上 下
30 / 30

30日目(しからば)

しおりを挟む
 彼女の名はラフィ。
 いつもの屋敷。テーブルには、ティーセット。


「すごく、今更の話をしてもいいですか?」
「はい、なんでしょう?」
「そもそも、あなたはなぜ私を落とそうと思ったのです?」
「好きだから」
「……では、なぜ私のことを好きになったのです? どんなところが?」

「……昔の話です」

 そう言って、男は己の過去を語った。

「その日、僕は任務に失敗して命からがら逃げてきました。
 しかし深手を負い、空腹も相まって一歩も動けなくなってしまった状況では、死ぬのは時間の問題でした。
 そんなときです。
 ”一人の少女”が救急箱とお弁当を持って目の前に現れ、おかげで僕は生き延びることができました。
 あの瞬間、僕にとってその子は女神に見えました」

「…………」

 ラフィにも覚えがあった。
 ぼんやりとだが、たしかにずっと小さい頃、ボロボロの忍者っぽい誰かを助けた記憶がある。

「あなたが、あのときの……」
「どうも、僕です」

 そう言って、男はニコリとほほ笑んだ。

「理由は分かりました。でも、どうして急にやってきたのです? もっと早く来てもよかったでしょうに」
「実は、とある御仁から依頼を受けまして」
「とある御仁?」
「あなたの叔父上です」
「おじさまが?」
「望まぬ結婚をさせられようとしている姪を助けてほしい、と。ですので、きっと今頃昨日のゴタゴタを鎮めるため奔走しているはずです」
「そういうことでしたか……」

 ようやくすべてに納得がいった。
 一か月前はとんでもない人に突然目を付けられてしまったと思ったが、そういう裏があったのか。

(でも、それならそうと最初から言ってくれればよかったのに……とかいろいろ思うところはありますが……まあ、それこそ今更ですね)

「それはそうともう一つ、これだけは言っておきたいことがあります」
「なんでしょう?」
「もう不法侵入はやめてください。ベランダだの、通気口だの、排水口だの」
「ですが、屋敷の警備は厳重です。ではいったいどうやって入れと?」
「ハァ……」

 ラフィは心底呆れ果てた。
 この人はいったい何を言っているのか、と。

「どうもこうもありません。ふつうに正面から入ってきてください」




「…………ここはもう、あなたの家でもあるのですから///」



 ―完落―
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...