【異種BL】/NTERSEⓒT -淡紫の花-【獅子×人間】

宇崎初夏

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020『家庭の事情』

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 数日前に王家で大きな揉め事があったらしい。

 国王候補だったアスティル様がレオ様の【淡紫の花】に触れたのだとか。

 昨日からアスティル様のお姿が見えない。

 レオ様に国外追放を言い渡されたそうだ。

 お父上のローア様は沈黙を貫いておられる。

 件の【淡紫の花】はどうした?

 詳しい事はわからないが、レオ様に守られていて、ヒイラギ様はおろか誰も近付けないらしいぞ。

 ネメアラヴァン王家の心労はお察しだな。

 レオ様に気に入られただけの、ただの一般人を迎え入れたばっかりに⋯⋯。

 噂話と批判で持ち切りのレグルス城内に慌ただしい足音が響く。

 建国王の血を引く王族、国の運営をする大臣、王族や城内の世話をする侍女、異星人から民を守る兵士。

 レグルス城に出入りする者達、全員の視線が数日振りに公の場に姿を見せた【淡紫の花】に注がれる。

 方向音痴のシオンは城で生活を初めて1年が経った今でも、部屋や地形がわかっていない。

 常にレオに案内してもらっているから、当然と言えば当然ではあるが。

 回復した、大事な大事な【淡紫の花シオン】を城内の皆に見せ付ける為に、レオはわざと道案内を放棄した。

 そうとは知らず、朧気な記憶を頼りにシオンはある人物を探す。

「シオン!」

 丁寧に清掃された廊下を走っていたシオンを声だけで止めた、妻のヒイラギが小走りで歩み寄る。

「一体何があったの!?」

 ウェーブかかった長い銀髪を揺らし、紅玉の目に涙をいっぱい溜めたヒイラギが病み上がりのシオンに叫ぶ。

「シオンは部屋に閉じ込められたままだし!! レオは何も教えてくれないし!! 兄様あにさまは⋯⋯⋯⋯」

 あたしね、大きくなったら兄様と結婚するの!

「何も、言わないまま⋯⋯」

 ねぇ兄様、今日のお茶会⋯⋯兄様も来てくれる?

「お手紙だけ、を⋯⋯残して⋯⋯」

 ごめんなさい。兄様とは結婚できない。

「どこか⋯⋯遠くへ、レグルスではない場所へ⋯⋯」

 運命と出会ってしまったの。

「ひとりで⋯⋯⋯⋯っ」

 元婚約者であり、従兄弟のアスティルが居ない事をやっと実感したヒイラギは侍女達や兵士達が居る城内の廊下で、人目もはばからずに泣きじゃくる。

 シオンと一緒になりたかった。叶わない恋なんて存在しない、だから叶えた。

 たったそれだけなのに、どうして⋯⋯?

 なんで、兄様が居なくなったの。

「兄様⋯⋯」

 掛ける言葉が見つからないまま、それでもヒイラギを慰めようと伸ばそうとした、シオンの手が漆黒に阻まれる。

 レオだ。

「俺のシオンに触れるな」

 夫婦の間に割り込んだレオが鮮血色の目でヒイラギを睨み、鋭い牙を向けた。

「えっ⋯⋯⋯⋯」

 信じられない、信じたくない。現実を受け入れられないヒイラギに、レオはもう一度告げる。

「俺のシオンに触れるな」

 好戦的に唸るレオのたてがみを撫でて落ち着かせてから、今にも気を失いそうなヒイラギを抱きしめたシオンが耳元で囁く。

「ごめんね」



 ✲



 シオンが目指した場所は先王であり義父でもある、グランの書斎だった。

 三日三晩、レオとエアルから治療を受けていたシオンの代わりに、書類等の雑務を行っていたグランが椅子に座ったままぐいーーーーっと身体を上に伸ばす。

「やはり久方振りのデスクワークは肩とか腰とか、いろいろこっちゃうねぇ⋯⋯あいたたた」

 呑気なグランに何か裏があるような気がして、身を硬めたシオンの左腕に、レオがたてがみを擦り寄せる。

「アルティルの事、ざっくばらん過ぎてよくわからなかったけど、ちゃんとレオに聞いたよ。大変だったねぇ」

 卓上の散らばっていた書類を整理しながら、グランは会話を続けた。

「あの子はシオン君に触れたんだ、国外追放だけで済んで良かった。姓がネメアラヴァンじゃなければ、間違いなくレオに縊り殺されていただろうね⋯⋯」

 渾身のキメ顔を向けてくるレオのたてがみを撫でて軽く構いつつ、シオンは胸の内を打ち明ける。

「グラン様⋯⋯何故、レオとアスティル様を止めなかったのですか? いくらレオ直々に判断を下したとはいえ、私はただの一般人ですよ? そんな、国外追放なんて⋯⋯」

 ただの一般人、何度目になるかわからないシオンの自虐にグランは少々の苛立ちを覚えた。

「いつまでそんな事を言っているんだい、君は」

 あからさまに顔をしかめたグランにため息が混じる。

「我が国のみならず、国を象徴とする星獣せいじゅうの決定は絶対なんだよ。どうやっても覆らない」

 ゴロゴロ。

 愛しいシオンにたてがみを擦り寄せるレオが、グランに勝ち誇った牙を向ける。

「レオに証を刻まれて、ただの一般人から【淡紫の花】になった、君が一番わかっているはずだよ」

 何も言い返せないシオンにグランが目を釣り上げた。

「ところでシオン君!!」
「はいっ」

 反射的に背筋がピンとなったシオンを笑う、グランの声音が明るい。

「一体いつになったら私の事を『お義父さん』と呼んでくれるのかね!? いい加減、待ちくたびれたんだけど!!」
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