どうも、崖っぷち王女です~転生先が滅亡寸前の小国だった私は、幼馴染の騎士とクセモノな兄二人に囲まれながら【禁忌の術】で国を救います!

宮田花壇

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第23話

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 海に着くと、浜辺はすっかり宿営地のような賑わいを見せていた。
 砂浜の上にはいくつものテントが並び、塩田の整備に励む騎士たちの声があちこちから響いている。

 その中には土と木で作られた即席のリング――まるで土俵のようなものもあった。
 ここで生活しながらも、剣の稽古を行えるように設けたものらしい。

「グロウ兄様、今日はギルバートをよろしくお願いします」
「うむ。まずは坊主の力を見せてもらおうか。……でだ、来て早々悪いが、うちのジュドーと手合わせしてもらう」

 リングの中央で腕を組む兄様の顔は、すでに完全に“団長”のそれだった。
 武人としてのオーラに満ちている。
 それだけこの特訓に本気で取り組もうとしているということだろう。

 ジュドーと呼ばれた男性はすでにリングの反対側に控えていた。
 年齢は三十代前半ほどだろうか。日焼けした肌に鍛え抜かれた筋肉、そして何より魔力の流れが滑らかだ。
 魔力による身体強化の度合いは量だけでなく、淀みない制御も重要なファクターとなる。

「わかりました。よろしくお願いします」
「言っとくが、こいつは俺の右腕だ。つえぇぞ」
「望むところです」

 グロウ兄様の言葉に、ギルは短く答える。
 空気が引き締まった。
 周囲の騎士たちも作業の手を止め、試合の行方を見守っている。

「グロウ団長。この勝負、私は本気でやってよろしいんですよね」
「無論だ。叩き潰すつもりでいけ。それで負けたなら、こいつはそれまでの奴だったってことだ」

 その言葉にジュドーが頷き、ゆっくりと構えを取る。
 さすが兄様の部下、気迫に隙がない。

「行ってくる」

 ギルもリングに上がり、木刀を受け取った。
 試合のルールは単純明快――先に一本入れた方が勝ち。

「たしかジーク様の孫らしいな。なるほど……若いがたしかに強者の風格がある」
「そちらこそ」

 両者、礼を交わす。
 ギルは左足を前に出し、やや低い体勢。
 対するジュドーは正面、上段の構え。まさに王道の型。

「二人とも、準備はいいな。――始め!」

 グロウ兄様の合図と同時に、ギルが動いた。
 初手からの鋭い踏み込み。速い。
 砂を巻き上げながら滑るように距離を詰め、木刀を振り抜く。

 パシィンッ!

 乾いた音が浜辺に響いた。
 その速度に、見ていた騎士たちが思わず息を呑む。

「おお……やるな、あの若造……!」
「帝国仕込みってやつか……」

 どよめく声の中、ギルは止まらなかった。
 攻撃の流れを寸分も切らさず、ジュドーの死角を取るように回り込む。
 祖父であるジークから受け継いだ流麗な剣筋――それに独自の工夫を重ねた型だ。

 でも、ジュドーも簡単には崩れない。
 ギルの速度にも動じず、正面を外さない。
 木刀と木刀が幾度も打ち合い、火花のような音が弾ける。

「くっ……やるな!」
「あなたも!」

 鍔迫り合いになり、砂が足元で弾ける。
 両者の実力は拮抗しているように見えた。

 けれど、次第にギルの呼吸が荒くなっていく。
 ジュドーが速さに慣れ、カウンターを狙い始めたからだ。
 木刀が唸り、ギルの頬をかすめる。
 一瞬の差でかわしたものの、形勢は逆転していた。
 そして、ついにギルがバランスを崩す。

「終わりだ、少年!」

 ジュドーの木刀が振り上がり、勝敗は決したかに思えた。

 ――だがその刹那、ギルの身体が閃光のように動いた。

「なっ――!?」

 目で追えぬ速度。
 ジュドーの予測を完全に超え、逆方向から一撃を叩き込む。

「はぁあっ!」

 パァン!

 木刀が空を切り裂き、ジュドーの胴を横から殴った。
 静まり返る浜辺。

「……参った。私の負けだ」
「ありがとうございました」

 ジュドーは潔く礼をし、ギルも同じく頭を下げる。

 グロウ兄様の部下だけあって、騎士団には実直な性格な者が多い。
 現状、グロウ兄様の立場を脅かしかねない存在である私やギルにも礼を忘れないあたり、その生真面目さが伺えた。
 他の騎士たちの間からも自然と拍手が起きた。
 ただその一方で……。

「? グロウ兄様?」

 私の隣で試合を観戦していたグロウ兄様の表情は渋かった。
 部下の敗北への苛立ち……ではない。
 その視線はジュドーではなく、ギルへと向けられていた。
 まるで、何かに気づいたかのように。

「二人とも、いい試合だった。俺の見込みどおり、坊主はそれなりに強い」
「お褒めに預かり光栄です、殿下」

 ギルとジュドー、二人の勝負が終わったリングにグロウ兄様が上がる。
 会釈で応じたギルに、グロウ兄様はなおも拍手を送り続ける。
 一見すると勝者への手放しの称賛。

「――だが」

 そこでピタリとグロウ兄様の手が止まり、声が一段低くなる。

「坊主、やる前にはっきり言っておいてやる。今のままじゃお前は逆立ちしても俺に勝てん。その証拠に、次の勝負はこうする。お前はそっちの“真剣”を使え。俺は木刀のままでいく」
「っ……!?」

 煽りではない。声音は真面目で、余計な虚勢が一切ない。
 そう言い切れるだけの確信を、先ほどの一戦で見出したということだろう。
 しかし、だからこそギルも黙っていられない。

「……殿下。お言葉ですが、自分にも剣士としてのプライドというものがあります」
「そうか。なら、せいぜい俺に一太刀、浴びせてみせろ」
「本気で仰っているのですか? お怪我だけでは済みませんよ?」
「お前の攻撃が俺に当たれば、な」
「……承知しました」

 ギルはいったんリングを下り、立て掛けてあった自分の剣を手に取った。
 けれど、心なしか動きがいつもより荒々しい。平静を装ってはいるが、どうやら内心では相当腹を立てているみたい。

 言うまでもなく、真剣を木刀で受けたら一巻の終わり。
 しかもギルの剣は、私が錬金術で鍛えた特製の一振り。その切れ味は抜群で、鉄の柱を両断するほどの鋭さ。
 あんな木刀程度、そこらの小枝を握っているのと変わらない。

 剣を剣で受けられないというのは、それだけで戦闘においては大きな動きの制約となる。
 つまるところ、グロウ兄様の提示したこの勝負はギルを「舐めている」としか言いようがない。

「がんばってね」
「ああ。一ヶ月後を待つまでもない。今日、ここで決める」

 悔しさを隠さない声音で、ギルは再びリングへ。
 本来の正式な決闘は一ヶ月後。けれどもここで勝ってしまえば、約束は意味を失う。
 普段は優しさが先に立つ彼が、今は闘志だけを前面に出している。
 いったいどんな勝負になるのか。
 胸の奥で、私も思わず息を呑んだ。

 グロウ兄様とギルが向かい合う。
 木刀と真剣。
 リングの中央で足が止まり、空気が張り詰めた。

「――はじめ!」

 立ち合い役を務める兵士の合図が、波音の切れ目に落ちた。

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