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第22話
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トンネルを掘り始めてから数時間。
夕方まで作業を続けるつもりだったけれど、私はそろそろ区切りをつけようと考えた。
理由は単純、魔力の限界。
まだ完全に枯渇したわけではないけれど、このまま続ければ夕方からのギルの新兵器作りに支障が出る。
私は錬金術で作った測定器――距離を魔力反応で計るメーターを取り出し、針の位置を確認する。
「約三百メートル、ってところか。海までの直線距離がだいたい十五キロ程度だから、進捗率でいえば二パーセントほど……初日にしては上出来ね」
海まで穴をつなげるだけなら、単純計算であと一ヶ月半ということになる。
完成目標が三ヶ月後なので、十分悪くない成果と言えるのだけれど……。
「ふぅ。じゃあ今日はここまでにしておきましょうかね」
「ぜぇ……はぁ……う、うん……そうしよう……」
そこにいたのは、息も絶え絶えに地面に突っ伏しているギルだった。
「あーあ、言わんこっちゃない。だからあれほどペースを考えなさいよと忠告したのに」
ギルの担当は掘り出した土砂の排出。
荷馬車に山盛りの土を積み、往復しながら外へ運び出す――想像以上の重労働だ。
しかも掘れば掘るほどトンネルは長くなり、必然的に出口までの距離が伸びていく。
つまりどんどん往復の負担が増えるという地獄仕様。
だというのに、本人は終始全力ダッシュ。
私が途中で壁に穴を開けて排出口を作ろうかと提案しても、「君の魔力がもったいない」と言って走り続けた。
曰く、これも強くなるための修行だとかなんとか。
で、その結果がこの虫の息状態。
「ねぇ、ほんとに大丈夫?」
「はは……なんのこれしき……ぜんぜん余裕だよ……」
どう見ても余裕ゼロなんだけど。
仕方ない。やっぱり、アレの出番ね。
私はポーチから小瓶を取り出した。
中身はどろりとした緑色の液体。
「はい、口あけて」
「それは……?」
「元気になる“お薬”よ」
「へぇ、それはありがたい……」
ヘトヘトな表情ながらも嬉しそうに頬を緩めるギル……が、しかし。
「ぐぅっ!? んんっ、んんんんんんんぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」
私が彼の口に小瓶を突っ込んだ直後、ギルは目を見開いて地面を転げ回った。
そしてしばらくジタバタしたあと、ようやく息を整え、声を絞り出した。
「ゴホッ! ゴホッ! な、なんだこれ!? この世のものとは思えない味がしたんだけど!?」
「どう? 私が作った改良ポーションは? 体、軽くなったでしょ?」
「え? ……あ、そう言われてみれば……。信じられない。こんな即効性のあるポーションは初めてだ。まさかこれも――」
「ええ、もちろん錬金術の力よ」
「やっぱり。でもすごい、こんなものまで作れるとは」
ギルは腕を振り、足踏みしながら、体の変化を確かめている。
すっかり元気を取り戻した様子だ。
「でしょ? でもね、材料が貴重だから備蓄はほとんどないの。今日は初日だから特別。明日からはペース配分をちゃんと考えて」
「了解。でもこれ、もうちょっと味どうにかならない?」
「……努力はしてるのよ?」
私は肩をすくめながら苦笑する。
ポーションは死の山脈で採れた複数の薬草を調合したもの。瘴気の除去に魔力を割いたから、味まで調える余裕はなかった。
ま、これも良薬口に苦し。
驚異的な疲労回復力と即効性を同時に実現させたんだから、多少の苦味くらいは我慢してもらわないと。
「そっか。それなら仕方ない。……でも残念だな。もしこの薬が大量にあれば、毎日倒れるまで特訓できると思ったのに」
まったく、懲りないわね。
さっきまで地べたをのたうち回っていた人間のものとは思えない感想だこと。まあ、そのやる気だけは買うけど。
ちなみに備蓄については、今ある在庫の数を減らしたくないという本音もある。
来たるべき隣国との戦争のため。
兵の少ないこの国では、戦場に立つ一人ひとりの命が貴重だ。
だからこそ、短時間で兵を戦線に復帰させられるこの薬は命綱になる。
いずれ本格的に量産体制を整えられるまで、なるべく乱用は避けたい。
「まあでもなんだかんだギルが頑張ってくれたおかげで、私も掘ることだけに集中できたわ。ありがとね」
「どういたしまして。俺もいい鍛錬になったよ」
「ならよかった。けど、くれぐれもほんとに無理はしないでね。トンネルづくりはまだ始まったばかりなんだし。それに、ただ穴を掘って終わりってわけでもないしね。無事に海まで辿り着いた後も、やらなきゃいけない作業はたくさんあるんだから」
「そうなのかい? 他には何をしないといけないんだ?」
「まずは徹底した壁の再点検と補強ね。人が通る以上、崩落なんて絶対にあってはいけないもの。ここはとにかく万全を期すわ」
私はトンネルの壁に手を当てながら答えた。
「そしてそれが終わったら今度は雨の日対策なんかね。水の侵入を防ぎつつ、それと同時にもし入り込んでしまった場合に排出するための仕組みづくり。あとは馬車とは別に運搬が楽になる仕掛けなんかもチロッと考えてるから、それもできれば実現したいところね」
「なるほど。そう聞くと大変そうだな」
「うん。だから穴を掘るだけならあと一か月半で終わるけど、最終的には三ヶ月程度かかる見込み」
つまり、目標まではかなりギリギリのスケジュール。
とはいえ、それだけの価値はある。
この道が完成すれば、海と街が一つにつながる。
物資の流通が変わり、国の形そのものが変わる。
「というわけで、その間ギルにはみっちり付き合ってもらうからそのつもりで」
「了解。がんばるよ」
「まあもし二人じゃ間に合わなそうだったら、そのときは軍から人を借りることも考えなくちゃだけど」
とはいえ、それは最終手段だ。
グロウ兄様の率いる部隊はいまも海辺で拠点づくりの真っ最中。できることなら彼らの手は煩わせたくない。
そうでなくても、我が国は全てにおいて慢性的な人手不足なのだ。
だからこうしてたった二人だけの作業というわけ。やれるとこまでは自分たちの手で頑張りたい。
「よし、それじゃあ行きましょうか。グロウ兄様も待っていることでしょうし」
「そうだな」
この後は約束どおり、グロウ兄様によるギルの特訓。
私たちは道具を片付けつつお兄様の待つ海まで向かった。
夕方まで作業を続けるつもりだったけれど、私はそろそろ区切りをつけようと考えた。
理由は単純、魔力の限界。
まだ完全に枯渇したわけではないけれど、このまま続ければ夕方からのギルの新兵器作りに支障が出る。
私は錬金術で作った測定器――距離を魔力反応で計るメーターを取り出し、針の位置を確認する。
「約三百メートル、ってところか。海までの直線距離がだいたい十五キロ程度だから、進捗率でいえば二パーセントほど……初日にしては上出来ね」
海まで穴をつなげるだけなら、単純計算であと一ヶ月半ということになる。
完成目標が三ヶ月後なので、十分悪くない成果と言えるのだけれど……。
「ふぅ。じゃあ今日はここまでにしておきましょうかね」
「ぜぇ……はぁ……う、うん……そうしよう……」
そこにいたのは、息も絶え絶えに地面に突っ伏しているギルだった。
「あーあ、言わんこっちゃない。だからあれほどペースを考えなさいよと忠告したのに」
ギルの担当は掘り出した土砂の排出。
荷馬車に山盛りの土を積み、往復しながら外へ運び出す――想像以上の重労働だ。
しかも掘れば掘るほどトンネルは長くなり、必然的に出口までの距離が伸びていく。
つまりどんどん往復の負担が増えるという地獄仕様。
だというのに、本人は終始全力ダッシュ。
私が途中で壁に穴を開けて排出口を作ろうかと提案しても、「君の魔力がもったいない」と言って走り続けた。
曰く、これも強くなるための修行だとかなんとか。
で、その結果がこの虫の息状態。
「ねぇ、ほんとに大丈夫?」
「はは……なんのこれしき……ぜんぜん余裕だよ……」
どう見ても余裕ゼロなんだけど。
仕方ない。やっぱり、アレの出番ね。
私はポーチから小瓶を取り出した。
中身はどろりとした緑色の液体。
「はい、口あけて」
「それは……?」
「元気になる“お薬”よ」
「へぇ、それはありがたい……」
ヘトヘトな表情ながらも嬉しそうに頬を緩めるギル……が、しかし。
「ぐぅっ!? んんっ、んんんんんんんぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」
私が彼の口に小瓶を突っ込んだ直後、ギルは目を見開いて地面を転げ回った。
そしてしばらくジタバタしたあと、ようやく息を整え、声を絞り出した。
「ゴホッ! ゴホッ! な、なんだこれ!? この世のものとは思えない味がしたんだけど!?」
「どう? 私が作った改良ポーションは? 体、軽くなったでしょ?」
「え? ……あ、そう言われてみれば……。信じられない。こんな即効性のあるポーションは初めてだ。まさかこれも――」
「ええ、もちろん錬金術の力よ」
「やっぱり。でもすごい、こんなものまで作れるとは」
ギルは腕を振り、足踏みしながら、体の変化を確かめている。
すっかり元気を取り戻した様子だ。
「でしょ? でもね、材料が貴重だから備蓄はほとんどないの。今日は初日だから特別。明日からはペース配分をちゃんと考えて」
「了解。でもこれ、もうちょっと味どうにかならない?」
「……努力はしてるのよ?」
私は肩をすくめながら苦笑する。
ポーションは死の山脈で採れた複数の薬草を調合したもの。瘴気の除去に魔力を割いたから、味まで調える余裕はなかった。
ま、これも良薬口に苦し。
驚異的な疲労回復力と即効性を同時に実現させたんだから、多少の苦味くらいは我慢してもらわないと。
「そっか。それなら仕方ない。……でも残念だな。もしこの薬が大量にあれば、毎日倒れるまで特訓できると思ったのに」
まったく、懲りないわね。
さっきまで地べたをのたうち回っていた人間のものとは思えない感想だこと。まあ、そのやる気だけは買うけど。
ちなみに備蓄については、今ある在庫の数を減らしたくないという本音もある。
来たるべき隣国との戦争のため。
兵の少ないこの国では、戦場に立つ一人ひとりの命が貴重だ。
だからこそ、短時間で兵を戦線に復帰させられるこの薬は命綱になる。
いずれ本格的に量産体制を整えられるまで、なるべく乱用は避けたい。
「まあでもなんだかんだギルが頑張ってくれたおかげで、私も掘ることだけに集中できたわ。ありがとね」
「どういたしまして。俺もいい鍛錬になったよ」
「ならよかった。けど、くれぐれもほんとに無理はしないでね。トンネルづくりはまだ始まったばかりなんだし。それに、ただ穴を掘って終わりってわけでもないしね。無事に海まで辿り着いた後も、やらなきゃいけない作業はたくさんあるんだから」
「そうなのかい? 他には何をしないといけないんだ?」
「まずは徹底した壁の再点検と補強ね。人が通る以上、崩落なんて絶対にあってはいけないもの。ここはとにかく万全を期すわ」
私はトンネルの壁に手を当てながら答えた。
「そしてそれが終わったら今度は雨の日対策なんかね。水の侵入を防ぎつつ、それと同時にもし入り込んでしまった場合に排出するための仕組みづくり。あとは馬車とは別に運搬が楽になる仕掛けなんかもチロッと考えてるから、それもできれば実現したいところね」
「なるほど。そう聞くと大変そうだな」
「うん。だから穴を掘るだけならあと一か月半で終わるけど、最終的には三ヶ月程度かかる見込み」
つまり、目標まではかなりギリギリのスケジュール。
とはいえ、それだけの価値はある。
この道が完成すれば、海と街が一つにつながる。
物資の流通が変わり、国の形そのものが変わる。
「というわけで、その間ギルにはみっちり付き合ってもらうからそのつもりで」
「了解。がんばるよ」
「まあもし二人じゃ間に合わなそうだったら、そのときは軍から人を借りることも考えなくちゃだけど」
とはいえ、それは最終手段だ。
グロウ兄様の率いる部隊はいまも海辺で拠点づくりの真っ最中。できることなら彼らの手は煩わせたくない。
そうでなくても、我が国は全てにおいて慢性的な人手不足なのだ。
だからこうしてたった二人だけの作業というわけ。やれるとこまでは自分たちの手で頑張りたい。
「よし、それじゃあ行きましょうか。グロウ兄様も待っていることでしょうし」
「そうだな」
この後は約束どおり、グロウ兄様によるギルの特訓。
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