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第13話 さらば、雷神
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それから数ヶ月後――。
その日、大神殿の扉は大きく開かれ、まばゆい光が差し込んでおりました。天井は高く、金と瑠璃の装飾がきらめき、聖歌隊の澄んだ声が静かに響いております。
足を踏み入れた瞬間、背筋が自然と伸びるほどの厳かな空気。けれど同時に、集まった人々の祝福の視線が温かく私を包んでくれておりました。
そうです。今日はヴァレフ様と私の結婚式なのです。
長い長い絨毯の道を進む私が身に纏うのは、煌びやかな白いウェディングドレス。裾を支える侍女たちが後ろに控え、ゆっくりと歩を進めるたび、宝石を散りばめたヴェールが柔らかく揺れます。
祭壇の前にはヴァレフ様が立っておられました。
凛とした軍服姿に、誇り高き微笑。以前の傲慢さはもうどこにもなく、ひとりの立派な男としてそこにおられる。まさに偉大なヴァルケスト公爵家のご当主様です。
「……キレイだ」
私の手を取りながら、ヴァレフ様が口元をほころばせながら低く囁かれました。
不意を突かれた言葉に、私は思わず頬が赤くなるのを感じました。
「……ありがとうございます。もったいないお言葉ですわ」
照れ隠しのように一礼すると、ヴァレフ様は穏やかに微笑み返され、その眼差しに再び胸が高鳴ります。
大聖堂の席には、帝都の名だたる貴族たちが列席しておりました。さらには戦の際に共に立ち上がった諸侯や商人たちの姿もあり、皆が惜しみない拍手を送ってくれます。あの混乱の中で結ばれた縁がこうして新たな祝福に繋がるとは……感慨もひとしおでした。
まあ実家の両親や兄妹たちは威厳ある中央貴族たちと肩を並べるどころか、親族ということで彼らより前列にいることにプルプルとやや緊張で震えている節もありましたけども。
その最前列には、もちろん皇帝陛下と皇妃様のお姿も。
皇帝陛下とは例の最後に打った芝居のおかげで、今ではすっかりわだかまりも解けて良好な関係を築けております。
もっとも、結婚が決まってご挨拶に伺った折は、まだ陛下は終始こちらの袖をちらちらと気にされていましたけどね。もしかするとまた杖でも取り出すのではとお思いだったのかも。
全く失礼しちゃいますね。いくらこの私でも、そんな理由もなく魔法なんて放ちませんよ。
けれどその挨拶の帰り際でした。皇妃様が私を呼び止めてこう仰ってくださいました。
「あなたのおかげで、陛下は以前よりたくましくなられた気がいたします。あの方に代わってお礼を言わせてください」
驚きました。というか、最初はよく意味が理解できませんでした。はて、私なにかしましたっけ?
ただ、そんなキョトンとする私に皇妃様が説明してくださったところによると、どうやら例の芝居の際に私が放った――「あなたがダメダメだったから」――発言が、思いのほか陛下にとっては心に刺さったようなのです。
あれからと言うもの、陛下は各地から賢人と称される学者や有力者を帝宮に招き、帝王学や君主論を一から学び直しておられるとのこと。その甲斐あって、近頃は政務の場での発言や立ち居振る舞いも堂々としたものになってきたそうな。
まあ正直私からすると、全くもってそこまで考えての発言ではありませんでしたが……ふふ、まあ結果オーライというやつですね。
そして視線を巡らせれば、ダリオン様とエルリーゼ様がこちらを見守ってくださっています。私がそっと一礼すると、お二人はとても幸せそうに微笑まれました。
そのダリオン様のご体調についてですが、おかげさまでこちらも順調な回復をみせています。まだ杖こそ手放せませんが、その回復ぶりはすっかり自分の足で庭のお散歩ができるほど。
一度はもう目が覚めないかもと言われたことを思えば、本当に奇跡のような姿に改めて感謝の念が込み上げてまいりました。
厳かな空気の中、神父様の声が大聖堂に響き渡りました。
「天に誓いなさい。運命を共にする者として、光の時も闇の時も、豊穣の時も荒廃の時も、互いを敬い、支え、愛し抜くことを約束いたしますか」
深く息を整え、私とヴァレフ様は声を合わせました。
「「誓います。どのような試練があろうとも、決して離れず、共に歩んでまいります」」
噛まずに言えたことに胸をなでおろします。
さすがに緊張しましたよ。だって結婚なんてとうに諦めてましたしね。妹たちの結婚式で散々耳にしていたので台詞自体は覚えていましたが、まさか自分で口にする日が来るなんて思ってもみませんでした。現実感がなさ過ぎてなさ過ぎてもう。
……けれど、これは補足と言うか蛇足と言うか。
実のところ、ダリオン様だけは最初からこのような結末になることを予想……あるいは期待していたようです。
曰く、
「ヴァレフのような生意気な男には、セレイナのような姉さん女房の尻に敷かれるのが一番うまくいくと思ってな」
それもあって、地方で『雷神』などと恐れられていた私の噂を聞きつけて会いに来たと。要するに、ある意味ですべてはダリオン様の目論見だったということですね。
なんだかそう聞くと私の性格上、手のひらで踊らされたようでちょっぴり悔しさを覚えます。まあ今となっては感謝の気持ちの方がずっと大きいですけどね。
ただ、そこでさっきの皇妃様のときと同じように、今度はエルリーゼ様が悪戯っぽい笑みを浮かべつつそっと耳打ちしてくれました。
「実はね、私とあの人も歳は十二個も離れているのよ。あなたたちと同じ。もちろん私の方が年上ね」
それを聞いて私もさすがに笑ってしまいましたよ。
なんてことはない。慧眼のようなダリオン様の見立ては、ただのご自身の経験談だったようです。
聞けば若かりし頃、ダリオン様もかなりの跳ねっ返りだったそうな。
そしてダンスの講師としてやってきたエルリーゼ様の厳しい指導により矯正され、現在のお人柄に至ったと。
逃げ出そうとするダリオン様を、鞭を持ったエルリーゼ様が追いかける。たしかに私とヴァレフ様の構図と似ています。違いがあるとすれば、魔法の杖か鞭の差くらいですかね。
ともあれそんな事情があったので、養女になる話も最初は素直に「ヴァレフの嫁になってくれないか」と頼むつもりだったそうです。ただ、そうしなかった理由は二つ。
一つは、他ならぬ私にその気がなさそうだったこと。
これを聞いて私はハッとしました。ああ、だからあのときダリオン様は「ヴァレフのことをどう見ている?」などと尋ねてきたのですね。
つまり、あれはヴァレフ様の能力をどう評価しているかではなく、私がヴァレフ様に男性としての魅力を感じているかどうか知りたかったがゆえの質問だったわけです。
そしてそれゆえに全くもって見当違いの回答をしてきた私に、何とも言えない表情で口ごもってしまったのです。「あ、こりゃまだダメそうだな」……と。
でもって二つ目。
これは少々意地の悪い理由ですが、「単純にあのヴァレフがどのようにして自分の想いを伝えるのか興味があったから」とのこと。
ダリオン様から結婚を打診してしまっては、ヴァレフ様の告白の機会がなくなってしまいます。そうしなくても、「まあ親が決めたことだから仕方ないな」などと逃れる口実を与えてしまうからです。
というわけで私は仕方なくヴァレフ様の台詞を一言一句完コピしつつ、そのときの表情や仕草なども交えて告白の様子を再現したところ、ダリオン様はそりゃあもう腹を抱えて笑っていました。お隣のエルリーゼ様もです。
ただ、その笑っているお姿は決して馬鹿にするようなものでなく、むしろ息子の成長を大層喜んでのものというのが伝わってきたので、私としては何も言いませんでした。
それどころかお二人はヴァレフ様を本当に愛しているのだな、と感じてほっこりしたくらいですよ。
――ともあれ。
そんなことを思い出している間に、ついにあの瞬間がやってきます。
「それでは、誓いのキスを」
神父様の言葉に、正面に立つヴァレフ様が改めて真っ直ぐに言葉をくれます。
「私は生涯、あなたを愛し続ける。何があろうと共に歩む」
「ええ、私もです。ヴァレフ様」
思い出すのは初めて会った日のこと。荒ぶる彼に無理やり師匠と呼ばせ、そこから私たちの師弟関係は始まった。
そこからまさか姉弟となり、そして今では夫婦に……ここまで目まぐるしく関係性が変わるなんて。ふふ、本当に不思議なものです。
私たちは互いに小さく照れ笑いを交わしつつ、そして顔を近づけます。
そっと触れ合った唇の感触は温かく、優しいものでした。
大聖堂はひときわ大きな拍手に包まれ、祝福の鐘が高らかに鳴り響きます。
その光景をヴァレフとともに並んで眺めながら、私はふと自分の過去を思い返しました。
かつて『雷神』と呼ばれ、畏れられるばかりの存在であった私。
夜会ではいつも隅っこで気まずい思いをし、戦場に立てば敵も味方も等しく震え上がらせる。
あの頃の私は、誰かの隣に立つことなんてこの先絶対ないだろうと、そう諦めていたのです。
けれど今、私の隣にはヴァレフ様がいます。
祭壇の前で凛と立ち、笑みを浮かべるその横顔を見つめるだけで胸の奥が熱くなります。
「……ふふ」
それにしても師弟から始まり、そこから姉弟となって、最後は夫婦にだなんて……。
ここまで目まぐるしく関係性が変わることなんてあるんでしょうか? ふふ、人生とは本当に不思議なものです。
私は小さく息を吐き、心の中でそっと告げました。
――『雷神』としての私は、もうおしまい。これからはヴァレフ様の妻として、共に歩んでいこう。
そう誓った瞬間、手のひらに温かな感触が重なりました。
ヴァレフ様が私の手をしっかりと握り、静かに微笑んでいたのです。
「行こう、師匠……いや、セレイナ」
その声に頷き、私は彼と共に歩み出しました。
長い大理石の通路を進むたび、拍手が一層大きく広がり、光の粒がステンドグラスから降り注ぎます。
こうして私たち二人の物語は、新たな一歩を踏み出したのです。
――――――――――――――――――――――――――――
ここまでお読みいただきありがとうございました。
よろしければ「おもしろかったよ」など、ひと言だけでも感想をもらえるとすごくうれしいです!
その日、大神殿の扉は大きく開かれ、まばゆい光が差し込んでおりました。天井は高く、金と瑠璃の装飾がきらめき、聖歌隊の澄んだ声が静かに響いております。
足を踏み入れた瞬間、背筋が自然と伸びるほどの厳かな空気。けれど同時に、集まった人々の祝福の視線が温かく私を包んでくれておりました。
そうです。今日はヴァレフ様と私の結婚式なのです。
長い長い絨毯の道を進む私が身に纏うのは、煌びやかな白いウェディングドレス。裾を支える侍女たちが後ろに控え、ゆっくりと歩を進めるたび、宝石を散りばめたヴェールが柔らかく揺れます。
祭壇の前にはヴァレフ様が立っておられました。
凛とした軍服姿に、誇り高き微笑。以前の傲慢さはもうどこにもなく、ひとりの立派な男としてそこにおられる。まさに偉大なヴァルケスト公爵家のご当主様です。
「……キレイだ」
私の手を取りながら、ヴァレフ様が口元をほころばせながら低く囁かれました。
不意を突かれた言葉に、私は思わず頬が赤くなるのを感じました。
「……ありがとうございます。もったいないお言葉ですわ」
照れ隠しのように一礼すると、ヴァレフ様は穏やかに微笑み返され、その眼差しに再び胸が高鳴ります。
大聖堂の席には、帝都の名だたる貴族たちが列席しておりました。さらには戦の際に共に立ち上がった諸侯や商人たちの姿もあり、皆が惜しみない拍手を送ってくれます。あの混乱の中で結ばれた縁がこうして新たな祝福に繋がるとは……感慨もひとしおでした。
まあ実家の両親や兄妹たちは威厳ある中央貴族たちと肩を並べるどころか、親族ということで彼らより前列にいることにプルプルとやや緊張で震えている節もありましたけども。
その最前列には、もちろん皇帝陛下と皇妃様のお姿も。
皇帝陛下とは例の最後に打った芝居のおかげで、今ではすっかりわだかまりも解けて良好な関係を築けております。
もっとも、結婚が決まってご挨拶に伺った折は、まだ陛下は終始こちらの袖をちらちらと気にされていましたけどね。もしかするとまた杖でも取り出すのではとお思いだったのかも。
全く失礼しちゃいますね。いくらこの私でも、そんな理由もなく魔法なんて放ちませんよ。
けれどその挨拶の帰り際でした。皇妃様が私を呼び止めてこう仰ってくださいました。
「あなたのおかげで、陛下は以前よりたくましくなられた気がいたします。あの方に代わってお礼を言わせてください」
驚きました。というか、最初はよく意味が理解できませんでした。はて、私なにかしましたっけ?
ただ、そんなキョトンとする私に皇妃様が説明してくださったところによると、どうやら例の芝居の際に私が放った――「あなたがダメダメだったから」――発言が、思いのほか陛下にとっては心に刺さったようなのです。
あれからと言うもの、陛下は各地から賢人と称される学者や有力者を帝宮に招き、帝王学や君主論を一から学び直しておられるとのこと。その甲斐あって、近頃は政務の場での発言や立ち居振る舞いも堂々としたものになってきたそうな。
まあ正直私からすると、全くもってそこまで考えての発言ではありませんでしたが……ふふ、まあ結果オーライというやつですね。
そして視線を巡らせれば、ダリオン様とエルリーゼ様がこちらを見守ってくださっています。私がそっと一礼すると、お二人はとても幸せそうに微笑まれました。
そのダリオン様のご体調についてですが、おかげさまでこちらも順調な回復をみせています。まだ杖こそ手放せませんが、その回復ぶりはすっかり自分の足で庭のお散歩ができるほど。
一度はもう目が覚めないかもと言われたことを思えば、本当に奇跡のような姿に改めて感謝の念が込み上げてまいりました。
厳かな空気の中、神父様の声が大聖堂に響き渡りました。
「天に誓いなさい。運命を共にする者として、光の時も闇の時も、豊穣の時も荒廃の時も、互いを敬い、支え、愛し抜くことを約束いたしますか」
深く息を整え、私とヴァレフ様は声を合わせました。
「「誓います。どのような試練があろうとも、決して離れず、共に歩んでまいります」」
噛まずに言えたことに胸をなでおろします。
さすがに緊張しましたよ。だって結婚なんてとうに諦めてましたしね。妹たちの結婚式で散々耳にしていたので台詞自体は覚えていましたが、まさか自分で口にする日が来るなんて思ってもみませんでした。現実感がなさ過ぎてなさ過ぎてもう。
……けれど、これは補足と言うか蛇足と言うか。
実のところ、ダリオン様だけは最初からこのような結末になることを予想……あるいは期待していたようです。
曰く、
「ヴァレフのような生意気な男には、セレイナのような姉さん女房の尻に敷かれるのが一番うまくいくと思ってな」
それもあって、地方で『雷神』などと恐れられていた私の噂を聞きつけて会いに来たと。要するに、ある意味ですべてはダリオン様の目論見だったということですね。
なんだかそう聞くと私の性格上、手のひらで踊らされたようでちょっぴり悔しさを覚えます。まあ今となっては感謝の気持ちの方がずっと大きいですけどね。
ただ、そこでさっきの皇妃様のときと同じように、今度はエルリーゼ様が悪戯っぽい笑みを浮かべつつそっと耳打ちしてくれました。
「実はね、私とあの人も歳は十二個も離れているのよ。あなたたちと同じ。もちろん私の方が年上ね」
それを聞いて私もさすがに笑ってしまいましたよ。
なんてことはない。慧眼のようなダリオン様の見立ては、ただのご自身の経験談だったようです。
聞けば若かりし頃、ダリオン様もかなりの跳ねっ返りだったそうな。
そしてダンスの講師としてやってきたエルリーゼ様の厳しい指導により矯正され、現在のお人柄に至ったと。
逃げ出そうとするダリオン様を、鞭を持ったエルリーゼ様が追いかける。たしかに私とヴァレフ様の構図と似ています。違いがあるとすれば、魔法の杖か鞭の差くらいですかね。
ともあれそんな事情があったので、養女になる話も最初は素直に「ヴァレフの嫁になってくれないか」と頼むつもりだったそうです。ただ、そうしなかった理由は二つ。
一つは、他ならぬ私にその気がなさそうだったこと。
これを聞いて私はハッとしました。ああ、だからあのときダリオン様は「ヴァレフのことをどう見ている?」などと尋ねてきたのですね。
つまり、あれはヴァレフ様の能力をどう評価しているかではなく、私がヴァレフ様に男性としての魅力を感じているかどうか知りたかったがゆえの質問だったわけです。
そしてそれゆえに全くもって見当違いの回答をしてきた私に、何とも言えない表情で口ごもってしまったのです。「あ、こりゃまだダメそうだな」……と。
でもって二つ目。
これは少々意地の悪い理由ですが、「単純にあのヴァレフがどのようにして自分の想いを伝えるのか興味があったから」とのこと。
ダリオン様から結婚を打診してしまっては、ヴァレフ様の告白の機会がなくなってしまいます。そうしなくても、「まあ親が決めたことだから仕方ないな」などと逃れる口実を与えてしまうからです。
というわけで私は仕方なくヴァレフ様の台詞を一言一句完コピしつつ、そのときの表情や仕草なども交えて告白の様子を再現したところ、ダリオン様はそりゃあもう腹を抱えて笑っていました。お隣のエルリーゼ様もです。
ただ、その笑っているお姿は決して馬鹿にするようなものでなく、むしろ息子の成長を大層喜んでのものというのが伝わってきたので、私としては何も言いませんでした。
それどころかお二人はヴァレフ様を本当に愛しているのだな、と感じてほっこりしたくらいですよ。
――ともあれ。
そんなことを思い出している間に、ついにあの瞬間がやってきます。
「それでは、誓いのキスを」
神父様の言葉に、正面に立つヴァレフ様が改めて真っ直ぐに言葉をくれます。
「私は生涯、あなたを愛し続ける。何があろうと共に歩む」
「ええ、私もです。ヴァレフ様」
思い出すのは初めて会った日のこと。荒ぶる彼に無理やり師匠と呼ばせ、そこから私たちの師弟関係は始まった。
そこからまさか姉弟となり、そして今では夫婦に……ここまで目まぐるしく関係性が変わるなんて。ふふ、本当に不思議なものです。
私たちは互いに小さく照れ笑いを交わしつつ、そして顔を近づけます。
そっと触れ合った唇の感触は温かく、優しいものでした。
大聖堂はひときわ大きな拍手に包まれ、祝福の鐘が高らかに鳴り響きます。
その光景をヴァレフとともに並んで眺めながら、私はふと自分の過去を思い返しました。
かつて『雷神』と呼ばれ、畏れられるばかりの存在であった私。
夜会ではいつも隅っこで気まずい思いをし、戦場に立てば敵も味方も等しく震え上がらせる。
あの頃の私は、誰かの隣に立つことなんてこの先絶対ないだろうと、そう諦めていたのです。
けれど今、私の隣にはヴァレフ様がいます。
祭壇の前で凛と立ち、笑みを浮かべるその横顔を見つめるだけで胸の奥が熱くなります。
「……ふふ」
それにしても師弟から始まり、そこから姉弟となって、最後は夫婦にだなんて……。
ここまで目まぐるしく関係性が変わることなんてあるんでしょうか? ふふ、人生とは本当に不思議なものです。
私は小さく息を吐き、心の中でそっと告げました。
――『雷神』としての私は、もうおしまい。これからはヴァレフ様の妻として、共に歩んでいこう。
そう誓った瞬間、手のひらに温かな感触が重なりました。
ヴァレフ様が私の手をしっかりと握り、静かに微笑んでいたのです。
「行こう、師匠……いや、セレイナ」
その声に頷き、私は彼と共に歩み出しました。
長い大理石の通路を進むたび、拍手が一層大きく広がり、光の粒がステンドグラスから降り注ぎます。
こうして私たち二人の物語は、新たな一歩を踏み出したのです。
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