7 / 8
第二章:壊された魂と、偽りの家族
第6話:決戦の地、NEXUSへ
しおりを挟む
夜明け前の蒼い光が、岐阜の山々を微かに照らし始める。紅蓮庵の門前で、朔夜、桜猟、蹴鞠の三人は、深く頭を下げる女将・香に見送られ、静かに歩み出した。目的地は、地図上には存在しない鋼鉄の要塞——ハイテク企業を隠れ蓑にした地下拠点「NEXUS」だ。
「……親父、あれがNEXUSの入り口か?」
旧御門邸の敷地内。あの日の惨劇のまま時が止まった場所。桜猟が指差したのは、切り立った崖に同化した巨大な搬入口だった。一見するとただの採石場跡だが、流華から送られてきた座標は、ここが地下へと続く「喉元」であることを示している。
「ああ。ここからはもう、客扱いはされねえぞ。……行くぞ」
朔夜の合図とともに、三人は影となって動き出した。 要塞の警備は、人ではなく高度なセンサーと無人機が主だ。しかし、蹴鞠の超人的な跳躍と、桜猟の冷静な太刀筋が、増えていく警備網を音もなく無力化していく。
搬入用の大型エレベーターに潜り込み、深く、暗い地下へと降下していく。下降するにつれ、空気は冷たく、無機質な機械油の匂いへと変わっていった。
「……なんだか、嫌な感じがする」
蹴鞠が、不快そうに肩をすくめた。
「ママと同じ匂いがする。……けど、もっと冷たくて、気持ち悪い匂い…」
エレベーターが停止し、重厚な扉が左右に開く。目の前に広がっていたのは、見渡す限りの鋼鉄の廊下と、幾重にも重なる電子ロックの扉だった。NEXUSの要塞内部。ここは、人の情念が届かない、合理性だけが支配する迷宮だ。
(……砂が、騒ぎやがる)
朔夜は口の中に広がる「砂の味」が、一段と濃くなるのを感じていた。視界の端にノイズが走る。白濁した霧が、まるでこの要塞のシステムと共鳴するかのように、朔夜の神経を逆なでしてくる。
「侵入者を検知。……排除シークエンスを開始します」
廊下のスピーカーから、感情を欠いた合成音声が響き渡った。同時に、通路の天井や壁から無数のレーザー照準が赤い線を伸ばし、三人に向かって一斉に照射される。
「桜猟、蹴鞠! 俺から離れるな!」
朔夜が妖刀『紅時雨』を抜くと同時に、赤い閃光が通路を埋め尽くした。桜猟は二振りの刀を風車のように回転させて弾丸を弾き飛ばし、蹴鞠は壁を蹴って三次元的な軌道で自動機銃の砲塔を破壊していく。
その光景を、要塞最深部にある管制室で、一人の男が楽しげに見つめていた。 豪華な椅子に深く腰掛け、指先でモニターを弄ぶ男——浅葱だ。
「おやおや、野蛮な客人が到着したようだね」
浅葱の傍らには、まだ起動していない一体の女性型アンドロイドが置かれている。その顔立ちは、ろみなに酷似していた。浅葱はモニターに映る朔夜の苦しげな表情……時折、視界の濁りに顔を歪めるその様子を見て、満足げに口角を上げる。
「紅時雨の呪いか、あるいは家族愛という名の不治の病か。……どちらにせよ、朔夜。君がここまで辿り着く頃には、その目は何も映さなくなっているだろうね」
浅葱の手が、コンソールの一つのスイッチに触れた。
「さあ、始めようか。御門家という『古い幻想』を終わらせるための、合理的な処刑を」
要塞のさらに深い区画のシャッターが開き、無数の赤い光——アンドロイドたちの電子眼が、暗闇の中で一斉に灯った。 激しい爆鳴音とともに、三人の行く手に新たな「壁」が立ちふさがる。 ろみなを取り戻すための戦いは、まだ始まったばかりだった。
「……親父、あれがNEXUSの入り口か?」
旧御門邸の敷地内。あの日の惨劇のまま時が止まった場所。桜猟が指差したのは、切り立った崖に同化した巨大な搬入口だった。一見するとただの採石場跡だが、流華から送られてきた座標は、ここが地下へと続く「喉元」であることを示している。
「ああ。ここからはもう、客扱いはされねえぞ。……行くぞ」
朔夜の合図とともに、三人は影となって動き出した。 要塞の警備は、人ではなく高度なセンサーと無人機が主だ。しかし、蹴鞠の超人的な跳躍と、桜猟の冷静な太刀筋が、増えていく警備網を音もなく無力化していく。
搬入用の大型エレベーターに潜り込み、深く、暗い地下へと降下していく。下降するにつれ、空気は冷たく、無機質な機械油の匂いへと変わっていった。
「……なんだか、嫌な感じがする」
蹴鞠が、不快そうに肩をすくめた。
「ママと同じ匂いがする。……けど、もっと冷たくて、気持ち悪い匂い…」
エレベーターが停止し、重厚な扉が左右に開く。目の前に広がっていたのは、見渡す限りの鋼鉄の廊下と、幾重にも重なる電子ロックの扉だった。NEXUSの要塞内部。ここは、人の情念が届かない、合理性だけが支配する迷宮だ。
(……砂が、騒ぎやがる)
朔夜は口の中に広がる「砂の味」が、一段と濃くなるのを感じていた。視界の端にノイズが走る。白濁した霧が、まるでこの要塞のシステムと共鳴するかのように、朔夜の神経を逆なでしてくる。
「侵入者を検知。……排除シークエンスを開始します」
廊下のスピーカーから、感情を欠いた合成音声が響き渡った。同時に、通路の天井や壁から無数のレーザー照準が赤い線を伸ばし、三人に向かって一斉に照射される。
「桜猟、蹴鞠! 俺から離れるな!」
朔夜が妖刀『紅時雨』を抜くと同時に、赤い閃光が通路を埋め尽くした。桜猟は二振りの刀を風車のように回転させて弾丸を弾き飛ばし、蹴鞠は壁を蹴って三次元的な軌道で自動機銃の砲塔を破壊していく。
その光景を、要塞最深部にある管制室で、一人の男が楽しげに見つめていた。 豪華な椅子に深く腰掛け、指先でモニターを弄ぶ男——浅葱だ。
「おやおや、野蛮な客人が到着したようだね」
浅葱の傍らには、まだ起動していない一体の女性型アンドロイドが置かれている。その顔立ちは、ろみなに酷似していた。浅葱はモニターに映る朔夜の苦しげな表情……時折、視界の濁りに顔を歪めるその様子を見て、満足げに口角を上げる。
「紅時雨の呪いか、あるいは家族愛という名の不治の病か。……どちらにせよ、朔夜。君がここまで辿り着く頃には、その目は何も映さなくなっているだろうね」
浅葱の手が、コンソールの一つのスイッチに触れた。
「さあ、始めようか。御門家という『古い幻想』を終わらせるための、合理的な処刑を」
要塞のさらに深い区画のシャッターが開き、無数の赤い光——アンドロイドたちの電子眼が、暗闇の中で一斉に灯った。 激しい爆鳴音とともに、三人の行く手に新たな「壁」が立ちふさがる。 ろみなを取り戻すための戦いは、まだ始まったばかりだった。
0
あなたにおすすめの小説
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
裏切者には神罰を
夜桜
恋愛
幸せな生活は途端に終わりを告げた。
辺境伯令嬢フィリス・クラインは毒殺、暗殺、撲殺、絞殺、刺殺――あらゆる方法で婚約者の伯爵ハンスから命を狙われた。
けれど、フィリスは全てをある能力で神回避していた。
あまりの殺意に復讐を決め、ハンスを逆に地獄へ送る。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。
國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。
声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。
愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。
古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。
よくある感じのざまぁ物語です。
ふんわり設定。ゆるーくお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる