々とした感情が渦巻く。

 痛いって俺の背中に手を回していたシオンはもう居ないけど、痛いこと、苦しいことは許容できないはず。

 今回のことだって……?

 視線を感じて、先を辿ると起き上がった寝惚け眼な若草色の目と目が合う。

 ぐぐっと両手を高い天井に向けて、猫みたいにのびーって背中を伸ばしたシオンが俺とレオ様の間に割り込む。

「カルタのこといじめないで」

 両膝を床につけて、レオ様のたてがみに腕を回したシオンは眠たそうな声のままぽやぽや話す。

「俺の親友だいじだから。レオもカルタのこと大事にしてほしい」

 シオンに抱きしめられたレオ様の喉が、とたんにご機嫌な音を出している。いつもながらにやっぱりすごいなぁってなるし、圧倒的かつ強大すぎる、正体不明の感情がハイスピードで俺の中を駆け巡る。

 この感情に名前をつけてはいけない。

「あぁやっと声を聞かせてくれたな、我が主シオン

 恋人に向けるみたいな、甘ったるい声音のレオ様がシオンの頬にたてがみを擦り寄せる。

 どうやら俺のことはもう見えていないらしい。完全にふたりの世界に行こうとしている。

 部屋を出た方が良いのはわかっているけど、なんとなくまだここに居た方が良い気もする、でもなぁ、どうしよう。

「なぁ、カル……」

 レオ様を抱きしめたまま、顔だけをこっちに向けたシオンが何かを言ったけど、何も聞こえなかった。

「きゃああああああああああっ!!!!!!!!」

 耳を塞ぎたくなる使用人? の女性達の甲高い悲鳴に混じって、いくつもの兵士のけたたましい足音と武器の金属音が、レグルス城内に轟く。

「なんだ!?」

 シオンが心配で入隊しただけの俺だけど、こう見えて一応はレグルスの兵士だ。この事態はきっと只事じゃない、行った方が良いよな……?

「カルタ」

 立ち上がった俺の服の袖をグイッて下に引っ張ったシオンの目が必死に訴えてきた。

 傍 に 居 て 。
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